MOMO

百はな

文字の大きさ
上 下
12 / 72
第1章 少女の価値

11.少女の価値

しおりを挟む
ドゴォォォーン!!

大型ショッピングモールが大きく揺れた。

それは、外から見ても分かるくらいに大きく揺れているのを高級車の中から見ている少女がいた。

「あ…。」

ゆるふわのピンクミルクティーの髪を揺らし、白い肌の小さな手が窓ガラスに触れた。

「お嬢?どうかしましたか?」

前髪の分け目が左にあるネイビーの髪、黒いシャツから桜と龍の入れ墨が見える黒色の狐目が少女を視界に捕らえた。

「あそこに"いる"。」

少女はそう言って、短い前髪を靡かせてモルガナイトの瞳を男に向けた。

男は少女の小さな肩を自分の方に引き寄せた。

「Jewelry Pupil…ですか。」

「あそこにいる…、2人いる。」

「辰巳(たつみ)さん、どうしますか?」

運転手の男が辰巳と呼んだ男に話し掛けた。

辰巳と言う男は少女を抱き締めた。

少女の体が痛くならないように優しく抱き締めた。

「辰巳?」

「心配いらないですよ、お嬢には俺がいます。俺達は帰りましょう。」

少女は男の言葉を聞くと、背中に手を回した。

「帰ったら親父に報告だ。"Jewelry Pupil を巡った抗争"があったってな。」

「分かりました。」

モルガナイトの宝石言葉 (愛情・優美・清純)



CASE 四郎


体が痛てぇ…。

めちゃくちゃ痛てぇ…。

こんな思いをしたのは、何年振りだ。

俺は何でこんな事になってんだ?

ビチャッ。

手にネチャッとした感触がした。

水?

いや、違う。

これは…、俺の血か…?

うわ、これ…、全部血かよ。

大量の血が体から出ている所為か、体が寒くて熱い。

自分でも、ヤバイと言うのが分かる。

カタカタと体が震える。

爆発の衝撃に巻き込まれた俺は、起き上がれなくなっていた。

周りにいる同業者達も何人か爆発の衝撃に巻き込まれて死んでる。

コイツ等もJewelry Pupil を狙って来たのか。

モモを狙ってここに来たのか。

そんなに欲しいのかよ。

Jewelry Pupilって、そんなに価値があるのかよ。

あー、煙草吸いてぇ。

俺は震える手で煙草を取り出した。

カタカタと震える所為で中々、口に咥えても火を付けられなかった。

こんなに体って震えるのか?

「ハッ…。何やってんだろ俺。」

黒い煙の中からオレンジ色の光が目に入った。

あの女、こんな状態でも立ち上がれんのかよ。

俺は、こんな所で死ぬのか。

ブワッ!!

俺の予想通り、女子高生が煙を掻き分け俺の所に向かって来ている。

女子高生は俺を見つけると刀を振り下ろした。


キィィィンッ!!!

四郎の意識が閉じれた後、佐助の刀を受け止めた人物が現れた。

煙が少し晴れ三郎の姿が現れた。

三郎の手に握らていたのは妖刀村正だった。


少し前に時間を戻す


モモを抱えて走っていた三郎は、星影と合流すべく駐車場に向かっていた。

タタタタタタタ!!

「いたぞ!!Jewelry Pupilだ!!」

三郎の姿を見つけた他の殺し屋数人が一斉に銃を向けた。

三郎は冷静にズボンのくびれ部分に隠していたCz75を取り出し銃弾を放った。

パンパンパンッ!!

放たれた銃弾は殺し屋数人の頭にヒットした。

「うがぁぁぁぁぁ!!」

「ぐゔぁぁああ!!」

叫び声を上げ殺し屋数人は床に倒れ込んだ。

「アンタ、バカ強いねっ。そんなにJewelry Pupil が大切な訳?」

伊助の言葉を聞いた三郎は足を止めた。

「お前、さっきからうるさいんだよ。」

「っ!!」

三郎は伊助を睨んだまま言葉を続けた。

「アンタ等がJewelry Pupil に興味があるか知らないけど、俺にはどうでも良い事なんだよ。さっきからベラベラ喋ってうるさくて仕方ない。」

「うるさくてすいませんねー。こう言う性格なもんで。」

伊助はそう言って、Carbon8 M45CQP -CO2 を構えた。

「腕、折れちゃえ。」

モモが伊助を睨みながら言葉を放った瞬間、伊助の銃を持っている腕が本来曲がらない方向に曲がった。

ゴキッ!!

伊助は何が起こったのか分からないが、腕の痛みの方が先に頭に来た。

「う、うがぁぁぁぁあ!!」

伊助は腕を押さえながら床に倒れた。

三郎は驚きながらモモに視線を向けると、モモの鼻から血が垂れていた。

「も、もしかしてJewelry Words の能力ってヤツ…?」

伊助は脂汗を流しながら三郎に尋ねた。

「おい、無事か!!2人共!!」

三郎の後ろから刀の村正を持った二郎と星影が走って来ていた。

「仕事じゃなかったの?」

「切り上げて来たんだよ!!それよりも、お前等の方が…って、おいっ?!」

三郎は二郎から村正を奪い取り、モモを引き渡した。

「四郎を助けに行く。」

そう言って、三郎は走り出した。

二郎は三郎が黒い煙の中に入って行くのを呼び止めたが、三郎は聞く耳を持たずに入って行った。

「モモちゃん、大丈夫?」

「三郎が…。」

「ん?」

「三郎は四郎を傷付けられて怒ってた。」

モモの言葉を聞いた二郎は、星影と共に歩き出した。

「三郎はね、四郎の事になると周りが見えなくなるんだ。」

「三郎なら、四郎を助けてくれる?」

「今の四郎には三郎が必要だよ。三郎にも四郎が必要だ。俺達はモモちゃんをここから無事に連れ出す事が最優先だからね。星影さん、急ぎましょう。」

「はい。」

そう言って、二郎と星影は走り出した。

「四郎…。」

モモは小さく呟いた後、瞳を閉じた。


そして、今に至るー

突然、現れた三郎を見て佐助は驚きを隠せなかった。

「さっき、Jewelry Pupilを連れてたんじゃっ?!」

「へぇ、君の刀…、村雨(むらさめ)なんだ。」

三郎は村雨を弾き、村正を振り翳した。

佐助は三郎の攻撃を受け止めるが、三郎は片方の手に隠し持っていたナイフを三郎の脇腹に向かって投げ飛ばした。

ビュンッ!!

グサッ!!
飛ばされたナイフが佐助の脇腹に刺さった。

佐助がJewelry Words を使う前に三郎は素早くナイフを投げたのだった。

「ゔぐっ!!」

三郎の動きは止まる事はなく、村正を下から上に向かって振った。

ビュンッ!!

佐助の頬に刀の刃が掠った。

三郎の頭の中には四郎を傷付けた佐助を殺す事しか頭になかった。

「先に言っとくけど、君がJewelry Pupil だからって見逃したり、殺さないとかないから。」

「じゃあ、何の為に戻って来たの。」

佐助はそう言って、脇腹に刺さったナイフを抜き取り三郎に向かって投げ飛ばした。

ビュンッ!!

三郎は飛ばされたナイフを弾き伊助に接近した。

「離れろっ。」

接近したまま三郎は村正を振り下ろそうとしたが、伊助のJewelry Words を使って村正を動きを止めた。

しかし、三郎はCz75を構え伊助に銃弾を放った。

パンパンパンッ!!

ブュシュッ!!

伊助の肩に銃弾が当たった。


ドカーンッ!!

再び爆発音がショッピングモール内に響き渡った。

その瞬間に三郎は伊助から距離を取り、四郎に覆い
被さった。

壁の破片が容赦なく三郎の背中を傷付け、佐助は伊助に抱き締められていた。

「伊助?腕、どうしたの?」

「折れてる!!それよりもここから離脱するよ?ショッピングモールがそろそらヤバイって。」

「そう。」

「佐助、ちょっと乱暴な抱き方をするよ。」

「へ?」

伊助はそう言って折れていない方の肩で佐助を乗せ、走り出した。

タタタタタタタ!!

「お、落ちるっ。」

「しっかり捕まって。」

走り出している伊助に向かって三郎はCz75の銃口を向けた時だった。

「三郎!!」

「…。」

三郎は男の声を聞くとCz75を下ろした。

「今、撃った所で無駄だ。」

「一郎…、わざわざ追い掛けて来たわけ?」

三郎を呼び止めた男は一郎だった。

「七海とボスから緊急の連絡を貰って来たんだ。それより、今は四郎の手当が先だ。」

そう言って、一郎は四郎の体を抱き上げた。

「幸い、駐車場は無事だった。さっさとここから出るぞ。」

「…。分かった。」

一郎と三郎は急いで駐車場に向かって行った。


無事にショッピングモールから出た一郎と三郎は、
闇医者の事務所に向かっていた。

到着すると、六郎や五郎が事務所の中で待っていた。

「これまた派手にらやられたのー。」

四郎と三郎の怪我を見た闇医者の爺さんが言葉を放った。

「ちょ、ちょっと、四郎がこんなにやられてるなんて聞いてないんだけど?!大丈夫なの?」

六郎は慌てながら闇医者の爺さんに尋ねた。

「これは…、血を流し過ぎとる。輸血する必要があるな…、三郎。」

「俺の血を四郎に輸血する。それで助かるなら。」

「分かった。弾は綺麗に貫さてるのが幸いじゃな。後は刀で斬られた傷を縫う必要があるほれ、手伝わんか。」

そう言って、爺さんは五郎に指示をした。

四郎の服を脱がせベットに横にさせた。

四郎の体には沢山の切り傷や銃弾の跡、右肩腕にかけて古い大きな傷があった。

その傷をカバーするように3Dアートの幾何学(きかがく)模様のタトゥーが入っていた。

爺さんは手慣れたように機材やナイフ、器具に消毒を済ませ治療を始めた。

「四郎をあんな目に合わせたのはモモちゃんと同じJewelry Pupil って事なの?」

「そうだね、Jewelry Pupil が使えるJewelry Words を使って弾の動きを止めてた。多分だけど、あの殺し屋の女の子は動きを止めるか、弾くしか出来ないみたい。」

手当が終わった三郎は六郎の問いに答えた。

「あの四郎がこんなにやられた理由は分かったぜ。それに他の殺し屋もJewelry Pupil を狙ってショッピングモールに集まってたし…。どんだけ、
Jewelry Pupil に価値があんのか…。」

「Jewelry Pupil を所持している人物はJewelry Words の能力も使える。都市伝説レベルだが全てのJewelry Pupil を集めると願いが叶うと言われているようだ。」

五郎の次に一郎が言葉を放った。

「ボスもそれが目的って事?」

三郎はそう言って一郎に尋ねた。

「いや、今の所は何も言っていなかった。だが、モモちゃんを誰にも渡すなと言う命令は降りている。」

「ボスがあの子に執着してるのもJewelry Pupil だから?それとも違う理由?」
一郎を見据えながら三郎は言葉を放った。

「ほれ、三郎。輸血の準備が出来たぞ。隣のベットに横たわれ。」

「ちょっ、モモちゃん!?」

爺さんの声がした後に二郎の声がしたその瞬間、扉がバンッと勢いよく開いた。

「四郎!!」

「「モモちゃん?!」」

五郎と六郎の声が重なり、モモは眠る四郎の元に駆け寄った。

「なっ?!何で事務所に?!」

「俺が連れて来た。」

ドアから現れた五郎の問いに答えたのは兵頭雪哉だった。

「ボス!?ど、どうしてここに…?」

「モモちゃんが四郎に会いたがってね。大丈夫、二郎も伊織もいたから来る時は問題なかったよ。」

六郎は兵頭雪哉に駆け寄り話を聞いていた。

「四郎、四郎…っ。」

モモはポロポロと涙を流しながら四郎の名前を呼んでいた。

「四郎…。私が治してあげるから。」

ガリッ!!

涙を拭きモモは自分の唇を強く噛んだ。

その行動はこの場にいる兵頭雪哉達は驚きを隠せなかった。

モモの薄ピンク色の唇が赤く染まり、今にも血が床に垂れそうな程だった。

「モモちゃん?!何してるだい?!」

兵頭雪哉がモモに近寄ろうとするも、モモは四郎に跨った。

「な、何してんの…?」

三郎はモモを少しだけ睨みながら言葉を吐いた時だった。

モモはそのまま四郎の唇に自分の唇を押し付けた。

モモは四郎にキスをしていた。

その光景はなんとも言えない光景で、とても神秘的だった。

モモが本当に真っ白な天使のように輝いて、四郎の元に天使が舞い降りているようだった。

モモが唇を離すと、四郎の傷が見る見る内に治り始めた。

「こりゃまた…、驚いた。」

「な、何で?傷が?」

「私がアルビノだから。」

爺さんと三郎の問いにモモは答えた。

「私の血は傷を治せる。だから皆んな私を欲しがる。ずっとそうだった。だけど…。」

モモはそう言うと四郎に抱き付いた。

「四郎は別。私を欲しがらない特別な人。だから私は四郎に好きなって欲しい。」

「な、何で?四郎に好きになって欲しいのかな?」

二郎はそう言って、モモに尋ねた。

「好きなってくれたら一緒にいてくれるでしょ?」

ゾクッ。

モモの言葉を聞いた二郎達の背筋が冷たくなった。

アパタイトの瞳が煌びやかに輝いているのに不気味なオーラを放っていた。

モモの言葉は人を魅了する力がある事が分かった。

そして、人々が欲しがるであろう能力を持っている。

この少女の価値は計り知れない物だと悟らされる。


この少女は国宝級の価値があるー
これはまだ、予章に過ぎなかった。
これから起きるJewelry Pupil を奪い合う抗争が闇の中で始まっていた。
この瞬間からー



   第1章 END
しおりを挟む

処理中です...