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第陸章 花は咲いて枯れ、貴方を
宝象国
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雪に埋もれた木々達が桃色に染まり、小さな桜の蕾が膨らんだ春の季節を迎えた。
三月中旬 季節は春になった。
白虎嶺(ビャッコレイ)を出た悟空(ゴクウ)を抜いた三蔵一行(サンゾウイッコウ)は、宝象国の周辺の森に居たのであった。
本日の献立は、鶏ガラベースの山菜スープとおこげ。
高級山菜の香椿(チャンチン)を使い、その他の具材はきのこや野菜である。
その中にカリカリのおこげを浮かせれば完成である。
「いやー、野宿生活にも慣れて来たなぁ。そこら中の山菜を食った気が…。」
焚き火を囲いながら、沙悟浄(サゴジョウ)の作ったスープを啜り、猪八戒(チョハッカイ)が話し出した。
猪八戒の言葉を聞いた沙悟浄が、ギロッと目を細ませた。
「ほう、それは俺の飯にいちゃもん付けてんのか?猪八戒。」
「そ、そんな事、誰も言ってないだろ!?」
「三蔵、ちゃんと食ってるか。」
沙悟浄は猪八戒を無視して、三蔵に話し掛けた。
「え?あー、食べてるよ。」
「どうしたんだ?ボーッとして。」
猪八戒はそう言って、三蔵に視線を向ける。
この森に来るまで、三蔵はあらゆる依頼を受け、妖怪を討伐していた。
沙悟浄と猪八戒は、三蔵のサポート役に周り、任務を共にこなしていた。
三蔵の体付きは程よく筋肉が付き始め、青年から
大人の男性になり始めている。
「いや、思ったより時間が掛かったなって…。」
「まぁー。町に寄ったら、三蔵に妖怪退治の依頼をしに来る奴等が多かったもんな。一つ一つの依頼を対応してたら、一ヶ月なんて過ぎちまうよ。良い修行になったんじゃないか?」
三蔵の呟きに、猪八戒が反応し言葉を放った。
「うん、良い経験をしたと思ってるよ。今頃、悟空はどうしてるのかなって…。」
三蔵はそう言って、おこげを口に運んだ。
「俺達より、早くに着いてるだろうな。妖怪達の動きが活発になって来てる。ほら、今もだろ?」
沙悟浄は後ろを向かずに、大きめの石を投げ付けた。
ゴンッ!!
投げた石が何かにぶつかった音がした。
「痛ってぇ…なぁ、おい!?」
ガサガサガサ!!!
茂みを掻き分け、左右から妖達が現れ三蔵達を取り囲った。
「居たぜ、三蔵一行だ!!」
「ん?だけど、1人足りなくねぇーか?」
妖怪達が、ジロジロと三蔵達の顔を見つめ口走る。
「ギャハハ!!コイツ等、呑気に飯なんか食ってたのかよ!!俺達が見てたのに、呑気な奴等だぜ!!」
「うるさいな。」
「あ?」
カチャッ。
三蔵は静かに、霊魂銃を側にいた妖の額に翳した。
「俺達の事をコソコソと嗅ぎ回りやがって、誰の命令で動いてる。」
「なっ、や、やっちまうぞ!!お前等!!!」
「「「お、おおおおお!!!」」」
三蔵の問いに答えずに、妖達は一斉に飛び掛かろうとし時だった。
ババババババババッ!!
バチバチバチッ!!
どこからか飛んで来た札が、妖怪達の額に張り付いた。
「何だよ、これ!?」
「と、取れねぇ!?」
「木に札を貼り付けておいたんだよ、お前等が来るのを分かってたしな。美猿王(ビコオウ)の命令で、ここに来たのか?」
「だったら?」
妖は不敵な笑みを浮かべたが、三蔵は人差し指と中指を立てた。
「急急如律令(キュウキュウニョリツリョウ)。」
パァァアン!!!
妖怪達の頭が弾け飛び、紫色の血が噴き出した。
三蔵は自分達の周りには結界を張り、血が付着するのを防いだ。
「美猿王か牛魔王(ギュウマオウ)のどっちかが、命令して俺達の足止めをしてる感じだな。ここ最近だろ?妖怪達が姿を現したのは。」
「沙悟浄の言う通りだね。悟空が居た時は、妖怪達はビビって襲って来なかった。悟空不在の今、俺達を殺すには絶好のチャンスだからね。」
「とにかく、明日は早く森を出よう。宝象国には、もう目の前だからな。おら、食器洗って来いよ。」
沙悟浄はそう言って、食器を猪八戒に渡した。
「えー!!また、俺かよ!?」
「お前は何もしてないだろ?川で洗って来い。」
「仕方ねーなぁ…。」
猪八戒は渋々、近くの小川まで歩いて行った。
「三蔵は早く寝とけよ。」
「分かった、先に寝るわ。」
「俺は猪八戒が帰って来てから、寝るよ。おやすみ。」
「おやすみ。」
焚き火から少し離れた距離にある草のベットに腰を下ろした。
スルッ。
三蔵は左袖を捲り、手首に彫られた梵字を見つめた。
白虎嶺を出て数日経った頃、毘沙門天から取り返した有天経文(アルテキョウモン)が三蔵の手首に吸い込んだのである。
どう言う仕組みなのか分からないが、三蔵の手に経文が渡ると体に吸収されるようになっている。
毘沙門天の場合、体には吸収されるずに手元に巻き物として、実現していた。
「どうして、俺の体に吸い込んだんだろ。玉(タマ)と同じような感じでは、ないよな…。」
玉と言うのは、沙悟浄を救った猫又(ネコマタ)である。
沙悟浄が天界に居た頃に、玉を拾い共に生活を送っていたが、天界から落とされた沙悟浄を追い掛け、
下界に降りて来た。
餓死した玉は、観音菩薩(カンノンボサツ)が持っていた有天経文を使い、輪廻転生を早め、猫又として生を受けたのである。
三蔵は玉の事を思い出しながら、瞳を閉じた。
パチパチパチッ。
焚き火の飛び散る火を見ながら、沙悟浄は煙管を咥えた。
「なーに、お前だけ吸ってんの。」
食器を洗い終えた猪八戒は、そう言いながら沙悟浄の隣に腰を下ろす。
「猪八戒も吸やあ良いだろ。」
「そりゃそうだ。」
猪八戒も煙管を取り出し、吸う準備をし始めた。
「なぁ、実際よ。妖怪達の動きをどう思う。」
「下っ端の奴等が群れてんだろうなって思うけど、上の奴等がどっちかに着くかに状況は変わるな。」
スゥ…。
沙悟浄は猪八戒の言葉を聞いた後、白い煙を吐いた。
「それは、牛魔王か美猿王の事か?」
「そうそう、どっちに着いたとしてもさ?三蔵の邪魔をしてくるだろ。経文ってのは、本当に何なんだろうねー。凄い力を持ってる巻き物?って事しか分からないし。」
「観音菩薩は俺達に言ってない事があると思う。お前はどうだ?猪八戒。」
猪八戒は暫く考えた後、ゆっくりと沙悟浄の方を見た。
「それを言ったら、禁忌(キンキ)だからとか?」
「ハッ、何だそれ。」
沙悟浄は軽く笑う。
「さ、俺達も少しは寝とこう。交代で見張りしなきゃいけねーしな。」
「お前が先に寝て良いぞ、俺が先に見張りしとく。」
「お言葉に甘えて、そうさせて貰うわ。」
猪八戒はそう言って、自分の寝床に着いたのだった。
「禁忌…か…。」
沙悟浄の小さな呟きは、誰も聞いていなかった。
源蔵三蔵 二十歳
早朝に森を出た俺達は、大きな門の前に到着していた。
門の前には人の列が出来ており、兵士と何か話しているのが見えていた。
「でっけー、門だな。ここを抜けたら、宝象国か。」
「暫く時間が掛かりそうだな。かなりの人がいるし。」
タタタタタタタッ!!
沙悟浄と猪八戒が話していると、俺達の方に誰か走って来た。
息を切らして来たのは、中年男性だった。
「あ、貴方様はもしやっ、源蔵三蔵殿ですか?」
「そうだけど…。」
「お待ちしておりました!!!さ、案内しますので、こちらに来て下さい!!!」
中年男性はそう言って、俺達を列から出した。
どうやら、国王の使いの者だった。
大きな門を抜けると、華やかな町並みが目に飛び込んで来た。
人の多さは勿論、どの町よりも盛んで、ここは同じ中国なのか?と思う程だった。
「遥々、遠い所から御足労して頂きありがとうございます。国王様がお待ちで御座いますので、こちらに乗って参りましょう。」
「ば、馬車!?」
俺達の目の前には大きな馬車があった。
ま、まさか、これに乗って行けと…。
「三蔵殿の御付きの方もお乗り下さい。」
「どうも。」
「では、失礼して…。」
沙悟浄と猪八戒はそそくさに馬車に乗ってしまった。
俺は慌てて、2人の後を追うように馬車に乗った。
俺達が馬車に乗ると、使いの人が口を開き、話をし始めた。
「早急にお呼びして申し訳ありません。実は、この国周辺に妖?と言う化け物が多くて…。我々も頭を悩ましていたのです。」
俺は思わず、沙悟浄と猪八戒の2人を交互に見つめた。
コイツ等も妖なんだけど…、この人は気付いてないよなー。
「へぇ、人を襲ってたりしてるの?」
「えぇ…、今の所は老人達だけですが…。殺された老人達の生首が、城の前に並べられる事が多くて…。」
「うわぁ…、悪趣味。」
沙悟浄の問いに答えた使いの人の言葉を聞いた猪八戒は、苦笑いをした。
「その所為で、民達も不安がりまして…。国王もどうにか、この事態を修復したいと思っておいでです。」
「ここ最近と言うのは、どれぐらいですか?」
「はい、三蔵殿。一ヶ月程前…からでしょうか。」
一ヶ月前…。
もしかして、美猿王達の仕業か?
いや、こんな子供じみた事を美猿王はするか?
美猿王が行動を起こすとしたら、もっと大事になってる筈だ。
「詳しくは、国王に。宮殿に到着しました。」
馬車が停車し降りて見ると、大きな宮殿が目に入った。
宮殿の周りには大きな滝が流れていて、兵士や女達が行き来していた。
俺達は使いの人の後ろを歩き、宮殿の中に足を踏み入れた。
「何か、天帝の宮殿と似てるよな。」
「それ思った。天界も下界も、大差ないのかもな。」
「天界にも、宮殿があるの?」
沙悟浄と猪八戒の会話に、思わず入ってしまった。
「そりゃ、あるよ。宝象国は天界と似てるよ。」
「そうなんだ。」
「…、天界に興味ある?」
「どんなのかなーって、感じ。」
「そっか。」
俺の言葉を聞いた猪八戒は、どこか悲しそうだった。
「こちらに、国王はいらっしゃいます。」
真っ赤な扉が開くと、玉座に座っている男性が見えた。
高級なアクセサリーや、虎の絵が描かれた漢服を着ていた。
いかにも、金で物を言わせているような感じだ。
「ご苦労であった。三蔵と連れの方よ、良くぞ参った。」
「お呼び頂きありがとうございます、国王陛下。」
「お前の腕は耳にしておるぞ。かなりの腕らしいな?」
国王はそう言って、俺を上から下を見た。
な、何だ?
「詳しく、お話を伺っても宜しいですか?国王陛下。」
沙悟浄は俺の前にスッと出て、国王に言葉を放った。
「ふむ、それもそうだ。大体の話は、この男から聞いた通りだ。昨晩、俺の宮殿の前に妙な輩が来てな。」
「妙な輩?」
「牛の仮面をした少年か少女か、分からぬ見た目をした奴だ。それと、大きな嘴(クチバシ)の着いた仮面をした男だ。どうやら、俺の宮殿を狙っているらしいんだ。」
俺の問いに国王が答えた。
「お前達には、其奴等を殺して欲しい。いや、違うか。討伐してくれ。報酬は幾らでも弾むぞ。」
美猿王が一緒に居た2人じゃないな。
じゃあ、この件に美猿王は関与していないのが分かった。
しかしこの国王の言い方、いちいち癪に触るな…。
「お前達だけじゃ、不測の事態になる事もあるだろうからな。此奴等も一緒に討伐して貰う、入れ。」
国王がそう言うと、扉が開いた。
現れたのは、かなりの美人の二人組と白虎だった。
この感じ…、この子達はもしかして…。
「悪妖退治事務所の百花と小桃だ。此奴等は花妖怪と言う化け物だが、腕はかなり立つ。コイツ等を用
心棒として、お前の側に置く。」
花妖怪!?
やっぱり、この子達は妖怪だった。
ガルルル…。
国王の言葉を聞いた白虎が、唸り声を上げた。
「白虎、小桃は大丈夫だから。」
小桃と名乗った女の子が白虎の頭を撫でた。
「分かりました、陛下。」
「話が早くて助かるよ、百花。白虎の教育もちゃんと、しておくんだな。」
「はい。」
「三蔵等と、百花等の部屋を用意させた。身の世話も食事の世話も使用人に任せてある。討伐が終わるまでは、この宮殿で過ごすと良い。」
国王は妖を下に見ている態度を見せた。
沙悟浄と猪八戒の事も、馬鹿にされているような気がして、モヤモヤした。
俺達は部屋を出て、溜め息を吐いた。
「アンタ等も災難だな。」
百花と言う女性が俺達に声を掛けて来た。
「まさか、花妖怪に会えるとは思ってもみなかったよ。」
俺は百花の問いに答えた。
「まぁ、私等は人目に付かないようにしているかな。仕事仲間として宜しく。」
「宜しく。」
「この子は私の右腕の小桃、そして白虎だ。」
百花は丁寧に小桃と白虎の事を紹介した。
小桃は沙悟浄と猪八戒の後ろを見てから、俺に尋ねて来た。
「ねぇ、1人いなくない?」
「あぁ…、ちょっとね。」
「すぐに合流するの?」
「いや、分かんない。悟空と知り合いだった?」
「アンタに関係ない。」
小桃はプイッと俺に背を向け歩き出す、白虎は慌てて小桃の後を追って行った。
「何だ?」
猪八戒は不思議そうな顔をして、小桃の背中を見つめた。
カツカツカツ!!
「お嬢、お待ち下さい!!!」
「会えると思ったのに、いないって…。」
「しかし、あの男が言っている事は本心に見えました。」
「嘘を付いてるなんて、思ってないよ。だけど、この国にあの人の気配がするの。」
小桃はそう言って、立ち止まり、白虎の方を振り向いた。
「白虎、探しに行くよ。」
「え!?」
「行くよ!!」
「お、お嬢!!お待ち下さい!!!」
走り出す小桃と白虎を、物陰から覗いている人物がいた。
だが、小桃と白虎は視線すらも気付いていなかった。
三月中旬 季節は春になった。
白虎嶺(ビャッコレイ)を出た悟空(ゴクウ)を抜いた三蔵一行(サンゾウイッコウ)は、宝象国の周辺の森に居たのであった。
本日の献立は、鶏ガラベースの山菜スープとおこげ。
高級山菜の香椿(チャンチン)を使い、その他の具材はきのこや野菜である。
その中にカリカリのおこげを浮かせれば完成である。
「いやー、野宿生活にも慣れて来たなぁ。そこら中の山菜を食った気が…。」
焚き火を囲いながら、沙悟浄(サゴジョウ)の作ったスープを啜り、猪八戒(チョハッカイ)が話し出した。
猪八戒の言葉を聞いた沙悟浄が、ギロッと目を細ませた。
「ほう、それは俺の飯にいちゃもん付けてんのか?猪八戒。」
「そ、そんな事、誰も言ってないだろ!?」
「三蔵、ちゃんと食ってるか。」
沙悟浄は猪八戒を無視して、三蔵に話し掛けた。
「え?あー、食べてるよ。」
「どうしたんだ?ボーッとして。」
猪八戒はそう言って、三蔵に視線を向ける。
この森に来るまで、三蔵はあらゆる依頼を受け、妖怪を討伐していた。
沙悟浄と猪八戒は、三蔵のサポート役に周り、任務を共にこなしていた。
三蔵の体付きは程よく筋肉が付き始め、青年から
大人の男性になり始めている。
「いや、思ったより時間が掛かったなって…。」
「まぁー。町に寄ったら、三蔵に妖怪退治の依頼をしに来る奴等が多かったもんな。一つ一つの依頼を対応してたら、一ヶ月なんて過ぎちまうよ。良い修行になったんじゃないか?」
三蔵の呟きに、猪八戒が反応し言葉を放った。
「うん、良い経験をしたと思ってるよ。今頃、悟空はどうしてるのかなって…。」
三蔵はそう言って、おこげを口に運んだ。
「俺達より、早くに着いてるだろうな。妖怪達の動きが活発になって来てる。ほら、今もだろ?」
沙悟浄は後ろを向かずに、大きめの石を投げ付けた。
ゴンッ!!
投げた石が何かにぶつかった音がした。
「痛ってぇ…なぁ、おい!?」
ガサガサガサ!!!
茂みを掻き分け、左右から妖達が現れ三蔵達を取り囲った。
「居たぜ、三蔵一行だ!!」
「ん?だけど、1人足りなくねぇーか?」
妖怪達が、ジロジロと三蔵達の顔を見つめ口走る。
「ギャハハ!!コイツ等、呑気に飯なんか食ってたのかよ!!俺達が見てたのに、呑気な奴等だぜ!!」
「うるさいな。」
「あ?」
カチャッ。
三蔵は静かに、霊魂銃を側にいた妖の額に翳した。
「俺達の事をコソコソと嗅ぎ回りやがって、誰の命令で動いてる。」
「なっ、や、やっちまうぞ!!お前等!!!」
「「「お、おおおおお!!!」」」
三蔵の問いに答えずに、妖達は一斉に飛び掛かろうとし時だった。
ババババババババッ!!
バチバチバチッ!!
どこからか飛んで来た札が、妖怪達の額に張り付いた。
「何だよ、これ!?」
「と、取れねぇ!?」
「木に札を貼り付けておいたんだよ、お前等が来るのを分かってたしな。美猿王(ビコオウ)の命令で、ここに来たのか?」
「だったら?」
妖は不敵な笑みを浮かべたが、三蔵は人差し指と中指を立てた。
「急急如律令(キュウキュウニョリツリョウ)。」
パァァアン!!!
妖怪達の頭が弾け飛び、紫色の血が噴き出した。
三蔵は自分達の周りには結界を張り、血が付着するのを防いだ。
「美猿王か牛魔王(ギュウマオウ)のどっちかが、命令して俺達の足止めをしてる感じだな。ここ最近だろ?妖怪達が姿を現したのは。」
「沙悟浄の言う通りだね。悟空が居た時は、妖怪達はビビって襲って来なかった。悟空不在の今、俺達を殺すには絶好のチャンスだからね。」
「とにかく、明日は早く森を出よう。宝象国には、もう目の前だからな。おら、食器洗って来いよ。」
沙悟浄はそう言って、食器を猪八戒に渡した。
「えー!!また、俺かよ!?」
「お前は何もしてないだろ?川で洗って来い。」
「仕方ねーなぁ…。」
猪八戒は渋々、近くの小川まで歩いて行った。
「三蔵は早く寝とけよ。」
「分かった、先に寝るわ。」
「俺は猪八戒が帰って来てから、寝るよ。おやすみ。」
「おやすみ。」
焚き火から少し離れた距離にある草のベットに腰を下ろした。
スルッ。
三蔵は左袖を捲り、手首に彫られた梵字を見つめた。
白虎嶺を出て数日経った頃、毘沙門天から取り返した有天経文(アルテキョウモン)が三蔵の手首に吸い込んだのである。
どう言う仕組みなのか分からないが、三蔵の手に経文が渡ると体に吸収されるようになっている。
毘沙門天の場合、体には吸収されるずに手元に巻き物として、実現していた。
「どうして、俺の体に吸い込んだんだろ。玉(タマ)と同じような感じでは、ないよな…。」
玉と言うのは、沙悟浄を救った猫又(ネコマタ)である。
沙悟浄が天界に居た頃に、玉を拾い共に生活を送っていたが、天界から落とされた沙悟浄を追い掛け、
下界に降りて来た。
餓死した玉は、観音菩薩(カンノンボサツ)が持っていた有天経文を使い、輪廻転生を早め、猫又として生を受けたのである。
三蔵は玉の事を思い出しながら、瞳を閉じた。
パチパチパチッ。
焚き火の飛び散る火を見ながら、沙悟浄は煙管を咥えた。
「なーに、お前だけ吸ってんの。」
食器を洗い終えた猪八戒は、そう言いながら沙悟浄の隣に腰を下ろす。
「猪八戒も吸やあ良いだろ。」
「そりゃそうだ。」
猪八戒も煙管を取り出し、吸う準備をし始めた。
「なぁ、実際よ。妖怪達の動きをどう思う。」
「下っ端の奴等が群れてんだろうなって思うけど、上の奴等がどっちかに着くかに状況は変わるな。」
スゥ…。
沙悟浄は猪八戒の言葉を聞いた後、白い煙を吐いた。
「それは、牛魔王か美猿王の事か?」
「そうそう、どっちに着いたとしてもさ?三蔵の邪魔をしてくるだろ。経文ってのは、本当に何なんだろうねー。凄い力を持ってる巻き物?って事しか分からないし。」
「観音菩薩は俺達に言ってない事があると思う。お前はどうだ?猪八戒。」
猪八戒は暫く考えた後、ゆっくりと沙悟浄の方を見た。
「それを言ったら、禁忌(キンキ)だからとか?」
「ハッ、何だそれ。」
沙悟浄は軽く笑う。
「さ、俺達も少しは寝とこう。交代で見張りしなきゃいけねーしな。」
「お前が先に寝て良いぞ、俺が先に見張りしとく。」
「お言葉に甘えて、そうさせて貰うわ。」
猪八戒はそう言って、自分の寝床に着いたのだった。
「禁忌…か…。」
沙悟浄の小さな呟きは、誰も聞いていなかった。
源蔵三蔵 二十歳
早朝に森を出た俺達は、大きな門の前に到着していた。
門の前には人の列が出来ており、兵士と何か話しているのが見えていた。
「でっけー、門だな。ここを抜けたら、宝象国か。」
「暫く時間が掛かりそうだな。かなりの人がいるし。」
タタタタタタタッ!!
沙悟浄と猪八戒が話していると、俺達の方に誰か走って来た。
息を切らして来たのは、中年男性だった。
「あ、貴方様はもしやっ、源蔵三蔵殿ですか?」
「そうだけど…。」
「お待ちしておりました!!!さ、案内しますので、こちらに来て下さい!!!」
中年男性はそう言って、俺達を列から出した。
どうやら、国王の使いの者だった。
大きな門を抜けると、華やかな町並みが目に飛び込んで来た。
人の多さは勿論、どの町よりも盛んで、ここは同じ中国なのか?と思う程だった。
「遥々、遠い所から御足労して頂きありがとうございます。国王様がお待ちで御座いますので、こちらに乗って参りましょう。」
「ば、馬車!?」
俺達の目の前には大きな馬車があった。
ま、まさか、これに乗って行けと…。
「三蔵殿の御付きの方もお乗り下さい。」
「どうも。」
「では、失礼して…。」
沙悟浄と猪八戒はそそくさに馬車に乗ってしまった。
俺は慌てて、2人の後を追うように馬車に乗った。
俺達が馬車に乗ると、使いの人が口を開き、話をし始めた。
「早急にお呼びして申し訳ありません。実は、この国周辺に妖?と言う化け物が多くて…。我々も頭を悩ましていたのです。」
俺は思わず、沙悟浄と猪八戒の2人を交互に見つめた。
コイツ等も妖なんだけど…、この人は気付いてないよなー。
「へぇ、人を襲ってたりしてるの?」
「えぇ…、今の所は老人達だけですが…。殺された老人達の生首が、城の前に並べられる事が多くて…。」
「うわぁ…、悪趣味。」
沙悟浄の問いに答えた使いの人の言葉を聞いた猪八戒は、苦笑いをした。
「その所為で、民達も不安がりまして…。国王もどうにか、この事態を修復したいと思っておいでです。」
「ここ最近と言うのは、どれぐらいですか?」
「はい、三蔵殿。一ヶ月程前…からでしょうか。」
一ヶ月前…。
もしかして、美猿王達の仕業か?
いや、こんな子供じみた事を美猿王はするか?
美猿王が行動を起こすとしたら、もっと大事になってる筈だ。
「詳しくは、国王に。宮殿に到着しました。」
馬車が停車し降りて見ると、大きな宮殿が目に入った。
宮殿の周りには大きな滝が流れていて、兵士や女達が行き来していた。
俺達は使いの人の後ろを歩き、宮殿の中に足を踏み入れた。
「何か、天帝の宮殿と似てるよな。」
「それ思った。天界も下界も、大差ないのかもな。」
「天界にも、宮殿があるの?」
沙悟浄と猪八戒の会話に、思わず入ってしまった。
「そりゃ、あるよ。宝象国は天界と似てるよ。」
「そうなんだ。」
「…、天界に興味ある?」
「どんなのかなーって、感じ。」
「そっか。」
俺の言葉を聞いた猪八戒は、どこか悲しそうだった。
「こちらに、国王はいらっしゃいます。」
真っ赤な扉が開くと、玉座に座っている男性が見えた。
高級なアクセサリーや、虎の絵が描かれた漢服を着ていた。
いかにも、金で物を言わせているような感じだ。
「ご苦労であった。三蔵と連れの方よ、良くぞ参った。」
「お呼び頂きありがとうございます、国王陛下。」
「お前の腕は耳にしておるぞ。かなりの腕らしいな?」
国王はそう言って、俺を上から下を見た。
な、何だ?
「詳しく、お話を伺っても宜しいですか?国王陛下。」
沙悟浄は俺の前にスッと出て、国王に言葉を放った。
「ふむ、それもそうだ。大体の話は、この男から聞いた通りだ。昨晩、俺の宮殿の前に妙な輩が来てな。」
「妙な輩?」
「牛の仮面をした少年か少女か、分からぬ見た目をした奴だ。それと、大きな嘴(クチバシ)の着いた仮面をした男だ。どうやら、俺の宮殿を狙っているらしいんだ。」
俺の問いに国王が答えた。
「お前達には、其奴等を殺して欲しい。いや、違うか。討伐してくれ。報酬は幾らでも弾むぞ。」
美猿王が一緒に居た2人じゃないな。
じゃあ、この件に美猿王は関与していないのが分かった。
しかしこの国王の言い方、いちいち癪に触るな…。
「お前達だけじゃ、不測の事態になる事もあるだろうからな。此奴等も一緒に討伐して貰う、入れ。」
国王がそう言うと、扉が開いた。
現れたのは、かなりの美人の二人組と白虎だった。
この感じ…、この子達はもしかして…。
「悪妖退治事務所の百花と小桃だ。此奴等は花妖怪と言う化け物だが、腕はかなり立つ。コイツ等を用
心棒として、お前の側に置く。」
花妖怪!?
やっぱり、この子達は妖怪だった。
ガルルル…。
国王の言葉を聞いた白虎が、唸り声を上げた。
「白虎、小桃は大丈夫だから。」
小桃と名乗った女の子が白虎の頭を撫でた。
「分かりました、陛下。」
「話が早くて助かるよ、百花。白虎の教育もちゃんと、しておくんだな。」
「はい。」
「三蔵等と、百花等の部屋を用意させた。身の世話も食事の世話も使用人に任せてある。討伐が終わるまでは、この宮殿で過ごすと良い。」
国王は妖を下に見ている態度を見せた。
沙悟浄と猪八戒の事も、馬鹿にされているような気がして、モヤモヤした。
俺達は部屋を出て、溜め息を吐いた。
「アンタ等も災難だな。」
百花と言う女性が俺達に声を掛けて来た。
「まさか、花妖怪に会えるとは思ってもみなかったよ。」
俺は百花の問いに答えた。
「まぁ、私等は人目に付かないようにしているかな。仕事仲間として宜しく。」
「宜しく。」
「この子は私の右腕の小桃、そして白虎だ。」
百花は丁寧に小桃と白虎の事を紹介した。
小桃は沙悟浄と猪八戒の後ろを見てから、俺に尋ねて来た。
「ねぇ、1人いなくない?」
「あぁ…、ちょっとね。」
「すぐに合流するの?」
「いや、分かんない。悟空と知り合いだった?」
「アンタに関係ない。」
小桃はプイッと俺に背を向け歩き出す、白虎は慌てて小桃の後を追って行った。
「何だ?」
猪八戒は不思議そうな顔をして、小桃の背中を見つめた。
カツカツカツ!!
「お嬢、お待ち下さい!!!」
「会えると思ったのに、いないって…。」
「しかし、あの男が言っている事は本心に見えました。」
「嘘を付いてるなんて、思ってないよ。だけど、この国にあの人の気配がするの。」
小桃はそう言って、立ち止まり、白虎の方を振り向いた。
「白虎、探しに行くよ。」
「え!?」
「行くよ!!」
「お、お嬢!!お待ち下さい!!!」
走り出す小桃と白虎を、物陰から覗いている人物がいた。
だが、小桃と白虎は視線すらも気付いていなかった。
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キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
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楽しんでいただけたら嬉しく思います。
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