MOMO

百はな

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第2章 Jewelry Pupil Knight

15.手錠

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辰巳零士は立ち上がり、二見瞬を睨み付けた。

「後ろにいた奴等、殺したのか。」

「そらそうでしょ?本家に乗り込んで来たんやから。」

「1人残して尋問するつもりだったんだよ。」

「どうせ、何も喋らんでしょ?」

二見瞬はそう言って、転がっている男達に視線を向けた。

「お前が撃ったこの男は喋ろうとしてた。」

「あらー、それはタイミングが悪かったなぁ。それよりも何で、集会に顔を出さんかったん?」

「お前には関係ないだろ。」

「ふーん。」

二見瞬は閉じられた襖を見て口を開けようとした時だった。

「辰巳、二見!!」

タタタタタタタ!!

岡崎伊織が星影を連れて走って来た。

その後に他の組員達もゾロゾロ集まり、二見瞬は口を閉じた。

「伊織さん。そっちは大丈夫でした?」

「あぁ、親父達は大丈夫だ。組員達だけで対処は出来たからな。辰巳の方は問題なさそうだな。二見もこっちに来ていたのか?」

「まぁ、裏口からも入ってくるやろなーって思った来たら、ビンゴ。辰巳君が1人で対応してたんで参加したんですわ。」

二見瞬はそう言って、岡崎伊織に説明をした。

岡崎伊織は二見瞬の言葉を聞きながら辰巳零士に視線を向け、閉じられた襖を見た。

「二見、お前はこっちに来て状況を報告しろ。」

「もしかして親父、怒ってはった?」

「分かってるなら、早く行ったらどうだ?」

「そんじゃ、失礼しますー。」

二見瞬の姿が見えなくなった事を確認してから、岡崎伊織は辰巳零士に話し掛けた。

「誰かがJewelry Pupil の事を外に漏らした可能性
があります。」

「傘下にいる組の誰かが情報を流している…、そう言う事か?」

辰巳零士の言葉の後に、言葉を放ち現れたのは兵頭雪哉だった。

「雪哉さん!?こちらにいらしてたんですか?」

辰巳零士は慌てて頭を下げた。

「今、言っていた事は本当なのか辰巳。」

「はい。恐らくですが、コイツ等にどこの組みの者か聞いていた時に"椿会"って言おうとしたのを二見瞬がこの男を撃ちました。」

「椿会…、だと?」

ギリッギリ。

兵頭雪哉は強く拳を握り締めた。

「伊織、傘下にいる組の人間に監視を付けろ。」

「分かりました。すぐに手配させます。」

岡崎伊織は返事をした後、スマホを操作し始めた。

「辰巳、お前は美雨ちゃんから絶対に目を離すなよ。」

「はい。」

「もう、大事な奴を失うのは懲り懲りだ。」

兵頭雪哉の悲しげな顔を辰巳零士は見つめる事しか出来なかった。

「辰巳、そろそろ戻れ。Jewelry Wordsを使ったんだろ?」

「はい、四郎とモモちゃんに見せた方が良いと思いまして。あの2人も俺と同じようになると思いますから。」

「四郎がモモに懐くと思うのか?」

「2人はまだ、過ごした時間が短いですからね。すぐには仲は良くならいと思いまずが、いずれはなるでしょうね。俺がそうなったように。」

辰巳零士はそう言って、頭を下げてから九条美雨がいる部屋に戻って行った。


CASE 四郎

辰巳さんに向かって放たれた銃弾が、赤い鎖が塞いだ。

どうなってるんだ?

美雨が零士と言ってから、辰巳さんと美雨の手首に赤い手錠が付けられていて…。

美雨をジッと見ていると、美雨の体がグラッと揺れた。

「美雨ちゃん!?」

倒れそうになった美雨を見て、モモは大きな声を上げた時だった。

戻って来た辰巳さんが美雨を受け止めた。

「お嬢、お疲れ様でした。すいません、無理させちゃいましたね。」

辰巳さんは申し訳なさそうに優しく美雨の髪を撫でた。

「怪我してない?辰巳…。」

「はい、お嬢のおまじないのお陰ですよ。」

その言葉を聞いた美雨は辰巳さんの腕の中で眠ってしまった。

「美雨ちゃんが使ったのって、Jewelry Words?」

モモはそう言って、辰巳さんに尋ねた。

「四郎とモモちゃんはピンクダイヤモンドの宝石言葉って知ってる?」

「いや、全く…。」

俺がそう答えると、モモも黙って頷いた。

「ピンクダイヤモンドの宝石言葉は、完全無血の愛とか完結された愛、両思いや美しさ、華やかさって意味があるけど。お嬢は俺の事を好いてくれてる。だからお嬢は俺への攻撃を無効化する。」

やっぱり、さっきのは美雨のJewelry Words の力か。

完全無血の愛で辰巳さんを守っていたのか。

「あの、赤い手錠は何なんですか?」

俺はそう言って、辰巳さんに尋ねた。

「お嬢が俺の下の名前を呼んだ瞬間から、お嬢の血で出来た手錠が現れるんだ。」

「美雨ちゃんの血…?」

モモの言葉を聞いた辰巳さんは言葉を続けた。

「ピンクダイヤモンドには愛以外にもう一つ意味があるんだ。それは"自負"、お嬢は自分の血を使って俺への攻撃を防いでくれる。俺もお嬢のJewelry Words の能力を少しだけ使える。」

「Jewelry Words の能力を使えるって、どう言う事ですか?」

「何でも良いから俺に物を投げてみろ。」

「え?は、はい。」

俺は辰巳さんにテーブルの上にあった1本のボール

ペンを、辰巳さんの視覚に入らない方向から投げ飛ばした。

ビュンッ。

ガチャンッ。

飛ばされたボールペンが赤い鎖に巻かれ、辰巳さんの目の前で動きを止めた。

ほ、本当に使えるのか?

「四郎も使えるようになるの?」

モモはそう言って、辰巳さんに尋ねた。

「使える資格はあるよ。四郎次第だけどね。」

辰巳さんはジッと俺の顔を見て来た。

Jewelry Wordsを使うには、モモの事を好きにならないといけないって事。

俺はコイツの事を好きになるのか?

ボスに命令されたら、好きになるのか?

俺の日常に現れたモモを大切に思える日が来るのか?

分からない。

好きってなんだ?

辰巳さんが美雨の事を凄く大切に思ってるのは分かる。

「四郎…?難しい顔してる。」

モモは俺の腕を指で突いて来た。

「あ?何でもねぇーよ。それより、さっきの男達は?」

「傘下にいる組じゃない組の人間だった。男にどこの組か聞こうとしたら二見が撃っちまった。」

「二見?」

「あ、四郎は知らなかったな。九龍会の若頭の二見瞬、俺とは馬が合わないけどな。」

九龍会の若頭、二見瞬か…。

「俺はそっち側の人間の事は知らねーけど、ソイツが怪しいって感じ?」

「伊織さんがお前達に監視役を依頼するかもしれないがな。」

辰巳さんはそう言って、美雨の髪を撫でた。

トントンッ。

襖が叩かれる音がした。

「星影です。四郎さんと辰巳さんはお二人を連れて本家から離れるようにと頭からのお申し付けです。車は既に裏に回してあります。」

まずはモモと美雨の安全を確保しろって事か。

的確な判断だな。

「モモ、帰るぞ。」

「うん。美雨ちゃんにはまた、会える?」

そう言って、モモは俺の顔を覗き込んで来た。

「ボスがまた、機会を作ってくれるだろ。」

「そっか…。」

「また、お嬢とお話ししてあげて下さい。」

辰巳さんは美雨を抱き上げながら言葉を放った。

先に部屋を出た辰巳さんは、早足で日本庭園を歩いて行った。

「四郎さん達もこちらへ。」

襖から顔を覗かせた星影は俺達を再び裏口へと案内した。

モモを後部座席に乗せた俺は、座席に座り車を走らせた。

兵頭会の本家から離れて暫くした後、俺は違和感を感じた。

あの車、本家を出てすぐから着いて来てる。

追跡されてんなこれ。

「モモ。」

「四郎…。後ろの車、さっきから着いて来てるよね?」

モモはそう言って、バックミラーに視線を向けた。

いつも耳に嵌めているインカムのスイッチを入れ、ボスに連絡を取った。

「こちら四郎、2台の車に付けられてます。」

「何だと?」

「もしかしたら、本家に乗り込んで来た奴等の仲間かもしれません。1人は生捕りにし、その他は片付けても?」

「あぁ、それで構わない。第一優先はモモちゃんの安全だ。それと、すぐに向かえるメンバーに連絡を入れとく。」

「了解。」

俺がそう言うと、通話が切れた。

俺は助手席に置いてあるアタッシュケースからトカレフTT-33を取り出した。

「モモ、シートベルトを閉めろ。それから掴める所を力強く掴め。」

「え、え?」

「舌噛まねーように黙っとけよ。」

俺はそう言って、車のスピードを上げた。



辰巳零士も同様、九条光臣が辰巳零士と通話していた。

「頭、追っ手を振り払ってから戻ります。」

「お前1人じゃアレだろうって、雪哉が人材を回したようだ。良いか、美雨だけでも命懸けで守れよ。」

「分かってます。」

「俺達も後処理が終わったら直ぐに向かう。」

「分かりました。」

辰巳零士はそう言って、通話ボタンを切った。

「辰巳…。」

助手席に座る九条美雨が辰巳零士の腕を掴んだ。

「お嬢、しっかり捕まっていて下さい。大丈夫、お嬢の事は俺が死んでも守ります。もう、あの日を繰り返さないように。」

「辰巳…、そんな事を言わないで。みゅーと辰巳は2人一緒なの。」

「お嬢…。お嬢がJewelry Words を使って倒れてしまうのが俺は…。」

「みゅーは!!みゅーは、辰巳の事を守れないのが嫌なの!!みゅーは、辰巳が使わなくてもやる。」

九条美雨はそう言って、辰巳零士を見つめた。

「お嬢、分かりました。いざって時だけにしましょう。」

「うん、分かった!!」

「しっかり捕まって!!」

辰巳零士はそう言って、後ろの車を振り切るように

スピードを上げた。



ミッドナイトタワー地下駐車場

ドゥルルル…。

SV650のエンジンを掛けていたのは六郎だった。

ボスから連絡を受け、四郎の所に行けるメンバーは六郎と一郎であった。

ブゥンブゥン!!

六郎の横でZ1000のエンジンを掛け跨った一郎はグ
ローブを嵌めていた。

「どこの組の奴等か分からない訳?」

「分かっていたら、こんな事になる前にボスが対処してる筈だ。傘下の組の連中が情報を流したらいけどな。」

「はぁ!?ボスの事を裏切ったの!?マジで許せないんだけど、ボスに忠義を誓ったんなら真っ当しろよ。」

六郎は苛々しながら腰にデザートイーグル50AEの弾丸を補充していた。

「絶対に殺す。ボスの事を裏切った奴等は皆殺しにしてやる。」

「1人は生捕りだ。分かったな、六郎。」

「はいはい、分かってるわよ。」

「なら良い。七海、四郎の現在地を教えてくれ。」

「了解ー。」

一郎は七海から四郎の位置情報を聞いていた。

「二郎と五郎が辰巳さんの援護しに行ったんだっけ?」

「あぁ、辰巳さんも四郎と同様のようだ。よっぽど、Jewelry Pupil が欲しいようだな。」

「早く行こ、どんな奴が裏切ったのか見てやる。」

そう言って、六郎はSV650に跨り顔がバレないよう
フルヘイスを被った。


一般道路

ブゥンブゥン!!

ブゥンブゥン!!

辰巳零士の援護に向かった二郎と五郎はバイクを走らせていた。

二郎はゴールドウイングのエンジンを鳴らし速度を上げた。

五郎も続いてCB1000Rの速度を上げる。

「どこの組みかも分からねーって、どうなの?」

五郎はそう言って、二郎に尋ねた。

「そりゃあ、今日まで動きがなかったら探しようがないでしょ。」

「そりゃ、そうだけどさー。モモがいたら四郎もやり辛くね?」

「まぁ、ボスの命令はモモちゃんの安全を第一優先だからね。三郎は違う仕事で2、3日いないから一郎と六郎が向かったから大丈夫でしょ。」

二郎と五郎が話していると、後ろから車が猛スピードで走って来た。

ブゥンブゥンブゥン!!

「こっちにも来たって感じだね。」

二郎はそう言って、Five-seveN を構えた。



七海のPCルームー

カタカタカタカタ…。

七海が休む暇なくパソコンのキーボードを叩いていた。

「今回、襲撃して来た奴等は…。それから四郎と辰巳さんの位置情報を細かくチェックし一郎と二郎に連絡を入れ、ボスにも報告を…。」

ブー!!

ブー!!ブー!!

一台のパソコンの画面が警報を鳴らした。

七海のパソコンの中に誰か侵入して来た場合、即座に警報が鳴るようになっている。

だが、七海のパソコンのセキュリティーは七海自身がかなりの難易度のセキュリティーを入れている為、侵入してくる者はいなかった。

だが、パソコン画面にはハッカーが侵入して来たと通知が来ていた。

「へぇ。」

七海は舐めていた飴を噛み砕いた。
パリッ!!

「僕のパソコンに入って来たのか。はっ、僕達の存在に気付いてる奴の仕業か。」

カタカタカタカタ!!

「四郎と三郎を襲撃して来た奴等の仕業か。ソイツ等を囲っている人物が動いて来たって事ね。コイツが僕のパソコンに侵入して来たって事で確信したね。」

カタカタカタカタカタカタカタカタ!!

「追い出してやる。そして、どこから入って来たのか探ってやるよ。」

七海はそう言って、再びキーボードを叩き始めた。



渋谷 とある漫画喫茶にて

黒髪のボサボサの頭を軽く掻き、キャラメルマキアートを口に運んだ。

病弱のような白い肌に大きな栗色の瞳の下には大きなクマがあった。

首元には5つの星のタトゥーがチェックのネルシャツから見えた。

「うわっ、もう弾いて来やがった。」

カタカタカタカタ…。

ブー、ブー。

男のスマホが鳴った。

男はスマホを取り通話ボタンを押した。

「はい、もしもし。」

「もしもし、弥助(やすけ)?調子はどうかな?」

「いやぁ、入れはしましたがすぐに弾き出されましたね。満喫のパソコンじゃ、限度がありますけど。」

「僕達の存在を気付かせる程度で良い。漫画喫茶のパソコンを特定出来ても誰かまでは分からないだろうからね。」

「僕はもう帰っても良いんですか?椿様。」

弥助と呼ばれた男の電話相手は椿であった。

「うん、もう帰っても良いよ。また、仕事宜しくね。」

「分かりましたー。糖分買って帰ります。」

弥助はそう言って、通話ボタンを切った。


レクサス車内にてー

「宜しいのですか?」

色白は肌に、茶髪のサラサラヘアーにキツネ目、左目の下には小さなホクロが見えた。

耳にキラキラと輝くサファイヤのピアスが上品さを出していた。

「弥助にもっと情報を探らせてないから?」

「はい。」

「嘉助(かすけ)、さっきも言ったように今回は小さな動きだけで良い。」

椿はそう言って、煙草を取り出し口に咥えた。

「辰巳零士等を追跡している男達は?追わせていて宜しいのですか?」

「アイツ等は操り道具だろ?ほっとけ、生捕りにされても話す事すら出来ないんだし。」

「Jewelry Words の能力で洗脳されているからですか?」

「佐助よりもヤバイ女の子だからね。考え方も愛の為なら手段も選ばないからね。小さい女の子なのに考え方は僕達と同じ大人だからね。」

椿はそう言って、白い息を吐いた。

「早く僕の存在に気付いて下さいよ、雪哉さん。」

椿は吸い終わった煙草を灰皿に押し付けた。
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