MOMO

百はな

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第4章 Jewelry Pupil 狩り

41.5 教祖様

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CASE   木下穂乃果(きのしたほのか)


あの人に会いたい。
ただ、それだけだった。

あの日から、私はクラブ通いは辞めて普通に生活していた。

ネットで出会った田辺裕之(たなべゆきひろ)と出会い、連絡を取り合っていた。

その時はどうして、あんなおじさんの言う事を聞い
ていたのだろう。

でも、田辺裕之に呼び出されていなかったら…。

水色の髪のお兄さんに出会えなかった。

正直、一目惚れだった。

色白の肌に合う真っ黒な服を着ていて、煙草を吸ってる姿がカッコ良かった。

声を掛けたくなった。

お酒の力を借りて、水色の髪のお兄さんに声を掛けた。

「ねぇ、そこのお兄さん。」

そう言うと、お兄さんの瞳が私を捉えた。

真っ黒な瞳…。

「どっか行け。」

低い声…。

想像通りの声だ。

あの出来事を最悪だと思わない。

きっと、"運命"だからー。

18歳の私は、真面目に学校に通い、毎日家に帰ってる。
お母さんもお父さんも、私に優しくなった。

だけど、私はあの人に会いたくて仕方なかった。

おじさんを銃で撃ったお兄さんの姿が、目に焼き付いた。

ゾクゾクした。

それは恐怖なんかじゃなくて、釘付けになったんだ。

「速報です。」

「え!?」

自室に置いてあるテレビに映った人物を見て、驚いた。

「深夜2時過ぎにヒルトン東京で7歳児の子供達の遺体が発見されました。また、違法賭場が行われており主催者と思われる男の写真がネット上で、拡散されている事が分かりました。こちらが写真の画像になります。」

「お、お兄さんが…、容疑者?」

何で?
 
何で、お兄さんが?

私はスマホを手に取り、放送されているニュースについて検索した。

検索してみると、お兄さんの隠し撮りされた写真が出て来た。

不覚にも、写真を全部保存した。

「カッコイイ…!!マジ、ヤバイ!!」

どの角度からもカッコイイ…。

ふと、保護された時にいたヤクザの人達の会話を思
い出した。

「アイツ等もよく、殺しの仕事するよな。」

「雪哉さんが殺し屋に育てたんだろ?ま、俺達に殺しの仕事が回らなくて良かったけどな。」

確か、あの時…。

雪哉って言っていたよね…、検索してみよう。

タッ、タタタ…。

「出て来た、兵頭会組長の兵頭雪哉…。」

この人とお兄さんは繋がってるんだ。

じゃあ、兵頭雪哉に会えば、お兄さんと会えたりするのかな…。
 
でも、お兄さんは殺しの仕事をしてる。

普通の人じゃない。

人を殺して、生活をしている人だ。

そんな人は普通の女を好きになったりするだろうか…。

いや、お兄さんは弱い女は好きにならない。

今の私は…、不釣り合いだ。

鏡に映った自分をじっくりと眺めた。

普通の女子高生だ。

お兄さんの髪は、綺麗な水色だったな…。

だけど、私はお兄さんに会いたい。

この気持ちは恋なのかな?

いや、これはアイドルを推しているような気持ちだ。

私の世界を変えようとしているお兄さんは、教祖様だ。

「ごめんね、お父さん、お母さん。私…、親不孝者だね。」

そう言って、ベットに横たわった。


四郎達が兵頭会本家を出て、翌朝の出来事である。

CASE 木下穂乃果

化粧をして、黒のワンピースを着て家を出た。

スマホのナビで、兵頭会本家に向かった。

電車に揺られ1時間経った頃だろうか、兵頭会の本
家に到着した。

門の前には柄の悪いお兄さん達がいた。

カツカツカツ。

「ん?お姉さん、どうしたの。」

「雪哉さんに会いに来ました。」

そう言うと、お兄さん達は私に銃を構えた。

カチャッ。

「お前、どこの組の差金だ。」

「違います。私はただ、雪哉さんに話をしたくて、来ただけです。」

「は?何言ってんだ。」

「どうした、お前等。」

お兄さん達の後ろから現れたのは、写真で見た兵頭雪哉だった。

「お嬢さんは…、四郎が保護した…。」

「雪哉さん、私を殺し屋にして下さい!!!」

「「「え!?」」」

私の言葉を聞いたお兄さん達は驚いていた。

そりゃそうだ。

いきなり来て、殺し屋になりたいなんて言うんだから。

「あははは!!!いきなり来て、殺し屋になりたいか。中においで、話を聞いてあげるよ。」

「あ、ありがとうございます!!」

「お前等、お嬢さんを中に案内しろ。」

「分かりました。こちらへ、どうぞ。」

さっきと態度が180度違う。

雪哉さんって、凄い人なんだ…。

私はお兄さん達に案内され、本家の中に入った。

外から見ても部屋の中の想像は出来た。

日本転園が見える客間に通され、お茶菓子を用意された。
 
「どうして、殺し屋になりたいんだ?殺したい奴でもいるのか。」

「水色の髪のお兄さんを助けに来ました。私は、お
兄さんに助けて貰ったから…。」

「水色の髪?あぁ、四郎の事か。お嬢さんは四郎が助けた子だったんだね。」

お兄さんは四郎って、言うんだ…。

「今日は帰りなさい。」

「え?」

カチャッ。

雪哉さんはそう言って、私に銃を向けた。

「お嬢さん、人を殺した事ある?」

「な、何を言って…。」

体がカタカタと震える。

「うちの子達はね、あるんだよ。俺と出会う前に、人を殺した事が。人殺しになる覚悟が君にはあるのか?好意だけで、ここに来たのなら帰りなさい。」

「帰りません。」

こんな事で震えてどうするの?

決めたんだ。

私は…、もう普通の生活を送るつもりはない。

「助けてくれたあの人は、私の世界を変えてくれた。好意?そんな簡単か感情じゃありません。彼は、私の教祖様なんです。私が殺したい相手はただ1人、彼を犯罪者にした人物ですよ。その人を殺して、教祖様の害になる人達を消せれば良い。」


教祖様を陥れた奴は許せない。

私だけが知っていれば良かった。

教祖様のファンが増えるのは、嫌だ。

私と同じような感情を持った奴がいるのは、嫌だ。

「四郎を犯罪者に仕立て上げた奴は、君では殺せな
い。

今のままではね?なら、テストをしよう。」

「テスト?認めてくれるんですか?殺し屋になる事を…。」

「それを決めるのは俺じゃないよ。」

雪哉さんはそう言って、どこかに電話を掛け始めた。

どこに電話してるんだろう?

「伊織、車を回してくれ。」

「分かりました。」

伊織と呼ばれた男の人は、部屋を出て行った。

「じゃあ、行こうか。」

「え、え?どこに行くんですか…。」

「君の事をテストする人物に会いにさ。」

私は雪哉さんと車に乗り込み、どこかに向かった。

場所を教えてくれない所為で、私の中で不安が大きく膨らむ。

車を走らせて30分、着いた先は工場の廃墟だった。

工場の近くには高級車が何台か止まっていた。

「降りてくれ、中に行くぞ。」

「は、はい。」

雪哉さんの後を追い、工業の中に入った。

「ヴッ!?」

生臭い匂いが鼻に届いた。

それと、目の前の光景に目を疑った。

夥(おびただ)しい量の血が、工場の一室を真っ赤に染め上げていた。

床には男の死体が何人か転がっていて、目がない人や、首がない人がいた。

胃の中から込み上げて来たものを必死で抑えた。

何…これ。

こんな事、誰がしたの?

「本当に連れて来たんだ、雪哉さん。相変わらずだね。」

女の人の声がした。

雪哉さんの後ろから、声のした方に視線を向けた。

オン眉の青髪のパーマのボブヘアに、色白の肌。
病人みたいに白くて驚いた。

長い睫毛に黒い瞳、華奢な体にストリート系のファッションを着こなしていた。

彼女の口から煙草の白い煙が吐き出された。

「晶(あきら)、お前に新しい仕事を持って来た。」

「仕事って?今日はもう、ノルマをこなしたよ。」

「殺しの仕事じゃない。このお嬢さんが殺し屋になりたいそうでね、お前にテストして貰う。」

「は?この子?」

晶さんは腰を上げ、雪哉さんの前に立った。

「四郎の信者さんだ。」
 
「あー、四郎の事好きそー。」

スッ。

「っ!?」

いつの間に私の後ろ側に回った!?

「こんな死体見てさ、今にも吐きそうな子に殺しは無理でしょ。ファンだけにしておきなよ。」

「わ、私はそんな軽い気持ちで、来たんじゃない…です!!」

「じゃあさ、アンタは自分の親を殺せんの。」

「え?」

そう言って、晶さんはナイフを出した。
 
「皆んなね、訳ありなんだよ。親を殺したり、友達を殺したりしてる。アンタはさ、出来るの。親を殺
せって言われて殺せるの。」

「そ、それは…。」

「出来ないでしょ。なら、不合格。雪哉さん、この子不合格だから。」
 
そうだ。

テストの内容だって、晶さんの言う通りだ。

親を殺して来いって言われる可能性だってあった。

だけど、私は親を大切に思ってた?

私の事を放置して来た親を…?

今更、大事に思ってた?

頭の中に親との思い出が蘇った。

お金はテーブルに置かれたまま、家にはお父さんはいなかった。

勉強しろ、勉強しろとお母さんに叩かれた。
 
お母さんはお父さんが帰って来ない所為で、私に八つ当たりをしていた。

今は、お父さんが早く帰って来るようになったから何もない。

だけど、また帰って来なくなったら?

私はまた、お母さんに叩かれる?

八つ当たりされて、罵声を浴びせられる?
 
私は両親に愛されてるの?

「じゃあ、お嬢さん行こうか。」

「私は、お母さんに暴力を振るわれてた。お父さんはそんな私を見て見ぬした。」

「で?それがどうした。」

「だから、私は…。」

パシッ!!
 
私は晶さんの手からナイフを奪い取った。

「親と縁を切るつもりでここに来ました。私は教祖様の為だったら殺す。だって、あの人が私を見つけてくれたから。今すぐに殺しに行けば良いの。」
 
「頭逝ってんな、お前。四郎は強い女が好きだよ、俺みたいなね。」

「だ、だったら私だって!!」
 
「晶、面倒見てやれ。そして、殺し屋に育てろ。なるべく早く。」

雪哉さんの言葉を聞いた晶さんは、少し黙ってから口を開けた。

「分かった。俺も出た方が良いんじゃないの。」

「勿論、お前にもやって貰うつもりだ。こないだの襲撃でかなり、人手を失ってしまった。」

「成る程、だから俺の所に来たのか。了解、アンタ付いて来な。根を上げたら追い出す。」

み、認めてくれたって事…?

「雪哉さん、後は宜しく。何してんだよ、早く来
い。」

「は、はい!!」

私は歩き始めた晶さんの背中を追った。


「宜しいんですか、頭。あの子を晶に預けて…。」

岡崎伊織は後部座席のドアを開け、兵頭雪哉を乗せた。

「あぁ、三郎と同じ匂いがした。あの子は化けるよ。」

「頭の勘は当たりますからね。」

「一郎と六郎の居場所を探れ。連れ戻す。」

「分かりました。」

車が発進し、兵頭雪哉は煙草を咥え火を付けた。
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