MOMO

百はな

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第5章 ゴールデン・ドリーム

73. Bloody Mary I

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CASE四郎

黒猫ランドの騒動から3日が経った頃。

俺は闇医者の事務所兼自宅で、仮入院させられてい
た。

今も硬いベットの上で点滴を打たれ、体を休める生活
を送っている。

ほぼ丸2日は麻酔の所為で、死んだように眠っていた。

この事務所は元々、ラーメン屋で店主が死に店が潰れたらしい。

店主は1階を店にし、裏に2階へ上がる為の登り階段を作っていた。

階段を登り終えると、部屋に繋がる扉が設置されている。

ボス経由で安くこの店を買い、少しだけ改築したそう。

1階の部屋を医療機器や器具等の保管場所し、2階を診察室として使っている。

殆ど、1階は物置部屋化してるらしい。

足は骨折しており、全治4ヶ月と診断されてしまった。

傷の治療以外に血液を採取された。

理由はいまだに分からないままである。

「おい、爺さん」

「なんじゃ?四郎の小僧」

薬瓶を持った爺さんがクルッと、俺の方に振り返る。

「何で、俺はここで生活をしなきゃいけねーんだよ」

「雪哉がお前さんの体を心配しておってな。この際じゃから、健康診断をしてくれと頼まれてのう。今日もお前さんは1日安静じゃ」

爺さんは俺の質問に昨日と同じ答えをした。

ボスが今更、俺の健康を気にするとは思えない。

「アンタ、健康診断ってした事あんのか」

「組長等の健康診断は毎月しおるぞ?それに、お前等のように身分証がない奴等のもな」

ふと、爺さんが持っていた薬瓶に目が入った。

光の角度加減で虹色の光を放ち、キラキラと光っている。

宝石の破片のような物が入ってんのか…?

「何じゃ、ジッと見つめおって」

「その薬は爺さんが作ったのか」

「あぁ、依頼でな。それよりも、齋藤が殺されたのは聞いたか」

爺さんの言葉を聞いて、自分の耳を疑った。

齋藤さんは伊織の同期で、かなり仲も良かった筈。

兵頭会の殺し屋として数十年働き、裏の世界から足を洗った。

普通の生活を送っていた齋藤さんは、ボスの要請により戻って来た。

伊織と一緒に殺しの仕事をしていたのは、確か弟の生活費の為だったか。

「齋藤さんが殺されたのか?」

「あぁ、確か2日前じゃったかの。東京の空港でな、
弟も首の動脈を切られておったらしい。今頃、齋藤の葬儀じゃろうな」

電源が入っていなかったスマホを取り出し、電源を入れた。

100件以上の着信とメッセージが一斉に届く。 

ほぼ、電話とメッセージの送り主は三郎からだった。

ブー、ブー、ブー。

丁度、三郎から着信が入った。

通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。

「四郎!?大丈夫!?」

「うるせぇよ、三郎。それよりも斎藤さんの件、今聞いた。どうなってんだ?そっちは」

「ボスと伊織が齋藤さんの葬儀に出て行ったね。齋藤さんのおばあちゃん?だったかな。その人が身内だけの葬儀を行うらしいよ」

「2人とも死んだのか?」

齋藤さんを殺した相手は、大体の予想が付いていた。

恐らく、いや椿恭弥が送った殺し屋だろう。

「動脈を思いっきり切られていたし、即死だったみたい」

「即死か。油断していた所を突かれたんだな」

「相手は女だったみたいだけど、顔までハッキリ見えてないって。七海が、空港の監視カメラの映像を調べた結果だけど」

カンカンカンッと2人分の足音が、スマホ越しから聞こえてくる。

「事務所に着いたから、一旦切るね」
 
「あぁ…、そう言う事か」

コンコンッと事務所のドアがノックされた。

「誰じゃぁ?」

「三郎とモモだ」

「そうかそうか」

爺さんは重い腰をパイプ椅子から上げ、扉の方に向かって歩いて行った。

パサッとベット近くに1枚の紙が落ちてきた。

何の気なし紙を拾い上げ、不意に書かれていた内容が目に入る。

東雲零斗(しののめれいと)、東雲美里(しののめみさと)。

俺の本名と母さんの名前が書かれ、兵頭雪哉の名前も書かれていた。

[私的DNA型父子鑑定書。東雲零斗と兵頭雪哉は生物学的父子と判定できる]

[兵頭雪哉 父親肯定確率99.993%]

俺は自分の目を疑った。

何故、俺とボスのDNA鑑定結果がここにある。

そもそも、俺とボスが血が繋がっていた…?

ありえない。

こんなの事、あるはずがないだろ

急な吐き気に襲われ、口元を抑える。

昔の記憶が脳裏にフラッシュバックした。


俺を産む前の母さんは凄く綺麗だったらしい。

上品に染められた栗色の長い髪、色白の肌に大きな瞳。

田舎に住んでいた東雲美里は、上京して20歳で歌舞伎町の夜の蝶になった。

東雲美里の優れた美貌のお陰なのか、3ヶ月でNo.1の座を捥ぎ取ったらしい。

東京のタワーマンションの最上階に住み、エキゾチックを飼い、優雅に暮らしていた。

だが、東雲美里が24歳の時に1人の男と出会う。

この出会いが東雲美里、母さんを狂わせた。

母さんが俺の顔だけ殴らなかったのは、恋人に似ていたからだと溢していた。

母さんは俺を見ながらいつも泣き出した。

俺を通して誰かを重ねていたように見えて、悲しかった。
 
その頃の俺は、母さんの泣きそうな顔を見たくなかった。

「顔だけは雪哉さんに似てんのね。憎らしい程にね」
 
「雪哉さんに会いたい…」

酒を浴びるように飲みながら、雪哉と言う男の名前を呼び続けていた。 

団地の階段下で遊んでいた時、一度だけ男に会った事があった。

黒の眼帯を付けた体格の良い男。

全身黒一色に染まったスーツ姿が印象的だった。

「坊主、1人か」

男の問いに黙って頷くと、俺の前でしゃがんだ。
 
服の袖口から見えた赤黒い痣を見て、男は眉を顰める。

「これ、母ちゃんにやられたのか」

「違うよ」

そう言って、俺は足元に転がっている石を拾い上げた。

「転んだだけ」
 
「飯は食ってんのか、ちゃんと」

首を横に降ってから、石に視線を落とす。

男が何故、俺の事を気に掛けるのかわからなかった。

俺を見る目がやけに優しくて、胸が締め付けられる。
 
「明日、お前を迎えに行く」

その言葉の意味が分からないまま、男は俺に背を向け歩き出した。


今頃になって、なんでだ。

ポツ、ポツポツポツ…。

窓に雨粒が当たり、激しい雨が降り出した。

ザァァァァア…!!

頭が痛くなってきた。

じゃあ、俺は腹違いの兵頭拓也と兄弟だったのかよ。

ギシッとベットが軋む音がし、目線を音のした方に向ける。

甘い砂糖菓子のような匂いがした。

「四郎?どうしたの?」

モモが俺の事を覗き込み、心配そうな表情を浮かべていた。
 
「大丈夫?顔色が悪いよ」

「…、何でもねぇよ」

「モモちゃん、四郎は病み上がりなんだよ。四郎を休ませる気ないでしょ」

俺とモモの会話に三郎が割って入る。

「おお、拾ってくれたのか四郎」

爺さんは俺の手元にある紙を見てから、ヒョイッと紙を奪った。

「四郎、いつ頃帰ってこれる?」

「今日で帰れるぞ。怪我の治療もしたが、しばらくは安全にしてもらわんと」

モモの問いに爺さんが、目薬と日焼け止めを準備しながら答える。
 
「骨折してたのに、よう歩けたもんだ。まぁ、アドレナリン効果じゃろうが」

爺さんが俺に声を掛けて来ていたが、耳に入らなかった。

ボスは俺が自分の息子だと分かっていて拾ったのか。

いや、ボスは分かっていなかった筈だ。

DNA鑑定書に記入されていた日付は、最近のものだ。
 
何かしらのキッカケで、ボスは鑑定を頼んだんだ。

だけど、何故DNA鑑定を?

拾って来た子供に興味を湧く必要があるのか?

ボスが何を思ってDNA鑑定したのか分からない。

白雪は俺の義姉に当たり、モモは姪っ子に当たる。

俺とモモは実質、血の繋がった関係なんだ。

あぁ、ますます頭痛が酷くなる。

情報量が多過ぎる所為だ。

ブーッとスマホが振動し、メッセージが届いた事に気
付く。

メッセージアプリを開き相手を確認すると、ボスからだった。

「嘉助とモモちゃんの4人で飯を食おう」

ボスから飯に誘われた事は一度もなかった。

思わず眉間に皺が入り、目付きが鋭くなる。

「四郎、何かあったでしょ」
 
頭上から三郎の声が降り注ぐ。

顔を上げると、三郎は何故か真面目な顔をしていた。

何だかそれが笑えて来て、思わず軽く笑ってしまう。

「ハッ、何でお前が真面目な顔してんだよ」

モモが俺の顔を見て目を丸くする。

「四郎が笑ったの初めて見た」

「俺は何回もあるけどねー」

「私だって、これから見るもん!!」

「それはどうかなぁ」

三郎とモモの言い合いを聞きながら、スマホを操作する。

「分かりました」の一言だけの返信をした。


灰色の空から大粒の雨が降り出す中、兵頭雪哉と岡崎伊織は小さな葬儀場に訪れていた。

齋藤健(たける)、齋藤淳 儀葬儀場と書かれた看板が建てられている。

2人は傘置きに傘を置き、建物の中に入り香典を取り出す。

すでに開かれていた扉を潜ると、齋藤健と齋藤淳の遺影が飾られていた。

白い百合に囲まれた2つの棺桶、お線香の匂いが漂う。

白い顔をした喪服を着たお婆さんはただ、棺桶だけを見つめていた。

「アンタ等、まだ健と切れてなかったのかい」

兵頭雪哉と岡崎伊織を睨み付けながら、お婆さんは椅子から腰を上げる。

「この度はお悔やみ申し上げます」
 
そう言って、兵頭雪哉と岡崎伊織は頭を下げる。

だが、その言葉がお婆さんの逆鱗に触れてしまったのだ。

「何だい、たったそれだかい!?健はアンタの組を抜けた筈だろ!?あの子は真っ当な生活を送っていたんだ。淳を大学まで行かせ、私に仕送りもしてくれていた」

「本当にすみません」

「すみませんじゃないよ!?知ってんだよ、アンタが健に連絡して来た事をね!?私は止めたんだよ、あんな奴の所に行くなってね。そしたら、あの子は何て言
ったと思うかい?」

お婆さんは兵頭雪哉の体を叩きながら叫ぶ。

「あの人には沢山よくして貰ったから、恩返ししたいって。あの人の為に動くのは当然だ。ばぁちゃん、淳の事を頼むってっ。健と淳を返しておくれよ!!どうして、2人を連れて行くんだい!!!」

「すみません」

「アンタが連絡さえしなければ、アンタ達と出会わなきゃ…っ。武と淳は死なずにすんだんだ!!あ、ぁあぁぁぁぁぁぁああっ…!!」

兵頭雪哉の足元に崩れ、お婆さんは泣き崩れる。

早過ぎる2人の死。

兵頭雪哉と岡崎伊織はただ、頭を下げる事しか出来なかった。

葬儀場のスタッフに連れられ、お婆さんは別室に移動して行った。
 
兵頭雪哉と岡崎伊織はお線香を上げ、スタッフに香典を渡し葬儀場を後にした。

「伊織、平気か」

「正直言うと、キツイです」

「お前の方が斎藤と居た時間は長かったしな」

「七海が調べた所、齋藤を殺したのは椿の所の殺し屋だと分かりました。淳君に送られたメールも、椿会のパソコンから送られたものだそうです」

そう言って、岡崎伊織は車の後部座席のドアを開ける。

「偽装メールか」

「はい、海外にいた淳君を呼び付ける為でしょう。齋藤兄弟を消すのが目的だったようです」

「身内から殺しに来たって事か」

兵頭雪哉が車に乗り込んだ事を確認した後、ドアを閉める。

運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。

パリッ!!

その瞬間、車の窓ガラスに大きなヒビが入った。
 
「頭を下げて下さい!!!」

岡崎伊織が叫ぶと、パリーンッと車の窓ガラスが割れた。

兵頭雪哉の隣のシートに弾丸が食い込んでいた。

「スナイパーか。伊織、平気か」

「えぇ、頬を掠った程度です。スナイパーの射程範囲を抜けます」

そう言って、パーキングからドライブに変える。

葬儀場の駐車場から出る。数メートル離れた後ろから数台の車が動き出した。

「伊織、お前は運転に集中しろ。後ろの奴は俺がやる」

兵頭雪哉は懐からエンフィールド・リボルバーを取り出す。

「それに、晶がすでに到着したようだ」

ブゥゥゥゥン!!

後方から大きなバイク音が鳴り響く。

W800に乗った晶が、ベレッタM92Fの銃口を向け引き金を引く。

パシュッ、パシュッ、パシュッ!!

右側の車の後輪に弾丸が当たり、動きが止まる。

車の窓が開き、顔を覗かせた男達を次々と撃ち抜く。

パシュッ、パシュッ、パシュッ!!

引き金を引きながらも、運転しながら前にいる車を追う。

後部打席のドアが開き、ハンドガンを持った男達が顔を覗かせる。

男達が一斉に晶に向かって引き金を引く。

パシュッ、パシュッ、パシュッ!!

ブゥゥゥゥン!!

晶はハンドルを強く握り、小刻みにハンドルを操作する。

弾丸を一つずつ確実に避け、銃口を男達の額に向ける。

銃の反動をも予測し引き金を引く。

パシュッ、パシュッ、パシュッ!!

ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!

「ゔっ!?」

「ぐっ!?」

男達の額から赤い血が噴き出し、窓から体が乗り出す。

ブゥゥゥゥン!!

スピードを上げ、運転席の男の額に向けて引き金を引く。

パシュッ!!

パリーンッ!!

車の窓ガラスが割れ、男の額にから血が噴き出す。

ドゴォォォーン!!

そのまま車は方向を変え、電信柱に追突した。

岡崎伊織は人気のない道に逸れ、車を停車させる。

車の後をついて来ていた晶もまた、W800を停車させた。

「晶、ご苦労だった」

後部座席の窓を開け、兵頭雪哉は顔を覗かせながら短い言葉を言う。

「間に合って良かったけどさ、雪哉さん。闇市場のオーナーが攫われてた」

「何?」
 
「雪哉さんの命令通り、定期的にオーナーの所には行ってたよ。だけど、今日行ってみたら荒らされた形跡があった。しかも、ある取り引き証明書がなくなってた」

晶は数時間前の出来事を話し出した。


3時間前 東京荒川区廃墟ビル

CASE 晶

8階建ての廃墟ビル周辺にW800を停車させ、ビル内に入って行く。

埃の溜まった匂い、1階の窓ガラスは殆ど割られている。

元々は会社だったらしいが、潰れた後は買い手が付かなかったそうだ。

誰も寄り付かない雰囲気を漂っているが、上階は闇市場に出費品の保管場所になっていた。

2階からは、外から見えないようにスモークガラスが貼られている。

また、直接の買い手との取引場所にもなっていた。

雪哉さんと古い付き合いのオーナーの警護を請け負っている。

オーナーが何故か四郎達ではなく、俺を指名したのだ。

2階に上がると、いつもガードマンが数人立っている。

だが、今日に限ってはいなかった。

いや、ガードマン達が殺されていたのだ。

2階に上がる為の階段まで、血が滴っていた。

廊下一面が赤く染まり、鉄臭い匂いが充満している。
 
「只事じゃねーよな」

手早くベレッタM92Fに銃弾を装着し、階段を登る。

3階、4階、5階と上がるが人が殺されているだけで、

商品は荒らされていなかった。

商品目的じゃないのか?

だとしたら、狙いはオーナーか。

オーナーの部屋は8階にある。

急いで8階まで上がりると、廊下に血の跡があった。

廊下の血を指で拭い、血に暖かさが残っていた。 

「引き摺られた跡だな、撃たれて引き摺られたか」
無造作に開かれた扉の中に入ると、部屋の中が荒らされていた。

机の引き出しが全て開かれ、取り引き証明書が散乱している。

何かの取り引き証明書を探していたのか。

机の上には分厚いファイルが数冊置かれ、書類を抜き取った痕跡があった。

ファイルの横には剥がされた付箋が落ちている。

付箋を拾い上げると、アルビノの赤ん坊と書かれてい
た。

「アルビノ…の赤ん坊?」

タンタンタンタンッ。

廊下から階段を登ってくる足音が聞こえて来た。

机の下に身を隠し、ベレッタM92Fを構える。

カツカツカツ。

黒のジャケットを着た槙島ネネが、部屋に入って来たのだ。

なんで、アイツがここに?

机の所で足が止まり、ファイルを捲る音がした。

「やっぱり、モモちゃんの取り引き証明書がなくなってる。椿恭弥が持ち出したんだわ、ヨウの言った通りね」

ドクンッと心臓が跳ね上がった。

ヨウが言った通りって、どう言う事だ。

俺の目の前でネネがヨウを刺して…、死んだんだ。

机から身を乗り出し、ネネの目の前に立つ。

ネネは特に驚く様子はなく、俺を真っ直ぐ見つめた。

「どう言う事か説明しろよ、ネネ。ヨウは死んでねぇのか」

「ヨウは死んだわよ、あの日に。私が刺してね」

「ヨウの言った通りって、どう言う意味だ」

「そんな事よりも、斎藤さんが殺されたのは知ってる?」

ネネは話を変え始めた。

「齋藤さんが死んだ?」

「誰に殺されたかも知らないのね。兵頭雪哉は1つだけミスを犯してしまった事も」

ネネの淡々とした話し方に苛々してくる。

昔からそうだ。

コイツは、俺以外の事は興味がなかった。

そう、昔からネネは俺に依存していた部分があった。

周囲はネネと俺がデキているんじゃないかと噂したくらい。

「ミスって、知ったような口を叩くなネネ。それとこれと、齋藤さんの死に関係…」

言葉を放ちながら、脳裏に木下穂乃果の顔が浮かんだ。

「まさか、木下穂乃果が殺したと言うのか」

「椿恭弥に取り込まれちゃったのよ、あの子。雪哉さんがあの子を引き入れた時点で、こうなる運命だったの」

ブーッとスマホが振動し、メッセージが来た事を告げる。

「晶、私は貴方が今でも好きよ。この気持ちはずっと変わらない。だから、兵頭雪哉から離れて。このままじゃ、貴方は椿恭弥に殺されるわ」

「俺の飼い主は雪哉さんだ。離れるつもりも殺されるつもりねぇよ。お前から真実を聞くまではな」

「晶っ、本当に死んじゃうのよ?あの人から離れて」

ネネに背を向け歩き出そうとすると、背後から呼び止められる。

「俺は雪哉さんから離れるつもりはねぇ」

そう言って、オーナーの部屋を後にした。


事の出来事を聞いた兵頭雪哉は、深い溜息を吐く。

「まさか、あのお嬢ちゃんが齋藤を殺したのか」

「アイツが言うにはそうみたい。雪哉さん、木下穂乃果は早めに消したほうが良い。あの女、完全に椿恭弥に取り込まれた」

「殺れるか、晶」

そう言って、兵頭雪哉は晶を見つめる。

「まさか、雪哉さん。俺が木下穂乃果に情が湧いたとでも?」

「お前に限って、そんな事はないと分かっているさ」

「暫く、連絡は返せないから」

W800にエンジンを掛け、晶はそのまま走り去った。

「伊織、オーナーの行方を七海に調べさせろ。それと、四郎と三郎、モモちゃんが身を隠せる場所の手配を」

「分かりました。場所はあえて、人目が付き易い方が良いですね」

「一時的だがな、アジトに椿恭弥が乗り込んでくる可能性がある。一郎達にも連絡をしてくれ」

「分かりました」

そう言って、岡崎伊織は一郎に電話を掛け始める。

スマホを取り出した兵頭雪哉は、四郎からの返信を見てから深く溜息を吐いた。


ブゥゥゥゥン。 

雨の中、スピードを上げながらW800を走らせる。

晶の脳裏に、兵頭雪哉の言葉が浮かぶ。

1人だけ、晶が心を許した相手がいた。

一緒に時間を過ごした男がいた。

晶は頭を横に振り、男の顔を消し去ろうとする。

だが、男の顔が消える事はなかった。

W800を道路脇に停車させ、スマホを取り出し通話を掛ける。

プルルッ、プルルッ、プッと3コールめで相手が出た。

「どうした」

男の低い声が晶の耳に届く。

ホッと胸を撫で下ろしながら、言葉を発する。

「今、どこにいるの?」

「外にいるが、どうした」

「四郎、会いたい」

そう言って、晶はその場にしゃがみ込んだ。
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