MOMO

百はな

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第4章 Jewelry Pupil 狩り

49.5 困惑

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同時刻 とある高級マンションのエントランスにて

CASE 五郎

俺はエントランスで、ある人物を待っていた。

「何なんだよ、二郎の奴!!俺を追い出しやがって!!しかも、殴るし。」

殴られた頬を触れながら、小言を呟く。

バコッ!!

後ろから誰かに頭を叩かれた。

「痛っ!?」

「うるさい、不審者だと思われるだろうが。」

「晶、頭は叩くなよ。」

振り返ると、ダル着を着た晶が立っていた。

俺が待っていた相手は、晶であった。

晶に連絡を取り、指定されたエントランスで待っていたのだった。

「頼みたい事って、何。」

「俺、抜けさせられたんだよね。」

「俺の部屋で話そう。ここだと、誰かしら来るだろうし。」

「あぁ。」

俺と晶はエレベーターに乗り込み、最上階に向かった。

ポーン。

エレベーターを降り、1番奥の扉の前で止まる。

晶はポケットからキーカードを取り出し、扉の穴に差し込んだ。

ガチャッ。

扉が開くと、黒髪の適当に切ったショートヘアの女が出て来た。

「おかえり、晶さん。その人は?」

「あぁ、四郎と同じ所に所属してる殺し屋。」

「そうなんだ。コーヒー入れるけど、飲む?」

「うん、五郎も飲むだろ。」

目の前で淡々と行われた会話に、頭が追い付かなかった。

晶が誰かを住ませてるとは思ってなかった。

「言っとくけど、雪哉さんの命令だからね。一緒に住んでるの。」

「あ、あぁ…。そう言う事か。」

「で?何で、抜けさせられたの。」

高級そうなソファーに座った晶が尋ねて来た。

「二郎に殴られて、抜けろって言われた。」

「へぇ、アイツ殴ったりするんだ。」

晶は煙草を咥えながら、おかしそうに笑う。

「それで?抜けて来たの?」

「一時的にだ!!俺は二郎よりも先に、アイツを殺す事を優先しただけ。」

「ふーん。それで?俺とどう言う関係があんの。」

「俺に協力してくれ、晶。」

ドンッ。

俺はテーブルの上に500万を置いた。

「え、え!?」

コーヒーを持って来た女は、500万を見て目を丸くした。

「成る程、俺と手を組みたいのか。」

「あぁ、頼む。俺はアイツを確実に殺したいんだ。」

「殺し損ねたのか?」

「泉淳って、知ってるか。」

俺の言葉を聞いた女が、ハッとした。

「それって、泉病院の院長ですよね?今、私と晶さんも同じ依頼をしているんです。そうだよね?晶さん。」

ガチャッ。

女はコーヒーをテーブルに置きながら、晶に視線を
向けた。

「そうなのか!?」

「まぁね。泉病院で、薬物を製造してるかの調査をね。」

「キャンディって、知ってんだろ。雪哉さんからの依頼でね、お前と組んで調べろって。だから、金はいらねーよ。これよりも倍の額を貰ったからな。」

「ボスが!?」

驚いた。

まさか、ボスには俺の考えが読めていたのか。

「それと、齋藤も加わるらしいよ。」

「斎藤さんが?足を洗った筈じゃなかったか?」

「そこまでは知らねーよ。今は、七海の所にいるらしーけどな。」

斎藤さんも含めてのチームになるのか。

「あ、それと。コイツも参加するから、宜しく。」

「参加って…。この女が?」

見た所、普通の女って感じだけど…。

「穂乃果です。宜しくお願いします。」

「あ、どうも。晶、どこまで分かってるんだ?」

「泉淳は椿に洗脳されて、キャンディを製造してる。」

「椿と泉淳が手を組んでんのか!?しかも、洗脳って!?」

一度だけ、泉淳を殺す機会はあった。

俺が遠距離からの射撃で殺そうとした時、泉淳の姿が一瞬にして消えた。

あの時は、何で消えたのか分からなかった。

だけど、モモと出会いJewelry Pupilの存在を知った。

今なら、あの時の現象は…。

Jewelry Pupilの能力を使い、泉淳は自分の身を守ったのか。

二郎に失敗したって言った時、二郎は責めなかった。

ただ、悲しく笑っただけだった。

俺が泉淳を殺さなきゃいけない。

「椿と泉淳が知り合ったのは、泉淳の父親の死がきっかけだった。父親の葬式に椿も参加していて、そこで泉淳は椿と知り合った。当時の泉淳は、引きこもりだったらしい。」

「父親の葬儀…。」

二郎が、泉淳の父親を刺し殺した。

それをきっかけに泉淳は、引きこもりになったのか。

兄ちゃんの事は、何にも思ってなかったのかよ。

「椿は、泉淳を利用する為に近付いたって事だよね?だから、葬儀にも参加したんですよね?」

「だろうな、椿は他の薬物とは違う物を作り出したかった。痛みを感じない、傷を負っても動く、怪物のような薬物を。」

「そ、そんな物を!?椿って奴は、とんでもない物を作ってるじゃん!!」

「だから、高値で取引されてんだよ。頭のイかれた野郎ばっかが、キャンディを服用してる。他の薬物よりも、キマるとヤバイらしいからな。」

穂乃果と晶の会話を聞きながら、コーヒーを飲む。

「椿の目的は薬物製造、泉淳は椿に何か求めた?」

「泉淳は、椿に自分の身の安全の保証を求めた。お互いの利害は一致してるも同然だったらしいぞ。」

「ハッ、あのクソ野郎が言いそうな事だ。」

そう吐き捨てて、煙草を咥え火を付けた。

「俺達が知ってる情報は、これぐらいだな。泉病院のセキュリティが厄介でな。私服の椿会の連中がうろうろして、一般人を常に側に置いてる。中々、手が出しずれー。」

白い煙を吐きながら、晶はソファーに深くもたれ
る。

「椿は組員を殺させないように、一般人を側に置いてるのかな?」

「知らねー。俺は着替えてくるから、泉病院に行くぞ。」

晶は立ち上がり、リビングを出て行った。

兄ちゃんを殺した泉淳は、俺と春の心の傷だ。

春はずっと、泉淳に囚われてる。

春が俺を殴って、抜けさせるようにしたのも、全部は俺の為だって分かってる。

昔から、春が俺の為に動いてくれてる事も知ってる。

春は、1人で泉淳を殺しに行くつもりだ。

俺が知ったら、付いて来ると思ったんだろう。

だから、春は俺に抜けるように言った。

春よりも先に、泉淳を殺さなきゃいけないんだ。

もう、春1人でさせない。

そう思っていると、リビングの扉が開いた。

ガチャッ。

「お待たせ、行くぞ。」

「あ、はい!!武器はいつものように?」

「車のトランクに積んどけ。鞄に入れてな。」

「了解。」

穂乃果は手際良く鞄の中に、武器を詰め込んだ。
晶が徹底的に指導したんだろうな。

「それにしても、お前が教育係りするなんてなー。意外だったわ。」

「あ?雪哉さんに頼まれて、仕方なくだ。それに、お前は遠距離ばっかだろ。近距離戦のやり方を教えれねーだろ。」

「うっ、確かに…。俺は遠距離の方がやり易いからなぁ。」

「ま、遠距離をやれって言ったの、二郎だろ。」

「何で、晶が知ってんだよ?」

俺と二郎とボスしか知らない筈なのに。

「あー。前に仕事を一緒にした時に、二郎から聞いた。アイツ、五郎に対して過保護過ぎだろ。いっつもお前の話しかしねーし、三郎みたいだわ。」

「二郎が俺の事を話してるのか?」

「俺達、同僚の中では有名な話。」

春が俺の言葉を…。

どこまで、春は俺に対して優しいんだ…。

「晶さーん、用意出来ました。」

穂乃果が鞄を持って、晶の隣に立った。

「遅い。」

パチンッ。

晶はそう言って、穂乃果にデコピンを喰らわした。

「痛いっ!!これでも、早くなったのに?!」

「うるせー、俺に口答えすんな。」

「うぅ…。」

どことなくだが、晶から柔らかい空気が流れた。

コイツも、穂乃果の事を気に入ってるのかもな。

これを本人に言ったら、殴られそうだから言わない
でおこう。

「行くぞ、泉病院に。五郎、まだ泉淳を殺すなよ。タイミングがあるんだからな。」

「分かってる。」

「勝手に動いたら、殺すからな。」

「分かってるってば。」

「ふん。」

俺と穂乃果は、晶の後を付いて行き高級マンションを出た。



同時刻 椿会事務所

CASE 嘉助

要件を終わらせ、俺は事務所に足を運んだ。

ガチャッ。

扉を開けると、組員達が一斉に頭を下げて挨拶して来た。

「「「お疲れ様です、嘉助さん。」」」

「お疲れ。」

「よー、嘉助。」

気怠げに俺の名前を呼んだのは、芦間啓成(あしまよしなり)だった。

ボサボサの髪に、少し焼けた肌で、前髪は長く瞳は見えない。

こう見えても、殺しの仕事を主にしていて、椿の左腕的存在だ。

「芦間、髪ぐらい整えろ。」

「あ?俺の仕事は殺しだから良いんだよ。んな事より、頭はいねーぞ。」

芦間は軽く笑いながら、煙草を取り出した。

「何?頭が出掛けた?」

俺の言葉を聞いた組員達が、次々に言葉を放った。

「あ、はい。数分前に事務所を出て行きました。」

「俺達には、行き先は言わなかったですね。」

「確か…、お茶しに行くって言ってました。」

この様子だと、芦間も椿の居場所を知らねーみたいだな。

ブー、ブー、ブー。

ポケットのスマホが振動した。

スマホの画面を見ると、メッセージを送って来たのは、槙島ネネだった。

タンタンッ。

スマホを操作し、送られたメッセージを開く。

[ 椿が七海を新宿御苑に呼び出したよ。佐助と星影がお互いの同行者で、話をしてるみたい。椿が、ノアと天音って人をダシに呼び出したみたい。]

添付された写真を見ると、椿と七海が映っていた。

槙島の予知能力で分かったのか。


この写真は、頭に映った記憶を画像化したんだな。

槙島がこれを送って来たと言う事は、時間がかなり経ってんな。

1時間?

いや、30分ぐらいか。

椿が勝手な行動をしたのか?

確かに、七海君の事を狙っていたのは知っていた。

どうやら、天音君とノア君の存在に気付いたらしい。

成る程。

早く、七海君を手に入れたかったようだな。

白雪さんの体が、どんどん衰弱して来ている。

泉淳が処方して来る精神安定剤は、体にかなり負担のかかる物だった。

恐らく、白雪さんの寿命はそう長くはない。

血液の摂取、Jewelry Wordsの使い過ぎ、栄養失調。

今は、白雪さん自身のアルビノの血で生きているようなものだ。

椿はどうにかして、白雪さんを生き続けさせたいと思っている。

俺に言わなかったではなく、忘れていただけだろう。

それ程まてに、椿は急いでいた。

2人に連絡しないと。

「分かった。何かあったら、連絡しろ。」

「「「分かりました。」」」

俺が事務所を出ようとすると、芦間が声を掛けて来た。

「また、頭からの呼び出しかー?」

「違う要件だ。お前もそろそろ、仕事の時間だろ。
遅れないようにしろよ。」

「ハッ、お前は俺の母親か。」

芦間の言葉を返さずに、事務所を後にした。

椿は俺の事を信用しきっている。

何故なら、俺のJewelry Wordsの能力で、椿の記憶を操作しているからだ。

少し急ぎ目に車に乗り込み、事務所から離れた場所に車を停止させた。

スマホを操作し、天音君に通話を掛けた。

今は、俺の用意した家で2人には住んでもらっている。

「もしもし。」

「あ、天音君?緊急事態だ。七海君と椿が接触した。椿の単独で、動いたみたいだ。」

「おい、マスターと会うのは当分、先になるんじゃなかったのか。」

「だったんだけどね。椿の奴、少し焦ってるみたい
だ。」

俺の言葉を聞いた天音君は、怒りを露わにする。

「理由なんて、どうでも良いんだよ。椿がマスターに手を出そうとしてる事が、問題なんだよ。場所はどこだ。今すぐ行く。」

「分かった。場所を送るから、俺と一緒に行こう。迎えに行くから、準備しておいて。」

そう言って通話を切り、急いで2人の住処に向かった。
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