MOMO

百はな

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第2章 Jewelry Pupil Knight

24.闇は動き出した

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ガチャッ。

リビングの扉が開き、風呂上がりの六郎とモモが中に入って来た。

「あ、ボス!!」

「温まって来たか?」

六郎とボスが会話をしている中、モモが俺の膝の上に座った。

ポスッ。

その光景は見慣れたもので、一郎は特に何も言わなかった。

「四郎、お話は終わった?」

「お前が来る前に終わったよ。」

「六郎にもさっきの話はしといてくれ。俺はそろそろ戻るよ。」

ボスはそう言って、ソファーから腰を上げた。

「一郎、ちょっと。」

「はい。」

ボスは一郎と共にリビングを出て行った。

「結局、四郎は暫く自宅待機?」

「そうなるね、世間が四郎の事で騒いでるし…。仕事にも支障が出るようだったら、四郎も仕事にならないでしょ。」

「まぁ、アンタ働き過ぎだし休んでも良いんじゃない?じゃあ、ご飯当番よろしく♪」

二郎と話していた六郎が俺に話を振ってきた。

こんな俺達でも、日用生活の当番制がある。

飯当番は1週間分の作り置きを何品か作り、冷蔵庫に保管する。

だから、メンバーの奴等はある程度の料理は作れる。

「四郎、料理出来るの?」

モモはキラキラした目で俺を見つめて来た。

「一通りは。だけど、そんな凝った料理は作れねーぞ。」

「食べたい!!」

「え、」

「四郎のご飯、食べたい!!」

「モモちゃん、四郎のご飯は中々美味いよ?」

「そうなの!?」

二郎の言葉に反応したモモは大きな声を出した。

「ねぇ、一緒に作ろ!!」

「はぁ?一緒に…?」

「二郎のお手伝いしてるから大丈夫!」

一緒に作る気満々じゃねーか…。

「良いじゃない、一緒に作ってあげなさいよ。」

そう言ったのは、六郎だった。

「珍しいな、六郎がそう言うの。」

「そう?五郎も暇だったら、手伝ったら?」

「はぁ!?俺だって暇じゃないわ!!明日から仕事で2、3日いないし。」

「え?そうなの?あたしもちょっと、仕事でいないのよ。」

「六郎がここを離れるの珍しくない?」

五郎と六郎の会話に二郎が入った。

「そうなの。仕事が立て続けに入っちゃって、それと兄の事をちょっと調べたいと思って。」

六郎はいなくなった兄の事をずっと、探してる。

俺達も情報を集めようとはしたが、何一つ情報が得られなかった。

七海ですら、お手上げ状態なのだ。

「六郎。」

「ん?なぁに?モモちゃん。」

六郎はモモの視線に合わせるように、体を屈めた。

「お兄ちゃん、見つかると良いね。」

モモはそう言って笑った。

俺達はモモの笑顔を初めて見たので驚いた。

それと、六郎が兄の事をモモに話したのも驚いた。

「ありがとう、モモちゃん。兄が見つかったら、モモちゃんにも合わせるね。」

六郎はモモの頭を撫でながら呟いた。



廊下に出た兵頭雪哉が、書類の入った封筒を一郎に渡した。

「一郎、俺からの依頼だ。」

「ボスからのですか?」

一郎は兵頭雪哉から受け取った封筒の中身を確認した。

そこには、九龍会の組員の名前が数名書かれていた。

それと、二見瞬とモモと同じくらいの子供の写真が入っていた。

「ボス、これは…?」

「二見が妙な行動を取ってると噂で聞いただけだが、どうやら九龍会が椿会と繋がってるとの情報が入ったそれとこの女の子、Jewelry Pupil だと言う調べが着いた。お前には、椿と二見瞬の動きを監視してほしい。」

一郎は兵頭雪哉からの依頼を任せられる事が多く、
特に裏社会の人間の監視や殺しの仕事をする事が、一郎の仕事であった。

「分かりました。」

「それと、Jewelry Pupilの女の子には手を出すな。どんな能力を持っているか分からんからな。」

「分かりました。」

「頼んだぞ。」

そう言って、兵頭雪哉が靴を履き立ち上がり岡崎伊織が玄関を開けた。

「一郎、六郎の事を頼んだぞ。」

「…、分かっています。」

「そうか。」

兵頭雪哉を見送った一郎は壁に体を当てた。


CASE 四郎

翌朝、モモが当たり前のように俺のベットの中に入って来ていた。

モモの気配を感じた所為で眠れなかった。

「スゥ…。」

小さな寝息を立てて俺にしがみ付いて寝ている。

椿の目的がなんだったのか、分からないままだ。

俺を招待した理由は本当に、俺を容疑者に仕立て上げる為なのか?

ホテルに警察が乗り込んで来たのも、椿の計画通りだったのか?

いや、椿もホテルに警察が乗り込んで来たのは予想外だったはず。

知っていたら俺に勝負をふかっけで来なかったはずだ。
「四郎?」

目を覚ましたモモが俺の体の上に乗って来た。

「起きたのか。」

「考え事?」

「まぁな。」

「ホテルの時の事?」

何で、分かったんだ?

「ちょっとな。」

「四郎、私の事を使っても良いからね。」
使っても良い…か。

「お前さ、自分の事を安売りすんなよ。」

「え?」

「俺はお前の事を物みたいに思ってないし、ガキな
んだからガキらしくしろよな。大人になろうとしなくても良いんじゃねーの。」

俺の言葉を聞いたモモは顔を真っ赤にした。

「何で、赤くなんだ?」

「だ、だって、言われた事ないんだもんっ。」

「あ?」

「だって、私の変な力が欲しいって言われた事しかなかったんだもん。」
あぁ…、そうか。

コイツも大人に絶望していたんだった。

モモはJewelry Pupilとしてしか、見られていなかった。

その為、モモは道具でしか見られていなかった。

「ここにはお前をJewelry Pupilだけにしか見る奴はいないんだし。六郎だって、可愛がってるだろ。」

「そっか…、そっかー。」

モモは嬉しそうに笑い抱き付いて来た。

最初の頃によりかは鬱陶しく感じなくなったな。

俺もコイツも、人を信用出来なくなった者同士だ。

そこは似てるのかもしれねぇな…。

「四郎、大好き。」

「はぁ…。」

未だに好意を寄せられるのは苦手だ。

「そろそろ出るぞ。さっさと作り置きを作るぞ。」

「料理!!」

「日焼け止めと目薬しろよ。」

「分かった!!」

モモは手慣れた手付きで体に日焼け止めを塗り始めた。

俺は先に部屋を出てリビングに向かった。



CASE 六郎

小さなオフィスの中にあたしはいた。

ブシャッ!!

ボトッ。

足元にターゲットの頭が転がった。

あたしは大鉈に着いた血を振り落とし壁にもたれた。

「今日の依頼は終わりね。結局、夜中まで掛かったわね。」

男なんて、気持ち悪い生き物にしか思えない。

どうして、女って生き物は男が好きなんだろうか。

「お兄ちゃん、どこにいるの…。」

どこで、何をしてるの?

生きているの?

どうして、あたしを置いていったの?

モモちゃんに話してから兄の事が頭から離れなかった。

兄に関する情報も人物も見つからない。

まるで、この世界から消えたみたいに。

タンッ。

誰かが入って来た。

あたしは物影に隠れて大鉈を構え、気配を消した。

カチャッ。

入って来た。

「あ、人が死んでるよ瞬。」

「ほんまやなぁ、双葉は見ない方がええで?」

「見慣れたから。」

この声って…、九龍会の二見瞬?

何で、こんな所に?

「ちゃーんと、薬は隠してあるみたいやし。今日は物だけ回収や。」

「どこにあるの?見た感じないけど?」

「双葉はアホやなぁ、そんな分かりやすい所に隠す訳ないやろ。」

薬?

薬物の事か。

九龍会は薬物の売買をしてるって事?

確かに、さっき殺したターゲットは薬物を作る工場を作り売買している男だった。

この男と二見瞬は知り合いだったのか?

これはボスに言わないと…。

二見瞬は子供連れてる?

どう言う事?

「あー、あったわ。これやこれ。」

「小さなペロペロキャンディーだ!!可愛い!!」

「あ、双葉は舐めたらいかんよ。大人の飴ちゃんやからな。」

やっぱり、薬物か。

「いつまで、見てはるん?」

二見瞬はそう言って、あたしのいる方向に声を掛けた。

バレた?

いや、二見瞬はハッタリを言っている可能性は高い。

まだ、ターゲットを殺した奴がここにいると踏んだのだろう。

あたしの存在はバレていないはず。

トンッ。

太ももに誰かの手が触れた感触がした。

「みぃーつけた。」

「っ!?」

視線を下に向けると、クリソルベキャッツアイを持った少女がいた。

いつの間に?!

この子…、まさかJewelry Pupil!?

二見瞬はJewelry Pupilの子供を捕獲していた?!

ボスは知らないはずだ。

何としてもここを出てボスに知らせないと!!

あたしは子供の手を振り払い、扉に向かった。

タッ!!

だが、その時だった。

「逃がさへんで?六郎ちゃん。」

ズキッ!!

心臓に痛みが走った。

「ゔっ!?」

「逃がさないよ、お姉ちゃん。」

少女はそう言って、手を広げた。

あたしの体が宙に浮き、天井に叩き付けられた。

ドゴォォォーン!!

「ガハッ!!」

口から血が吐き出された。

何、これ?

Jewelry Wordsの能力…?

バタ!!

ゴキッ!!

床に叩き付けられ、肋骨が折れた音がした。

やばい…、やばいやばいやばいやばいやばい。

二見瞬はあたしが六郎だと知っていた。

「椿の命令で、六郎ちゃんを誘拐して来いって言われてるんよ。」

二見瞬間はそう言って、あたしの腹を殴った。

「ゔっ!?」

あたしの意識は途切れた。


「あー、椿?六郎ちゃんを捕獲したでー。」

「仕事が早いな。」

「肋骨の骨を折っちゃったけど、かまへんよな?」

「どんな方法でも連れて来れば良いからな。」

「相変わらず恐ろしいやっちゃなー。薬も回収したからなぁ。」

「あんがと。椿会の事務所に連れて来てくれ。」

「はいよん。」

二見瞬は通話を切り、抱き上げている六郎に視線を向けた。

「かんにんなぁ、可哀想に。」

「そんな事、思ってもないくせに。」

「あ?バレてます?」

「バレバレ。瞬、嘘つく時は笑うもん。」

「あれま。」

「早く行こう。椿、怒るとめんどくさいもん。」

双葉はそう言って、二見瞬の手を取った。



同時刻、九条家ー

九条美雨は夜ご飯を食べならテレビを見ていた。

「速報です。本日、19時頃に刑務所から蘇武(そぶえ)容疑者が脱獄したとの事です。」

「…え?」

九条美雨は持っていたコップを落とした。

ガシャーンッ!!

割れた音を聞いた辰巳零士は急いで、九条美雨の元に向かった。

「お嬢!?どうかしまたか!?」

「た、た、辰巳…。」

真っ青な顔をして体を震わせている九条美雨を抱き締めた。

そして、テレビのニュースに目を向けた。

「現在、蘇武脱獄犯の行方は掴めていません。」

その名前を聞いた辰巳零士は眉間に皺が寄った。

「蘇武が脱獄した…だと?」

「た、辰巳…。怖いよ。」

「大丈夫です。俺が付いてます。」

「辰巳…。」

「大丈夫です。お嬢にまた、手を出したその時
は…。殺します。」



「やぁ、君が蘇武?」

椿は裏路地に入り、中年男性の男に声を掛けてた。

「アンタが脱獄を手伝ってくれた椿さんか?」

「あぁ、お前には利用価値があるからね?会いたかったたんだろ?美雨ちゃんに。」

その名前を蘇武は興奮しながら笑い出した。

「あぁ!!九条美雨は俺の女神だ!!また、あの柔らかい肌に触れたくて仕方がねぇ!!合わせてくれるんだろ?」

「お前が役に立ったら、また攫ってやるよ。」

「あぁ…、辰巳零士さえいなければ、美雨は俺の物になってた。この傷の恨みもなぁ!?」

蘇武はそう言って、頬にある大きな切り傷に触れた。

「着いて来い。美雨ちゃんの情報を教えてあげるよ?だからお前も役に立てよ。」

「っ、あ、あぁ。」

椿の不気味な笑みに震えながらも蘇武は車に乗り込んだ。



闇は動き出した。
平和を壊し、平和を引き換えに手に入れたい物。
それはただ一つ。

Jewelry Pupilだけだ。





 第2章      END
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