MOMO

百はな

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第1章 少女の価値

9.Shopping Dangerous 1

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CASE 四郎

「四郎ー。」

声の高い女の声がする。

「ねぇ、起きないの?」

俺の眠りを妨げるのは誰だ…。

うるせーな…。

「四郎ってば。」
スッ。

誰かが俺に触れようとした。

俺は反射的に枕元に置いてあったナイフを手に取り、ナイフを構えた。

「私、モモだよ。」

薄暗い部屋の中でモモの声が響いた。

俺はスマホで声のした方を照らすと、モモが俺のベットに座っていた。

「は?何で、俺の部屋にいんだよ。」

「良いじゃん、別に。」

「いや、良くねーだろ。自分の部屋にいろよ…。」

そう言いながら俺は部屋の明かりを付けた。

「何で四郎と別なの。」

「1人で寝れるだろ…。」

「嫌だ。」

「嫌だって…。」

モモとの生活1日目。

コイツはボスが用意したモモの部屋から出て来て、
俺の部屋に入って来ていた。

「あのな…。ボスが用意した部屋にはいろよ。」

「だって、そこには四郎がいないもの。いたって意味がない。」

「俺を寝させない気なのか。」

「十分寝た。」

何を言ってもダメそうだ。

コイツは何故か俺と離れたがらない。

コイツは何故か俺に懐いてる。

意味が分からない。

「四郎ー。アンタの部屋にモモちゃんいる?」

六郎が俺の部屋の前から声を掛けて来た。

「いるぞ。」

「あー、やっぱり?部屋に入っても良い?」

「別に良いぞ。」

俺の返事を聞いた仕事着の六郎が部屋の中に入って来た。

ガチャッ。

「モモちゃん、いきなり部屋を出てたら心配するでしょ?」

「だって、起きたら四郎がいないんだもん。」

そう言ってモモは俺に抱き付いた。



昨日の経緯を説明しよう。

昨日、兵頭雪哉はモモの為に用意した部屋にモモを
案内していた。

四郎達も謎に思っていた一室の鍵付きの部屋の正体が、モモの為に用意した部屋だとようやく理解した。

「さぁ、モモちゃん。今日からこの部屋を使うと良い。」

そう言って兵頭雪哉は部屋の鍵を開けた。

ガチャッ。

部屋に広がったのは沢山のテディベア達が出迎えた。

白を基調としたカーテン付きの大きなベットに、可愛い家具が部屋を埋め尽くしていた。

子供部屋にしてかなり高級な物になっている。

「うわっ、凄っ。」

五郎はモモの部屋を見て思わず声が出てしまっていた。

「フリッフリだねー。子供部屋ってこんな感じなの?」

三郎はモモの部屋を物珍しそうに覗き込んでいた。

「どうモモちゃん。」

岡崎伊織はそう言って、視線をモモに送っていた。

「縫いぐるみがいっぱいある。」

モモは近くに置いてあったベジュー色のテディベアを手に取った。

「縫いぐるみ気に入ってくれたかな。モモちゃん?」

兵頭雪哉は穏やかな顔でモモを見つめた。

「「「っ?!!!」」」

その光景を見た四郎達は驚きのあまり固まっていた。

兵頭雪哉のあんな顔を四郎達は今まで見た事がなかったからだ。

「うん。だけど四郎を叩いた事さ許してないから。」

「どうしたらモモちゃんに許してもらえる?」

「次、やったら死んでくれる?」

モモは言葉を放った後、兵頭雪哉を見つめた。

「ちょ、ちょっと!?何言って…っ。」

六郎は思わずモモに大きな声で言葉を飛ばした。

「六郎、黙っていなさい。」

「だ、だけとボス。」

「分かった。君の嫌がる事はしないと約束する。それが四郎に関する事なら何でもだ。」

「本当?」

モモはそう言って、兵頭雪哉の様子を伺うように視線を送った。

「あぁ、モモちゃんが四郎の側いたいならいて良い。モモちゃんがしたいようにすれば良い。」

「おじさん。約束出来るの?」

「え?」

「おじさんは約束出来るの?大人の人は約束出来ないから。」

モモの言葉を聞いた兵頭雪哉は眉毛がピクッと動いた。

この言葉を聞いた四郎達もモモの気持ちを分かる部分もあった。

四郎達も間近に感じた事のある大人の身勝手な感情や、守られるはずのない約束をする大人の姿も、人間の嫌な部分をモモは見て来ていた。

まだ、8歳の少女が大人びているのは汚い大人を見ていたからだ。

「モモちゃん、俺は約束を破った事は一度もないよ。君をこうして連れて来れたんだからね。」

兵頭雪哉はモモを見ながら言葉を続けた。

「モモちゃんとの約束は何があっても守るよ。この先もずっとだ。だから、安心してくれて良い。」

「…。分かった。」

モモはまだ兵頭雪哉を信用はしてないが、とりあえず返事をした感じだった。



CASE 四郎

こんなような感じだ。

モモを寝かせた俺は自分の部屋に戻ったのだが、起きて来たモモが俺の部屋に入って来たのだ。

「六郎、何の用だったんだ。」

「あ、そうそう。ボスからアンタ宛にメールが届いてるわよ。」

六郎はそう言って俺のタブレットを渡して来た。

リビングに俺達が使うタブレットの充電器がある為、仕事が終わったメンバーが充電をしている。

俺より先に起きた六郎が俺のタブレットを見て持って来たのだろう。

「俺に?」

「そうみたいね、通知が来てたから。」

「分かった。」

「じゃ、あたし仕事があるから行くわね。」

そう言って、六郎は部屋を出て行った。

メッセージを見ながら煙草が吸いたい。

「モモ、リビングに行ってろ。」

「すぐ来るの?」

「あぁ。」

「…、分かった。」

モモは渋々了承してから部屋を出て行った。

俺はテーブルに置いてある煙草を取り、口に咥えライターで火を付けた。

カチッ。

タ、タ、タ、タタタ…。

火を付けた後、タブレットを操作しメールを開いた。

「…は?」

俺はメールを読んだ後、思わず声が出てしまった。

何故ならボスから送られて来たメールに書かれていた内容は、モモと24時間生活のスケジュールがビッシリ書かれていた。

それと、俺の殺しの仕事が1ヶ月キャンセルされていた。

俺達、殺し屋の仕事はボスが全員に振り分けている。

だから俺のスケジュールを扱えるのはボスだけで、
ボスは俺とモモを24時間離れさせないようにしていた。

「本当に24時間離れらんねぇ…。」

トイレと風呂くらいじゃねーのか?

1人になれるの…。

それと、今日の午後にモモの服を買いに大型ショッピングモールに行けとも書かれていた。

「何で俺が…。」

溜め息を吐いた後、煙草を灰皿に押し付け部屋を出た。

「モモちゃん。アイス食べるー?」

「…。何それ。」

「え?アイス知らないの?甘くて冷たい物だよー。食べてみたら分かるよ♪」

モモと三郎の話し声が聞こえて来た。

俺がリビングに入るとモモが駆け寄って来た。

「四郎!!この人、怖い。」

「え、怖いって酷くない?」

三郎は全く傷付いていないようすでヘラヘラ笑っていた。

「お前、任務はどうしたんだよ。」

「え?終わらせて帰って来たんだよー。」

そう言って、三郎はチョコミント味のカップアイスを頬張った。

「は?一気にやって来たのか?」

三郎の任務はとあるクルーズ船で行われる闇市場の
オークションに来ている客や市場の人間を殺す事だった。

会場にいる人間だけでも60人ぐらいはいると聞いていた。

普通なら1日掛けても夜中に帰って来れるレベルだ。

「ま、昼間にやるみたいだったからさー。ササッと行ってサクッと殺して来たよ♪」

任務から帰って来た三郎は疲れている様子も傷もなかった。

本当、1人で何でも出来る奴だよな。

だからボスも仕事を回すんだろうけど。

「お前は相変わらずタフだな。」

「そう?四郎、仕事ないんでしょ?ウケる。」

「うるせーな。ボスの命令なんだから仕方ねーだろ。」

「今回の任務、四郎とペアの仕事だったんだよね。」

「そうなのか?」

それは初耳だった。

「ボスはさ、五郎を連れて行けーって言ったんだけど。五郎がいたら時間掛かっちゃうと思って1人で行ったんだよね。」

「あ?何か用事でもあるのか?」

「四郎、ショッピングモールに行くんでしょ?俺も付いて行こうと思って。」

「ショッピングモール?」

俺と三郎の会話に不思議に思ったモモが声を掛けて来た。

「あぁ、お前…じゃなかった。モモ、服ないだろ?ボスが一緒に買いに行って来いって。」

モモが今、着ているのは俺のTシャツだ。

それしか服がないのも確かに不便だ。

「アルビノって外に出れるの?俺、あんまり詳しくないけど、人より肌が弱いんじゃなかった?」

三郎はそう言って、俺に尋ねて来た。

確かに言われてみれば、俺達はアルビノの事はよく知らない。

ただ、色が人よりも白いんだろうと言う甘い知識しかない。

「七海に聞いてから出掛けるか。」

「なら、電話してみるわ。」

三郎はスマホを操作し、七海に電話を掛けた。


「もしもし。」

「あ、七海?俺達、モモちゃん連れてショッピングモールに行かないといけないんだけど、アルビノって外に出れるの?」

「あ?あー、先生から日焼け止め貰ったでしょ?それを塗って、肌の出ない服を着させて。色は黒で、人よりも瞳の色素がないからサングラスを掛けさせて。紫外線に当たらないようにして。」

「え、そうなの?だから、七海あんまり肌出してないんだ。」

「そうそう。先生に貰った日焼け止め塗らないと肌が炎症を起こしちゃうから絶対に塗って。後、Jewelry Pupil ようの目薬もするんだよ?」

「了解ー。」

「それと今、三郎達以外は任務に出ちゃってるからしばらく帰って来ないから宜しく。」

七海はそう言って、電話を切った。

電話が切れた後、三郎が俺に説明をした。

「成る程、色々手間が掛かんだな。」

「みたいだねー。ま、人より繊細って事じゃない?」

「とりあえず、目薬さすか。モモ、目薬さしてから日焼け止め塗るぞ。」

俺がそう言うと、モモが俺の隣に来た。

目薬を持ち、モモの顔をクイッと手で上を向かせた。

瞳を指で大きく開けさせ目薬を数的落とした。

モモは目を閉じている間に腕や足、顔に日焼け止めを塗った。

「とりあえず、着替えようか。そろそろ出た方が良いよね。」

スマホで時刻を確認して見ると、夕方の17時だった。

今日は日曜日だから道が混んでいる可能性があるな…。

さっさと着替えて出た方が良いな。

「そうだな。モモはこれ着とけ。」

俺はそう言って、洗濯から戻って来た黒いフード付きのトレーナーを渡した。

モモは渡されたトレーナーに顔を埋め匂いを嗅いでいた。

「洗ったばっかだから臭くねーぞ。」

「うん。四郎の匂いがするなって。」

「まぁ、洗剤の匂いだろう

「そう言う事じゃない。」

そう言ってモモはトレーナーに袖を通した。

「俺達は着替えてくるからここで待ってろ。」

「うん。」

俺と三郎はモモをリビングに残し、それぞれの部屋に戻った。

顔を洗い歯を磨きながら服を選んだ。

黒色のジーンズに大きめの白いTシャツ、黒いキャップを被った。

念の為に顔は隠しておこう…。

武器は一応、車に積んどいた方が良いだろう。

俺は武器が一式入っている鞄を持ち部屋を出た。

部屋から出ると、ゼブラ柄のオーバサイズのシャツを着た三郎と出会した。

三郎も同じように刀と鞄を手に持っていた。

「あ、やっぱり?」

三郎は俺の持っている鞄を見て言葉を放った。

「お前もな。」

俺達は同じ考えだったようだ。

「ボスが星影さんに連絡してくれたみたいで、もう着いてるって。」

「へぇ…。俺が運転して行くんかと思ってた。」

「まぁ、念の為じゃない?モモちゃんを外に出す訳だし。」

「ボスも用心してんなら、外に出さなきゃいーのに。」

「何か考えがあるんじゃないの?それより、ほっぺ大丈夫?」

三郎がそう言って、ガーゼが貼られた頬にトンッと指で触れた。

ボスに殴られた場所だ。

「あ?あー、腫れてるけど平気。」

「そっか。モモちゃーん、出掛けるよー。」

三郎はそう言って、リビングにモモに呼び掛けた。
リビングから出て来たモモと合流し、星影の下に向かった。



「はい、分かりました。こちらも出発します。」

長い艶やかな黒髪に、膝丈まるセーラー服のスカートが清楚さを演出させていた。

白い肌に巻かれた沢山の包帯やガーゼ、左目に巻かれた眼帯、光を宿さなオレンジダイヤモンドの瞳が

不気味さを出していた。

この女もまた、Jewelry Pupil の瞳を持つ人間であった。

「そろそろ行くか?」

黒髪のマッシュヘアーに、顔には煌びやかなピアスに人懐っこい笑顔を見せた男。

男が助手席に座っている女に声を掛けた。

「大型ショッピングモールに向かって。」

「おっ!!お前と同じJewelry Pupil の捕獲だったか?」

男は車を走らせながら女に尋ねた。

「Jewelry Pupil を保護している連中は殺せとの命令が出た。」

「やっと殺れんだな!!はー、楽しみ。」

「本当に、殺し合いが好きですね。」

「あ、僕の事を変態とでも思ってる顔だね。」

「変態じゃありませんか。」

「いやー、君ほどじゃないよ。」

男はそう言って、女の体に巻かれた包帯に視線を送った。

「お互い、変態と言う事で。」

「間違いない。」

男と女を乗せた車は大型ショッピングモールに向かって行った。



一方、四郎達は大型ショッピングに到着していた。

星影は四郎達を送り上げた後、駐車場で待機をしていた。

愛銃やナイフ、武器等をリュックに入れ替えた四郎は三郎と共にショッピングモールの中へと足を踏み入れた。


CASE 四郎

ガヤガヤ…。

やはり、休日だけあってショッピングモールの中は人で溢れていた。

モモと逸れてはまずいので、俺はモモを抱き上げ店内を歩いた。

「モモちゃんって、8歳くらいだよね。子供服売り場に行けば良いか。」

「俺は良く分かんねーから、お前に付いて行くわ。」

「オッケー。子供服売り場は2階だね。」

「四郎…。人がいっぱい。」

モモは小声で四郎に尋ねた。

「服買ったらすぐ出る。我慢しろ。」

「うん…。」

そう言って、モモは四郎の肩に顔を埋めた。

大勢の人に慣れてないのか…?

人酔いでもしたか?

さっさと服を買って出た方が良さそうだな。

「あれ?モモちゃん、気分悪い?」

モモの様子を見た三郎が俺に耳打ちした。

「人酔いしたっぽい。」

「マジか。じゃあ、売り場で沢山買って出ようか。」

「当分、来なくても良いような量を買っとくか。サイズとか分かんねーけど。」

モモぐらいの歳のガキの服のサイズなんて知らねーからな…。

「あ、それなら六郎がサイズ送ってくれたよ。モモちゃんをお風呂に入れた時に測ったみたい。」

「へー、気が利くじゃん。」

エスカレーターに乗りながら俺と三郎は、六郎から送られて来たメールに目を通した。

近くにあった自販機でお茶を買いモモに飲ませた。

モモはゴクゴクッと音を立てながらお茶を飲んでいた。

「少しはどうだ。」

「うん、大分良い…。ありがとう四郎。」

そう言って、モモがギュッと首に腕を回して来た。

はぁ…。

ガキのお守りなんて面倒臭い。

今頃なら任務に出てるはずなんだけどな…。

子供服売り場に着いた俺達は、六郎のメールを見ながら服を選んでいた。

「モモちゃんはどんなのが良い?こんなのか、こんなのとかは?」

三郎が手に取ったのは、俺の私服に似たカジュアル
な服とフリフリのレースが付いた服だった。

両極端な服だな…。

モモは2つの服に視線を向けた後、カジュアルな服を掴んだ。

「これが、良い。」

「これ?」

「うん。四郎の服と似てるから。」
選んだ理由は俺と同じだかららしい。

「本当にそれで良いのか?モモの好みはねーの?」

「これが良いの。」

俺の問いにモモは強く答えた。

どうやら、本当にこれが良いらしい。

「じゃあ、カジュアルで揃えようか。」

三郎はそう言って、カジュアルな服をカゴに入れ始めた。

カゴの中が服の山になっていた。

「じゃあ、会計して来るから外で待ってていーよ。」

「あ、俺のカードで支払いしといて。ボスに頼まれたの俺だからさ。」

「え、俺が払っても良いのに。」

「今度な。」

そう言って、俺は三郎に財布を渡した。

「オッケー。すぐ、戻るね。」

「分かった。」

俺とモモは子供服売り場を出て、近くにあった椅子に腰を下ろした。

「三郎?とは仲良しだね。」

モモがポツリと言葉を吐いた。

「仲良しって…。まぁ、お前と同じ歳ぐらいから一緒だからな。付き合いは長い。」

「どうしたら四郎に好きになって貰える?」

ブー!!

ブー!!、ブー!!、ブー!!

モモが言葉を放った瞬間、サイレン音が鳴り響いた。
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