MOMO

百はな

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第3章 赤く黒く染まる

33.具現化

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CASE  𣜿葉孝明(ゆずりはこうめい)

ブー、ブー。

スマホの振動する音で目を覚ました。

誰だよ…。

スマホ画面をタッチし、まずは時刻を確認する。

深夜の3時過ぎなんだけど…。

着信相手を見ると、"アイツ"からだった。

隣で寝ている薫を起こさないようにベットから出る。

部屋から出て後、通話ボタンを押した。

ピッ。

「お前、深夜に掛けてくんじゃねーよ。」

「悪いな、緊急事態なんだ。」

「どうした。」

カチッ。

リビングにあるソファーに座った俺は煙草を咥え、火を付けた。

「一郎君と六郎ちゃんがヤバイんだ。」

「どう言う事だ?2人がどうした。」

そう言うと、アイツは事の経緯を説明し始めた。

「兄貴…?誰と電話してるの?」

枕を持った薫がドアを開けて入って来ていた。

「分かった、今から行くよ。住所は変わってないんだろ?」

「あぁ、悪いな。」

「お前の所為じゃねーだろ。着いたら、連絡するわ。」

ピッ。

通話を切り、薫に視線を向ける。

「薫、起こして悪いな。」

「べ、別に。あ、兄貴がいなくなったから、起きた訳じゃないし!」

ドスドスドス!!

ポスッ!!

薫は足を音を立てながら、俺の膝の上に座った。

「素直じゃねーな。」

「うるさい!!で、何だったの電話。」

「あー。お前の力が必要なんだ、薫。」

そう言うと、薫はジッと見つめて来た。

「俺の友達の頼みなんだ。ごめん。」

「…、兄貴の役に立つ事なんでしょ。なら…、良いよ。」

「お前の力を不用意に使いたくなかったんだがな…。」

「兄貴は俺の力を全然、使わないもんな。」

「使いたくないよ、お前の力は。」

「…、はぁ。兄貴がそんな顔して、どうすんのさ。
早く着替えて行こ。」

薫は俺の膝から降りて、自室に向かって行った。

「死なれたら…、困るもんな。計画が崩れる。」

「兄貴ー?まだー?」

「今、行くよ。夜中だから、静かに用意しろよ。」

「へーい。」

「ったく…。」

俺も自室に向かい部屋着から適当な服に着替えた。

15分後ー

薫を車に乗せ、エンジンを掛け車を走らせた。

「どこまで行くの。」

「六本木だよ。」

「六本木の家に行くの?金持ち?その人。」

「そうだな、兄ちゃんよりは金持ちだなー。」

俺の言葉を聞いた薫はケラケラと笑っている。

薫には普通の子供として、生きて欲しい。

「兄貴、余計な事考えてるでしょ。」

「な、何の事だ?」

「誤魔化したって、無駄だよ。兄貴、僕の事を気にしてる時の顔してたもん。兄貴の友達の為でしょ?僕が良いって言ってるんだから、気にしないでよ。あの時とは、違うんだから。」

そうだ。

あの時とは、違うんだ。

兵頭会にいた時と、今は違う。

スッ。

薫が俺の手を握り締めた。

「兄貴、僕達はずっと一緒って約束したじゃん。」

「そうだな。約束したもんな。」

「終わったら、ファミレスに連れてってよね。苺パフェ、食べたいんだから。」

「相変わらず、甘い物が好きだな。」
他愛のない話をしながら、目的地の場所に到着した。

六本木のとある高層マンションー

「孝明。」

エントラスで待っていると、スーツを着崩したアイツが歩いて来た。

「悪りぃ、少し遅くなった。」

「いや、爺さんにも来て貰って処置して貰ってる。君が薫君だね。」

アイツは薫の目線に合わせて腰を低くくする。

「お兄さん、僕と同じ…、Jewelry Pupilだよね。」
やっぱり、すぐに分かったか…。

「カラコンしてても分かっちゃう?」

「コンタクトしてても、分かるよ。」

「そうか、来てくれてありがとう。さ、来てくれ。」

俺は薫の手を取り、エレベーターに乗り込んだ。

「おい、お前の部屋って最上階かよ。」

どんどん上がって行く階数を見ながら、アイツに尋ねる。

「そうだよ、可愛がって貰ってる対価だね。」

「お前の事を全く疑ってないんだな。」

「何年掛けて懐に入ったと思ってんだよ、孝明。」
ポーン。

最上階に着き、エレベーターのドアが開いた。

アイツは一つの部屋の前に立ち、カードを取り出しドアに翳した。

ガチャ。

「おー、𣜿葉達が来たか。」

出迎えたのは白衣を真っ赤に染めた闇医者の爺さんだった。

「な、何であの、お爺さん真っ赤なの…?」

「俺の知り合いの手当てをしてるんだ。大丈夫、あのお爺さんはお医者さんだから。」

「へ、へぇ…。」

薫は爺さんを見て、呆気に取られていた。

「急いで来てくれ。」

俺達は爺さんの後に付いて部屋に入った。

ガチャッ。

部屋に入ると物が何も無い部屋に似合わない、医療機器があった。

敷かれた布団の上で、一郎と六郎が寝ていた。

2人共、かなりの傷を負っており一郎の方がヤバそうだ。

「一郎は血を流し過ぎて血が足りん。六郎の血を輸血させようと思ったが、六郎から血を取れん状態だ。弾は貫通しておったから、まだ良いが…。六郎の折れた肋骨の骨が内臓に幾つか刺さっていてな…、骨を抜いてやりたいが…。どのみち2人は血が足りんのじゃ。」

「それで…、薫が必要なのか。」

俺がそう言うと、アイツは頷いた。

一郎は右耳が無くなっていて、右頬には火傷のような痕があった。
 
「2人は兄妹なんだ。」

「は、は?兄妹!?一郎が六郎が探していた兄貴か!?」

「あぁ、一郎君にも事情があってね。実の親と義理の親父を殺して六郎ちゃんの前から姿を消した。彼女を犯罪者の妹にさせない為にね?」

「それで、雪哉さんが一郎を拾った…。そう言う事か…。」

雪哉さんが一郎を初めて、兵頭会に連れて来た日を思い出した。


当時、一郎が14歳の子供だった。

それなのに、一郎は大人びていて、誰の事も信用し
ていない目をしていた。

雪哉さんが次々に連れて来た子供達もそうだった。

三郎と四郎が来た時、四郎は三郎の手を握って周囲にいた大人を睨み付けていた。

雪哉さんが選んだ子供達は、大人をこの世界を恨んでいる子供達だった。

まだ幼い子供達が絶望をし、周りの大人を信じれなくなった子達。

俺は一郎達を見て可哀想だとは思わなかった。

コイツ等の親や、周りにいた親が悪い。

大人はそうだ。
 
自分勝手で、自分さえ良ければ良い考えしかしてない。

中には雪哉さんみたいな大人はいるが…。

俺も自分の親を…、助けられなかった男だ。


「兄貴、この2人は兄妹なの?」

「あぁ、この女の子はお兄ちゃんを見つける為にボロボロになったんだ。このお兄さんもね。」

「分かった。兄弟は一緒にいないとダメだよ。」

薫はそう言って、一郎の体に触れた。

シュルルルッ!!

一郎の体から赤い血液がリボンのように一本の線になって、体から飛び出した。

薫が指を動かすと一郎の血液が、六郎の体の中に入って行った。

その行為を六郎にも同様にした。

「血を作り出したのか、あの子は…。」

「薫のJewelry Words の能力は、考えている事を成功をさせる… 。つまりは、薫は想像した物を具現化する事が出来る。それが例え、銃だろうが、血液だろうが…。」

俺は爺さんに薫のJewelry Words の能力を説明する。

「神と呼ぶべき子供…と言う事か。Jewelry Pupilは夢不思議な力を使える。その代償に人々から狙われる存在となる。可哀想そうな子供達じゃ。」

薫は額に汗を流しながら、作業に集中している。

爺さんはそう言って、薫に視線を送る。

「しかし、Jewelry Pupilは様々な力が使えるのじゃな。」

「色んな宝石がこの世に存在するように、宝石言葉
も色んな意味がある。Jewelry Pupilにだって、人格はあるよ。意思だってあるしね。」

アイツはそう言って、煙草を咥えた。

「はぁ…、はぁ…。終わったよ…。」

フラッ。

「薫!!」
 
俺は薫を抱き止め、汗を拭いた。

「はぁー、疲れた。」

「爺さん、2人の様子は?」

「あぁ、呼吸も正常じゃ。うむ、これなら問題ないじゃろ。」

爺さんは2人の脈を測りながら答えた。
 
「良かったぁ…。」

「お疲れ様、薫。」

「ふわぁ…。」
 
「寝て良いぞ。」

「うん…。」

薫は俺の服を掴み、静かに寝息を立てた。

「爺さん、三郎君は?」

「三郎なら…、煙草を買いに行ったぞ。」

「そう…。外に出ないようにって言ったのに…。」

アイツはそう言って、苦笑した。

「俺は帰るわ。薫の事、寝かせたいし。」

「あぁ、今日は悪かったな。」

「いや、緊急事態だしな。それと、計画を進めんのに一郎達が必要なんだろ。」

「うん、四郎君とモモちゃんがこの計画の鍵を握ってる。2人が誓いをしてくれれば…。」

 "誓い"…。

「時間が掛かるだろうな。」

「そうだね。下まで送るよ。」

俺達の会話を戻って来た三郎が聞いてる事に、気付かなかった。


CASE 四郎

東京に到着し、アジトに到着した俺達は爺さんの到着を待っていた。

「すまん、すまん。待たせたのお。」

リビングに入って来たは爺さんは血塗れだった。
  
「え!?その血、どうしたの。」

「診察終わりじゃよ。今日は儲け日じゃな、ほれ、五郎の様子を見てみるかの。」
 
二郎の問いに答えた爺さんは、寝ている五郎に近寄り鞄を開けた。

チクチクと傷を縫い始め、モモに目を向けた。

「モモちゃんも手当てをしようか。消毒するぞ?」
  
「うん。」

モモはナイフを刺した方の腕を出し、治療を受けていた。

俺はリビングを抜け出し、三郎の部屋に入った。

三郎がここを出る前に、ボスの事を調べていた可能性が高い。

部屋に痕跡を残してないか…。

「ん?」

ベットの下に大きめの茶封筒が見えた。

腰を下ろし茶封筒を拾い上げ、中身を見る。

写真が数枚と資料が何枚か入っていて、1枚の写真を手に取る。

金髪の髪を短髪にしているスーツを着た男…?

裏を見ると、プロフィールが書かれており名前を見て驚いた。

兵頭…、拓也?

兵頭…って、ボスの息子なのか…?

[ 兵頭拓也、兵頭会の若頭であり、兵頭雪哉の1人息子である。]

もう1枚の写真を見ると、赤髪の男と兵頭拓也が笑顔で映ってる写真だった。
 
この赤髪は…、椿!?

俺は咄嗟に資料に目を通す。

[兵頭拓也の右腕であった椿恭弥[きょうや]は、兵頭会の組員であった。4年前にJewelry Pupilを持つアルビノの女性を保護し、兵頭拓也と交際を始める。2人の間に子供が出来る。女性の出産日1週間前に、兵頭拓也は椿恭弥に殺され、椿恭弥は女性を誘拐。いまだに女性の行方は分かっていない。]

「ボスの息子は椿に殺された…?」

俺はジッと兵頭拓也の写真を見つめた。
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