西遊記龍華伝

百はな

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第伍章 美猿王と悟空、2人の王

乱戦 参

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鱗青は1人だけ、如来の後を追っていた。

「待ってろよ、林杏!!」

タタタタタタタッ!!

ドゴォォォーン!!

波月洞全体が大きく揺れた。

「うわっ!?」

ガシッ!!

「は?何?」

ふらついた鱗青は如来に抱き付いてしまった。

「す、すまん!!」

「いや、俺に付いて来たの?」

「だって、アンタは林杏の居場所を知ってそうだし…。」

鱗青の言葉を聞いた如来は、溜め息を吐いた。

「な、何だよ!?」

「悪いが、お前と行動をするつもりはない。1人で探しに行ってくれ。」

「は、はぁ!?その言い方はないだろ?!」

「お前と俺は仲間でもない、赤の他人だ。俺は俺の目的を遂行する。お前はお前の目的を遂行しろ。」

如来はそう言って、階段を飛び降り暗闇の中に吸い
込まれて行った。

「お、おい!?何だよ、アイツ!!」

苛々しながら鱗青も降りようとした時だった。

「みぃーつけた。」

「っ!?お、お前は!?」

鱗青の背後から現れたのは、毘沙門天の治療を受け
終わった真秋であった。

「毘沙門天様がお呼びだよ。裏切り者を連れて来いってね。」

グサッ。

「え?」

ポタッ…、ポタッ。
「あははは、血が出たね。」
真秋は鱗青の腹に剣を刺し、笑っていた。
「ガハッ!!お、まえ、何をっ…。」
「あははは、あははは、あははは。」
「お前、頭イカれてんのか?!」

「イカれてる?あははは。確かにぃ、ふわふわしてるよ?」

「ま、まま、真秋っ。」

真秋以外の声を聞いた鱗青は、声のした方に視線を向ける。

そこに、空間に歪みを作り現れたのは金髪の長い髪を引き摺った人物。

長い前髪の所為で、男か女か判別が付かなかった。

「あっれぇ?何で、アンタがいんのぉ?」

「毘沙門天様が、よ、呼んで来いって…。は、早くその人を眠らせてよっ!!」

「あー?そうだったぁ。」

「その人を連れて来るのが、真秋の仕事でしょ。

「んー。おねんねしようね?」

ズシャッ!!

真秋はそう言って、腹から剣を抜き鱗青の背中を斬り付けた。

「アガァァァ!!」

鱗青の背中から血が噴き出す。

「あははは!!血が噴き出したぁ。」

「こんのっ、野郎…。」

「あ?」

鱗青の言葉を聞いた真秋は、鱗青の脇腹に拳を練り込ませた。

「ゴフッ!?」

「寝てろ?」

ガクッと落ちた鱗青をキャッチした真秋は、謎の男と共に歪みの中に消えて行った。

その光景を見ていたの者は、誰もいなかった。


源蔵三蔵 二十歳

「あっぶないなぁ。」
 
「「っ!?」」

猪八戒の放った銃弾が風鈴の目の前で止まった。

「いきなり撃つ事ないだろ?」
 
ゴォォォォォォォ。

風鈴の側には、炎炎と燃えている火輪が猪八戒の元に回りながら飛んで来た。

「あっぶねぇ!!」

猪八戒は潤の手を取り、1つ下の階段に飛び降りた。

ドゴォォォーン!!

同時に波月洞全体が大きく揺れた。

「ガァァァァァァァァ!!!」

鼓膜が潰れてしまいそうな程の、大きな叫び声が聞こえた。

「な、何だっ?!うるっさ!!」

「ほう、彼奴もおるのか。」
 
「彼奴って、ヒノカグツチが知ってる奴なのか?」

俺は耳を塞ぎながら、ヒノカグツチに尋ねる。
 
「起きましたか。」

石はそう言って、叫び声がする地下の方に視線を向けた。

「お前等、彼奴をどうやって起こしたのだ?確か…、何百年もの間、封印されておっただろ。」

ヒノカグツチが全く、何の話をしているのか分からなかった。

封印されていた?

妖怪か何かか?

「起こしたのは、牛魔王ですよ。」

「ほう…。」
 
「だから、何の話をしてんだよ…。」

俺は思わず、石とヒノカグツチの会話に入ってしまった。
「お前、犬神は知っているか。」

「犬神って…、確か憑き神(ツキガミ)だったよな…?」

*犬神とは、四国を中心とした西日本に伝わる憑き神(狐憑きなどの類い)の一種とされる妖怪。 強力な呪詛の力を持ち、取りついた相手をその力で祟り殺すとされる。

俺の言葉を聞いたヒノカグツチは頷いた。

「お前の想像している犬神で合っている。だが、強力な呪詛の力を持っていた所為で封印されていた。その封印を解いたのか。」

「毘沙門天様と牛魔王が何かしたのではないですか。」

石は興味なさそうに答えた。

「僕は僕の主君の役に立つまでだ。」

ビュンッ!!

石がそう言って、俺の目の前まで距離を詰め刀を振り下ろした。

キィィィン!!

岩の壁側まで追い込まれた俺は、攻撃を防ぐ事だけで精一杯だった。

「アンタ等の仲間の悟空って、何なの。」

「は、はぁ?」

「僕の主君は悟空って、奴の事を気にしてるんだよ。」

ギリッ。

石は刀を握る手を強めた。
 
「哪吒は、何であんな男が良いのかな?ねぇ、教えてよ。」

哪吒が悟空の事を好き…なのか?

それで、石は悟空に対して怒ってる…?

 「おまっえ、哪吒が好きなのか?」

「っ…。」

俺の言葉を聞いた石は、一瞬だけ動きを止めた。

だが、すぐに左肩に痛みが走った。

「ゔっ!?」

いつの間に、石の刀が肩に刺さったんだ。
 
「好き?愛してる?そんな言葉で、表現出来るものじゃないんだよ。僕がこうして、生きているのは最初に哪吒が産まれたからだ。」

「産まれたからって…、お前は毘沙門天に作られたんだろ?」

「哪吒をモデルに僕達は作られた。哪吒が産まれたから僕は生きてる。」

「じゃあ、何で!!俺達の邪魔をするんだよ!?哪吒が命令したのか!?だから…。」
 
「お前が呼び捨てにするな!!」

グチャァ…。

石は叫びながら、肩に刺した刀をグリグリと動かした。

左肩に激痛が走る。
 
「ゔっ!!」

「お前等が、悟空の側にいる限りお前の道は潰す。」

さっきまでの顔付きと違う。

目が…。

コイツは本当に悟空や俺達を憎んでいるように見えた。
 「大人しく死んどけ。」

「何してんの、主人。」

ゴォォォォォォォ!!!
 
目の前が青い色の炎一色になった。

この青い炎は…。

「渡し守り!?」

青い炎の中から現れたのは、渡し守りだった。

勝手に式神札から出て来たのか!?

「何、やられてんの。潤!!お前も何やってんの!!」

現れた渡し守りは潤に向かって叫んだ。
 
「ヒッ!?ご、ごめんなさいっ!!」

「渡し守り、出て来たのか?」

俺がそう言うと、クルッと俺の方を向き睨み付けて来た。
 
「ご主人には、アイツ等の考えてる事や思いは分からないよ。」

「わ、渡し守り…?」
 
「ご主人はアイツ等を理解したいの?他人を理解しても分かり合えない事だってある。皆んな仲良くなんて、理想郷にしか過ぎない。そんな事はご主人だって、分かってるでしょ。」

俺は…、石の考えてる事を理解しようとしていた。

その代償に傷を負った。

石は哪吒の事が好きだと分かった。

アイツ等がどんな思いをして、俺達と戦ってんのか分からない。

だけど、俺達の邪魔をするなら…。
 
青い炎から距離を取る石に向かって、霊魂銃を構え弾を放った。

パァァァァン!!!

ブシャッ!!

銃弾が石の右足に当たった。
 
「石、俺達の邪魔をするなら戦うだけだ。俺達は俺達の目的があって旅をしてる。もう、大事な物を失わない為にだ!!」

「くだらない。大事な物を失わない為だって?笑わせる。」

石はそう言って、指を素早く動かした。

「太陽神聖(タイヨウシンコウ)。」

シュン、シュン、シュン、シュン、シュン。

石の周りに沢山の神々しい様々な武器達が現れた。

ヒノカグツチは、その武器を見て驚きながら言葉を放った。
 
「なっ!?あ、あれは…。どうして、神器達が!?」

「あらら、石ってば本気じゃん。本気で殺す気?」

風鈴は少し遠くの距離から石を見つめていた。

神器の光…?

クソッ、目が開けられない。
 
「何だよ、あの光はっ。」

「神さえも驚くか。僕が神器達を呼び出し、操れる事が。」

「お前は、人でもなければ神でもな…。っ!?お、お前達、もしや!?大罪を犯したのか!?」

ヒノカグツチの言葉を聞いた石は、フッと笑った。


同時刻、天界ー

霊堂の前に集まった数千人の憲兵達の前に、天部が立っていた。

「天帝が管理している霊堂、武器庫の守備範囲を強化しまします。」

「「「ハッ!!!」」」

天部が憲兵達に指示を出し、守備範囲を広げ強化をしていた。
 
「おい、観音菩薩。何、してんだ。」

霊堂の中を歩き回っている観音菩薩に、明王は声を掛けた。

「気になる事でもあんのか。」

「…。」

観音菩薩は明王の問いには答えず、霊堂に保管して
ある神達の遺骨の名前が書かれた巻き物に、目を通していた。

「おい!!聞いてんのか?」
 
「あぁ、聞いてる。少し静かにしてくれ。」

「お、おう…。」

シュルッ…。

物凄い速さで観音菩薩は巻き物に目を通す。

「まさか…。」

タタタタタタタッ!!!

「おい!?どうした!?」

「ない、ない、ない…。」

「ないって、何が?」

「…。明王、吉祥天以外の遺骨が何個か無くなってる。」

「なっ!?嘘だろ?毘沙門天の野郎は、他の神の遺骨も持ち出したのか!?」

カツカツカツ。

外にいた天部も霊堂の中に入って来た。

「明王、五月蝿いですよ。何かありましたか、観音菩薩。」

「天部、明王。世界の掟が崩れるかもしれん。」

「「っ!?」

観音菩薩の言葉を聞いた2人は驚きのあまり、言葉を失ってしまった。

「世界の掟が崩れ…って、どう言う事だよ!?」

明王はそう言って、観音菩薩に尋ねた。

「僕は毘沙門天がどうやって、哪吒達を作り出したのか引っ掛かっていたんだ。妖の血を使った以外に、器を作る必要があった筈だ。」

「もしや…。言いたくありませんが、遺骨を使ったのですか?」

「哪吒達の事を人と妖怪の半妖だと、思っていたけど…。本当は、人じゃなく神と妖怪の半妖だったと言う訳だ。」

「だから、哪吒等は神器を使えた…と言う事ですか?」

天部の言葉を聞いた観音菩薩は頷いた。

「神生みの儀式は伊邪那美命(イザナミ)様が亡くなったと同時に、禁止にされていた。これ以上、神が人よりも増えたら世界の理屈が変わってしまうからね。」

「だけど、毘沙門天は妖を使って神のような存在を作り出してしまった…と。」

「毘沙門天は本当に、この世界を壊して新しい世界の仕組みに作り変える気でいる。」

観音菩薩と天部の会話を静かに聞いていた明王が、言葉を放った。

「観音菩薩は、どうする気なんだ。」

「だからこそ、経文が必要なんだよ。経文を全て集め天竺(テンジク)に行かなければならないんだ。三蔵一行に。」

「今更なのですが、お尋ねしたい。何故、三蔵達が天竺に行かなければならないのですか?経文を集めるのは、我々でも良いのでは?」

天部はそう言って、観音菩薩に尋ねた。

「それが、運命だからだ。そして、これが三蔵達の最後の旅になる。そう言う契約をして、金蝉は生まれ変わった。悟空と金蝉の縁は、本来なら500年前に無くなる筈だった。」

「筈だった?」

明王が尋ねると、観音菩薩は言葉を続けた。

「金蝉はそれを拒んだ。人は亡くなり魂は、六道に辿り着く。天道にいる如意輪観音菩薩(ニョイリンカンノンボサツ)と契約をした。悟空との縁を繋げる代わりに、長い旅を経た後、縁を切ると。」

*六道とは、人は6つの苦しみと迷いの世界である。
[ 天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道 ]に輪廻転生すると、考えられる。*

「切れてしまった縁は戻らない。その縁を結び直す代償…と言う事ですか。」

「毘沙門天が封印した、鳴神の封印を解きます。」

「「っ!!」」

観音菩薩の言葉を聞いた2人は、目を丸くさせた。

「毘沙門天の封印を解けるのですか?観音菩薩よ。」

「実際に見てみない事には分からないけど、僕なら大丈夫だ。」

「未来が見えたのですね。」

「鳴神の復活が、この先の未来を変える。」
 
「分かりました。急いで、下界に降り為の扉を開放します。」

「いや、その必要はない。」

「え?」

天部の言葉を聞いた観音菩薩は、黒い札を取り出した。

「おいで、玄狐。」

ボンッ!!!

白い煙の中から、大きな黒毛の狐が現れた。
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