西遊記龍華伝

百はな

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第伍章 美猿王と悟空、2人の王

羅刹天と法明和尚

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その頃、同時刻 杏庵丁ー

法明和尚 四十歳

「法明和尚お師匠…、呪いが解けています!!」

林杏と鈴玉の部屋にいた水元が、部屋の外にいる俺に声を掛けた。

タタタタタタタッ!!

俺が部屋に入ると、林杏と鈴玉の体にあった浮き上がっていた文字がななり、骨化していた腕も元通りになっていた。

「江流が、がしゃどくろを倒したのでしょうか…。」

「式神を持たせて正解だったな。水元、聖水と布を持って来てくれ。体を清める。」

「分かりました!!」

水元はそう言って、部屋を出て行った。

おかしい。

牛魔王の血を飲んだがしゃどくろが簡単に倒せるのか…。

それに、闘技場から禍々しい妖気を感じる。

何かが起ころうとしている。

「和尚。」

天狗のお面をした鴉天狗が現れた。

「鴉(からす)、どうかしたのか。」

鴉は俺の式神で、式神札から勝手に出て来る。

「妖と人ならざる者がここに向かって来ている。和尚に用があるみたいだが、どうする。」

俺は錫杖を手に取り窓から外に飛び出た。

「法明和尚お師匠!?ど、どうかしましたか!?」

「水元!!そこから動くなよ。」

俺がそう言うと、金髪のふわふわな髪を靡かせた女が現れた。

「この女、かなりの強者だぞ和尚。」

「分かってる。」

俺は錫杖を構え女に尋ねた。

「何にしにここに来た?目的はなんだ?」

「女を渡して貰う。」

女はそう言って、太刀を構え振り下ろした。

ドゴォォォーン!!

振り下ろされた瞬間、店に向かって地割が起きた。

俺は札を素早くばら撒き指を動かした。

「封!!」

そう言うと、水元達のいる店全体に結界が張られ攻撃を防いだ。

「隊長ー、お待たせしました。」

女の隣に金髪の男が現れた。

「風鈴、女を連れて来い。」

「女?あー、鱗青の女ね。毘沙門天様の命令?」

「分かってて聞いてるだろ、お前。」

「まぁねー。了解しました。」

タッ!!

風鈴は一瞬にして結界の目の前まで距離を詰めた。

鴉が風を操り風鈴を結界から引き剥がすが、風鈴は
ビクともしなかった。

「あ、これさっき見た式神と一緒か。鴉天狗を従わせてるんだー。さすが三蔵のお師匠だねー。」

三蔵…?

「お前、何で三蔵の事を知ってる。」

「さっきまで一緒だったからね。がしゃどくろの呪いが解けたでしょ?あれ、三蔵の仕業だから。」

がしゃどくろを倒したのは三蔵だったか。

だが、何故か妙な胸騒ぎがする。

コイツ等は毘沙門天側の人間だと言うのは、会話を聞いて察した。

タッ!!

「和尚!!」

鴉が俺に向かって叫んだ。

すると、女が俺に向かって太刀を振り下ろして来た。

キィィィン!!

女の太刀を俺が用意していた鎖のお陰で動きを止めていた。

それと、同時に風鈴と女の体も拘束した。

「心配すんな、鴉。俺がこんなガキ達にやられる
程、ヤワじゃねーよ。」

「隊長ー、馬鹿にされてますよ僕達ー。」

「風鈴。」

「良いんですかぁ?」

「やれ。」

鴉が男の体を斬り付けようとした時だった。

「おいで、蛇。」

ガブッ!!

ボォンッ!!

突然、巨大な蛇が鴉の頭をガブッと噛み付いた。

「鴉!!」

俺が叫ぶと、鴉は式神札に戻った。

「シャァァァァァァァ…。」

式神!?

「よーしよし、蛇ー。ついでにこの鎖を壊しちゃってー。」

「シャァァァァァァァ!!」

バキバキバキ!!

蛇は次々と鎖を喰い千切り女と男の拘束を解いて行った。

「な、何なんですか…。こ、この人達!?」

「コイツ等の狙いは林杏さんだ!!絶対に守れよ。」

「は、はい!!」

俺は水元に指示をし、霊魂銃を取り出した。

「風鈴、お前はあの店の中にいる男をやれ。」

「了解。」

タッ!!

女の指示を聞いた風鈴は、素早い動きで水元の元まで辿り着いた。

パンパンパンパンッ!!

俺は風鈴に向かって、銃弾を放った。

ブジャァ!!

風鈴の肩を銃弾が貫き地面に着地させる事が出来た。

「霊魂銃の弾って、こんなに破壊力があるんだ。」

グチャグチャ。

風鈴は肩に残った銃弾を抉(エグ)り出した。

女はそのまま俺に向かって走り出し、勢いを付け太刀を振り下ろした。

しまった!!

避けようにも太刀の刃が顔に当たりそうな瞬間だった。

「おらおらおらおら!!退きな、小僧!!」

頭上から女の声がした。

「は、はぁ?」

「さっさと退け!!お前の頭も斬り落とすぞ!!哪吒、貴様が哪吒か!!」

ドゴォォォーン!!

キィィィン!!!

鬼の角…、コイツは…。

「もしかして、羅刹天か?」

哪吒と呼ばれた女に羅刹天はかなり太い刀を振り下ろしていた。

「邪魔。」

「邪魔なのはテメーだよ、哪吒。悟空の役にも立てずに毘沙門天の言いなりか?」

羅刹天がそう言うと、哪吒の顔付きが険しくなった。

「あ?お前、毘沙門天のお人形なのに一丁前にヤキモチかっ!!!」

後ろから近付いて来ていた蛇を一刀両断した。

ブジャァァァァ!!

「グァァァァァァァアイァァア!!」

ボォンッ!!

巨大な蛇は悲鳴を上げながら札に戻って行った。

「おい、法明和尚!!何、ボサッとしてんだよ。」

「え、え?」

「観音菩薩のお気に入りなんだろ?なのに、なーにボサッとしてんだよ。あ?」

「いやいやいや!!状況が読めん!!何で、羅刹天がここにいるんだ?下界だぞ、ここは。」

「あ?わざわざ、展開から降りて来たんだろ?観音菩薩の頼みでな。」

「観音菩薩殿の…?」

天界でも何かあったのか…?

「天界でも、コイツ等の仲間が変な妖怪を呼び押せて、吉祥天の遺骨を持って行っちまったんだよ。観音菩薩がお前がいる白虎嶺に行ったんじゃないかって。俺を下界に落としたんだよ、あの野郎…。」

「吉祥天?!観音菩薩殿達が命懸けで封じていた遺骨を?!持ち出されたのか!?」

「毘沙門天が何百年も掛けて封印を解いていたんだと。ここの店の女を狙ってるんだよ.コイツ等。」

羅刹天はそう言って、哪吒達に視線を送る。

「女…って、林杏さんの事か?」

「理由は知らんが、碌(ロク)でも無い目的だろうな。おい、法明和尚。お前は俺様の邪魔にならないようにしていろ。」

「お、俺様…?じゃ、邪魔?」

「お前は何の為に今、戦ってんだ。」

何の為に…。

「毘沙門天を止める為に戦ってんじゃねーのか。俺はお前を守るように観音菩薩に言われてんだよ。」

「観音菩薩殿が?」

「アイツの直感はやたらと当たる。だから、お前の事も何か感じて俺を下界に降ろしたんだろ。」
だから、タイミング良く羅刹天が到着したのか。

「退け!!」

ドンッ!!

羅刹天が俺の体を蹴り倒した。

「痛!?」

キィィィン!!

哪吒の太刀を羅刹天が受け止め斬り合いが始まっていた。

「ちょっと、本気出そうかなぁー。」

風鈴がそう言うと、蜂の式神を何百台も出していた。

「毘沙門天様の命令は絶対なんだよね。僕も毘沙門天様の作る世界は見たいからね。」

「アハハハ!!何?お前、舐めらてんじゃねーか!!」

風鈴の言葉を聞いた羅刹天はゲラゲラと笑い出した。

確かに、哪吒達は俺の事を舐めてる部分はあった。

おいおい、俺は江琉の師匠でもあり観音菩薩殿に認められてんだぞ。

こんなガキに本気になるのは大人気ないが、仕方ない。

俺は煙管を咥え、深く煙を吸い込む。

「悪いが、林杏さんを連れて行かせる事は出来ない。それにお前達には正しい教育が必要だ。」

俺はそう言って、式神札を取り出し式神を呼び出した。

ボンボンッ!!

現れたのは、口輪した獣人(ジュウジン)2体。

「「お呼びか、主人よ。」」

「へぇ、三蔵に渡してない式神もあったんだね。」

「あの式神は三蔵の物だ。だが、コイツ等も鴉も強
いぞガキ。」

パサッ!!

グサッ!!

風鈴の肩にカラスの羽根が刺さった。

「すぐに出て来て大丈夫かー?鴉。」

俺の上を飛んでいる鴉に声を掛けた。

「平気じゃよ。この小僧に一泡吹かせてやらんと、気が済まぬ。」

ブゥゥゥゥン。

風鈴の出した式神の蜂が俺に向かって飛んで来た。

だが、獣人の式神達が刀で斬り落とし風鈴に向かって言った。

「おいで。」

ドゴォォォーン!!

再び地面から巨大な蛇が現れた。

「おいおい、また蛇を出したのかよ。」

「うん、僕も本気だって、言ったでしょ。緊縛。」

風鈴が指で銃を撃つようなポーズをした。

呪術か!!

俺は素早く手を叩き一喝した。

シュィィィィンッ!!!

「お前、呪術師か。」

「あれ?バレちゃった?」

半妖の者が呪術を使えるなんて、聞いた事ないぞ。

「悟空にお前は相応しく無い、下品な鬼め。」

哪吒がそう言うと、羅刹天から赤いオーラが出て来て、空気が重くなった。

額にある角も長くなっていた。

「あぁ?テメェ、何つった。」

「聞こえなかったのか?お前に悟空は相応しくない。」

「その言葉、そのまま返してやるよ半妖が。」

やばい、羅刹天がめっちゃ怒ってる!!

「決めた。お前は俺がぶっ倒す!!!」

ビュンッ!!!

羅刹天は物凄い速さで哪吒に斬り掛かった。

バンッ!!

ブジャァァァァ!!

哪吒の左腕が吹き飛んだ。

「次は足だ。」

羅刹天はそう言って、刀に付いた血を舐めた。


法明和尚と羅刹天が戦っている中、部屋の中に石と
紫希が到着していた。

「ゔ!!」

ドサッ。

石が素早く水元の脇腹を殴り、水元が倒れた。

目を覚ました林杏は眠っている鈴玉を抱き締めていた。

「貴方にお伝えしたい事があります。」

「な、何なんですか?」

「アンタの男が危ないんだよねー。」

「え?」

紫希の言葉を聞いた林杏が顔を上げた。

「貴方の為に、彼は死のうとしています。我々を裏切り悪い妖の血を貴方に飲ませようとしている。呪いを解く為に。」

「彼に何をしたんですか。」

林杏はそう言って、石を睨み付けた。

「彼には貴方が必要だ。助けたいのなら、我々と一緒には来て下さい。その子供には危険があります。貴方だけに用があります。」

「…。鈴玉に手を出したら許さないから。」

「しないって言ってんでしょ。」

紫希は空間に歪みを作り扉を出した。

「さぁ、来て下さい我々と。」

「貴方達の為じゃない。鱗青を助ける為よ。」

差し出された石の手を取り、林杏は時空の扉の中に入った。
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