西遊記龍華伝

百はな

文字の大きさ
上 下
66 / 134
第伍章 美猿王と悟空、2人の王

バトルロワイヤル開催 弐

しおりを挟む
悟空と沙悟浄が1回戦を終えた頃、三蔵と猪八戒は杏庵に向かっていた。

源蔵三蔵 二十歳

杏庵に到着した俺達は、外で一服しているお師匠に声を掛けた。

「お師匠!!」

「おー、江流と猪八戒。」

お師匠は目の下に大きなクマを作っていた。

「悟空と沙悟浄は?」

「2人なら野暮用で出掛けてるよ。俺達は林杏さん達の様子を見に来たのと、がしゃどくろの居場所を探ろうと思って。」

「そうか。がしゃどくろをどうにかしない限りは呪いを解くのは難しいな…。2人の体疲弊し始めているし、早く手を打たないと…。」

お師匠の様子を見て、昨日から何も変わってないのが分かる。

カラン、カラン。

開かれた扉の先にいたのは鱗青だった。

「何だ、来てたのかお前等。」

「林杏さん達の様子は?」

俺は鱗青に声を掛けられたので、林杏さん達の様子を伺った。

「変わらねぇよ。」

鱗青はそう言って、歩き出した。

「お前等が出てった後もずっと、下にいたよ。何か考え事してたみたいだけど。」

お師匠の言葉を聞いて嫌な予感がした。

悟空に何がするつもりなのか?

「法明和尚お師匠!!江流は来てますか!?」

水元が慌ただしく店から出て来た。

「うわっ?!」

いきなり扉が開いたからビックリした…っ。

「江流?来てるけど、どうかしたのか?」

お師匠はそう言って、水元に尋ねた。

「実は林杏さんが江流とお話ししたいみたいで…。」

「え?お、俺と?」

何で、林杏さんが俺と話を?

「分かった。江流、部屋に行ってやれ、猪八戒は下で待ってろ。結界の中には妖は入れないからな。」

「アンタがいるなら安心か。なら、俺は周囲を見て来ても良いか?すぐ戻るから。」

「分かったよ、気をつけてね?」

「大丈夫だって。」

猪八戒は手を振りながら周囲の探索に向かって行った。

俺は水元に林杏さん達がいる部屋に通され、お師匠は部屋の外に待機していた。

部屋の中に入ると、林杏さんは寝たまま俺に声を掛けた。

「貴方が、三蔵さん?」

「どうして、俺の名前を?俺と貴方は初対面ですよね…。」

 「昨日、鱗青から聞いたの。貴方といる悟空さん達の事も。」

「何んて言ってたんですか?」

俺はベットの横にある椅子に腰を下ろした。

「鱗青お兄ちゃんは、僕達を助けようとしてくれてるだけなんだ。」

鈴玉君は寝たまま言葉を放った。

「鱗青お兄ちゃんは、お兄ちゃん達にも辛い思いをさせない方法を探してるんだ。」

「辛い思い?」

「鱗青は、私達には何にも言わないけど…。だけど、悟空さんには悪い事をしたって言っていたわ。」

林杏さんは少し間を置いてから再び話を続けた。

「今の俺なら悟空さんの辛さを分かるって…。許されない事をしたって。」

「鱗青お兄ちゃんは、お姉ちゃんと仲良くなってから変わったんだ。僕、鱗青お兄ちゃんが悪い人でも好きだよ。」

「三蔵さんにお願いがあって呼びました。」

林杏さんはそう言って、重たい体を横に寝転ばせ俺の顔を見た。

「鱗青を止めて下さい。」

「どう言う事ですか…?」

「鱗青、武器を持って出て行ったの。出て行く前に私達に全てを終わらすと言っていました。もしかしたら…、このまま鱗青が帰って来ないような気がして…。」

ガタッ!!

俺は立ち上がってしまった。

「あの人を助けて下さい。」

林杏さんの目から涙が流れていた。

「私達の所為であの人を苦しませたくないんです。」

「林杏さん、今は少しでも良いから眠った方が良い。鈴玉君も少し寝たほうが良い。」

鈴玉君の体に布団を掛け直し部屋を出た。

部屋の外にいるお師匠に俺は小声で話し掛けた。

「鱗青が悟空に何かしようとしてる。その前にがしゃどくろの居場所を掴んで来るよ。」

「分かった。お前にこれを渡しとく。」

お師匠はそう言って、式神の札を何枚か渡した。

「これって、式神の?」

「観音菩薩殿が送って来てくれていたんだ。白虎嶺でお前と会うだろうからって。」

式神か…。

今まで使った事がなかったな。

それにしても!

観音菩薩はどこまで俺達の行動を読めてんだよ!?

怖いわ!!

って、今は猪八戒と合流するのが先だ!!

「ありがとう、お師匠!!猪八戒の所に行って来る!!」

俺はそう言って、杏庵から出た。


三蔵が店を後にした頃、水元と法明和尚は話をしていた。

「法明和尚お師匠、江流達は大丈夫なのでしょうか…。」

「がしゃどくろを退治するのは簡単じゃないだろうな。牛魔王の血は妖怪の力を活性化させる。それにがしゃどくろは人を食い過ぎている。」

「人を食べ過ぎた妖怪は強大な力を得てしまうんですよね?」

「神は乗り越えれない試練を与えないと言うが…、
これはまた難儀な問題だ。俺達は林杏さん達に付いていよう。今はそれしか出来ないからな。」

「はい…、分かりました。」

水元と法明和尚は再び林杏達のいる部屋の中に入った。


三蔵が店を出る少し前、猪八戒は鱗青を呼び止めていた。

「おい、アンタ。」

猪八戒の声を聞いた鱗青は足を止めた。

「何だよ。俺に用か?」

「あー、アンタ個人に釘を刺しとこうと思って?」

「…。」

黙っている鱗青に近寄り猪八戒は睨むように視線を投げる。

「悟空にちょっかい掛けんなよ。」

猪八戒の言葉を聞いた鱗青は持っていたナイフを構えた。

それと同時に猪八戒も紫洸を構えていた。

「俺の邪魔をする気か。」

「呪いを解くのを止めるつもりはねーよ。だけど、
俺の仲間に迷惑掛けるような事をすんなって言ってんだよ。」

「アイツは、良い仲間を持ったな…。」

鱗青はそう言うと、ナイフを下ろした。

「お前等の所とは違うだうな。悟空にお前の事情に付き合わせるな。」

「俺はアイツに対価を支払って、不老不死の血を貰う。」

猪八戒の顔付きがスッと変わった。

紫洸を握る手に力が入る。

「悟空の血を貰う?ふざけるな、悟空に迷惑掛けるなって言ったよな?俺の言った意味が分からないのか。」

「対価を支払うと言っただろ。不老不死の血を貰う代わりにそれと同様の対価を支払う。」

「妖同士の暗黙のルール?だったか?結局、悟空に頼らないと駄目なのかよ。」

鱗青は猪八戒から視線を逸らした。

「俺達、下級の妖は上級の妖に縋(スガ)るしかねぇ。がしゃどくろを殺せない俺は、どんなに無様でも少しでも可能性がある方に縋るしかないだろ?!」

「そんなに、牛魔王が怖いのか。」

猪八戒の言葉を聞いた鱗青の体が震えた。

「牛魔王は誰にも殺せない存在だ。俺は…、お前に恨まれてもアイツに頼みに行く。」

タタタタタタタッ!!

鱗青は猪八戒に声を掛けられる前に走り去ってしまった。

猪八戒は乱暴に自分の頭を掻いた。

「ッチ、どうしたら良いんだよ…。」

「どうかされました?」

「え?」

猪八戒の目の前に現れたのは黒髪を靡かせた女性だった。


同時刻、闘技場にてー

哪吒太子ー

タタタタタタタッ!!

手当たり次第、部屋を見て回っているけど…。

経文はどこだ?

毘沙門天様に居場所を察知される前に見つけたい。

あの人の役に立ちたい。

きっと、私が牛魔王邸から抜け出した事はバレてる。

捜索隊の妖達が闘技場内にいる事も分かっている。

早く、早く見つけないと…。

「ワァァァアァァァァァア!!」

外から歓喜の声が上がっていた。

「またしても3335番の勝利です!!」

「すげー!!アイツ等、まだ5分も経ってないぞ!?」

「これは3335番が有力か?」

外に目を向けると、悟空の姿が見えた。

あの人がこんな妖達に負ける筈がない。

私と同等にやり合えるのもあの人だけだ。

ズンッ。

何かの気配を感じた。

私は気配の感じた部屋に向かって歩き出した。

この…、部屋からか。

恐る恐るドアを開けると、沢山の巻き物が部屋に保管されていた。

ここは書物部屋か?

私は書物部屋に入り経文を探し始めた。

ガサ、ゴソ、ガサ…。

ない、ない…。

ここにも経文はないのか…?

そんな事を思っていると、高級そうな箱が目に入った。

あれは…。

毘沙門天様が経文を入れていた箱だ。

あの中に経文が…。

そう思い手を伸ばした瞬間だった。

体の自由が失われた。

何…、これ?

視線だけで周りを見渡すと、梵字が書かれた紙が至る所に貼られそこから糸が出ていた。

糸が私の体に巻き付いていた事に気が付くのが遅かった。

カツカツカツ…。

この足音は…。

「自由な時間は楽しめたか哪吒。」

「毘沙門天様…。」

やっぱりこの部屋に罠を仕掛けていたか。

毘沙門天様はわざと私を泳がせこの部屋に誘導した。

「やっぱり経文を探していたのか。あの男の為に。」

グイッ。

毘沙門天様はそう言って、私の顎を乱暴に掴み上に上げた。

「痛め付けても分からないみたいだな?そんなに悟空の事が大事なのか?」

「…。」

「黙っているのも良いが、お前と悟空が同じ道を歩む事はないんだよ。私の物である限りはね、そうだろ哪吒。」

「はい…、分かっています。」

「そうか、なら。」

パチンッ。

毘沙門天が指を鳴らした。

その瞬間、私の意識がなくなった。



「聞こえるか哪吒。」

毘沙門天が呼び掛けると哪吒は顔を上げた。

哪吒の目は虚(ウツロ)で意思のない人形のようだった。

「はい、毘沙門天様。」

「お前の意思は閉じさせて貰った。私の物なんだから構わないよね。」

「はい、毘沙門天様。」

「これからは勝手な行動はするな。私の命令は絶対だ、分かっているな。」

「はい、毘沙門天様。」

哪吒は同じ言葉を繰り返すだけだった。

「そんな格好はお前に合わない。さ、おいで。」

毘沙門天は哪吒の肩を抱き書物部屋を後にした。


ワァァァアァァァァァア!!

闘技場が歓喜の声が上がっている中、悟空はバッと建物の方に視線を向けた。

「どうかしたのか?」

沙悟浄はそう言って、悟空に声を掛けた。

「いや、嫌な感じがしたんだけど…。何でもない。」

「そうか?まだまだ試合をしなきゃいけないし、今のうちに休んどけよ。」

「分かってる。」

「左方も盛り上がってんなー。」

沙悟浄は言葉を言い終えた後、左方に視線を向けた。

「えらい盛り上がってるな。」

「おい、また顔色が悪いぞ?ほら、日陰で休んとけ。」

「思ったより、毘沙門天の結界が体に影響を与えて
るのかも。」

「俺は何ともないんだけどな…。」

「あ、3335番の方、ちょっと宜しいですか?」

沙悟浄に声を掛けて来たのは河童だった。

「次の試合の流れを話しておきたいのですが…。」

「あぁ、分かった。ちょっと待っててくれ。」

悟空に声を掛けた後、沙悟浄は少し離れた距離で話をしていた。

沙悟浄に指摘された通り、悟空の唇が真っ青だった。

「あーだりー。」

「大丈夫ですか?これ、どうぞ。」

座り込んでいる悟空に声を掛け来たのは左側に火傷の傷がある男だった。

悟空はこの男とぶつかった時の事を思い出した。

「あ、お前…。」

「水です。飲めますか?」

「あー、どうも。」

悟空は水を受け取り、水を口に流し込んだ。

バシャッ。

水を飲んだ拍子に顔に水が掛かってしまった。

「うわっ。」

「あ、大丈夫ですか?」

男はそう言って、悟空の顔を布で拭いた。

「親切にどーも。」

「まだ、顔色が良くない。」

悟空は男の顔を見て吹き出した。

「プッ、何だよお前、そんな心配そうな顔しやがって…。」

「え?え?面白いですか?」

「あぁ、この中では面白いかもな。」

悟空はそう言って、残りの水を飲み干した。

沙悟浄か悟空に向かって手招きをしていた。

それを見た悟空は男にお礼を言って、沙悟浄の元に向かって歩き出した。

男は悟空の背中をジッと見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...