MOMO

百はな

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第3章 赤く黒く染まる

38.赤く黒く染まる

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椿会本家ー

「蘇武、また勝手な事をしたらしいじゃん。そんなに待てない?」

「へ、へへ。」

「ヘラヘラしてんじゃねーぞ!!オラッ!!」


ゴンッ。
椅子に座る椿の目の前で、蘇武は組員に殴られた。

「椿さん、コイツ本当にヤバいっすよ?」

「頭のネジ一本取れてるからね。これもJewelry Pupilに魅了された人間の末路って事かな。」

「どう言う意味ですか?」

「会いたくて、仕方がなくなるんだよ。蘇武を見ていたら分かるでしょ。」

椿の言葉を聞いた組員達は、蘇武に視線を向けた。

「美雨、美雨、美雨、美雨、美雨。あぁ…、美雨。」

「気持ち悪りぃな…。」

「本当にな。ロリコンの域を超えてやがるよ。」

「お前等には分からない。美雨は俺の女神だ。」

蘇武はそう言って、組員達を睨み付けた。

「なら、Muse(ミューズ)を迎えに行く?」

「っ!?何だって?」

「お前のMuseを迎えに行こうじゃないか。蘇武、君が迎えに行くんだ。」

「良いのか!?お、俺が迎えに行っても!!」

「椿様、実行なさるのですね。」

嘉助が椿の耳元で囁いた。

「あぁ、Jewelry Pupil狩りの始まりだ。その1人目は美雨ちゃんだ。」

そう言って、椿は九条美雨の写真を取り出した。

「お前等、よく聞いて。この子を捕まえに行くのは
蘇武と数名の組員だ。嘉助、お前の指示で九条組の本家を潰しに行け。」

「かしこまりました。」

「佐助も連れて行け。僕の役に立ちたがっているからね。」

「分かりました。」

プルルッ…、プルルッ。

椿のスマホに着信が入った。

「弥助(やすけ)からだ。もしもし、解析は出来た?」

「何とかなりますね。あと、15分もあればセキュリティを外せますが。そちらはどうですかー?」

「タイミングが良いね。分かった、伊助と喜助を向かわすよ。」

「了解しやした。」

椿は通話を終わらせると立ち上がった。

「命令だ、さっき言った通りに動いてくれ。」

「「「了解致しました!!!」」」

組員達は一斉に走り出した。

「始めようか、Jewelry Pupil狩りを。」

椿の言葉を聞いていたのは、嘉助だけだった。


Hero Of Justice アジトー

コトコトコトコト…。

煮えたぎる鍋の中に、切った具材を入れていく。

二郎は手慣れた手付きで、調理を始めた。

「悩みがあると、カレーを作る癖は治らないんだな。」

そう言ったのは五郎だった。

「ここに来る前にもよく、作ってくれたよな。覚えてるか?あの時だって。」

「五郎。ここでは、過去の話はしないって約束したよな。」

「だけど、リビングには俺達しかいないじゃん!!」

「五郎、ここは溜まり場じゃねーんだ。」

二郎は話しながら、鍋をかき回した。

「やっと、口調が戻ったな。ここに来た時は、二郎の口調が馬鹿丁寧だったからさー。笑うの我慢したっけ。」

「たまに本名で呼びそうになるだろ、お前。」

「俺と2人の時は良いじゃん。」

五郎はそう言って、煙草を咥えた。

五郎の吸っている煙草の銘柄は、二郎と同じ物だった。

「お前、僕と同じ煙草じゃん。本当に僕の事が好きだな。昔からそうだった、僕達の溜まり場に付いて来て…。そう、アイツも…。」

「ねぇ、改めて聞くけどさ…。何で、こっちの世界
に行こうと思ったの?」

グツグツグツ…。

「嫌気がさしたからだ。アイツを殺した奴を殺した後、もう戻れないと思った。お前も僕の後を追って来なくて良かったんだ。」

「…。俺が二郎の側にいないと、二郎は死ぬ気だろ。今でもそうだ。死に場所を探してる、淳(あつし)君が…。」

「その名前はここでは出すな。」

「っ…。」

二郎はそう言って、五郎を睨み付けた。

「もっかい淳の名前出したら、怒る。」

「もう、怒ってんじゃん…。墓参りにも行ってないでしょ?二郎。」

五郎の言葉を聞いた二郎は、手を止めた。

「合わす顔がない。」

「あの事故は二郎の所為じゃないだろ?あの時は…、どうする事も出来なかった。」

「お前には分かんないよ。」

二郎はそう言って、悲しげに笑った。


CASE七海

「クッソ野郎!!どんだけ弾いても、侵入して来る。」

僕は、何本目か分からないエナジードリンクを口に付けた。

昨日の夜中から僕のパソコンと、アジトのセキュリティーに入り込もうとしてる奴がいた。

何時間もぶっ通しで弾いては入って来ての繰り返しだ。

カタカタカタカタ!!

「鬱陶しいっな、本当!!」

カタカタカタカタ!!

ブー、ブー、ブー。

スマホが振動した。

苛々しながらスマホに視線を送ると、非通知設定からだった。

僕のスマホは滅多に鳴らない。

掛けて来るとしたら、ボスとメンバーだけだ。
確信した、コイツだ。

コイツが、僕の作ったセキュリティーに入ろうとしてる奴だ。

僕はスマホを取り通話に出た。

「お疲れ様でーす。」

「お前だろ、昨日から侵入して来てる奴。」

「そっすね。いやー、お宅のセキュリティー?強す
ぎ。こっちもクタクタスッわ。」

「だったら、やめたら良いだろ。」

「そう言う訳にも行かねんで。そろそろ攻略出来そ
うなんで。勝負しやしょうよ、同じハッカーとして。」

この野郎…。

僕に喧嘩を売って来やがった。

「へぇ、僕のセキュリティーを攻略出来る?随分と余裕そうだね。」

カタンッ。

そう言って、エンタキーを押す。

「うわー。また、えらいトラップを仕掛けやしたねー。」

「どこの誰か知らないけど、舐めんなよ。」

「まぁ、それぐらいのトラップなら余裕スッね。」

ビー!!

僕が作った即席のトラップを余裕で突破して来た。

今まで誰かしらが侵入して来ようとして来る奴はいた。

だが、僕のセキュリティーを突破出来る事はなかった。

この男は、今までの奴等と違う。

僕と同じ人種の男、いわゆる変人だ。

面白い。

突破されるんじゃないかと言う恐怖、それと同時に
ワクワクしている。

「越えれるなら越えてみな。弾き飛ばしてやる。」

「アンタさん、変人。だけど、面白い。越えてやりやすよ、上からの命令なんでね。」

上からの命令…。

どこかの組のハッカーか。

この事はボスに連絡を入れておこう。

通話を切りボスに連絡を入れ、再びキーボードを叩く。


CASE 辰巳零士

AM15:30

お嬢の学校が終わる時間だな。

腕時計で時刻を確認し、車の鍵を持って玄関に向かった。

ブー、ブー。

スマホが振動したその時だった。

パン!!

「っ!?」

外から発砲音!?

ドタドダドタドタ!!

「辰巳さん!!」

「どうした。」

「椿会の連中が、乗り込んで来ました!!」

組員の2人が慌てて、俺に知らせて来た。

椿会の奴等が襲撃して来たのか。

パンパンパンパンパンパン!!

ブシャッ!!

「ぐぁぁぁぁあ!!」

玄関の方から叫び声が聞こえた。

ビチャッ。

床に倒れた組員から流れた赤い血が飛び散っていた。

そこにいたのは、刀を持った包帯だらけの女子高生だ。

この女の瞳は…、Jewelry Pupilか?

もしかして、四郎が前に戦った女じゃないのか?

「何してくれてんだ、この糞女!!」

カチャッ!!

俺の隣にいた組員が銃口を女に向けた。

まずい!!

「やめろ!!」

パン!!

声が掛けるのが遅かった。

銃弾が女の元に放たれた。

だが、銃弾は女の目の前で止まり方向を変えた。


ブシャッ!!

方向を変え、隣にいた組員の頭を貫いた。

「う、うわぁぁぁぁ!?」

「落ち着け。」

腰を抜かした組員に声を掛け、銃を構える。

弾は効かないだろうな。

「九条美雨はどこですか。」

「お前等の目的は…、お嬢か。」

「椿様が九条美雨を欲しがってる。だから、連れて帰る。」

「お前等にうちの美雨は渡さんぞ、小娘。」

スタスタ。

後ろから刀を持った親父の姿が見えた。

「「親父!!」」

「おい、小娘。土足で入って来て、大人しく帰れるとは思ってないよな?」

「じゃあ、死ぬ?」

タッ。

女はそう言って、素早い動きで親父に向かって刀を
振り下ろした。

キィィィン!!

親父は女の攻撃を受け止め、腹に蹴りを入れた。

ドンッ!!

ザッ!!

「辰巳!!美雨を迎えに行け!!」

「親父!?」

「おい、テメェ等!!シャキッとしやがれ!!」

親父は大きな声で叫んだ。

ドタドダドタドタ!!

「「親父!!無事ですか!!」」

「おう、お前等。俺の援護をしろ。俺はこの女を殺す、椿会の組員の処理を頼む。辰巳に余計な事を考えさす前にここから出せ。」

「「はい!!」」

組員達に任せて、お嬢を迎えに行って良いのか?

親父とJewelry Pupilを戦わせて良いのか?

「何してんだ、辰巳!!お前が命懸けで守らないといけないのは、美雨だろ!!」

「親父…。」

「辰巳さん、行ってください!!死んでも親父の事は守ります!!」

椿会が乗り込んで来た1番の理由はお嬢だ。

蘇武が動き出した。

「悪い、親父の事を頼む。」
タッ!!

「あ、ダメ。」

「行かせねーよ、女!!」

キィィィン!!

親父はそう言って、女に刀を振り下ろした。

小学校校門ー

CASE 九条美雨

「辰巳、遅いな…。」

いつもなら来てるのに…。

辰巳の車が止まってない…、遅れてるのかな?

連絡も…って、あれ?

スマホの電源が入らない。

「辰巳…。何かあったのか?」

キィィィ!!

目の前で車が止まり、ドアが開いた。

「美雨ちゃんだね?」

真っ赤な髪を靡かせたお兄さんが出て来た。

何で、美雨の名前を知ってるの?

このお兄さん…、怖い。

後退りするように後ろに下がると、トンッと何かに当たった。

その瞬間、後ろから抱き締められた。

「美雨、久しぶりだねぇ。俺の手紙を読んでくれた?」

この声、手紙…。

もしかして、やっぱり…。

あの時、美雨を連れ去ったおじさんだ。

嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

「やだ!!やだ、やだ、やだ!!離して!!」

「大きくなったなぁ。それに、可愛くなった。」

「嫌だ!!うっ!?」

口元に大きな布が当てられた。

瞼が重くなった。

「辰巳…。」

体が言う事を聞かない。

辰巳、辰巳…。

辰巳…、助けて…。



「蘇武、美雨ちゃんを車に乗せて。」

「わ、分かってるよ。」

「そろそろ、来るよ。」

キィィィ!!!

「蘇武!!!」

辰巳零士が椿と蘇武に向かって叫ぶ。

「もう、来やがったのか!?早く、出発してくれ!!」

「分かってるって。」

椿と蘇武は車に乗り込み、発進させた。

「待て!!」

辰巳零士も同時に車を発進させようと、ペダルを踏もうとした時だった。

ヒュンッ。

「バイバイ、辰巳零士。」

辰巳零士の車に向かって、手榴弾を投げた。

「っ!?」

コンッ。

手榴弾が窓ガラスに当たり、光を放った。

辰巳零士は慌てて車を降りようとしたが、手榴弾は
大きな音を立てて爆破した。

ドゴォォォーン!!

「きゃあああ!!」

「うわっ!?爆弾!?」

「爆発したぞ!!」

周りにいた人達は突然の爆発に驚き、呆然としていた。

パカッ。

辰巳零士は何とか車から抜け出していた。

「ガハッ!!」」

ビチャッ。

口から血を吐き、辰巳零士は地面に膝を付く。

辰巳零士の体から沢山の傷と血が流れていた。

「蘇武…、絶対に殺す。死んで二度と美雨に会わせなくしてやる。」

辰巳零士はそう言って、立ち上がった。



カタカタカタカタ…。

「チェックメイト。」

弥助はそう言って、エンターキーを押した。

カタンッ。

弥助のパソコンには沢山の情報と、地図がアップされた。

弥助はそのままスマホを取り出し、椿に連絡を入れた。

「終わりました。モモちゃんの居場所、分かりやした。」

「ありがとう、地図はここで良いんだね。」

「へい、ここに四郎達もいますねぇ。」

「了解。喜助と伊助を向かわせるよ。」

「へい。分かりました。」

通話を終わらせた弥助は、椅子に深くもたれた。

「お、もう弾かれた。まぁ、情報は取れたから良いんだけど。終わったな、この人等。」

弥助はそう言って、チョコを口に入れた。



第3章 END
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