西遊記龍華伝

百はな

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第伍章 美猿王と悟空、2人の王

運命に抗え

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源蔵三蔵 二十歳

「どこですか、ここはぁぁぁぁぁああ!!」

女の声が耳に響いた。

うるせぇ…。

イラッと来た俺は起き上がり、口を開けた。

「うるせぇえ!!」

「ひぃ?!」

俺が叫ぶと、兎耳の女がビクッとし悲鳴の声を出した。

「おわっ!?びっくりした…。起きたのか、三蔵。」

「猪八戒?大丈夫なのか!?体は!?」

「いやいや、俺は大丈夫だけどさ。お前の方はどうなの?結構な大怪我しただろ。」

「そう言えば…、痛!?体がめちゃくちゃ痛てぇ!!」

全身に激痛が走った。

「起きるのが遅いぞ、三蔵。」

声のした方に視線を向けると、羅刹天が太々しく座っていた。

「羅刹天!?と…?」

知らない赤髪の男?

「あぁ、この人は如来。観音菩薩殿に頼まれて、天界から来てくださった。」

「お師匠!?それに、そこで寝てるのは水元?え、
え?じゃあ、ここは林杏さんのお店?」

「猪八戒が倒れたお前を抱えて、ここに来たんだ。それと、林杏さんは石達に攫われた。」

「攫われたって、どう言う事?」

俺がそう言うと、お師匠は状況を説明してくれた。

「毘沙門天が林杏さんを使って、吉祥天を復活させようとしてる…って事?」

「あぁ、吉祥天を復活させはならない。それから、お前の体には呪いが掛かったままだ。」

「呪い…って、風鈴との戦いで解けた筈だ。紋章だ
って無いんだよ?」

「自分の胸を見てみろ、江流。」

お師匠に言われた通りに、包帯を少し肌けさせて見た。

左胸に黒い蛇のタトゥーが入っていた。

「毒蛇、呪術だ。風鈴はお前が陰陽術を使う旅に、全身に毒が回るように呪術を掛けた。呪いを解くには風鈴を殺すしかない。」

ドクンッ。

つまり、俺は陰陽術を使えば死ぬのか?

急に死と隣り合わせの状況になってしまった。

風鈴が俺と接触して来たのは、最初からこの呪いを
掛ける為だったのか!?

くっそ…。

やられた。

俺はまんまと風鈴の作に嵌められた。

「風鈴の居場所を知るには、お前に一緒に行動して
貰う。術者と術に掛けられた者同士、術者がいれば体が反応する。」

「如来様、それは…。」

「口を出すな、和尚。己の運命は己にしか抗えぬ。」

「おい、三蔵のガキ。お前はそのまま、何もせずにいるのか。」

ガッ。

如来はそう言って、俺の腕を掴み起き上がらせた。

「観音菩薩は何百年も、未来に起こる厄災を潰し運命に抗って来た。俺はそんな観音菩薩の役に立つと決めた。お前はどうなんだ、三蔵。己の運命くら
い、己で抗い壊して見せろ。」

如来の最後の言葉は、まるで悟空のようだった。

悟空が今、俺の隣に居たら…。

「そのまま、何もせずにいるだけか。」
 悟空だったら、こう言う風に聞いてくるだろうな。

「ご、ご主人様は死なせませんっ!!」

ガシッ!!

兎耳の女が俺の腕を掴んだ。

「ご主人様?俺が?」

「う、潤(ウル)は、ご主人様の式神で、です。」

式神?

俺の式神だったのか、この子は!?

「やっぱり、君は潤だったか。」

「は、はい。前のご主人様…。」

「お前に渡した式神の1人だよ、江流。兎はかぐや姫の使いとされており、月の力を使える。潤の能力は、白夜と言う。」

お師匠はそう言って、潤の事を説明した。

「潤、俺は最初から死ぬつもりはねーよ。まだ、悟空達とも会えてない。風鈴を一発、ぶん殴ってやんないといけねーからな。一緒に行こうぜ、如来。」

俺はそう言って、近くにあった黒い布の羽織りを肩に掛けた。

「あ、待って。先に悟空達のいる闘技場に行ってからな!!」

悟空にもこの事を伝えておいた方が良いよな。

「了解、沙悟浄の様子も気になるしな。今すぐ、出発するか?」

「あぁ、今すぐ行こう。」

バンッ!!

扉が勢いよく開かれた。

扉の向こうには息を切らした鱗青だった。

「鱗青!?」

「はぁ、はぁ、林杏はどこだ!?」

「え?林杏さんは…。」

俺の言葉を聞かずに、鱗青は部屋に入り林杏さんの姿を探した。

「いない…。何で、林杏がいねーんだ。」

「あ?その女なら、石に攫われたぞ。」

「…、は?攫われたって、何だよ…。どう言う事だよ!?」

「毘沙門天の仕業だよ。俺に怒っても意味ねーぞ?」

「毘沙門天が!?クッソ、あの野郎!!」

羅刹天の言葉を聞いた鱗青は、苛立った。

「その血、悟空のだろ。」

「はぁ?あぁ、そうだよ。」

「どうやって、悟空の血を取った。」

ピシッ。

床に小さなヒビが入った。

猪八戒の方に視線を向けると、猪八戒の体から赤いオーラが出ていた。

「等価交換しただけだ。お前等の知ってるヤツじゃねーぞ、今のアイツは。」

「どう言う意味だよ。」

「ハッ。昔の仲間が、毘沙門天と牛魔王にめちゃくちゃにされてたんだよ。妖怪人間にされた仲間が美猿王の前に現れたんだぜ?牛魔王も出て来たし。」

猪八戒の問いに鱗青は答えた。

悟空の昔の仲間が、牛魔王が現れたのか?

本で読んでいて、悟空を慕っていた猿達の事だ。

そんな…、何だよ。

「許せねぇ。」

俺は自然とその言葉が出ていた。

「牛魔王の野郎、許せねぇ!!悟空に何してくれてんだよ!!」

「悟空はどこにいる、沙悟浄はどうしたんだ。」

猪八戒はそう言って、鱗青に尋ねた。

「沙悟浄は美猿王と一緒にいる。俺達はさっきまで、波月洞にいた。毘沙門天も牛魔王もそこにいる。」

「居場所が早く分かったな、行くぞ羅刹天。」

「俺に命令すんなや!!」

如来と羅刹天は言い合いを始めた。

「林杏を救う。その為には、アンタ等の力が必要
だ。案内する、波月洞まで。」

「お前の事はどうでも良い。俺達の良いように動いてくれれば、それで良い。」

「アンタ…、美猿王と性格似てるよ…。」

「観音菩薩の役に立てれば良いからな。」

如来と鱗青の会話は耳に入って来なかった。

悟空が大変な時に、俺は側に居られなかった…。

今、悟空はどんな気持ちでいるんだろう。

「三蔵、あんまり自分を責めんなよ。」

「え?」

「悟空を迎えに行こう。」

猪八戒はそう言って、俺の背中を軽く叩いた。

そうだ。

悟空に会いに行くのが最優先だ。

「ご主人様、その悟空って方はお仲間ですか?」

「そうだよ。俺達の大事な仲間だ。」

「ご主人様、潤も役に立ちますから。」

「頼りにしてるぞ、潤。」

俺の言葉を聞いた潤は、耳をピョンッと立たせた。
兎だな…、本当に。

「俺も行きます、如来。」

「お前も来んのかよ!?」

「江流が心配ですし、お前も俺のお守りしろよ。」

怒鳴る羅刹天にお師匠は、冷静に言葉を放つ。

「はぁ!?ふざけんなよ、お前!!」

「羅刹天、観音菩薩に言われただろ。」

「ぐっ、仕方ねぇな…。分かったよ。」

如来の言葉を聞いた羅刹天は、渋々だが了承していた。

「出発するぞ、三蔵とやらよ。」

「あぁ、行こう。」

俺達は波月洞に向かった。


波月洞ー

その頃、林杏は紫希にお風呂に入れさせられていた。

紫希はお湯の中に薬草を浮かべさせ、周りに蝋燭を立てていた。

林杏 二十七歳

「…。」

「ずっと黙ってるけど、苛々してんの?」

「当たり前でしょ。こんな所に連れて来られてるん
だから。」

「価値があるだけ良いんじゃないの?」

「はい?」

「産まれて来ても、価値のない物だってあるんだし。」

ポチャン…。

この女も、悲しい顔をするのね。

「まぁ、騒がれるよりは良いけど。」

死ぬ…。

このまま死んでたまるか。

「この白い浴衣に着替えて。」

黙って受け取とると、紫希が手慣れた手付きで浴衣を着せた。

今だ!!

ドンッ!!

あたしは紫希を湯船に突き飛ばした。

バシャ!!

「はぁ!?ちょ!?」

タタタタタタタッ!!!

あたしは急いで階段を上がった。

どこか、どこか…!!

どこか、隠れる場所は?

タタタタタタタ!!

後ろから走って来る足音が聞こえて来た。

ここに隠れよう!!

扉が開いていた部屋に入り、扉を閉め息を潜めた。

タタタタタタタ…。

「どこ行った?」

「探せ!!」

タタタタタタタ!!

どこかに行った…、みたいね。

それにしても、この部屋は?

部屋を見渡すと、オレンジ色の豆電球が部屋の中を照らしていた。

あ、この女の子…。

さっき、哪吒って呼ばれていた子だ。

石で出来たベットに寝かされているのかな…。

哪吒の体には、沢山の小さな機械みたいな物が付けられていた。

無かった腕がある…。

この子は一体…。

ヌチャ。

足にヌチャッとした感触がした。

何?

足元に視線を向けると、赤い血が床一面に広がっていた。

「ひっ!?」

あたしは思わず後ろに下がると、足元に何かが当たった。

ドサッ!!

「痛っ!!」

重い何かに躓いた。

ヌチャッ。

嫌な予感がした。

見てはいけない物をあたしは踏んでいる。

何…。

何なのよ。

あたしは恐る恐る踏んでいる物に視線を向けると、人間の死体だった。

それも何十人の人間の死体…。

「ヴッ!!」

吐き気がして来た。

「何なの…、一体…。それに、この部屋は実験室?」

見慣れない機械に、妖怪達の死骸。

異常だ。

この空間は異常だ。

これ以上、この部屋に居たらおかしくなる。

カタカタと震える体。

立ち上がろうとしても、足が言う事を聞いてくれない。

立て、立て、立て!!

ガチャッ。

扉が開かれ、現れたのは毘沙門天だった。

「あ、あ、ああ。」

「おやおや、こんな所にいたんですか。」

毘沙門天の服は血で真っ赤に染まっていた。

「こ、来ないで!!」

「大人しくして下さい。」

プスッ。

首にチクッと痛みが走った。

「大人しく寝てろ、女。」

プチッ。

あたしの意識はそこで無くなった。
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