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百はな

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第4章 Jewelry Pupil 狩り

45.5 教育開始

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CASE 木下穂乃果

家を出て、2日が経った。 

晶さんの教育が開始した所である。

私の目の前に広がっている光景は、血生臭いものだった。

「ゔっげぇ…。」

「おい、オッサン1人ぐらい殺せよな。」 

晶さんの足元には、細めの中年男性が倒れている。

本来なら、私がこの人を殺さなきゃいけなかった。

ナイフを持った手が震え、何も出来なかった。

痺れを切らした晶さんが、私からナイフを取り、素早く殺した。

男性の首元から血が噴き出し、私の頬に付着した。

「私、血が苦手みたいです。」

「はぁ?じゃあ、どうやって殺すんだよ。甘ったれた事、言ってんなよ。」

「す、すいません。」

「俺が居るから、甘えてんだろ。助けてくれる相手がいるから、手が出せなくなったんだろ。血が苦手だ?御託(ごたく)はいらねぇ。」

晶さんは冷たい目をして、私を見下ろす。

その目は、こう言っているように見えた。

そして、その言葉は何度も何度も、言われた言葉だ。

「お前になんか、期待していない。」

嫌って程に、浴びせられた言葉。

私はまた、誰かを失望させてしまった。

嫌だ、嫌だ。

誰かに期待されずに、生きていたくない。

「次の依頼は、お前がやれ。俺は同行しないからな、終わったら連絡しろ。」

「え、え?」

「次のターゲットを殺せなかったら、お前は帰れ。
そして、俺と雪哉さん、四郎の前に現れるな。」

晶さんは、当然の事を言っている。

「…、分かりました。すいません、晶さん。」

「はぁ、お前は環境に恵まれてんだよ。行くぞ。」

私を救ってくれたあの人は、どんな環境に居たのだろう。


晶さんもまた…、どんな環境に居たのかな。

私は…、恵まれている方だった?

車に乗り込んだ私達は、目的地に着くまで会話が無かった。

20分後

古い二階建てのアパートに到着した。

「次のターゲットは、ニートの50代の男性。高齢な親から給付金を巻き上げ、お金は全て、ゲームの課金に使われている。家庭内暴力を加え、実の母を窓から突き落とした。依頼人はこの男の父親で、とにかく殺して欲しいそうだ。」

「ひ、酷い…。」

「俺達は理由なく仕事している訳じゃない。虐待する毒親、性犯罪を犯した奴等、恨みを持った人の依
頼が多い。まぁ、その目で見て来い。」

そう言って、晶さんは私を車から出した。 

階段を登り、いちばん奥の部屋の前に立つと、大きな怒鳴り声が聞こえた。

「テメェ、クソジジイ!!金寄越せや!!ババアの保険金をどこに隠しやがった!!!」

パリーンッ!!!

「ゔっ。」

何かが割れる音と、お爺さんの呻き声が聞こえた。

「銀行にもないし、お前がどこかに隠したんだろ!!?どこにあるんだよ!!あ!?」

「お、お前に金はやら…っゔ!?」

お爺さんが危ない!!

キィィィ…。

扉を慎重に開け、部屋の中に入った。

中に入ると、部屋の中はゴミで溢れ返っていて、嫌な匂いが鼻を通った。

臭い…っ。

こんな部屋に人が生活してるなんて、信じられない。

ドカッ!!

ターゲットの男が、お爺さんを殴り続けていた。

本当に、こんな大人がいるなんて…。

ニュース番組とかでしか、見た事がなかった。

目の前に起きている事は現実で、大人の嫌な部分を見ている。

お爺さんは抵抗せずに、されるがままだった。

このままだと、お爺さんが死んじゃう!!

ナイフを持つ手に力を入れ、男の背後に立つ。

男は私の存在には気付いていないようだった。

今なら…、刺せる!!

私は思いっ切り力を入れて、男の背中にナイフを突き刺さした。

グサッ!!

鈍い音が部屋に響いた。

「え?」

男は状況を確かめるように、後ろを振り返ろうとした。

「うわぁあぁあ!!」

みっともない声を上げながら、何度も何度もナイフを突き刺さした。

男の声は耳に入らなかった。

ただ、早く死んで欲しいと思っていた。

血が飛び散り、顔や服に付着して行くのが分かる。

だけど、そんな事よりも早く死んで欲しい。

グサッ、グサッ、グサッ、グサッ!!!

どれだけ刺し続けたのか分からない。

男は抵抗する事なく、床に倒れ込んだ。


「はぁ…、はぁ…。し、死んだ?」

ドサッ。

力が抜けてしまい、床にへたり込む。

「アンタは…、依頼して来た人か。」

お爺さんは、へたり込む私に声を掛けて来た。

「は、はい…。お爺さん、大丈夫ですか?」

「アンタみたいな若い子に、依頼を受けさせてしまったの…。はぁっ、はぁ…、ありがとう。」

「お爺さん?」

「…。」

「お爺さん!?」

慌てて近寄り、お爺さんの呼吸を確かめた。

だが、お爺さんは息をしておらず、死んでいる事が分かった。

この男の所為で…。

お爺さんが死んじゃった。

何で、何で?

こんな奴こそ、もっと早く死んでいれば良かったんだ。

ふつふつと怒りが湧いて来た。

殺した事の罪悪感よりも、違う感情が芽生えた。

「お爺さん…、ごめんね。」

私は部屋を出て、晶さんの元に向かった。

「お帰り。」

車に戻ると、晶さんは煙草を吸いながら声を掛けて来た。

「戻りました。」

「へぇ、殺せたんだ。」

「次の依頼…、ある?」

私の言葉を聞いた晶さんは、驚いた顔をした。

「え、何?どうしちゃったわけ?」

「あの男…、ゴミ屋敷よりも汚いなって。お爺さん
が死んじゃいました。私が早く…、殺さなかったから。」

「依頼人は、死ぬ事を望んでいたんだよ。ターゲットにされるがままだったろ。」

晶さんは現場を見ていたかの様に、状況を理解していた。

「亡くなったおばあさんの所に、早く行きたかったんだと。だけど、その前に息子を殺して欲しかった。やっぱり、許せなかったんだろうな、実の息子だけど。家族だからって、何しても良い訳じゃない。」

「そうですよね、私もそう思います。」

「依頼ならあるけど、本当に行くの?」

「はい、早く慣れないと…。あの人の役に立てないし…。」

四郎君のやっていた事は、正しい事だったんだ。

悪い人を殺して、被害者達を助けていたんだ。

四郎君はやっぱり、ヒーローだ。

「四郎君は、ヒーローですよ!!汚い奴等に制裁を下してたんだ!!」

「えらく興奮してんな、人を殺した後なのに。血が苦手じゃなかったのかよ。」

「平気になりました!!」

「何だそれ、変な奴だな…。」

そう言うと、古い二階建てアパートの前にトラックが止まった。

トラックの中から、防護服を着た人達が出て来た。

「あの人達は、一体…。」

「掃除屋だよ。ターゲットの死体処理と証拠隠滅をする人達。まぁ、ヤクザの連中だ。」

「雪哉さんの所の組ですか?」

「次、行くぞ。」

晶さんは車を走らせ、アパートを後にした。


同時刻 兵頭会の本家

CASE 七海

カタカタカタカタ。

「アジトは…、良かった。無事みたいだね、セキュリティーを作り直さないと。」

今回の件は、完全に僕のミスだ。

皆んなやボスは、僕を責めたりしなかった。

だけど、僕は僕自身を許せない。

皆んなみたいに殺しの技術がある訳じゃないし、戦力的には足手纏いだ。

「皆んなの役に立つには、アジトを快適に過ごせる
ようにしないと…。いつまでも、ここに居る訳にはいかないし。」

そう思いながら、再びパソコンのキーボードを叩く。

カタカタカタカタカタカタ。

ピロンッ。

パソコンにメールが届いた。

「誰からだ?」

カチッ。

マウスを操作し、届いたメールを開いた。

そこには、天音とノアの成長している写真が添付されていた。

「え?」

天音…、ノア?

な、何で?

何で、こんな写真が…。

天音とノアが、東京のとある空港で撮られた写真だった。

2人は、東京に来ている…?

写真の下には、こんなメッセージが書かれていた。

「2人は君に会いたがっている。2人の情報が知りたいなら、明日の15時に新宿御苑にてお待ちしております。」

明らかに罠だと分かる文面だ。

僕の事を誘き出そうとしているのか?

だとしら、何で?

僕なら簡単に殺せるから?

ピロンッ。

また、メッセージが…。

「天音君とノア君は、君のお父さんに人殺しをさせられていた。真っ当な道を壊したのは、君達だ。彼等を助けるのは、君の役目だろ?彼等は狙われている。救うのも殺すのも、君次第だ。君は、薄情な選択はしないだろ?」

2人が殺しの仕事をしていたのは、知っていた。

僕にバレないようにしていた事も。

父さんが2人を良いように使い、利用していた事も。

今でも、大切に思っている気持ちはある。

自由にさせてあげたい気持ちも。

だけど、僕の意思だけで動いたら…。

ボスや皆んなに迷惑を掛ける可能性は高い。

メッセージの送り主は、椿会の誰かだろう。

僕の事や2人の事を調べ上げて来た。

アジトに乗り込まれる前に、電話して来た奴だろう。

アイツは、僕と同じでハッカーだ。

僕の情報を調べようと思えば、簡単に調べれるだろう。

誰が見ても、罠だと分かる。

「…。」

カタカタカタカタ…。

タンッ。

僕はメッセージの送り主に返信をした。

もう、皆んなやボスを失望させたくない。

「ごめんね。」

そう呟き、パソコンを閉じた。

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