MOMO

百はな

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第3章 赤く黒く染まる

37. 新たな脅威

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CASE 六郎

体が痛い、左目も凄く痛い。

あぁ、あたし…、死ぬのかな。

「ん…、喉…乾いた。」

目を開けると、見慣れない天井が視界に入った。

体は包帯でグルグルに巻かれ、隣を見るとお兄ちゃんが眠っていた。

右手に違和感を感じて、見ると一郎が手を繋いでいた。

「お兄ちゃ…ん。」

あたしの言葉を聞いたのか、握っている手がピクッと反応した。

ガチャッ。

「っ!?」

突然、扉が開き体が膠着(こうちゃく)した。

体が動かない。

お兄ちゃんを守らないと!!

守らないといけないのに、体が動かない。

「あ、起きた?」

聞き覚えのある声がした。

声のした方に視線を辿ると、そこにいたのは水を持った三郎だった。

「さぶ、ろ?何で?」

「水持って来たけど、飲める?起こしてあげるから、飲みな。」

「う、うん。」

三郎に起こして貰い、水を口に含み飲み込んだ。

喉が潤い、声をハッキリと出せるようになった。

「何で、アンタがここにいんのよ?ここはどこ?」

「ここは僕の家だよ。」

そう言って現れたのは、アイツだった。

「は、はぁ!?何で、アンタと三郎が一緒にいるの?」

「君達をここに匿っていると言えば良いかな?」

「は、は?」

「九龍会の本家で起きた事は覚えてる?」

あたしを誘拐し、お兄ちゃんが迎えに来てくれて…。

それで…、女子高生と男が来て…。

「思い出したけど、あの後はどうなったのかは覚えてないわ。」

「まぁ、そうだろうね。君達は椿に殺らされかけた。それだけ分かっていれば良いよ。椿は君達の行方を血眼になって探している。暫くはここにいて下さい。」

「アンタ、誰?」

「僕の事は嘉助と呼んで下さい。」

嘉助…って、確か…。

椿の右腕の男!?

「アンタ…、椿にバレたらどうすの。殺されるわよ。」

「椿は僕の素性なんか知らない。僕が神楽俊典の息子だって事も知らない。」

神楽俊典の息子!?

この男が!?

「ちょっと、待ってよ。神楽俊典の息子は殺されたんじゃないの?ボスはそう言っていたわ。」

兵頭会の神楽組は8年前に襲撃され、その時に神楽
俊典の息子は死んだってボスから聞いた。

死んだ筈の神楽俊典の息子がコイツ!?

椿は気が付いてないって言うの?

「椿が…、この事に気が付いてないのがあり得ない。」

ピクッ。

お兄ちゃんの手が反応した。

バッ!!

物凄い速さで、お兄ちゃんはあたしを背中で隠した。

「はぁ、はぁ…。三郎…か?」

どうやら、お兄ちゃんは無意識で行動していたようだ。

「これだけ大怪我したのに動けるの?一郎。ここは安全だから、大丈夫だよ。」

「どう言う事だ。」

「んー、説明すると長くなるからさー。お茶しながら話さない?」

三郎はそう言って、部屋を出て行った。

「ユマ、大丈夫か?」

「お兄ちゃんっ!!」

ガバッ!!

「うわっ!?お、おい。」

あたしはお兄ちゃんに抱き付いた。

「良かった…。生きててくれて、良かった…っ!!」

「ユマ…。ごめんな、ユマ。」

「うわぁああん!!」

お兄ちゃんが優しく頭を撫でてくれるから、涙が止まらなかった。

お兄ちゃんが生きててくれて良かった。

また、お兄ちゃんに会えて良かった。

「おいおい、俺はお前に泣かれるのに弱い。だから、泣くなよ。」

「もう、離れないから!!お兄ちゃんの側を離れないから!!」

「ユマ…。分かったから、泣かないでくれよ。」

「おーい、まだ?」

ドアから顔を覗かせた三郎は、ジーッと見つめていた。

「今、行く。ほら、ユマ。」

お兄ちゃんはそう言って、あたしの前に手を出した。

あたしは手を握り部屋を出た。


CASE 一郎

部屋を出てリビングに入る、と湯気の立った紅茶が人数分用意されていた。

広いリビングにはテーブルとソファー、大きなテレ
ビしかなかった。

「さ、座って。話をしようか。」

「あぁ。お前と三郎が何故、共に行動しているのかも聞きたいしな。」

「そうだね、三郎君は雪哉さんの事を調べていたん
だよ。」

「その事は知っている、三郎が1人でコソコソして
いたしな。四郎の一件以来からだろ、三郎。」

俺はそう言って、三郎に視線を向ける。

「俺は、ボスが俺達をどうして集めたのか。そして、必要以上にモモちゃんに対して過保護なのかを知りたかったんだよね。今までも、ボスは売られた子供達を救出して来たけど、モモちゃんに対しては
最初からおかしかった。」

「確かに。モモちゃんをメンバー総出で、救出しろってボスは命令したし。モモちゃんがJewelry Pupilだからじゃないの?それ以外にも、理由があるの?」

紅茶を飲み終わった六郎は、謎そうな顔をした。

「一郎と二郎は知ってるんだよね。俺達に黙ってる事があるでしょ。別に責めてる訳じゃないよ。俺は四郎に害が及ばなければ良いだけだから。」

「お前は本当に四郎の事しか、頭にないのか。」

「ないよ、アンタが六郎を守りたいのと同じだ。ボスが四郎を利用しようとしてるなら、許さない。」

三郎の目は本気だった。

「お兄ちゃん…?」

ユマは不安そうな顔をして、俺を見つめた。

俺はユマをもう…、失いたくねぇ。

「お前はどこまで、調べたんだ?」

「ボスの息子、兵頭拓也が死んだ事。椿が元、兵頭会の組員だった事。それぐらいしか、分からないかな。姐さんは撃たれて死んじゃったからね。」

「姐さんが?」

俺達に情報の取り引きをしていた姐さんが死んだのか…。

パサッ。

三郎は封筒を机に置いた。

「姐さんが隠してた封筒を持って帰った。まだ、中身は見てないけど、コイツが一郎達と一緒にみようって。」

「コイツって…。良い加減さ、名前で呼んでよ。」

「お断りだ。」

「えぇ…。まぁ、一郎君達も起きた事だし、中身を見ようか。」

そう言って、嘉助は封筒を開けた。

パサッ。

中身を開けると、何枚かの資料が入っていた。

後は、ドレス姿のアルビノの女性の写真が数枚。

この女性の事は知っている。

ボスから聞いたからだ。

「僕はね、拓也さんの事が好きだったんだ。優しくて、強くて、僕をよくラーメン屋に連れてってくれたんだ。この頃は椿も拓也さんも仲が良かった。だけど、白雪さんが現れてから…。椿がおかしくなった。」

「白雪?この女の人の事?」

「そうだよ。一郎君は知っているよね、この人の事。」

嘉助の言葉を聞いた三郎と六郎が、俺に視線を向けた。

「腹を割って話そう、一郎君。僕の事も話す代わりに、君が知っている事を話してくれ。大切な人を守りたいなら、尚更ね。」
ギュッ。

ユマが俺の手を握った。

ボスは神楽俊典の息子が生きている事を知らない。

目が覚めた時、嘉助のこの言葉が耳に入った。

嘉助はボスを裏切らないだろうか。

ユマを守る事が俺の…。

俺のやるべき事だ。

「分かった。だが、俺の話を聞いてアンタはこっち
側に入るなら話す。」

「分かった。雪哉さんと僕の目的は最終的には一緒だからね。」
"
椿を殺す事"か。

「ボスは、椿を殺す為に俺達を集めた。椿が俺達と同じように子供を拾い、殺し屋として育て上げると分かっていたからだ。」

「成る程、だから身寄りのない子供や親に恵まれなかった俺達を拾った。死んでも誰も困らないからね。」

「…、兵頭拓也さんと白雪さんの間に子供がいたんだ。その子供は…、モモちゃんの事だ。」

「え、え?じゃあ、モモちゃんはボスの…孫?」

俺は六郎の問いに答えた。

「あぁ、俺達を集めたのにはもう一つ理由がある。
それは、モモちゃんを椿から守る為だ。」

「驚いたな、まさか…。モモちゃんが拓也さんの娘さんだったなんて…。だからか、だから椿はモモちゃんを欲しがってるのか。」

嘉助はハッとした表情を見せた。

「最初から言えば良いのに、だからモモちゃんを過保護にしているのか。じゃあ、何で?四郎とモモちゃんをくっ付けたの。」

「それが運命だったからとしか言えないな。分からない、何故…。ボスは四郎とモモちゃんを結び付けたのか。」

「雪哉さんと僕の目的は同じだね。僕は、拓也さんを殺した椿を許せないんだ。だから、時間を掛けて確実にアイツを殺す準備をしているんだ。白雪さんは椿が監禁してる。椿は白雪さんを手に入れたかったからね。」

嘉助はそう言って、煙草を咥えた。

「どのみち、四郎は椿と殺し合わないといけないのか。この事は、メンバーには言った方が良いよ。四郎も独断で調べようとしてるからね。」

「お兄ちゃん…。言った方が良いよ、これはもう…。あたし達の問題になって来てるんだから。」

「分かった。この事を話すなら、アンタも一緒にだ嘉助。」

三郎と六郎の言葉を聞き、俺は嘉助に尋ねた。

「分かってるよ、六郎ちゃん。さっきさ、どうして椿が僕の事を全く疑わないのかって聞いたよね。」

「え、う、うん。」

「それはね。」

嘉助はそう言って、コンタクトレンズを外した。

キラキラと輝くタンザナイトの瞳が現れた。

「まさか…、アンタはJewelry Pupilなのか!?」

「そうだよ。椿にはJewelry Words の能力で、僕の事を信用させるようにしてある。だから、椿は僕の事を信用しているって事。」

「アンタは…、一体何なんだ。」

「何だって、言われてもなぁ…。強いてゆうなら、復讐に生きる男かな。」

嘉助は煙草に火を付けた。

「椿は怖い男だよ。欲しいものはどんな手を使ってでも、手に入れる。側にいて一つ、分かった事があるんだ。」

「分かった事って?」

「椿は、日本を自分の思うように動かしたいと願ってる。いや、しようとしてる。」

「ちょっと、急に規模がデカくない?」

「三郎君、椿は目的を果たす男だよ。俺はそうなる前に椿を殺し、白雪さんを解放する。」

日本を動かす?

椿はまさか、自分の国を作ろうとしているのか?

「椿は…、自分の王国でも作る気なの?正気じゃないわよ、こんな事を考えるなんて。」

「メンバーの中に、佐助って女の子がいるんだけどさ。その子のJewelry Pupilを抉り出し、自分の目と入れ替えた時に確信してしまったんだ。色んなJewelry Pupilを手に入れれば、自分の国を作れると。」

嘉助の言葉を聞いて、納得してしまった。

Jewelry Pupilの力さえあれば、世界を変える事ぐらい出来るだろうと。

実際に佐助と言う女の子と戦って思った事だ。

銃弾が目の前で止まるなんて、普通じゃない。

マインドコントロールぐらい、簡単に出来るだろう。

「僕の他にも仲間がいるんだ。椿を殺す為のチームがね、今度紹介するよ。」

「もしかて…、2人組の警察の事?」

「そうそう、六郎ちゃんは見た?」

「あんまり覚えてない。」

六郎はそう言って、紅茶をおかわりした。

嘉助は言葉を続けた。

「今、椿がターゲットにしているのは九条美雨だ。」

九条美雨…。

辰巳さんが激愛している女の子か。

「九条美雨のJewelry Pupilを狙ってる。椿は始めるつもりなんだ。Jewelry Pupil狩りを。」

「Jewelry Pupil…狩りって…。」

「言葉の通りだよ。Jewelry Pupilを捕まえて、殺しJewelry Pupilだけを抉り出す。椿はその計画を実行しようとしてる。」

この言葉を聞いた俺は心底、椿が恐ろしい男だと知らされた。


AM15:30

学校が終わった九条美雨は友人等と、下駄箱に向かっていた。

「美雨ちゃんの好きな人って、どんな人ー?」

「え!?急になぁに?」

「美雨ちゃん、私達には好きな人いるってだけ教えてくれたけどさー。どんな人か教えてくれないじゃん!!」

「私も聞きたい!!」

九条美雨に群がる友人達は、九条美雨の好きな人について尋ねていた。

「えっと…。凄くカッコイイよ。」

「美雨ちゃん、顔真っ赤ー!!」

「可愛いー!!」

「も、もう、やめてよっ。」

九条美雨は顔を真っ赤にし、視線を下に向けた。

「今日もお迎え?」

「う、うん。」

「美雨ちゃんを迎えに来るお兄さん、すっごくカッコイイよね!!」

「確かに、あんなカッコイイ人が側にいたら好きになっちゃうよね。」

友人等の言葉を聞いた九条美雨は、視線を落としたままだった。

「辰巳はどうかな。」

「え?何か言った?美雨ちゃん。」

「ううん!!何でもない!!」

そう言って、九条美雨は下駄箱を開けた。

パカッ。

バサバサバサッ!!

九条美雨の下駄箱の中から、沢山の手紙が溢れた。

「え、え!?何これ!?手紙…?」

「誰がこんな事を…?」

九条美雨は落ちた手紙を拾い上げ、手紙の中身を視線を落とした。

「美雨、美雨、美雨、美雨。」

手紙には美雨と言う字が、ビッシリと書かれていた。

「美雨ちゃん、これって…。」

「お嬢。」

友人が声を掛けた後に、辰巳零士が声を掛けた。

友人等は辰巳零士の姿を見て、ポッと顔を赤く染めた。

カタカタと震えている九条美雨は、辰巳零士がいる事に気が付いていなかった。

ポンッと九条美雨の背中を叩くと、大きく体がビクついた。

「っ!?た、辰巳…?」

「お嬢、大丈夫ですか?この手紙は…、まさか…。」

辰巳零士はこの手紙を送り付けた人物が分かった。

その人物と言うのは、蘇武だ。

蘇武は学校に忍び込み、九条美雨の下駄箱に大量の手紙を入れたのだった。

九条美雨の呼吸が荒くなった。

辰巳零士は急いで九条美雨を抱き上げ、車に乗せた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!!」

「お嬢、大丈夫です。大丈夫ですから。」

九条美雨の口元に紙袋を当てる。

「はぁ、すぅ、はぁ、すぅ。」

「ゆっくり息を吸って、吐いて…。そうです、そのまま。」

「辰巳…。」

「お嬢、大丈夫です。ここには、俺しかいませんから。」

「う、うん…。」

辰巳零士は九条美雨を抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。

そのまま、九条美雨を抱き締めトントンッと背中を軽く叩いた。

九条美雨は瞳を閉じ眠りに付いた。

「蘇武…。」

辰巳零士はそう言って、九条美雨を強く抱き締めた。
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