MOMO

百はな

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第3章 赤く黒く染まる

28.爆破

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九龍会の本家で爆破が起きる1時間前ー


CASE 八代和樹

高速で大阪に入った直後、裕二のスマホが鳴った。

「はい、櫻葉です。はい、はい、え?大阪県警の?はい、分かりました。」

ピッ。

裕二が通話を切り俺に問い掛けて来た。

「和樹、300メートル先にあるサービスエリアに寄ってくれ。大阪県警の刑事を拾って来て欲しいって。」

「急いでる時に、何でまた…。」

「上からの命令だから仕方ないだろ?もしかしたら、今回の任務で必要な人材かもしれないし?」

時々、裕二の考え方に助かってる部分はある。

俺は物事を楽観的に見れないから、裕二のような言葉は出て来ない。

「そうか、確かに裕二の言う通りかもしれんな。」

「だろ?俺が居て良かったなー?和樹。」

「調子に乗んな。」

「何だと!?」

「あ、ほら、待ち合わせしてるサービスエリアに入るぞ。」

俺達はサービスエリアに入り、車を駐車した。

「ずるずるずる。」

夜のサービスエリアの路上スペースで、うどんを啜っている女がいた。

「うわー、美味そう…。うどん食いたくなって来た。」

「おい、裕二。ジロジロ見過ぎ。」

そうは言っても俺も女を見てしまう。

赤茶色のサラサラした髪は、緩く後ろで一つに束ねられていて、色白の肌に黒いスーツは良く映えた。

闇よりも深い漆黒の瞳が不気味で、普通の人間の瞳よりも黒い。

「ずるずるずる。君達が迎えに来た2人?」

「迎えに来たって、事は…。もしかして、君が大阪県警の刑事?」

裕二が尋ねると、女はうどんの出汁を飲み干した。

「ぷはーっ、私は槙島ネネ(まきしまねね)です。八代警部補と合流しろと言われて来ました。」

「槙島さんだけですか?」

「まぁ、上の命令ですから。それよりも、早く向かった方が良いのでは?」

槙島ネネはそう言って、右手首に着けてある腕時計を見ながら呟いた。

「あ、あぁ…。車に乗ってくれ、九龍会の本家に向かう。」

「あー、了解しました。行きましょうか。」

俺の言葉を聞いた槙島ネネは助手席に座って来た。

裕二は戸惑いながら後部座席に座った事を確認し、
俺は車を走らせた。

「大阪県警の方はどれぐらいで、九龍会の本家に到着する予定ですか?」

「あぁ、敬語じゃなくて良いですよ。八代警部補は私よりも歳が上でしょ?こっちのマル暴はもう、そろそろ着くって連絡がありました。そちらのマル暴は?」

「あ、あぁ…。俺達よりも先に、大阪に向かって行ったから、30分後には到着する予定だ。」

「そうですか。あ、消防の手配もしていた方が良いですよ。それと、九龍会本家周辺に住んでいる住民達の避難の要請もした方が良いかと。あー、それは私からしておいた方が良いですね。」

槙島ネネはスマホを操作して通話をし始めた。

「凄いね、槙島さん。そこまで頭が回るとは…。」

通話を終えた槙島さんは、裕二の方に顔を向けた。

「頭が回るんじゃなくて、厄災を遠ざけるルートを用意しただけ。」

「ん??」

槙島ネネの言葉を聞いた裕二は理解出来ていない様子だった。

直感だが、この槙島ネネは普通の人間じゃない。

何か異質な存在だと、感じさせられた。

独特の雰囲気を持つ人間は何人か見た事があるが、"アイツ"と同じ存在は中々いない。

いや、槙島ネネは"アイツ"と同類だ。

「どうかしましたか?八代警部補。」

槙島ネネは俺の顔を覗き込み、尋ねて来た。

「あ、いや、大丈夫です。」

「おにぎり食べますか?」

「は、は?お、おにぎり?」

「はい。これ、辛子明太子。」

「今は良いです。」

「そうですか。」

槙島ネネはおにぎりをコンビニの袋の中に戻した。
何なんだ?

俺達は事件が起きる現場に向かっているんだぞ?

何を呑気に飯なんか食ってんだよ。
 
そんな事を考えていると、槙島ネネはおにぎりを食べ始めた。

「大丈夫ですよ、私が呼ばれた理由は他にもありますから。」

「他に…って、どう言う意味だ。」

「現場に到着しても、私達では何も出来ない。"彼等"の戦いでしょ?その彼等は知っているでしょ、八代警部補。」

槙島ネネの言葉を聞いた俺と裕二は息をするのを忘れてしまった。

槙島ネネはどこまで、知っている?

「兵頭拓也。」

「「なっ、!?」」

「八代警部補と櫻葉さんと、もう1人いますよね。兵頭拓也と仲が良かった人物が。その人物が椿会を潰そうとしている。そして、八代警部補達はその人物に情報を貰いこうして動いている。違いますか?」

「槙島さん、どこからその情報を得た?誰から聞いた。」

裕二はそう言って、槙島ネネに尋ねた。

槙島ネネは驚く言葉を俺達に放ったのだった。



爆破する15分前ー 九龍会本家

九龍会本家の玄関に入った瞬間、岡崎伊織の後ろにいた一郎と二郎は組員達を撃ち始めた。

パシュッ、パシュッ、パシュッ!!

「ぐぁぁぁぁ!!」

「ゔ!!」

「殺せ!!」

九龍会の組員達が岡崎伊織達に銃弾を放った。

パンパンパンッ!!

一郎は隠し持っていたナイフを手に取り、近くにいた男の首元を切った。

ブシャッ!!

ブジャァァァァ!!

「ゔがぁぁぁ!!」

岡崎伊織は銃弾を避け、男の頭を掴み壁に思いっ切り叩き付けた。

ブシャッ!!

「このやろおおおおお!!」

男が二郎に向かって、ナイフを振り下ろした。

二郎は男の手を掴み、逆方向に腕を曲げ男の額に銃口突き付け弾き金を引いた。

ゴキッ。

プシュッ。

ブジャァァァァ!!

「ひっ、ひぃ!?」

「な、何なんだよ?!コイツ等!?」

「頭!!こちらへ…っぐぁぁぁぁぁ!!」

九龍彰宏を逃がそうとしていた男の首元を一郎が切った。

ブジャァァァァ!!

男の血飛沫が九龍彰宏の顔に掛かった。

「う、うわぁぁぁぁ?!」

九龍彰宏は腰を抜かし床に座り込んだ。

「九龍さん、こんな事で腰を抜かしてどうするんですか?もっと、酷い事をうちの六郎にしてるでしょ。」

岡崎伊織はそう言って、九龍彰宏の顔面に蹴りを入れた。

ゴンッ!!

「グハッ!!」

「おら、立てや。」

岡崎伊織は九龍彰宏の胸ぐらを掴んだ時だった。

ドゴォォォーン!!

爆発音がした瞬間、灰色の煙と衝撃波が岡崎伊織達を襲った。



CASE 四郎

九龍会の本家の家の中は爆破の衝撃で、灰色の煙が立ち込めていた。

衝撃波に巻き込まれたのか、組員達が血を流して倒れている。

俺はモモの口に布を当て、中に入った。

「ゴホッ、早く鍵を探さねぇと…。」

一郎達はどこにいる?

爆破の衝撃で死んでないよな?

「ちょっと、四郎!?無事なの?」

インカムから七海の慌てた声が聞こえて来た。

「あぁ、俺達は無事だが、一郎達は分からない。それと、ここに幾つか爆弾が仕込まれてる。」

「爆弾…って。」

「それから二見瞬が、六郎を監禁している部屋の鍵をどこかの部屋に隠してあるって言っていた。鍵を見つけない限り六郎を助けれない。」

「二見の野郎…、ここまでする?普通…。分かった。爆弾の方は僕の方で見つけてみる。もしかしたら、センサーか何かに反応して爆破するタイプの物かもしれないから。」

「分かった。」

俺は七海との会話を終わらせ、奥に進む。

鍵を隠すならどこだ?

九龍彰宏の部屋に隠しているか…?

いや、二見瞬は普通の所には隠さない。

「クソオオオオ!!。」

男が煙の中からナイフを持って現れた。

「死ね。」

「う、うぐ、うがあぁぁぁぁぁぁ!!」

モモがそう言うと、男の目と鼻、口から大量の血が噴き出された。

ブジャァァァァ!!

「おい、あんまり使うな。」

「だって…。」

「だってじゃねーよ。さっき、散々使っただろ。」

「うぅ…。」

「四郎とモモちゃん!?」

前から二郎と一郎が現れた。

「2人共、どうして中に入って来た。」

後ろから伊織が九龍彰宏を引き摺りながら声を掛けて来た。

俺は3人に二見瞬に言われた事を全て話した。

「伊織、二郎。2人は七海の所に戻れ。」

「な!?何言ってるんだよ、一郎。」

「モモちゃんと四郎には悪いが、鍵を見つけるまでは一緒に来て欲しい。」

「おい、一郎!!1人で話を進め…。」

「二郎、戻るぞ。」

伊織が二郎の言葉を遮った。

「伊織さん!!」

「一郎、鍵を見つけたら1人で行くつもりなんだろ。」

「あぁ。」

「だ、だけど…。」

「伊織、二郎を連れて早く行ってくれ。四郎達には俺から話す。」

「分かった。」

「一郎!!」

伊織は騒ぐ二郎を無理矢理連れて、外の方に向かって行った。

俺達に話す事って、何なんだ。

「早く、鍵を探そう。」

「水の中…。」

「え?」

「水槽、ゴホッ。」

一郎の問いに答えるように、モモが咳をしながら言葉を放った。

「水槽…、奥の部屋か。」

「四郎達、今すぐそこから離れて!!センサーが!!」

七海の声がインカムから聞こえて来た瞬間、白い光が目に入った。

「四郎!!」

一郎が俺とモモを庇うように抱き締め、床に倒れた。

ドゴォォォーン!!

ブシャッ!!

頬に何か掛かった。

灰色の煙が立ち込め、家全体が揺れている。

ガタガタガタガタ!!

「2人共、怪我は。」

「あ、あぁ…。何ともねぇ。」

「一郎?み、耳…。」

モモが一郎の右耳を見て言葉を失った。

何故なら、一郎の右耳が爆破の衝撃で吹き飛んでいた。

ポタポタと頬に一郎の血が垂れて来ていた。

「右耳が無くなっただけだ、大丈夫。2人共、外に出てくれ。」

「一郎、二見瞬の目的はお前を殺す事だ。お前を1人にする訳には…。」

「四郎、お前に言っていなかった事がある。六郎本人にも言ってなかった事。」

一郎は俺の手を引き立ち上がった。

「六郎を迎えに行くのは俺の役目なんだ。昔からな。」

「昔から…って、どう言う意味だ?六郎とは昔からの知り合いなのか。」

「俺と六郎は血の繋がった兄妹だ。六郎がずっと探していた兄は俺の事だ。」

「な、なっ?!」

「俺は親父を殺して、六郎を置いて出て行った兄だ。」

一郎はそう言って、俺をジッと見つめた。

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