MOMO

百はな

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第2章 Jewelry Pupil Knight

13.集会

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CASE 四郎

俺とモモはボスと共に黒いメルセデスに乗り込んでいる。

「良いか、四郎。けして、モモちゃんから目を離すなよ。」

「はい、分かりました。」

「四郎、どこに行くの?今から。」

俺とボスが話していると、モモが質問して来た。

「兵頭会の本家。」

そう言って、俺は窓から流れる風景に目を向けた。

俺とモモは何故、兵頭会の本家に向かっているかと言うと、話を昨日に戻す。


昨日の夜中

任務から帰って来た一郎に呼び出された。

六郎はモモと一緒に風呂に入る為、風呂場に向かって行った。

リビングには勿論、二郎や三郎、五郎もいた。

「え、四郎とモモちゃんを集会に?」

二郎はそう言って、一郎に尋ねた。

「あぁ、ボスがモモちゃんと同じ。Jewelry Pupil の子に合わせたいみたいなんだ。」

「どこの組?」

三郎は煙草を咥えながら一郎に尋ねた。

「兵頭会の幹部、九条(くじょう)組だ。」

九条組…って事は…。

「辰巳さんがJewelry Pupil の女の子の世話係をしているそうだ。」

一郎の言葉を聞いて辰巳零士(レイジ)の事を思い出す。

歳は29歳、兵頭会の若頭で1人でとある組を壊滅させたり殺しの仕事もしている男だ。

何回か手合わせをした事はあるが、負けた事がある。

三郎達も辰巳零士に何度か手合わせで負けている。

その所為か、辰巳零士を呼ぶ時に"さん"付けをする。

俺より腕が立つ男ってイメージしかない。

「あと、辰巳さんが世話係?似合わねー。」

一郎の言葉を聞いた五郎は驚いていた。

「元々、その女の子は九条さんとこの孫なんだよ。」

「孫ねー。孫がJewelry Pupil って凄いね。」

三郎の言葉を聞いた後、一郎は話を続けた。

「その所為で、九条さんとこの息子とその嫁が殺されてんだ。まぁ、辰巳さんがその後に1人で犯人だと思われる人物がいる組を壊滅させたんだがな。」

「そう言う事…。Jewelry Pupil って、本当に狙われてんだなぁ…。」

「国宝級だからな。ヤクザ達が特にJewelry Pupil を欲しがってるみたいだ。」

一郎と二郎の会話を聞いていると、三郎が口を開けた。

「四郎に付いて行ったらダメなの?」

「ダメに決まってるだろ。お前、任務があるだろうが。」

「えー、四郎は病み上がりなんだよ?心配じゃん。」

「え、キモ。」

三郎の言葉を聞いた五郎がボソッと呟いた。

「五郎。今、キモって言った?」

「い、いや…。」

「俺の事、キモって言ったよねー。よし、トレーニングルーム行くよ。」

「へ?あ、い、いや…。」

三郎は吃る五郎の首根っこを持ち、リビングを出て行った。

廊下からは五郎の叫び声が響いた。

「五郎の叫び声が聞こえたんだけど、どうしたの?」

風呂から上がって来た六郎とモモがリビングに入って来た。

モモはすぐに俺の隣に座り、タオルで髪を拭いていた。

黒いキャミワンピースから見える背中には天使の羽のアザみたいな物があった。

「この背中のヤツ、アザか?」

俺がそう尋ねると六郎が答えた。

「綺麗だよねー。あたしもお風呂で見たんだけど、
こんなアザ初めて見た。」

ベアトップと短パン姿の六郎が缶のハイボールを持
ってソファーに腰を下ろした。

「おい。」

「ん?何よ、一郎。」

「服を着ろ。」

「は?着てるけど。」

「体冷やすだろう。ちゃんと服を着ろよ。」

一郎はそう言って、着ていたパーカーを六郎に向かって投げた。

「それとお前、酒弱いんだからあんまり飲むなよ。」

「う、うるさいなー。分かってるわよ。」

一郎はこうやって、六郎の事をよく気にかけてる。

恋愛感情を持ってるようには見えないけど、気にし
てる感じだ。

「モモちゃん。明日は四郎とボス達とお出掛けだよ。」

「お出掛けって、どこに?」

「んーっと、何て言ったら良いかな…。」

二郎はそう言って、頭を悩ませた。

「ボスの組みの集まりって言えば良いだろ、普通に。」

「オブラートな言い方はない訳?」

「ない。」

「ヤクザの集まり?」

モモの放った言葉に耳を疑った。

「モモちゃん?今、ヤクザって言った?」

「うん。違うの?」

「い、いや…。そうなんだけど…。」

「何でヤクザを知ってるの?」

戸惑う二郎を他所に六郎が尋ねた。

「私を欲しがる人は皆んなそう言ってた。何もされなかったけど、気味悪がってた。」

モモはそう言って、膝を抱えた。

コイツは、どれだけの人の視線を向けれていたんだ。

こんなガキがヤクザに囲まれる事なんて、ないだろうに。

酷い事をされてないだけマシだろうけど、視線も嫌なモノだ。

モモは、大人に囲まれ過ぎているのかもしれない。
ボスはもしかしたら、モモに子供らしさを取り戻したいのかもしれない。

「お前とおんなじJewelry Pupil の女の子も来るんだと。」

俺がそう言うと、モモはパッと顔を上げた。

「女の子?」

「そうだ、ボスが合わせたがってるみたいだぞ。」

「明日、その子に会えるんだ。」

「お喋り相手をするんだよ、モモはその子の。」

「私の仕事?」

「仕事って言うか…。ただお喋りするだけで良いんじゃねーの?」

モモの表情がどこか明るくなった。

楽しみにはしてるみたいだな。

「明日、星影(ほしかげ)さんが迎えに来るから四郎はスーツを着ろよ。」

「へいへい。」


ーそして、今に至る。

俺達は兵頭会の本家に向かっている。

ボスは俺達が住んでる地下ではなく、兵頭会の本家に住んでる。

俺は本家に行った事はないから、今日が初めてだ。

全身黒で揃えたスーツに合わせて六郎がモモには、黒のレースのワンピースに黒いタイツを履かせていた。

「四郎、モモちゃんには日焼け止めは塗ったか。」

「はい、六郎が塗っていました。目薬も挿してあります。」

「そうか。モモちゃん、肌がピリピリしてない?」

ボスはそう言って、モモに話し掛けた。

「六郎が紫外線をカットする服を着せてくれたから平気。」

「それなら良かった。モモちゃんと四郎には別室にいて貰うよ。一応ね。」

ボスは言葉を放った後、俺に視線を送った。

兵頭会の幹部とは言え、裏切らない保証はないからか。

Jewelry Pupil を欲しがる奴等は五万といる。

そんな奴が幹部の組にいない筈はないだろうし、モモを守る為の配慮だろう。

「四郎達は裏から入ってくれ、そこから別室に行って貰う。星影が案内するから場所の心配はすんな。」

伊織(いおり)はそう言ってから、星影に視線を送った。

「もうすぐ着きます。先に頭と伊織さんを降ろします。」

星影はそう言って、立派な和風住宅の前に車を止めた。

ここが兵頭会の本家…。

めちゃくちゃでけー。

「四郎、何回も言うが…。」

「モモの事はお任せ下さい。必ず守ります。」

俺がそう言うと、モモの頬が赤くなった。

伊織はモモの事を微笑ましく見ていた。

「頭、そろそろ…。」

「分かってる。それじゃ、またあとで。」

そう言って、ボスと伊織は車を降りて行った。

「それじゃ、裏に回りますね。」

「悪いな星影。」

「いえいえ、車を停めるのも兼ねてますから。」

星影は車を走らせ、裏に回った。

裏に回ると沢山の高級車が駐車場に止まっているのが目に入った。

幹部の組みの奴等の車か。

星影は車を駐車場に止め、後部座席のドアを開けた。

俺がモモより先に出て日除け用に持たされた日傘を差した。

「ほら、日傘に入れ。」

「ありがとう、四郎。」

モモは日傘に入り俺のスーツの袖を掴んだ。

「あそこにある裏門から、四郎さん達が今日使う部屋をご用意してます。」

星影の後に続き俺達は裏門を潜ると、日本庭園が出迎えた。

カコンッ。

鹿威(ししおど)しが日本庭園に鳴り響く。

「お疲れ様です。」

「お疲れ様でございます。」

表門から男達の挨拶を交わす声が次々に聞こえ、男達が砂利の上を歩く足音が響く。

「この縁側に上がる前にるここに靴を脱いで下さい。こちらの部屋が四郎さん達が使う部屋になります。お茶菓子は既に置いてあります。私はそろそろ集まりの方に顔を出さないといけないので、失礼しますね。」

星影はそう言って、縁側を後にした。

「ほら、モモ。靴を脱いで上がるぞ。」

「うん。」

俺とモモは縁側に上がり、用意された部屋に入った。

ガラガラッ。

「ここの部屋を使うの?」

「みたいだな。とりあえず、辰巳さん達が来るまで座っとくか。」

俺とモモは座布団の上に腰を下ろした。


同時刻、兵頭会の本家には続々と幹部の組の人間が集まっていた。

兵頭会の幹部は全部で3つの組みである。

東京の九条組と、神楽(かぐら)組、大阪の九龍(くりゅう)会である。

「雪哉さん、お久しぶりです。」

兵頭雪哉に声を掛けてたのは前髪の分け目が左にあるネイビーの髪をした男、辰巳零士だった。

「おう、辰巳か。久しぶりだな。」

「はい、雪哉さんもお変わりないようで。今日は宜しくお願いします。」

そう言って、辰巳零士は頭を下げた。

「おう、雪哉。」

辰巳零士の後ろから現れたのは、九条組の頭である九条光臣(みつおみ)であった。

兵頭雪哉よりも歳は20個程、離れている。

「光臣さん、お久しぶりです。」

「久しぶりだな。おい、辰巳。お前はもう美雨(みう)の所に行け。」

「分かりました。」

辰巳零士はそう言って、兵頭雪哉に頭を下げその場を後にした。

「美雨ちゃんは車に?」

「あぁ、人目に付かせねぇようにな。お前の所もそうだろ。」

「はい、別室に移動させました。」

「その方が良いだろ。」

兵頭雪哉と九条光臣は廊下を歩きながら話をしていた。

「美雨ちゃんを外に出しても宜しかったのですか?」

「辰巳が側にいる限り、美雨が危ない目に遭う事はねぇよ。辰巳が美雨の側を離れたがらんからな。」

「あの辰巳が?」

「あぁ、美雨に骨抜きだよ。美雨の為ならアイツは何でもやるさ。」

九条光臣はそう言って、煙草を咥えた。

兵頭雪哉は素早く九条光臣の煙草に火を付けた。

「美雨がJewelry Pupil だから側にいるのか、それとも大事だから側にいるのか分からない。美雨を守ってくれるなら理由は何だって構わないさ。」

「それは同感です。」

「お前の所の護衛はどうなんだ。」

「まだ、辰巳程じゃないですよ。俺の命令だから聞いている感じです。」

「惚れるのが先か、所有欲が芽生えるのかが先かって所か。」

兵頭雪哉と九条光臣が話をしていると、岡崎伊織が近寄って来た。

「失礼します。頭、揃いました。」

「分かった。」

「こちらで皆様がお待ちです。」

岡崎伊織はそう言って、襖を開けた。

襖を開けると、堅いの良い男達が一斉に立ち上がり
兵頭雪哉に向かって頭を下げた。

兵頭雪哉は自分の席に座り口を開けた。

「単刀直入に言うが。今回、集まって貰ったのは椿会の事についてだ。」

「椿会って、東京で悪さしとる組の事ですよね?何かまた、やらかしたんですか?」

丁寧な口調の中に大阪弁を喋るこの男は、九龍会の若頭である。

名前は、二見瞬(ふたみしゅん)。

歳は27で、パステルパープルの髪をふわふわにセットし、長い前髪から一重のキツネ目が見える。

「こら、二見。口を慎まんか。」

二見瞬を怒ったのは、九龍彰宏(あきひろ)55歳であった。

「いや、気にしなくて良いですよ。瞬の耳にも椿会の行動は耳に入ってるようだな。」

「まぁ、椿会は最近出来た組ですし?それも元、兵頭会の人間ってだけでも誰の耳にも入ってますよ。」

二見瞬の言葉で場が少しざわめいた。

「うちとしても、椿会には困ってますよ。同じシマで店を出されて営業妨害されるんでね。こっちとしては店の女の子を引き抜かれて困ってるんですよ。」

そう言ったのは、神楽俊典(としのり)50歳だった。

神楽組の頭である。

「神楽もうちも同じ被害を受けてる。おまけに薬の
売買も増えとる。違うシマでやるならまだしも、うちのシマでやられんのは困る。」

「完全に標的にされとりますなぁ、どないするですか?」

二見瞬はそう言って、兵頭雪哉に視線を送った。

「椿会を潰す。その話をする為に今日の集会を開いた。」

「潰すって、まさか抗争をするつもりか雪哉。」

「いずれはそうなる。遅かれ早かれ椿は俺を潰したがってますからね。」

「まぁ、そうなってもおかしくはないが。」

兵頭雪哉と神楽俊典の会話に、九条光臣が入った。

「へぇ、椿会を潰す…か。普通の抗争じゃなくなりますなぁ。」

「どう言う意味だ、瞬。」

「椿会って、あのJewelry Pupil を持ってはるんでしょ?Jewelry Pupil には不思議な力があるみたいやし、普通の抗争とは訳がちゃいますでしょ。」

「椿がJewelry Pupil を持ってるのを知ってたのか?」

兵頭雪哉はそう言って、二見瞬に尋ねた。

「僕、情報集めが趣味でね、椿会はJewelry Pupil を幾つか持ってはるみたいですよ?Jewelry Words の能力は摩訶不思議(まかふしぎ)なもんやし。」

「Jewelry Words を使った抗争になるって事が言いたいのか?」

「少しちゃいますね。Jewelry Wordsを"巡った"抗争になるっと言った方が正しいやろなぁ。これから起きる抗争は。」

そう言って、二見瞬はニヤリと笑った。
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