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第四章 三蔵一行旅事変
経文合戦 弐
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沙悟浄は、何が起きたのか理解したくなかった。
頭の中で理解が追いつかない中、沙悟浄の体は勝手に動いていた。
「来ないで捲簾!!」
玉が沙悟浄に向かって叫んだ。
「捲簾!!ちょっと、待て!!!」
猪八戒はそう言って、沙悟浄の服を強く掴んだ。
グイッ!!
「おい、何すんだ?!」
「頭!!今、近付いたら駄目だよ!!」
緑来も姿を煙から人の姿に戻り、沙悟浄の前に出た。
「邪魔すんなよ、緑来!!玉が刺されてんだぞ!?」
「玉の周りを見てよ、頭!!」
沙悟浄は緑来と共に玉の周りに視線を向けた。
ジャキッン!!!
玉の周りには光の鎖が沢山張り巡らされていた。
光の鎖は玉の体にも巻き付いており、体を自由に動かせないでいた。
「さっき見た鎖…か?」
「あれに触っちゃ駄目ですよ沙悟浄さん!!」
大声を出したのは黒風だった。
「あれは、陰陽師術の結界です!!あれに触れたら体が焼けます!!」
「結界だと…?あの野郎、玉に近寄らせなうようにしてんのか。」
沙悟浄はそう言って、哪吒を睨み付けた。
「攻撃しても弾かれてしまうと思います。陰陽師の術は妖怪を殺す技でもありますから…。」
「妖怪を殺す…。嫌な術だな頭。」
黒風の言葉を聞いた緑来は、沙悟浄に言葉を投げた。
「頭っ。」
結界の中にいる陽春は沙悟浄の方向を見つめていた。
陽春の視線の先にいる沙悟浄を見つけた悟空は、陽春に向かって言葉を放った。
「お前、あっち側に行け。」
「はっ?どうやって行けば良いのよ?この結果って、陰陽師の術なんでしょ?さっきアレに縛られた事あるけど、身動きが取れなくなるし、肌も焼けるし…。」
「ブツブツうるせーな。お前、ここにいても俺の役に立ってねーだろ。」
「なっ!?何なんのよアンタ!!!」
「実際にそうだろ。俺が結界から出してやるに決まってるだろ。」
「えっ?!」
悟空はそう言って、如意棒を鎖の間を抜けれくらいの長さに伸ばした。
ビュンッ!!!
哪吒が陽春に向かって走って来た。
「う、うわぁあっ!!きたぁぁぁあ!!」
「ッチ!!さっさと影になって行け!!!こっちは忙しいんだよ!?」
「わ、分かったわよ!!!あ、ありがとう。」
シュシュシュシュッ。
影の姿になった陽春は如意棒を登って行った。
結界から出た事を確認した悟空は、如意棒を縮め哪
吒の攻撃を抑えた。
沙悟浄ー
どうしろって言うだよ。
近寄ろうにも今の俺は妖だから、結界を壊す事も出来ない。
あの女は玉の事を経文って言っていた。
玉を殺す事がアイツ等の狙いなのか?
だから、ここに来たのか?
パンパンパンッ!!
銃声が耳に届いた。
「玉に近寄るんじゃねーよ。」
銃弾を放ったのは金蝉だった。
「三蔵さん!!」
黒風は金蝉を見て三蔵と言う名前を叫んだ。
「三蔵…?」
「金蝉の生まれ変わりなんだよアイツ。俺ももう、天蓬じゃねーしな。」
「天蓬じゃねーなら何なんだよ。」
「妖怪喰いの猪八戒。お前も沙悟浄になっちまったもんな。」
そう言って、天蓬こと猪八戒は銃を構えた。
「猪八戒さん?!何するつもりですか?」
「何するも何も…、壊すに決まってんだろ。」
「え、えぇぇぇぇ!?壊す気ですか?!結界を!?」
猪八戒の言葉を聞いた黒風は驚きを隠せないでいた。
「何もしないままボーッと見るつもりはないんだ
ろ?沙悟浄。」
猪八戒はそう言って、俺を見つめて来た。
何をボーッとしていたんだよ俺は…。
パシッ!!
俺は思いっきり自分の両頬を叩いた。
「頭!?」
「さ、沙悟浄さん!?」
両頬がヒリヒリした感触が残ったまま、鏡花水月を構えた。
「邪魔すんじゃねーぞ。糞野郎が。」
ゾクッ!!!
殺気を感じた俺達は石の方に視線を向けた。
俺達に睨みを効かせながら紫色のオーラを放っている石がいた。
石は刀を構え、「一揆乱刹那(イッキランセツナ)。」と言って一気に振り上げた。
振り上げた刀から刀の形をした紫色の刃が、無数に俺達の方に飛んで来た。
スッ。
俺の前に出たのは槍を持った緑来だった。
「緑来!?」
「頭、行ってくれ。」
そう言って緑来は、紫色の刃から俺を守るように槍を振り回しながら攻撃を弾いていた。
ブシュッ!!
防ぎきれなかった刃が緑来の体をいくつも傷付けた。
「緑来!!やめろ!!死ぬぞ!!」
「頭の為に死ぬってっ、頭に拾って貰った時から決めてたんだ。死ぬ事なんて、今更…、怖くない。」
「…っ。」
緑来の背中が大きく逞(タクマ)しく見えた。
「なら、死ね。今すぐ死ね。」
紫色の刃に紛れて緑来に近付いていた石が、思いっ切り緑来を斬ろうとした。
「駄目!!!」
シュシュシュシュッ!!!
グサクザッ!!!
陽春の声が聞こえた後、石の体に長く黒い棘が刺さっていた。
影から出て来た陽春が緑来の隣に立っていた。
「陽春っ?!どうやってここに?!」
「あの、男がここまで飛ばしてくれたのっ。緑来の事はちゃんと守るから行って!!」
陽春は結界の中にいる美猿王の事を指差しながら言
葉を放った。
美猿王が陽春を?
陽春と緑来が俺の為に体を張ってくれている。
俺は、仲間に恵まれて良かった。
「陽春。緑来の事を頼んだ!!!」
「っ!!うん!!任せて!!」
緑来と陽春に背中を向け、玉のいる方向に向かった。
「行くぞ、猪八戒!!」
「了解!!」
タタタタッ!!!
結界の中ー
ドカーンッ!!!
玉を囲んでいる結界の中から大きな音と煙が立っていた。
「悟空!!!」
三蔵は悟空に向かって声を掛けてた。
「さっさと、鯰震を消せ!!!」
「分かってるって!!!」
三蔵は長い数珠と手を九字に切った。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前
(りん・びょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)!!!」
三蔵がそう言うと、暴れていた鯰震が完全に動きを止められた。
「グァァァアァァァァァ!!!」
そのまま三蔵はの鯰震の周りに数枚の札を配置させ、指を素早く動かした。
札からは白い雷が現れ、鯰震の体に雷を落とした。
「急急如律令!!!」
ドゴォォォーン!!
「ウガァァァァァァァァ!!!」
鯰震の体が砂状になって、ボロボロと崩れ始めた。
「はぁ…、はぁ…。」
息が荒くなった三蔵は、玉の元に向かって走り出した。
「玉っ!!」
「ぼ、うや…ゴホッ!!」
ビチャッ。
玉の口から血の塊が吐き出された。
三蔵は自分の着ている服の袖を破り、玉の傷口を抑えた。
「くっそ!!止まれ、止まれ!!!」
溢れ出す血に向かって三蔵が叫んでいると、玉の大きな手が三蔵の頬に触れた。
「三蔵!!ソイツを何が何でもコイツに近寄らせんな!!」
悟空が三蔵に向かって声を掛けてた。
悟空の言うコイツは哪吒の事である。
キィィィンッ!!
ブシャッ!!!
哪吒の攻撃は抑えたが、悟空の左肩に太刀の攻撃が当たっていた。
噴き出した血を見た哪吒は、頬に着いた血を舐めた。
「悟空!!?」
「お前はその猫を守れ!!コイツ等の目的はその猫の中にある経文らしい。」
「経…文って?ま、まさか…、俺達の探してる経文の事か?!」
キンキンキンッ!!!
悟空は三蔵に返事をする暇もなく哪吒と、攻撃を重ねていた。
「玉…、本当なのか?玉の中に経文が…?」
三蔵の言葉を聞いた玉は、ゆっくり頷いた。
「坊や、よく聞いて。私が早く輪廻転生…、出来たのは経文の力のおかげで、観音菩薩が私に託した。」
「経文の力で玉は輪廻転生できたのか?観音菩薩が託したってどう言う事…?」
回想ー
「輪廻転生をするにあたって、お前にはある物と一体化して欲しい。」
「一体化…?」
観音菩薩はそう言って、1つの巻き物を玉に見せた。
金色の花が刺繍された巻き物は、煌びやかに輝いていた。
「これは経文と言われる巻き物だ。経文は全部で5本あってな?ここにあるのは有天(アルテ)経文。凡(あら)ゆる生と在を司る。それは、あらゆる生き物の生と在を操れる巻き物。お前の輪廻転生を早めるにはこの経文の力を使わなきゃならない。」
観音菩薩は経文を触れながら言葉を続けた。
「だが、いずれ捲簾達には残りの経文を探して貰わなきゃいけない。毘沙門天の奴が1つ持っているからな。毘沙門天の奴に全ての経文を集めさせてはい
けないんだ。」
「捲簾が危ない目には遭わないよね?」
「それは分からない。だが、これは定められた運命なんだ。お前とこの経文が一体化し、お前が死んだらこの経文が外に出る。捲簾の為に死ねると言ったよな?もし、捲簾とその仲間が来たら託してくれるな?」
玉に託しされた経文は、とても重かった。
神の定めと言うのなら、玉に突き付けられた現状は
生き返ったとしても死ぬ事が決められていた。
短いのか、長く生きれるのか分からない。
玉はそんな考えすらなかった。
「私はもう一度、あの人に会えたらそれで良い。この経文を捲簾に渡さないといけないのなら、私は喜んで死ぬわ。」
玉の言葉を聞いた観音菩薩は、経文を広げた。
経文に書かれていた文字が浮き上がり、玉の体の中に入って行った。
玉の話を聞いた三蔵は、言葉が出なかった。
自分達が探している物が目の前にある事。
そして、経文を手に入れるには玉を殺す事だと言う事を。
「坊やが、観音菩薩が言っていた捲簾の仲間なのね。」
「観音菩薩は、何で玉にこんな…。」
三蔵の目に涙が溜まっていた。
「玉!!!!」
沙悟浄が玉の名前を呼びながら、光の鎖に手を掛けていた。
ジュュュュ…。
沙悟浄の手のひらが焼ける音が玉の耳に響いた。
「っ!!な、何で来たの!?鎖から手を離して!!!手が、手が!!!」
「ハッ、こんなの痛くもっ、何ともねぇ。」
バキッ!!!
沙悟浄は鎖を引き千切りながら、結界の中に足を踏み入れた。
パンパンパンッ!!!
猪八戒も銃を構え、結界に何発も撃っていた。
沙悟浄は手のひらの火傷を気にせず、結界の中を進んでいた。
「もう、やめて!!!私は、貴方に傷付いて欲しくないのよ!?何で、私の為に怪我するの!!そんな事をさせたくて、私はっ!!」
「玉…。」
沙悟浄に向かって声を出している玉を、三蔵は霊魂銃を強く握りしめた。
「石。」
「御意。」
哪吒が石の名前を呼ぶと、沙悟浄と猪八戒に向かって走り出した。
「行かせない!!!」
陽春が影の姿になり石の後を追い掛けたが、石は容赦なく影の姿になった陽春を地面に突き刺さすように刺した。
グサッ!!
「うっ!?あがぁぁぁ!!」
刺された陽春は人の形に戻ると、その場にバタッと
倒れた。
ドサッ。
「陽春!!!テメェ!!!」
陽春の叫び声と緑来の声を聞いた沙悟浄が振り返り
「やめろ!!緑来!!」と叫んだ。
だが、理性を失った緑来は煙の姿のまま石に向かって行ったが、石は緑来を視線に入れずに刀を振り翳した。
ブジャァァァァ!!
「ぐっ、がぁぁぁあ!」
胸を斬られた部分を抑えながら緑来は、膝を付いた。
「緑来!!!陽春!!!テメェ!!」
猪八戒は怒りの声を上げ、石に向かって銃弾を放とうとした瞬間だった。
「だ、だめっ…。捲簾!!」
バキバキッ!!!
沙悟浄の異変に気が付いた玉が光の鎖を引き千切り、走り出した。
ゴォォォォォォォ!!!
地下の海水が音を立てて沙悟浄の周りに集まった。
「なっ!?何がどうなってんだ!!沙悟浄!!!」
水に飲み込まれそうになった沙悟浄に手を伸ばしたが、誰かが猪八戒の服の首元を引っ張った。
グイッ!!
「うわぁっ!?」
「今のアイツに近寄んな。」
「ご、悟空!?それに、三蔵?!」
猪八戒の服の首元を掴んでいたのは三蔵を抱えている悟空だった。
海水が集まり始めた瞬間、悟空は素早く三蔵を回収し、猪八戒の元に向かっていたのだった。
「近寄んなって、どう言う事だよ。」
「かつてのお前みたいな状況になってんだよ。」
「っ!?」
「沙悟浄が飲み込まれる。」
悟空の言葉を聞いた猪八戒は驚いたまま沙悟浄を見
ている横で、三蔵は口を開け言葉を放った。
ブワァァァァァァ!!!
海水の中から現れた沙悟浄の姿は人の姿をしていなかった。
河童の姿に変わり、怪物のような叫び声を上げた。
「グァァァァァァァアァア!!!!」
沙悟浄の叫び声が響き渡った。
頭の中で理解が追いつかない中、沙悟浄の体は勝手に動いていた。
「来ないで捲簾!!」
玉が沙悟浄に向かって叫んだ。
「捲簾!!ちょっと、待て!!!」
猪八戒はそう言って、沙悟浄の服を強く掴んだ。
グイッ!!
「おい、何すんだ?!」
「頭!!今、近付いたら駄目だよ!!」
緑来も姿を煙から人の姿に戻り、沙悟浄の前に出た。
「邪魔すんなよ、緑来!!玉が刺されてんだぞ!?」
「玉の周りを見てよ、頭!!」
沙悟浄は緑来と共に玉の周りに視線を向けた。
ジャキッン!!!
玉の周りには光の鎖が沢山張り巡らされていた。
光の鎖は玉の体にも巻き付いており、体を自由に動かせないでいた。
「さっき見た鎖…か?」
「あれに触っちゃ駄目ですよ沙悟浄さん!!」
大声を出したのは黒風だった。
「あれは、陰陽師術の結界です!!あれに触れたら体が焼けます!!」
「結界だと…?あの野郎、玉に近寄らせなうようにしてんのか。」
沙悟浄はそう言って、哪吒を睨み付けた。
「攻撃しても弾かれてしまうと思います。陰陽師の術は妖怪を殺す技でもありますから…。」
「妖怪を殺す…。嫌な術だな頭。」
黒風の言葉を聞いた緑来は、沙悟浄に言葉を投げた。
「頭っ。」
結界の中にいる陽春は沙悟浄の方向を見つめていた。
陽春の視線の先にいる沙悟浄を見つけた悟空は、陽春に向かって言葉を放った。
「お前、あっち側に行け。」
「はっ?どうやって行けば良いのよ?この結果って、陰陽師の術なんでしょ?さっきアレに縛られた事あるけど、身動きが取れなくなるし、肌も焼けるし…。」
「ブツブツうるせーな。お前、ここにいても俺の役に立ってねーだろ。」
「なっ!?何なんのよアンタ!!!」
「実際にそうだろ。俺が結界から出してやるに決まってるだろ。」
「えっ?!」
悟空はそう言って、如意棒を鎖の間を抜けれくらいの長さに伸ばした。
ビュンッ!!!
哪吒が陽春に向かって走って来た。
「う、うわぁあっ!!きたぁぁぁあ!!」
「ッチ!!さっさと影になって行け!!!こっちは忙しいんだよ!?」
「わ、分かったわよ!!!あ、ありがとう。」
シュシュシュシュッ。
影の姿になった陽春は如意棒を登って行った。
結界から出た事を確認した悟空は、如意棒を縮め哪
吒の攻撃を抑えた。
沙悟浄ー
どうしろって言うだよ。
近寄ろうにも今の俺は妖だから、結界を壊す事も出来ない。
あの女は玉の事を経文って言っていた。
玉を殺す事がアイツ等の狙いなのか?
だから、ここに来たのか?
パンパンパンッ!!
銃声が耳に届いた。
「玉に近寄るんじゃねーよ。」
銃弾を放ったのは金蝉だった。
「三蔵さん!!」
黒風は金蝉を見て三蔵と言う名前を叫んだ。
「三蔵…?」
「金蝉の生まれ変わりなんだよアイツ。俺ももう、天蓬じゃねーしな。」
「天蓬じゃねーなら何なんだよ。」
「妖怪喰いの猪八戒。お前も沙悟浄になっちまったもんな。」
そう言って、天蓬こと猪八戒は銃を構えた。
「猪八戒さん?!何するつもりですか?」
「何するも何も…、壊すに決まってんだろ。」
「え、えぇぇぇぇ!?壊す気ですか?!結界を!?」
猪八戒の言葉を聞いた黒風は驚きを隠せないでいた。
「何もしないままボーッと見るつもりはないんだ
ろ?沙悟浄。」
猪八戒はそう言って、俺を見つめて来た。
何をボーッとしていたんだよ俺は…。
パシッ!!
俺は思いっきり自分の両頬を叩いた。
「頭!?」
「さ、沙悟浄さん!?」
両頬がヒリヒリした感触が残ったまま、鏡花水月を構えた。
「邪魔すんじゃねーぞ。糞野郎が。」
ゾクッ!!!
殺気を感じた俺達は石の方に視線を向けた。
俺達に睨みを効かせながら紫色のオーラを放っている石がいた。
石は刀を構え、「一揆乱刹那(イッキランセツナ)。」と言って一気に振り上げた。
振り上げた刀から刀の形をした紫色の刃が、無数に俺達の方に飛んで来た。
スッ。
俺の前に出たのは槍を持った緑来だった。
「緑来!?」
「頭、行ってくれ。」
そう言って緑来は、紫色の刃から俺を守るように槍を振り回しながら攻撃を弾いていた。
ブシュッ!!
防ぎきれなかった刃が緑来の体をいくつも傷付けた。
「緑来!!やめろ!!死ぬぞ!!」
「頭の為に死ぬってっ、頭に拾って貰った時から決めてたんだ。死ぬ事なんて、今更…、怖くない。」
「…っ。」
緑来の背中が大きく逞(タクマ)しく見えた。
「なら、死ね。今すぐ死ね。」
紫色の刃に紛れて緑来に近付いていた石が、思いっ切り緑来を斬ろうとした。
「駄目!!!」
シュシュシュシュッ!!!
グサクザッ!!!
陽春の声が聞こえた後、石の体に長く黒い棘が刺さっていた。
影から出て来た陽春が緑来の隣に立っていた。
「陽春っ?!どうやってここに?!」
「あの、男がここまで飛ばしてくれたのっ。緑来の事はちゃんと守るから行って!!」
陽春は結界の中にいる美猿王の事を指差しながら言
葉を放った。
美猿王が陽春を?
陽春と緑来が俺の為に体を張ってくれている。
俺は、仲間に恵まれて良かった。
「陽春。緑来の事を頼んだ!!!」
「っ!!うん!!任せて!!」
緑来と陽春に背中を向け、玉のいる方向に向かった。
「行くぞ、猪八戒!!」
「了解!!」
タタタタッ!!!
結界の中ー
ドカーンッ!!!
玉を囲んでいる結界の中から大きな音と煙が立っていた。
「悟空!!!」
三蔵は悟空に向かって声を掛けてた。
「さっさと、鯰震を消せ!!!」
「分かってるって!!!」
三蔵は長い数珠と手を九字に切った。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前
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三蔵がそう言うと、暴れていた鯰震が完全に動きを止められた。
「グァァァアァァァァァ!!!」
そのまま三蔵はの鯰震の周りに数枚の札を配置させ、指を素早く動かした。
札からは白い雷が現れ、鯰震の体に雷を落とした。
「急急如律令!!!」
ドゴォォォーン!!
「ウガァァァァァァァァ!!!」
鯰震の体が砂状になって、ボロボロと崩れ始めた。
「はぁ…、はぁ…。」
息が荒くなった三蔵は、玉の元に向かって走り出した。
「玉っ!!」
「ぼ、うや…ゴホッ!!」
ビチャッ。
玉の口から血の塊が吐き出された。
三蔵は自分の着ている服の袖を破り、玉の傷口を抑えた。
「くっそ!!止まれ、止まれ!!!」
溢れ出す血に向かって三蔵が叫んでいると、玉の大きな手が三蔵の頬に触れた。
「三蔵!!ソイツを何が何でもコイツに近寄らせんな!!」
悟空が三蔵に向かって声を掛けてた。
悟空の言うコイツは哪吒の事である。
キィィィンッ!!
ブシャッ!!!
哪吒の攻撃は抑えたが、悟空の左肩に太刀の攻撃が当たっていた。
噴き出した血を見た哪吒は、頬に着いた血を舐めた。
「悟空!!?」
「お前はその猫を守れ!!コイツ等の目的はその猫の中にある経文らしい。」
「経…文って?ま、まさか…、俺達の探してる経文の事か?!」
キンキンキンッ!!!
悟空は三蔵に返事をする暇もなく哪吒と、攻撃を重ねていた。
「玉…、本当なのか?玉の中に経文が…?」
三蔵の言葉を聞いた玉は、ゆっくり頷いた。
「坊や、よく聞いて。私が早く輪廻転生…、出来たのは経文の力のおかげで、観音菩薩が私に託した。」
「経文の力で玉は輪廻転生できたのか?観音菩薩が託したってどう言う事…?」
回想ー
「輪廻転生をするにあたって、お前にはある物と一体化して欲しい。」
「一体化…?」
観音菩薩はそう言って、1つの巻き物を玉に見せた。
金色の花が刺繍された巻き物は、煌びやかに輝いていた。
「これは経文と言われる巻き物だ。経文は全部で5本あってな?ここにあるのは有天(アルテ)経文。凡(あら)ゆる生と在を司る。それは、あらゆる生き物の生と在を操れる巻き物。お前の輪廻転生を早めるにはこの経文の力を使わなきゃならない。」
観音菩薩は経文を触れながら言葉を続けた。
「だが、いずれ捲簾達には残りの経文を探して貰わなきゃいけない。毘沙門天の奴が1つ持っているからな。毘沙門天の奴に全ての経文を集めさせてはい
けないんだ。」
「捲簾が危ない目には遭わないよね?」
「それは分からない。だが、これは定められた運命なんだ。お前とこの経文が一体化し、お前が死んだらこの経文が外に出る。捲簾の為に死ねると言ったよな?もし、捲簾とその仲間が来たら託してくれるな?」
玉に託しされた経文は、とても重かった。
神の定めと言うのなら、玉に突き付けられた現状は
生き返ったとしても死ぬ事が決められていた。
短いのか、長く生きれるのか分からない。
玉はそんな考えすらなかった。
「私はもう一度、あの人に会えたらそれで良い。この経文を捲簾に渡さないといけないのなら、私は喜んで死ぬわ。」
玉の言葉を聞いた観音菩薩は、経文を広げた。
経文に書かれていた文字が浮き上がり、玉の体の中に入って行った。
玉の話を聞いた三蔵は、言葉が出なかった。
自分達が探している物が目の前にある事。
そして、経文を手に入れるには玉を殺す事だと言う事を。
「坊やが、観音菩薩が言っていた捲簾の仲間なのね。」
「観音菩薩は、何で玉にこんな…。」
三蔵の目に涙が溜まっていた。
「玉!!!!」
沙悟浄が玉の名前を呼びながら、光の鎖に手を掛けていた。
ジュュュュ…。
沙悟浄の手のひらが焼ける音が玉の耳に響いた。
「っ!!な、何で来たの!?鎖から手を離して!!!手が、手が!!!」
「ハッ、こんなの痛くもっ、何ともねぇ。」
バキッ!!!
沙悟浄は鎖を引き千切りながら、結界の中に足を踏み入れた。
パンパンパンッ!!!
猪八戒も銃を構え、結界に何発も撃っていた。
沙悟浄は手のひらの火傷を気にせず、結界の中を進んでいた。
「もう、やめて!!!私は、貴方に傷付いて欲しくないのよ!?何で、私の為に怪我するの!!そんな事をさせたくて、私はっ!!」
「玉…。」
沙悟浄に向かって声を出している玉を、三蔵は霊魂銃を強く握りしめた。
「石。」
「御意。」
哪吒が石の名前を呼ぶと、沙悟浄と猪八戒に向かって走り出した。
「行かせない!!!」
陽春が影の姿になり石の後を追い掛けたが、石は容赦なく影の姿になった陽春を地面に突き刺さすように刺した。
グサッ!!
「うっ!?あがぁぁぁ!!」
刺された陽春は人の形に戻ると、その場にバタッと
倒れた。
ドサッ。
「陽春!!!テメェ!!!」
陽春の叫び声と緑来の声を聞いた沙悟浄が振り返り
「やめろ!!緑来!!」と叫んだ。
だが、理性を失った緑来は煙の姿のまま石に向かって行ったが、石は緑来を視線に入れずに刀を振り翳した。
ブジャァァァァ!!
「ぐっ、がぁぁぁあ!」
胸を斬られた部分を抑えながら緑来は、膝を付いた。
「緑来!!!陽春!!!テメェ!!」
猪八戒は怒りの声を上げ、石に向かって銃弾を放とうとした瞬間だった。
「だ、だめっ…。捲簾!!」
バキバキッ!!!
沙悟浄の異変に気が付いた玉が光の鎖を引き千切り、走り出した。
ゴォォォォォォォ!!!
地下の海水が音を立てて沙悟浄の周りに集まった。
「なっ!?何がどうなってんだ!!沙悟浄!!!」
水に飲み込まれそうになった沙悟浄に手を伸ばしたが、誰かが猪八戒の服の首元を引っ張った。
グイッ!!
「うわぁっ!?」
「今のアイツに近寄んな。」
「ご、悟空!?それに、三蔵?!」
猪八戒の服の首元を掴んでいたのは三蔵を抱えている悟空だった。
海水が集まり始めた瞬間、悟空は素早く三蔵を回収し、猪八戒の元に向かっていたのだった。
「近寄んなって、どう言う事だよ。」
「かつてのお前みたいな状況になってんだよ。」
「っ!?」
「沙悟浄が飲み込まれる。」
悟空の言葉を聞いた猪八戒は驚いたまま沙悟浄を見
ている横で、三蔵は口を開け言葉を放った。
ブワァァァァァァ!!!
海水の中から現れた沙悟浄の姿は人の姿をしていなかった。
河童の姿に変わり、怪物のような叫び声を上げた。
「グァァァァァァァアァア!!!!」
沙悟浄の叫び声が響き渡った。
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※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
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