西遊記龍華伝

百はな

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第伍章 美猿王と悟空、2人の王

バトルロワイヤル開催 肆

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孫悟空ー

ハッ!!

俺は勢い良く空を見上げた。

一瞬、嫌な予感が俺の体に触れたのだった。

「どうかしたのか?」

「いや…。嫌な感じがしただけだ。」

俺の勘違いか?

いや、今まで俺の勘が間違った事はなかった。

「悟空の腕のアクセサリーが光ってるぞ。」

「光ってる?」

沙悟浄に言われて、羅刹天に貰った数珠に視線を送った。

「悟空か。」

頭の中に羅刹天が話し掛け来た。

「羅刹天か、どうかしたか?」

「天界で毘沙門天の手下が暴れてるんだよ。俺も駆り出されて天界に来てるんだけど、そっちはどうだ。」

手下…。

哪吒と一緒にいた男の事か。

「こっちは今の所は問題ねーけど、結界張られて外に出れない状況だ。」

「出れない?どこかにいるのか?」

俺は闘技場にいる事、賞品が経文である事を話した。

「成る程、妖怪達の死体をいっぺんに集めるのには効率が良いな。」

「何かしようとしてんのか、毘沙門天は。」

「吉祥天と言う神の遺骨が持ち出されてな?毘沙門天の目的は吉祥天を復活させる事だ。闘技場に集めたのも奴の目的の1つだろう。経文をダシに使い、悟空を呼び寄せるのも目的だったに違いない。」

毘沙門天はそんな単純な事をする為に、爺さんを殺したのか。

「俺は奴がそんな単純な事だけで動いてるとは思っていないけどな。」

「悟空の考えが合ってるだろう。俺の数珠があるとは言え、何かあったら気休めにしかならねぇ。俺は暫くは天界からは出られない。」

「了解。」

羅刹天の話を聞いて、1つだけ疑問に思った事がある。

毘沙門天と牛魔王はどうして手を組んだ?

牛魔王も吉祥天を復活させたいのか?

あの糞野郎の考えは…。

「おい、どうしたんだ?」

沙悟浄に声を掛けられて、俺は我に帰った。

「羅刹天が俺の頭の中に話し掛けて来たんだよ。」

俺は沙悟浄に羅刹天とした話をした。

「吉祥天って…、毘沙門天の伴侶だった奴か?」

「伴侶…?」

「あぁ、吉祥天は毘沙門天の伴侶だったんだが。彼女の性格が我儘で傲慢で、とにかく最悪の神だったらしい。」

我儘で傲慢…。

「嫌な女だな。」

「まー、俺も聞いただけだし。」

「見た事ねーの?」

「ないよ。だって、吉祥天が生きてたのは俺の産まれる前だよ。」

沙悟浄は見た事はないのか。

「3335番!!決勝戦を始めますので、こちらに来て下さい!!」

俺達の姿を見つけた河童の妖怪が声を掛けて来た。

「お、俺達の番だな。羅刹天の言う通り、注意しといた方が良いな。」

「経文を取って、さっさとここから出てーからな。」

コキッ。

俺はそう言って、指を鳴らし決勝戦が行われる中央舞台に上がった。

「お待たせ致しました!!只今より決勝戦を行います!

右方の3335番、左方の5675番は武器を構えて下さい!!」

「「「ワァァァァアアア!!」」」

河童の妖怪の言葉を聞いたギャラリー達が盛り上がった。

いつの間にか、経文狙いで来た妖怪達が観客側に回っていた。

「コイツ等、何しに来たんだよ…。」

「戦いに来たけど見てる方が楽しくなったんじゃないか?ほら、俺達が勝つかアイツ等が勝つか賭けてる。」

沙悟浄に言われ周りに目を向けると、金貨を持った妖達が騒いでいた。

「見せ物じゃねーぞ、こっちは。」

「毘沙門天の姿がないけど、主催者がいなくて大丈夫なのか?」

「どこかしらで見てるだろ。アイツがこの試合を見ない訳がないからな。」

沙悟浄と話していると、どこからか視線を感じた。

まただ。

また、この視線だ。

どこから見てる。

殺意はなく、面白い物を見ているような気持ち悪い視線を度々、感じていた。

この闘技場に入ってから、俺は誰かに見られる。

どこだ、どこから俺を見てる。

キョロキョロと視線だけを動かすが、怪しい奴は見当たらない。

こうやって、アッサリと決勝戦に行けたのもおかしい気がして来た。

対戦相手は俺に水をくれた火傷の跡と縫い目だらけの男に、顔に包帯を巻いている男だった。

包帯の男からは嫌な雰囲気を漂わせている。

俺はコソッと沙悟浄に耳打ちをした。

「沙悟浄。」

「分かってる。今までの奴等とは違うのが分かる。」

「それでは、試合開始!!!」

河童の妖怪はそう言って、手を上げた。

手を上げた瞬間に包帯を顔に巻いた男が沙悟浄に向かって、走って来た。

男は素早い動きで沙悟浄に剣を振り下ろして来た。

ビュンッ!!

キィィィン!!

「あっぶねーな…。」

タッ。

大鎌を持った火傷跡だらけの男も何故か、沙悟浄を狙って鎌を振った。

ブンッ!!

俺は三節棍を使い、鎌の刃の方向をずらした。

キィィィンッ。

コイツ等、沙悟浄を狙って攻撃をして来てる。

何で沙悟浄を集中攻撃してるのかは、分からないが怪しいのだけは分かる。

「ハッ!!」

沙悟浄も槍を使い2人から距離を取った。

「平気か、沙悟浄。」

「あぁ。俺の事を狙って来てるよな…、あの2人の作戦か何かだろうけど。」

本当に作戦なのか…。

いや、何かある。

俺は勢いを付け包帯を巻いている男に向かって、三節棍を振り下ろした瞬間だった。

キィィィン!!

火傷跡の男が鎌を持っている手を持ち変え、刃の先を向け俺の喉に向かって振り下ろして来た。

「させねーよ。」

沙悟浄はそう言って、槍を振り回して鎌の刃を弾き包帯の男に向かって回し蹴りをした。

ガシッ!!

だが、火傷跡の男が沙悟浄の足を掴み壁に向かって投げ飛ばした。

ビュンッ!!

ドゴォォォーン!!

「なっ?!」

動きが見えなかった。

包帯の男から黒い霧みたいな物が出ていた。

「いってぇ…な。」

服に付いた砂埃を払いながら沙悟浄は立ち上がった。

「「「ワァァァアァァァァァア!!」」」

沙悟浄の姿を見た観客が騒ぎ出した。

「おや、盛り上がっているようですね。」

毘沙門天が何を喋ったのかは分からないが、チャイナドレスを着た哪吒がいた。

哪吒の様子がおかしい事に気が付いた。

沙悟浄の屋敷で見た哪吒だった。
操られてるのか?

哪吒が毘沙門天に操られてるのなら、経文を見つけられなかったって事だ。

「よそ見する余裕があるんだなぁ、悟空。」

その声を忘れた事はなかった。

憎くて殺したくて仕方のない男の声が、俺の耳に届いた。

俺は三節棍を包帯の男に向かって、叩き付けていた。

ドゴォォォーン!!

包帯の男は地面に強く叩き付けられたのに、傷一つ付いていなかった。

何故なら、三節棍を受け止めいたのは火傷跡の男の鎌だった。

包帯の男は地面に倒れているのに、顔に当たらないように刃を浮かせていた。

「テメェ、邪魔すんじゃねーぞ。」

俺はそう言って、火傷跡の男を睨み付ける。

「あははは!!!まだ、俺の事が分からないの?」

包帯の男は言葉を放った後、俺に向かって手を伸ばして来た。

「離れろ!!」

グイッ!!

沙悟浄が俺の腕を掴み、包帯の男から引き剥がした。

その瞬間、黒い影が伸びて俺達に攻撃して来た。

「「「ワァァァアァァァァァア!!」」」

「良いぞー!!」

「もっとやれ!!」

観客達は俺達が影の攻撃を避けているのを見て興奮していた。

だが、黒い影は騒いでいる観客達の頭を吹き飛ばした。

ビュンッ!!

ブシャッ!!

「え?」

「うわぁぁぁぁあぁあ!?」

1人の妖怪が騒ぎ出すと、会場中はパニックに落ちた。

「5、5675番!?何をしてるんですか??!」

河童の妖怪が慌てて包帯の男に近寄ろうとしていた。

「殺せ。」

包帯の男がそう呟くと、火傷の男が大きく鎌を振るった。

ブシャッ!!
  
河童の頭が吹き飛んだ後、血が噴き出した。

「おいおい、まさか…。」

沙悟浄も包帯の男の正体に気付いたみたいだな。

「久しぶりだな?悟空。500年振りか?」

包帯の男はそう言って、顔に巻いていた包帯を解いた。

パサッ…。

「牛魔王…、テメェだったか。」

「俺がここにいる事は気付いてたろ?俺の仲間が世話になったみたいだなぁ?」

牛魔王は嫌味を含んだ言葉を放った。

仲間と言うのは六大魔王の事、黄風達の事を言っているんだろう。

だが、俺の体は勝手に動き牛魔王に向かって三節棍を振り下ろした。

ビュンッ!!

ガッ!!

三節棍は影の壁に動きを止められていた。

「俺の話は無視かよ?つれないんじゃねーの?」

「馬鹿にしてんのか?馬鹿にすんのもいい加減にしろよ。」

「馬鹿にしてんのはお前だろ?」

「悟空!!」

沙悟浄が後ろから牛魔王に向かって、槍を飛ばしているのが視界に入った。

俺は素早く牛魔王から離れると、牛魔王の目の前で槍の動きが止まった。

影が槍に巻き付き動きを止めていた。

「やっぱり、ただ投げ飛ばしただけじゃ駄目か。」

「牛魔王は簡単に殺せねーよ。」

「だよな。こんなんじゃ、試合どころじゃないよな。そろそろ変化の術を解いた方が良いな。」

「俺等の存在もバレてるみたいだし。」

俺達は変化の術を解いた。

「お、おい、あれって。」

「美猿王じゃないのか!?」

「本物がこの試合に出ていたのか!?」

観客達が俺の姿を見て声を上げた。

「やっぱり、お前は目を引く存在だよな?」

牛魔王はそう言って、火傷跡の男を見た。

火傷跡の男は観客席に飛び移り、次々に妖怪達を斬り始めた。
「ギャァァァァァ!!」

「や、やめてく…。アガァアア!!!」

「く、くるなぁぁぁぁ!!」

妖怪達は観客席の中を逃げ回るが、火傷跡の男は次々に斬り刻んで行く。

何なんだ?

あの男は…。

無表情のまま、妖を斬り刻んでいる。

訳の分からない光景が目の前に広がり、赤い血が闘
技場を染め上げた。

何なんだよ、一体。

「お前は妖を殺す事が目的で来たのか?」

「それは毘沙門天の目的だなぁ。俺の目的?あははは!!そんな事を聞くようになったんだぁ?」

「悟空は普通に聞いてんだろ、何がおかしい。」

俺の言葉を聞いて笑い出した牛魔王を、沙悟浄が睨み付ける。

笑っていた牛魔王がスッと顔を変え、小さく呟い
た。

「気に入らねーな。やれ、丁(チョン)。」

丁…?

俺は牛魔王の小さな声を聞き逃さなかった。

ビュンッ!!

火傷跡の男が沙悟浄に向かって、飛んで来た瞬間に鎌を大きく振った。

沙悟浄は近くにあった槍を取り、攻撃を受け止めた。

キィィィン!!

「テメェ、何で丁の名前を出した。」

「あれ?何、怒ったの?」

「良いから、答えろ!!」

嫌な予感がした。

俺の予感と違う言葉を言ってくれ。

「目の前にいるだろ?生まれ変わった丁が。」

牛魔王の言葉を聞いて、俺は再び火傷跡の男に視線を向けた。

繋ぎ合わされた縫い目、沢山の火傷の跡。

「嘘だろ…?丁、なのか?」

俺がそう言うと、ゆっくりと火傷跡の男が振り返えった。

そこにいたのは俺の知らない丁の姿で、人間の姿をしていた。

「テメェ、丁に何したんだ。」

俺の中の何かが、音を立てて切れた。
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