MOMO

百はな

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第4章 Jewelry Pupil 狩り

64.引き返せない II

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CASE 嘉助

20分掛けてヒルトン東京に到着し、急いで喜助のいる屋上に向かう。

エレベーターに乗り込み、上がって行く階数だけを見ていた。

ポーンッと音が鳴りながら扉が開き、長い廊下を走り抜ける。

屋上に繋がる階段を駆け上がり、乱暴に扉を開いた。

バンッ!!!

「あれぇ?嘉助じゃーん、何でここにいんのぉ?」

喜助は双葉の顔から手を離して、のろのろと僕に近寄ってくる。

顔や服に付いた血など気にする様子はなく、ケラケラと笑っていた。

喜助の手にはキラキラと光る目玉が2つ握られてたのを見て、予感が確信に変わった。

「お前、双葉の目をくり抜いたのか」

「あたしがこのガキを殺したんだよ?死体をどうしようとさぁー。あたしの勝手だろぉ?あははは!!目玉なのに、めっちゃ綺麗」

「気に触れたか」

Jewelry Pupilを手にすると、2つの症状に分かれる。

1つ目は正気に触れ、薬物を打ったかの状態になる。

つまりは正常な判断が出来なくなり、譲許不安な状況だ。

2つ目は異常な程の愛情が生まれ、Jewelry Pupilを愛さずにはいられない症状だ。

喜助は1つ目の症状に陥ってしまったのだ。

まさか、喜助が双葉を殺したのは予想外だった。

僕との電話の後に、椿が連絡して来た可能性が高い。

そこでの通話内容は予測しか出来ないが、椿が喜助を煽ったのだろう。

椿は喜助達に脅迫じみた言動や行動をして、縛り付けている。

いや、そう言う方法でしか人を囲えないのだ。

「喜助、双葉を殺したのは椿様の命令か?」

「椿様があたしを捨てるって言ったのっ。殺してっ、殺してJewelry Pupilを持って帰ってたらっ。許してくれると思ったのよっ!!仕方ないでしょ!?そうしないと、あたしが弥助みたいに殺されるのよ!?嫌よ、そんなの。あたし、死にたくないもの!!」

「落ち着け、喜助。椿様はお前を殺すとは言っていないだろ?仕事をしろと言われたんじゃないのか?」

僕は喜助を宥める為に背中に触れると、喜助が胸に飛び込んで来た。 

あぁ、ダメだ。

お前じゃないんだよ、抱き締めたい人は。

ガバッと勢いよく抱き付いて来るや否や、泣き出す始末だ。

本来なら、抱き締め返して慰めの言葉を言うべきだろう。

だけど、僕は喜助の肩に手を置き体を引き剥がす。

「喜助。椿様に褒めて貰いたいのなら、僕の言う事を聞くんだ。椿様から送られる指示よりも先に、君が動ければ良いじゃないか。」

僕の言葉を聞いた喜助は目を丸くさせた。

カラコンが外されたタンザナイトの瞳に喜助が映る。

喜助の脳内に入り、記憶を改竄(かいざん)して行く為には…。

晶や周りの人達にして来たように、僕はまた記憶を変える。

「どうすれば良いの?」

「ただ、僕の言葉だけを聞くようにすれば良い。」

「え、え?どう言う事っ…ゔ!?」

ドカッ!!

喜助の鳩尾に拳を捻り込み意識を失わせ、頭に触れた。

ボンッ。

手のひらに収まるサイズの本が現れ、手慣れた手付きでページを捲った。

パラパラパラパラ!!!

僕が喜助の頭から出したのは脳内の記憶だ。

記憶はその人自身の一冊の本として、頭の中に保管されている。

僕は1つのページに視線を落とし、内容を読み進めて行く。

内容は、椿との電話内容が事細く書かれているページだった。

そして、双葉と二見の状況や四郎君達の事も書かれている。

この電話を受けた喜助が、双葉を殺した原動力になった訳か。

子供から目をくり抜くのは容易な事じゃない。

両目が無くなった双葉はもう、目を向けられるものではなかった。

やはり、二見は自害したか。

予想はしていたが、喜助の手にJewelry Pupilが渡るのは避けたい。

だが、芦間達がいる事が幸いになる。

何故なら、Jewelry Pupilの保険が効くからだ。

椿は弥助を殺し、七海君を連れ去れなかった事が相当来てる。

弥助が自分を裏切るなんて、想定外だった筈だ。

殺されるように仕向けたのは、この僕。

弥助には、あの場で死んで貰う必要があった。

「ここの部分は不要だ」

ベリッ。

双葉と四郎君が書かれている部分のページを破る。

また、僕との会話が記憶される前に眠らせたからページに載る事はない。

「さてと、このJewelry Pupilは喜助には必要ないな」

喜助の手からJewelry Pupilを取ると、目玉の形から固形に変形した。

キラキラと光る石になったJewelry Pupilをポケットに入れ、喜助の体を持ち上げる。

キィィィ…。

開かれた扉の方に視線を向けると、佐助を抱き抱えている伊助が立っていた。

佐助の体には新しい傷が幾つか出来ているのを見て、三郎がやったのだと分かった。

だが、伊助はキッと睨み付けてくる。

「おい、嘉助。佐助が任務に行ってたんじゃないの」

「そうだよ。今、まさかに任務中じゃないか」

「そうだけど、そうじゃないよ。僕が言いたいのは」

伊助は佐助の事が好きだ。

椿も伊助が佐助へ対する好意には気付いていた。

だから、伊助の顔の沢山のピアスは椿が無理矢理に開けたものだ。

椿に虐め紛いの事をされていても、佐助への気持ちは衰えない。

「もう、佐助を使うのはやめてくれよ。いつか、本当に佐助が死んじゃうだろ」

「それを決めるのは椿様だ。僕に決める権利はないよ」

「アンタの言う事なら、椿様は聞くだろ。なんせ、椿様のお気に入りだからな」

「君さ、椿様に意見して酷い目に遭ってるのに懲りないね。だけど、佐助は君の意見を聞かないだろ」

僕の言葉を聞いた伊助は唇を噛み締める。

君達の事を助けてやれる方法を何度も考えた事があった。

だけど、子供達を誘拐し殺しを教えるのも必要な事だった。

僕にとって君達の犠牲も君達の痛みも。

君達が椿と出会う未来も必要な事だった。

そして、これからの計画の為にも君達には死んでもらう必要がある。

ごめんな、伊助。

お前が佐助が大事に思うように、僕にも大切な人がいるんだよ。

「伊助、弥助が椿様を裏切って殺された。お前も死にたくなかったら、余計な事はするな」

僕はそう言って、屋上を後にした。

もう、引き返せない所まで来ているから。


CASE  七海

消毒液の匂いに混じって、煙草の匂いがする。

「嘉助の紹介で来たのは分かったが…。アンタ等、七海の保護者かなんかなのか?」

「保護者って言うか、身内みたいなものだよ。それよ
り、マスターの足は…」

闇医者の爺さんさんと天音の声がする。

ここは…、爺さんの事務所なのかな…。

「両足のアキレス腱が完全に切れとる。歩くのは無理じゃな。他の傷は深くはない、安静にすれば良くなるじゃろ」

「リハビリをしても駄目な状態なのか」

「深さにもよるが、七海の場合は深く切られておる。
車椅子生活になるのを頭に入れておくんだな」

ノアの問いに答えた爺さんは、煙草に火を付けた。

重い瞼を開けると、やはり爺さんの事務所のベットの上にいた。

天音とノアは、僕が起きた事に気が付くと慌てて側に寄って来る。

「「マスター!?具合は!?」」

2人の大きな声が頭に響き、頭痛がしてきた。

ズキズキと痛む頭を押さえながら、起きあがろうとす
る。

2人が僕の背中を支えるように手を添えた。

「気分は良くないかな…。足の感覚もないし」

「お前さんには酷だが、もう歩く事は出来ないぞ。アキレス腱を深く切られておるからな」

「やっぱり。何となく、そうなんじゃないかなって思った」

「なんじゃ?随分とあっさりしとるの」

僕の反応を見た爺さんがキョトンとした顔をしていた。

「眠りながらだけど、3人の会話を聞いてたし」

「マスター、僕とノアがお世話するから。いや、寧ろさせてほしい」

そう言って、天音が僕の手を優しく握る。

お世話…、昔のようにただ側にいるだけじゃない。

2人に迷惑を掛ける訳にはいかない。

天音とノアの体に巻かれた包帯、頬に貼られたガーゼ。

唇のは切れて血が滲んでいる。

僕を助けに来た2人、軽い怪我で済んで良かったと胸
を撫で下ろす。

「天音、お世話係の延長じゃないんだよ?歩けない僕のお世話をするのは介護になるんだよ?」

「分かっていますよ、マスター。そんな事、苦とは思わない。寧ろ、あの時のように離れるの方が嫌なんだ」

「ノアまで…。僕は君達の重荷になりたくない」

僕は素直な気持ちを吐きながら視線を下に落とす。

ドタドダドタドタ!!!

バンッ!!!

慌ただしい足音の後がして来たと思ったら、乱暴に扉を開けて誰かが入って来た。

「はぁ、はぁっ。爺さん、五郎の傷を手当てしてくれ!!」

入って来たのは、血塗れの五郎を抱えている二郎だった。

「何じゃ!?今日は儲かり日じゃなー。おれ、そこに寝かせておけ」

爺さんの指示に従うように、五郎を僕の隣のベットに寝かせる。

五郎の首元には大きな摩ったような切り傷が出来ていた。

その他にも外傷が酷く、顔色も真っ青。

いつもうるさい五郎が死人のように眠っている。

二郎の服にもべっとりと赤い血が付着していたのを見て、その血が五郎のものだと分かった。

「こりやぁ、また酷いのぉ。傷口がパックリ開いとる。だが、この傷を見ると、血の動きが止まってお
る。普通なら出血多量で死んどるぞ?」

「まぁ、色々とあったんだ。傷口を早く縫ってくれ」

「分かっとるわい。麻酔を打ってからじゃよ」

爺さんはカチャカチャと音を立てながら、注射器を用意しに行く中。

二郎が僕の頬に触れながら、心配そうな顔をし口を開いた。 

二郎、やつれてる。

本当ほ僕なんかよりも五郎の方が心配な筈なのに。

優しいんだよな、二郎は。

「七海、無事で良かった。怪我は?どの程度なんだ?」

「腕の傷は大した事ないよ。ただ、両足のアキレス腱が切られちゃって…。もう、歩く事が出来ないんだ」

「椿にやられたのか、それとも泉淳か?」

「よく覚えてないよ。だけど、僕はもう役に立てない事だけは伝えておく。ボスもこんな僕はいらないでしょ」

僕の言葉を聞いた天音とノアは心配そうな顔を浮かべる。

「七海」

男の低い声を聞いて、僕の体がビクッと反応する。

天音とノアも男の声のした方に視線を向けた。

開かれた扉の前にいたのはボスで、僕の方に歩いて来た。

カツカツカツ。

革靴の足音が部屋に響く中、ボスは僕がいるベッドサイドに腰を下ろす。

座った衝撃で、ギシッとベットの軋む音がした。

「七海、お前が無事で良かった」

ボスからそんな言葉を聞けるとは思わなかった。
泣きそうになるのを堪えながら、言葉を選ぶ。

「ボス…。僕はもう、ボスの役に立たない」

「どうしてだ?」

「だ、だって、僕…。歩けなくなったから、邪魔でしょ?じ、自分で動けなくなっちゃったから…っ」

「誰がそんな事を言ったんだ?それは、お前の考えだろ」

ボスの言葉を聞いた天音とノアが、キッと目尻を上げる。

その容姿を見た二郎がナイフを取り出そうとするが、爺さんが大声を上げた。

「おいおい!!ここでおっ始めるのは勘弁してくれ!!わしの仕事場じゃぞ!?」

「二郎、ナイフを下ろせ。そこのお前等もだ」

ボスは天音とノアが背後に隠してある武器を見ずに言葉を放つ。

2人は渋々ながら武器をしまうと、ボスが僕の頭を優しく撫でる。

「七海、お前が歩けなくなっても必要なのは変わらない。お前を買った日から変わっていないよ」

「ボス…。あ、ありがとうございます」

「マスターの世話はこっちに任せて貰いたいのだが?」

そう言ったのは、ノアだった。

「と言うと?七海を引き取りたいと言う事か?」

「えぇ、マスターを助けてくれた事には感謝してますが。今回の件でハッキリしました。マスターは僕達といた方が良いとね。マスターを危険な目に二度と合わせるつもりはない」

「その件については申し訳なかった。七海を攫われたのはこちらの落ち度だ。だが、七海は俺の所有物だと言う事を忘れてはいないだろうな?」

ボスはそう言って、天音を見据える。

「フッ、結局そんな風に言うのかよ。アンタがそう言う可能性があると思って、用意しといて正解だ」

「用意って…、何?」

「マスターが心配するようなものじゃないよ。元々、兵頭雪哉に渡すつもりだったものだ」

天音とノアが用意したものって…、一体なんだろう。

ノアは作業着の胸ポケットから一枚の小切手を取り出し、近くにあったテーブルに置く。

僕と二郎は小切手に書かれた金額を見て驚愕し、声が揃ってしまったのだ。

「「い、一億!?」」

「一億は貴方がマスターを買い取った金額ですよね。僕とノアは一億を用意して、貴方にお渡しするつもりだった。マスターを返して貰う為に。」

天音はそう言って、ボスの目の前に立つ。

「ほう、金での取り引きをしようって話か。確かに、七海を買い取った金額ではある。だが、七海の意思を聞いたのか?」

「そ、それは…」

たじろぐ天音を背に、ボスは話を続けた。

「この話は七海の意思で行うのが筋だろうが。七海、お前がこの2人に会いたがっていたのは知っていたよ。腕にある2匹の鳥のタトゥーを見れば尚更だ」

「ボス…」

「今思えば、お前の意見をちゃんと聞いた事がなかったな。七海、お前はどうしたい?」

ボスの優しい声色、優しい視線が涙を誘う。

本当の気持ちは2人と離れたくもないし、メンバーとも離れたくない。

わがままな事だとは知ってる。

だけど、そんな事を口に出して良いのだろうか。

「痛ってぇ!?」

そんな事を考えていると、突然の五郎の叫び声が部屋に響き渡る。

「うるさいわ!!傷を縫い終わった途端に叫ぶな!!」

「あいてっ!?殴る事ないだろ、じじい!!」

「誰がじじいじゃ!!」

「お前だろうが!?」

起きたばっかりの五郎は爺さんと言い合いを始めた。

「うるさいよ、五郎。本当に馬鹿なんだから」

「あ!?って、七海!?それに、ボ、ボスまで!?」

「ボスの前なんだから静かにしろよ」

「お前、大丈夫なのか!?って、うわわ!?」

ベットから滑り落ちそうになった五郎の腕を二郎が掴む。

「おい、五郎。本調子じゃないんだから、動き回るな」

「春…?あっ、ごめん」

「怪我が深いんだから寝てろ。それに、今は七海とボ
スが話してる」
 
「話って…、お前等は誰だ?むぐっ!?」

二郎が五郎の口を手で塞ぎ、言葉を止めさせた。

「僕は天音達とも皆んなとも離れたくない…です」

「そうか」

「すいません…」

「謝る必要はない。お前等、家はあんのか」

僕の頭を撫でながら、ボスは天音とノアに尋ねる。

家…?

「あぁ、マンションを用意してもらっている」

「家は一応あるみたいだな。七海、2人と暮らしながら仕事をしてくれるか?その方が七海の安全も確保出来るだろう」

天音の言葉を聞いたボスは、僕に提案を述べてきた。

「良いんですか…?2人と暮らしても…。も、勿論、ボスからの命令があれば動きます。い、いつものような仕事だったら…」

「ハッカーとしての才能はお前の右に出るものはいない。七海、2人と空いてしまった年月を埋めればい。この金は有り難く受けとる。その方がお前等も納得がいくだろ?」

ボスは小切手を手に取り、スーツの胸ポケットにしまう。

「さっきと言ってる事が変わったな。マスターの事を物扱いした癖に」

「ノ、ノア!!」
 
「い、痛いよっ、マスター」

僕は咄嗟にノアの腕の皮を指で捻る。

「七海の素直な気持ちを聞き出したかっただけさ。五郎、お前も戻って来い。アジトの修繕は完了したとメンバーに伝えておいてくれ、二郎」

「分かりました」

「五郎、静かに寝てろよ」

ポンッと五郎の頭を撫でたボスは、部屋から出て行った。

ボスが優しくなった。

急にどうして?

胸騒ぎを隠したまま、僕は天音とノアの手を握るのだった。


歌舞伎町に姿を消した一郎と六郎は、24時間営業のドラッグストアに訪れていた。

何故なら、四郎に頼まれていたブリーチとヘア用マニキュアを買う為であった。

「おい、六郎。ブリーチなんて、どれも一緒じゃないのか?」

「馬鹿ね、違うに決まってるよ。黒にした髪から綺麗に色を抜かないといけないんだから」

「ふーん、そんなもんか」

「そうよって、どうしたの?いきなり、後ろから抱き付いて」

チラチラと男達が六郎を見ている事に気付いた一郎は、六郎を後ろから抱き締める。

彼氏と思った男達は視線を逸らして行く。

「ふふ、あたしって可愛いんだね?お兄ちゃん」

「お前、わざと視線に気付かないフリをしてただろ?何故だ」

「だって、お兄ちゃんはあたしの事を守ろうとするだろうなって思って。良いじゃない、妹の我儘を聞いても」

そう言って、六郎は一郎の腕に触れる。

「仕方ないな。ほら、早く選べ」

「はーい」

ブー、ブー、ブー。

一郎のスマホが振動し、着信が入った事を知らせた。

「電話?あたし、お会計してくるから出て良いよ」

「いや、俺も…」

「大丈夫よ、すぐに戻るから」

「あ、おいっ」

六郎は一郎の言葉を最後まで聞かずに、レジに向かって行ってしまった。

後を追いながらスマホを取り出し着信相手を確認する。

画面に映し出された名前は二郎からであった。

一郎は迷わず通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。

「もしもし、二郎か。お前等、無事なのか?」

「あぁ、何とかね。だけど、七海が歩けなくなった」

「どう言う事だ」

二郎からの説明とアジトの修繕が完了した事を知らせられた。

「七海はその2人と暮らすのか?」

「うん、だけどこっちの仕事もやるって。その方が七海にとっても良い事だと思う。一郎なら分かるだろ?同じような事を経験したんだから」

「住む場所は違っても関係性が変わる事はない。七海と五郎が無事で良かった。お前等もアジトに戻るのか?」

「僕と五郎はね。四郎達にも知らせて欲しいんだけど…」

「分かった、俺から連絡しておく」

ピッと通話を切ると、買い物袋を持った六郎が走って来た。

「お待たせー」

「六郎、アジトの修繕が終わったらしい。今日からアジトに帰ろう」

「え、そうなの!?良かった、またあの場所で住めるのね。電話の相手は二郎?」

「あぁ」

「そっか、皆んなも早く帰って来れると良いわね」

スッと六郎の手買い物袋を取り、肩に手を回しながら耳元に口を寄せる。

「俺達の家に帰ろうか、ユマ」

「っ!!うんっ」

六郎は一郎の肩に頭を乗せると、一郎は優しく頭を撫でた。


東京市内のとある高級マンション 最上階

部屋から出て行った椿恭弥の背を見送り、扉が閉じられるのを見届けた。

パタンッ。

扉が閉められた瞬間、大きなテディベアの背中に手を伸ばす。

ジジッとジッパーを下ろし、綿の中を探り始めた。

ゴソゴソッと漁る音が静かな部屋に響くが、白雪はそんな事は気にしていない。

カチッと指先に固いものが当たる。

固い物体を手に取り綿の中から手を抜く。

白雪の手握られていたのは、充電が満タンにされているスマホであった。

画面に触れると嘉助からのメールが届いていた。

手慣れない手付きでメールを開き、内容を確認して行く。

「雪哉さんの協力を得る事が出来ました。後は四郎君の意思の問題ですが、心配する事はないでしょう。モモちゃんが貴方の娘だと言う事も、椿にはバレていません。また、報告させていただきます」

ガチャッ。

隣の部屋の扉が開く音がし、白雪は慌ててテディベアの中にスマホを隠す。

足音のしない廊下から人影が現れ、部屋の扉がゆっくりと開かれた。

「白雪、苺を貰ったんだ。食べない?」

「いらない」

「ダメだよ、食べないと。あの頃よりも痩せてしまったね」

その言葉を聞いて白雪は差し出された手を払いのける。

パシッ!!

「誰の所為だと思ってんのよ。全部、アンタの所為じゃない」

「ごめんね、白雪。だけど、拓也を殺した事を悔やんでいないよ。あ、1つだけあった」

近寄って来た椿恭弥は乱暴に白雪の腕を掴み、顔を近寄らせる。

「白雪、拓也との子供をどこに隠した。」

「知らないわよ、子供なんていない」

「嘘はよくないな、白雪。全部、知ってるんだよ。君達の間に子供がいる事も。その子供が生きてる事もね」

「…」

「さっきの話に戻るとね?悔いてる事が1つあるって言ったでしょ?あれはね、君達の子供を殺せなかった事だ」

そう言って、椿恭弥は白雪の唇を塞いだ。


 第4章  END
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