MOMO

百はな

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第4章 Jewelry Pupil 狩り

63.引き返せない I

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CASE 四郎

今、俺の目の前にいる二見は弱々しく見える。

死んだ双葉の体を抱きしめて、みっともなく泣き出した。

「双葉っ、双葉!!!こんな終わり方って…、ないやろ!!」

こんな時でも、俺は二見に対して何も思わない。

双葉が殺されて可哀想とか、悲しいとかも。

俺達は、いつ殺されてもおかしくない世界にいるからだ。

二見、お前だって分かっていただろ。

なのに何で、そんなに泣けるんだよ。

誰かの為に涙を流せるんだよ。

俺はお前と違う。

俺はきっと涙を流す事は一生ないだろう。

いつからだろう、他人の為に泣かなくなったのは。

「二見、お前は双葉が殺される覚悟が足りなかったな。」

俺の言葉を聞いた二見は、キッと睨み付けて来た。

「お前なんかに分かるわけないやろ、俺の気持ちはな。感情のないお前なんかに分かってたまるかよ。」

二見が何を言いたいのかも分からない。

双葉の前髪を掻き分け、露わになった額に二見は唇を落とす。

愛おしむように双葉の頬を撫でては、再び唇を落とす。

二見は何度も「愛してる。」と呟き、キスの雨を降らして行く。

俺には、目の前で繰り返される行動は理解が出来なかった。

「分からないな、お前が怒る理由も。そのガキに執着する理由も。」

「何やねん、お前は。」

「理解するつもりもねぇからな。」

「可哀想やな、お前。感情がない人形やな。」

カチャッ。

三郎は二見にCz75の銃口を向け、引き金を引こうとする。

「やめろ、三郎。弾が勿体ねー。」

俺は三郎の手を下ろさせるが、三郎は嫌々ながらだった。

「お前が殺さなくても、コイツは自殺するだろ。」

「ッチ、そうだけどさ。」

「ここに用はねーだろ。行くぞ。」

脳裏に浮かんだ新しい未来。

それは二見が自殺する未来。

カチャッ。

二見が銃を取り出し、自身の頭に銃口を突き付けた。

「お前等に殺されるよりも、自分で死ぬわ。双葉がいない世界に価値なんかい。双葉…、今行くからな。」

パァァンッ!!

ブシャ!!

二見の頭から血が花火のように飛び散る。

自分で躊躇なく引き金を引いて、二見は自害した。

バタンッと力が抜けた二見の体が双葉の隣に倒れる。

2人は死んでも尚、手を繋いだままでは離れないようにくっついていた。

二見がどんな心情で自殺を選んだのかは、知る由がない。

人の死と言うのは呆気ないものだ。

後追い自殺なんかして意味があるのだろうか。

死んだ後に会える保証なんてないだろうに。

そんな事を考える俺は、普通じゃないだろうな。

実際に双葉と二見の死体を見ても何も感じない。

ただ、思うのは意味のない死に方をしたなと思うだけ。

「行くぞ、ここに用はもうねーからな。」

「はーい。」

俺と三郎は二見達に背を向けるが、モモは2人をジッと見つめている。

ブー、ブー、ブー、ブー。

バイブ音がし、モモを降ろしてスマホを取り出す。

画面に映し出された着信相手はボスからだった。

急いで通話ボタンを押し、耳にスマホを当てる。

「すいません、ボス。電話に出るのが遅れました。」

「いや、良い。二見は片付いたか。」

「はい、二見とガキは死にました。」

「ご苦労。それとお前と三郎に話がある。明日の夜、時間を空けとけ。」

俺と三郎に話が?

「分かりました。」

「それじゃあ。」

ボスはそう言って、通話ボタを切った。

ガクッと膝が崩れると視界がぐるぐると回り出す。

「「四郎!?」」

モモと三郎の声が遠くなり、視界が真っ暗になった。


CASE 嘉助

バーまどろみを出た僕は、喜助の通話を終わらせると
車を走らせた。

雪哉さんの協力を得る為にどうしようかと思っていたが、五郎君が怪我をしてくれて良かった。

そのお陰で、雪哉さんが首を縦に振る事に成功したな。

信号が赤に変わり車を一時的に停車させ、煙草を取り出す。

葉巻タバコのブラックデビル、カカオ・チョコレートフレーバー。

この煙草を吸い始めたのは、かつての恋人の影響だった。

チョコレートの甘いの香りが昔の記憶を呼び覚ます。
目を閉じればいつでも、恋人の顔が浮かぶ。

プップー!!

後ろの車にクラクションを鳴らされ、信号が青になっていた事に気付く。

再び車を走らせ、近くにあった広めの公園の脇に車を止めた。

運転に集中が出来ない。

頭が疲弊し切っているせいなのか、それとも恋人の事なのか。

僕の中では既に答えが出ているのだ。

ブー、ブー。 

スマホを取り出し、画面に視線落とすと槙島からのメールが届いていた。

メールの内容はシンプルなもので、一言だけであった。

僕の感情をぐちゃぐちゃにするのは簡単だった。

車を降りて公園内にあるベンチに腰を下ろし、吸えなかった煙草を咥える。

カチッ。

煙草に火を付け、深く煙を吸い煙をゆっくり吐いた。

「フゥ…。」

チョコレートの香りが鼻を通り、気持ちを落ち着いて行く。

「ッチ、火が付かねぇ。」

声のした方に視線を向けると、女がいた。

心臓が高く脈を打つ。

白いTシャツに黒のスキニー、ラバーソールを履いた女。

ネイビーカラーのパーマが掛かったセミロング、目尻の上がった目が印象的だ。

何で、何で…。

何で、君がこの公園にいるんだ。

「晶…。」

晶は煙草を咥えているが、ライターのオイルが切れているようで着火しないらしい。

普段の僕なら、見て見ぬフリをする筈だった。

本当なら。

なのに、僕の足は晶の方に向かって歩き出している。

スッと晶に使っていたライターを差し出す。

晶は僕の顔を見てキッと睨み付けるが、ライターの存在を知って目付きを変えた。

僕が晶を見間違える筈はない。

数年振りに会った君は、あの頃よりも痩せている。

会わないと決めたのに、決めた筈なのに。

晶の記憶の中から、僕と言う存在を死んだ事に塗り替えたのに。

晶、何でこの公園にいるんだよ。

僕の描いた未来に晶と出会う事はなかった筈だ。

どうして、僕は晶の目の前に立ってる。

引き返す筈じゃなかったのか。

公園を出て行く筈じゃなかったのか。

感情とは裏腹に口が勝手に動き、晶に話し掛けていた。

「良かったら使う?」

そう言って、晶にライターを差し出す。

「どうも。」

愛想笑いの1つもせずにライターを受け取り、煙草に火を付けた。

晶の手に持っていた煙草はブラックデビル、カカオ・フレーバーだった。

「アンタも俺と同じ煙草を吸うんだな。珍しいだろ?この煙草。」

「そうだね、周りにも吸ってる人はいないな。」

「だろうな。アンタも座れば?」

そう言って、晶は座るように促してくる。

僕は晶の言葉通りに隣に腰を下ろし、煙草を吸う。

「アンタ、疲れてんだな。」

「え?」

「疲れてる面してるから。分かるよ、疲れるよ生きるの。」

フッと軽く口角を上げ、スゥッと煙美味そうに吐いた。

そうだ、晶の煙草の吸い方だって鮮明に覚えてる。

「疲れてるのかな…、僕。」

「自分の事だろ?フッ、変な野郎だな。」
 
「最近、自分自身の事を考える余裕がなかったんだよ。」

首元を閉めているネクタイを緩め、溜息を吐く。

晶の目の下にはクマが出来ていて、唇の色も悪い。

「君こそ、体調が悪そうだ。夜なのに薄手で寒いだろ、これを着て。」

パサッと晶の肩にジャケットを置いた。
 
「良いって、やめろ。」

晶はそうは言いつつも、肩に掛けられたジャケットをぬごうとしない。

「懐かしい香水の匂いする。これ、オレンジブラットだろ。」

「…、よく分かったね。」

「分かるよ、俺の死んだ恋人が使ってたからな。」

その言葉を聞いて胸が締められる。

「…、そうなんだ。」
 
「香水も煙草もピアスの数も同じにしてさ。風呂も一緒、寝るのも一緒だったんだよ。」

晶は懐かしむように苦笑しながら、恋人の事を話す。

「ラブラブだったんだね。」

「そんな可愛いもんじゃねーって。俺達は2人で寝たりしないと安心しなかっただけだ。今も、あの香水の

匂いを嗅ぎながらじゃないと寝れねぇ。」

「だろうな。目の下のクマが濃い、少しでも寝た方が
良いよ。」

僕は思わず、あの頃の癖のように晶に触れようとした。

振り払われるだろうなと思っていた。

だが、晶は僕の手を受け入れ頬に触れさせたのだ。

「ダメだよ。簡単に触らせたら、男に。」

「変な事しようとしたら、殺すだけだ。お前はそんな事しないって分かる。」

「分かる?」

「うん、それに…。懐かしいんだよ、何か。」

細い肩を抱き寄せ、壊れ物を触る様に抱き締めた。

晶は僕の行動に驚きもせずに、背中に手を回す。

だって、こんなにも僕達は思い合っているんだ。

本当の事を言いたい。

僕は生きてて、目の前にいるんだって。

今でも君への想いは消え失せずに残っている。

好きだ、愛してる。

そんな簡単な言葉で、晶への愛を表す事は無理だろう。

だけど、僕にはそんな資格はない。

晶、僕は君への愛を囁くより復讐を選んだ。


晶と出会ったのは14歳の夏。

蝉の鳴き声が響き合う真夏の7月。

僕の家は神楽組と言うヤクザで、いわゆる反社と言う存在。

特に気にした事はなかったが、組員や親父達は僕を必要に外に出したがらなかった。

それは僕が若頭でもあり、世界に数人しかいないJewelry Pupilでもあったから。

初めて他人から殺意を向けられ殺され掛けたのは、5歳の頃だった。

当時の神楽組の組員に押し倒され、包丁を目に刺されそうになった所を父さんに助けられた。

Jewelry Wordsを使えるようになったのは14歳。

そうしなければ自分が狩られるから。

生きる為に、この力を利用する他ない。

Jewelry Pupilは生きているだけで、国宝級の価値があるらしい。

特に反社の世界では絶大な人気だった。

父さんは僕の事を守る為に中学には通わせずに、本家
から出る事を拒んだ。

言葉では守る為だって言うけど、Jewelry Wordsを頼り出したのはこの頃からだ。

父さんは取り引きがあるごとに、僕のJewelry Wordsを使い事が上手くいくように未来を書き換えさせられた。

その時の父さんの目は怖く見えたのを覚えてる。

欲に塗れた汚い笑み、嘘の言葉を吐く。

最大限に利用しようと始めた父さんは、兵頭会の集会に僕も同席する事に。
 
僕がJewelry Pupilだとバレないように、黒のカラコンを装着させられた。

初めてのコンタクトの付け心地は最悪だった。

兵頭会の本家に到着し、高級車ばかり止まっていて驚いた。

初めて見る自分の組員以外の人達は、奇妙な視線を向けて来る。

嫌な空気だな…。

そう思っていても、父さんや組員たちは見てないフリをする。

父さんは兵頭雪哉と言う男の人に頭を下げ、話をしていた。

蒸し暑い夏なのに男達は黒いスーツを着ていて、暑くないのだろうか。

半袖シャツの僕ですら、この暑さは耐え難い。

僕は部屋を出て涼しげな縁側に足を運ぶ。

早く帰りたい。

ここにはいたくないと思った。

何故、皆んな兵頭雪哉と言う男に頭を下げる?

偉い人だから?

逆らってはいけない人だから?

兵頭雪哉を男達が囲い頭を下げる姿は異様に見えた。
気分が悪い、気持ち悪い。

吐きそうな気分の中、甘いチョコレートの香りが鼻を
通る。

「フゥ…。」

縁側に到着すると、ネイビーカラーのショートカットの女の子がいた。

僕と同い年くらいだろうか、細い体に黒いワンピースが似合う。

14歳の女の子が煙草を吸ってる。

そんな事を考えながら女の子を見ていると、目が合った。

女の子はキッと目尻を上げてから口を開く。

「何見てんだ、テメェ。」

「え、え?」

「ッチ。」

「ご、ごめん…。」

あまりの口の悪さに驚いたあまり、誤ってしまった。

「アンタ、どこの組の子供なんだよ。」

「子供って…、君も子供だろ?」

「あ?」

「神楽組だよ、知ってる?」

僕の言葉を聞いた女の子は「あぁ。」と言葉を吐い
た。

「君は?どこの組の子供?」

「俺?俺は売られてここにいんだよ。」

「売られたって…。どうして?」

「お前に関係なくね?」

確かに女の子の言う通りだ。

そうだけど、どうしてなのか気になるんだ。

「確かにそうだけど…。」

「おーい、晶ー。」

廊下から現れたのは、金髪の髪を靡かせた18歳くらいの男のだった。

同じく黒いスーツを着ているし、どこなの組員なのだろうか。

「若、どうしたの?」

「親父がお前の事を探してた。なんか、会わせたい子がいるってよ。」

「会わせたい子?」

「って、その手間は省けたようだな。」

男は僕の顔を見て、フッと口元を軽く緩ます。

「どう言う意味?若。」

「晶、次の仕事は神楽組の若頭の護衛だよ。」

「は?本当に言ってるの、それ。」

「詳しい事は親父に聞けよ。お前、ヨウだろ?」

晶との会話を終わらせた男は、何故か僕の名前を知っていた。

「何で、僕の名前を…?」

「ん?神楽組の俊典さんから写真見せて貰った事があんだ。俺は兵頭拓也だ、宜しくな。」

そう言って、拓也さんは僕の前に手を差し出す。

父さんが外で僕の話をしているとは思わなかった。

嫌な部分しか見て来なかったから、そんな事をしてるとは思ってなかった。

「よ、宜しくお願いします…。」

恐る恐る拓也さんの大きな手を握る。

「親父の部屋に行こう。お前等を連れてかなきゃいけないんだよ。」
 
「雪哉さんってば、何を考えてんだか。」

「俺は良いと思うけどなー、ヨウの護衛すんの。お前、一回ぐらいは俺以外の人と関わった方が良い。」

「俺は別に…。」 

晶はそう言った途端、表情を暗くする。

声を掛けようとしたが、拓也さんに手を引かれ部屋に案内されてしまった。

部屋に到着すると父さんと雪哉さんの2人だけがいた。

「親父、2人を連れ来たぞー。」

「悪りぃな、拓坊。お前も話を聞いていけ。元は晶はお前の護衛役だったんだからな。」

「俺も?分かったよ。」

拓也さんは雪哉さんの隣に座り、僕は父さんの横に座る。

晶もまた拓也さんの少し後ろに腰を下ろした。

「雪哉さんには頭が上がりませんよ。まさか、晶を貸していた抱けるとは思ってもいませんでした。」
 
「俺も晶には色々な経験を積ませたいからな。神楽組に一時的に預けるだけだ。その事は忘れんなよ、俊典。」

「も、勿論です。」

父さんは気を遣いながら雪哉さんと会話を始めた。

変わった事は、僕は晶に釘付けになってしまった事だけ。
 
僕と晶は2人が会話をしてる中、ずっと目が合っていた。

その時だけ、周りの時間が止まっている感覚になった。
 
「私も晶には殺しの依頼をした事がありましたが、晶の腕は確かですから。安心して息子を預けられますよ。」

「…え?殺しの依頼って…?」

僕は思わず声に出てしまい、父さんの顔を見る。

「晶は兵頭会が育ててる殺し屋の1人だ。そして、晶は中でも腕が良い。」

父さんは自分の事ではないのに、誇らしげに笑う。

「勿論、雪哉さんの命令を優先させますから。」

「そう言う話に決まったからな、俺からは何も言う事はない。良いな、晶。」

父さんとの会話を終わらせた雪哉さんは、晶に視線を送る。

晶は冷たい目付きのまま「はい。」と一言だけ。

父さんと雪哉さんが会話をして数分後、解散する事になった。

本家の外に出て、荷物をまとめてる晶を待つ事に。

数分後に小さな鞄を持った晶が本家から出て来た。

晶の荷物が少ししかないのが分かる。

「鞄、持つよ。」

「良い、若頭にそんな事させらんねーだろうがよ。」
 
「大丈夫だよ。そんな事をさせない方法があるから。」

「あっそう。じゃあ、頼むわ。」

「うん。」

僕は晶から鞄を受け取ると、拓也さんが本家から出て来た。

「ヨウ、良かったら連絡先を交換しねぇ?」

「え?」

「ほら、携帯出せよ。」

「あ、は、はい。」

渋々、携帯を取り出し拓也さんと連絡先を交換する事に。

「何かあってもなくても連絡して来いよ。晶の事でも良いからな。」

「おい、若。俺の事って?」

「悪い意味じゃねーよ。頑張って来いよ、晶。」

「いつも通りに仕事してくるだけだよ。」

「はいはい、気を付けて帰れよ?ヨウ。」

そう言って、拓也さんは僕に声を掛けてきた。

拓也さんの視線は優しくて、関わって来た人達とは違う。

優しい人だな、拓也さん。
 
「ありがとうございます。」

「若、私達はこれで失礼します。」

僕と拓也さんが話していると、父さんが入って来た。

「俊典さんも気を付けてな。」

僕と晶は車に乗り込み、拓也さんに見送られながら本家を後に。

父さんは晶を護衛につけれた事が相当嬉しいらしく、終始上機嫌だった。

嫌な顔してんな、父さん。

僕は父さんに話し掛けられても、曖昧な返事だけをす
る。

その様子を晶は横目で黙って見ているだけだった。

晶はどう思ってるんだろう。

こんな風に自分の生活を決められるのは。

晶がどうしてこんな仕事をしているのか。

晶の事を知りたい、それだけしか頭になかった。

僕は縁側にいた晶に一目惚れしてしまったんだ。

最初で最後の恋になる事を、この時の僕は知らなかった。

ブー、ブー、ブー。

晶を抱き締めながら昔の事を思い出していると、スマホが振動した。

ハッと我に帰り、晶の体から手を離す。 

「ごめん。」

僕は晶を抱きしめる資格なんてない。

それにもう、僕は引き返せない場所まで来ているから。

全てを捨てて、君を攫う事も出来ない。

そうしたのは全て自分自身の選んだ結果だ。

「何について謝ってんだ?」

「君の体に触れてしまった事。」

「良いよ、別に。」

離れ難い気持ちを押し殺しながら、腰を上げる。

「おい、ジャケット。」
 
「あげるよ。体を冷やす前に帰りな?じゃあ、僕は行くね。」

晶の返答を聞く前に、速足で公園を出て車に乗り込む。

パタンッとドアを閉め、顔を押さえながら鳴り続ける
電話に出た。
 
「どうした。」

「か、か、嘉助…っ。あたし、あたし、あたしっ。」

「喜助か。どうしたんだ、落ち着け。」

息の荒い喜助の様子がおかしいと気付き、顔を上げる。

僕の作り出した未来上、喜助はそのまま帰り佐助達と合流する筈だ。

もしかして、未来が変わり始めてるのか。
 
「あは、あはは、あははは!!あたし、Jewelry Pupilを手に入れたんだよ。あははは!!」

気が狂ったように笑い出した喜助。

Jewelry Pupilを手に入れたって、どう言う事だ?
嫌な予感がする。

もしかして、双葉のJewelry Pupilか?

「今、どこにいんだ。」

「えぇ?どこにいるかって?そんなのヒルトン東京に
決まってるでしょ?おかしー、あははは!!」

「分かった。僕が行くまで、そこを動くなよ。」

通話を終わらせて、パーキングからドライブに変えた。
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