西遊記龍華伝

百はな

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第四章 三蔵一行旅事変

経文合戦 壱

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三蔵が数珠を持ちながらパンッと手を叩くと、数珠が鯰震を包めるくらいの長さになった。

「玉はこの結界の中から出て来たらダメだよ。」

「坊や…。」

「大丈夫だから。」

心配そうに見つめて来る玉に向かってニコッと笑った。

哪吒はチラッと悟空の方に視線を向けた後、玉に向かって走り出した。

カッ!!

ビュンッ!!

悟空が如意棒を伸ばし哪吒の前に出た。

哪吒はそのまま悟空に向かって太刀を振り下ろした。

キィィィン!!

ブワァァァ!!

太刀と如意棒がぶつかると衝撃風が吹いた。

「ちょっ?!凄い風っ!!」

陽春は踏ん張る足に力を入れながら2人を見て叫んだ。

「何んだアイツ…。」

沙悟浄は悟空の事を見て呟いた。

「悟空だよ。お前も知ってる奴。」

「俺の…っぐ?!」

猪八戒の言葉を聞いた沙悟浄は頭を押さえた。


沙悟浄ー

目の前に広がったのは円形闘技場だった。

俺の体は透けていて、目の前にいたのは黒く長いジャケットを着たピンク頭の男と俺だった。

「どうなってんだ…?」

「よぉ。」

声のした方に視線を向けた。

そこにいたのは、目付きの悪い黒い羽織を着ている紫色の短髪の男がいた。

男の手首には高級そうなアクセサリーがいくつか着けられていた。

「誰だ?」

「俺様は神だ。」

「神?」

「ハッ、天界の武将だった男が情け無ねぇな。」

神と名乗る男は俺を馬鹿にしたような笑い方をした。

何だよ…。

「神様はここがどこか分かってるのか?」

「あ?ここはお前の記憶の中だよ。テメェがさっさっと思い出さねーから俺が来たんだろうが。」

ワァァァァァアァアア!!

男の言葉を掻き消すような叫び声が聞こえて来た。

「美猿王(ビコオウ)なんか殺せー!!」

「この人間殺しが!!」

ここにいる人達は、誰に向かって言葉を投げ掛けてるんだ?

円型闘技場の中心の、鎖に繋がれた男に見覚えがあった。

あの男はさっきの…。

「美猿王は、何もしていない!!」

聞き覚えのある声がした。

声のした方に視線を向けると、あのガキが立っていた。

あのガキは一生懸命に弁明をしていた。

見た事がある。

聞いた事がある。

「俺達も金蝉(コンゼン)の意見に賛同する。そうだろ?」

ピンク頭の男がそう言って、目の前にいる俺に問い掛けた。

俺は…、この2人をよく知ってる。

「俺達は、お前の味方だ金蝉。」

目の前にいる俺はそう答えてた。

ズキンッ!!

頭に激痛が走った。

「ぐあぁぁ!!」

今までの頭痛と違う。

何だ…、何だっ!!

この痛みは!!

「何だ。頭痛で思い出せなかったのか。おい、顔上げろ。」

俺は男に言われた通りに顔を上げた。

すると、男は俺の頭に頭突きをして来たのだった。

ゴンッ!!!

頭痛とは違う痛みが頭に走った。

それと同時に、今までの記憶が頭に流れ込んで来た。

俺がどうして、下界に落ちたのか。

俺の目的。

俺の…。

俺の…、友達の事を。

思い出した。

俺は、妖怪なんかじゃなかった。

玉が俺の命を救ってくれた。

「どうだ?スカッとしただろ?」

この男の事も知っている。

「うるせーよ。明王(ミョウオウ)。」

「ハッ。ようやく思い出したか馬鹿野郎が。」

「全部思い出したよ。金蝉の事も、天蓬(テンポウ)の事も。そして、美猿王の事も。」

「なら、今からお前に仕事をして貰うぞ。」

「仕事?」

「毘沙門天が天帝に呪詛を掛けた。」

「天帝に?!」

毘沙門天が天帝に呪詛を掛けたのか。

やっぱり、毘沙門天は天界を乗っ取ろうとしてるのか。

「今、天界はどうなってんだ?」

「2つにの派閥に分かれてる。観音菩薩派と毘沙門天派のな。観音菩薩と毘沙門天が天帝の代わりをしてる所。」

「毘沙門天派…。おい、毘沙門天の屋敷に何か変な実験室みてーのがあったぞ。それは調べた事はあんのか?」

「如来(ニョライ)が勘づいたんだがな、毘沙門天派の奴等が毘沙門天邸に近寄らせねーようにしてる。何かしてんのは明からだけどな。」

毘沙門天は見られたくない物があるから人を使って、屋敷に近寄らせないようにしてるのか。

毘沙門天の野郎…。

「それで?俺に頼みたい事って何。」

「経文を毘沙門天の野郎から先に見つけろ。」

「経文って、あの女も玉の事を見て経文って言ってたけど。どう言う事。」

「お前の猫は死んだけど観音菩薩が輪廻転生させた。その時に持っていた経文をあの猫の中に隠したんだ。」

「玉の中に経文を隠した…って。じゃあ、あの女は毘沙門天側の人間って事か。」

俺の言葉を聞いた明王は頷き、言葉を続けた。

「経文の事は金蝉に聞けば分かるだろ。お前の意識の中にいられるのも長くないからな。」

そう言うと、明王の体が透けていった。

「お、おい!!まだ、聞きたい事が!!!」

明王の姿が見えなくなると、円形闘技場からさっきまでいた場所に戻っていた。

石の刀が俺の顔の近くまで迫っていた。

「捲簾!!!」

天蓬が俺の名前を呼んだ。

ビュンッ!!

俺は刀をギリギリの距離で避けた。

そのまま持っていた石の脇腹を鏡花水月で斬った。

ブシャッ!!

石の脇腹から赤い血が噴き出した。

天蓬は銃を使って、石に向かって銃弾を飛ばした。

パンパンパンッ!!

キンキンキンッ!!

傷が塞がろうとしている石は刀を片手に持ち替え銃弾を弾いた。

「ッチ。もう、傷が塞がりやがった。大丈夫か天蓬。」

俺がそう言うと、天蓬は驚いた顔をした。

「お、おま、お前っ?!」

「お前の事を追い掛けて落ちたのに、忘れてて悪いな。」

「ハッ、やっと本調子に戻ったみたいだな捲簾大将殿?」

久しぶりに聞いた言葉に変な感じがした。

自分がもう人間じゃない所為なのか。

それとも天蓬も人間じゃなくなったからなのか。

例え俺達が人間じゃなくなっても、変わらない物がある。

それは、俺の相棒は天蓬だけだって事を。

「あの野郎をぶっ飛ばすぞ天蓬。」

「普通の妖とは違うからな捲簾。」

俺達は言葉を交わした後、体勢を整えた。



悟空と哪吒は何度も攻撃を重ねていた。
哪吒の攻撃を受けた悟空はある事を思っていた。


孫悟空ー

コイツの攻撃は俺の体に一切、当たっていない。
もしかして…。

「お前、俺を殺す気じゃねーんだな。」

俺の言葉を聞いた哪吒は動きを止めた。

「私は…、貴方を殺すつもりはない、殺したくない…。だけど、使命には逆らえない。」

そう言って、哪吒は泣きそうな顔をした。

「俺を殺したくない…って、何で?あの時しか会っていないのに…?お前にとって俺は重要な存在じゃないだろ?」

あの宮殿でしか会っていないのにどうしてそう思うんだ?

俺はコイツを助けたりもしていないし、友でもない。
ましてや、言葉もあまり交わしていない。

「あの時、貴方を逃した時から忘れた時はなかった。裁判の時もそう。毘沙門天様の隣で貴方を見ているしかなかった。そう思うのは私の勝手な気持ち。だけど、毘沙門天様の命令には逆らえない。」

毘沙門天様…?

コイツ、毘沙門天側の人間か?!

毘沙門天側の人間なら、牛魔王と共に行動してるって事だよな。

だけど、逆らえないって言ったよな。

「毘沙門天に逆らえないって?」

「毘沙門天様に作られた存在だから。」

「作られた…。」

俺の言葉を聞いた哪吒は頭を押さえ込んだ。

「ゔっ…!」

「おい、大丈夫か?」

哪吒に近寄ろうとすると、太刀の刃が俺の頬を掠った。

シュッ!!

頬から血が流れているのが分かった。

哪吒の黄色の瞳から真っ赤な瞳に変わった。

さっきまでの雰囲気が違う。

哪吒は黙ったまま太刀を持ち、俺に向かって振り下
ろして来た。

キィィィン!!!

「ぐっ?!!」

如意棒にズッシリと重みを感じた。

重っ!?

ギリ…ッ。

太刀が如意棒に食い込む。

「何なんだよっ、いきなり!!」

俺はそう言って、哪吒を如意棒から引き離すように哪吒を弾き飛ばした。

ビュンッ!!

引き剥がした瞬間、着地した哪吒は再び俺に向かって太刀を振り下ろした。

俺は太刀の攻撃を避け、距離を取ろうとしたが哪吒が近付いて来た。

哪吒が足を上げ俺に蹴りを入れて来た。

ドォォォーン!!
 
哪吒の蹴りを受けた俺は、地面に叩き付けられた。

「ガハッ!!」

痛ってぇ…。

何なんだよ、いきなりっ。

人が変わったみたいに、攻撃して来る。

目の色が赤くなったのも気になる。

どうしていきなり目の色が変わった…?

哪吒は地面に転がっている俺に向かって太刀を奮って来た。

ビュンッ!!

キィィィン!!

如意棒で再び攻撃を受け止めた。

「お前、いきなり何なんだよ!?さっきまでと人が
違い過ぎるだろ?!」

「…。」

俺の言葉が耳に入って来ねーのか?

さっきから、俺の言葉を無視して攻撃をして来る。

「経文…。」

哪吒の口から経文と言う言葉が出て来た。

経文…って、俺達が探している経文の事か!!

哪吒が経文を狙っているのは毘沙門天の為か。

牛魔王と毘沙門天も経文を欲しがってる。

だから、コイツはここにいるのか。

「経文を毘沙門天様に…。」

「…。経文は渡せねぇ…!!」

ブンッ!!

ガンッ!!

哪吒を弾き飛ばした俺は、地面から立ち上がった。

「経文は俺達が貰うぜ哪吒。」
 
「経文を奪う者は殺す。殺して経文を貰う。」

哪吒はそう言って、俺に太刀を振り下ろした。




三蔵は鯰震に向かって走り出していた。

タタタタタタタ!!!

「ゴォォォォォォォ!!!」

ドロドロした黒い物が地面を黒く染め始めた。

「ネチャネチャして気持ち悪いんだけど!?」

陽春は声を上げながら足に纏わり付いたドロドロを引き剥がしていた。

パリーンッ!!

三蔵が作った結果を破壊した玉は、三蔵の服の首元を噛み自分の背中に乗せた。

「た、玉!?出て来たらダメだろ??!」

「坊やの手伝いくらいするわよ。あの鯰を何とかす
るんでしょ。」

「…。分かった。行こう、玉!!」

トットットットット!!

三蔵を乗せた玉は黒いドロドロに足が付かないように、岩を飛び越えながら鯰震の元に向かった。

三蔵は、鯰震の体に数珠を巻き付け、指を素早く動かしながら口を動かした。

「ちはやぶる神の御手(オテ)に翳(カザ)さば、悪鬼怨霊(アッキオンリョウ)の影掻き消えて。」

三蔵がそう言うと、数珠に巻き付けられた鯰震の体を拘束した。
「まがものよ、禍者(ワザワイモノ)よ、いざ立ち還れ、もとの住処(ジュウショ)へ。形なき弓よ、ちは

やぶる神の生弓、放つ生矢よ、妖気を的と為せ。」

三蔵は呪文を唱えた後、両手印を作った。

すると、鯰震の周りにある札が光り弓と矢が現れ鯰
震の体に突き刺さった。

シュシュシュシュッ!!!

「グァァァァァァァア!!」

鯰震の大きな叫び声が響き渡る。

「すぐに楽にしてやるからな。」

三蔵はそう言って、指を動かそうとした瞬間。

グラッ。

玉の体が大きく揺れ、三蔵が地面に投げ飛ばされた。

グシャ!!

ドサッ!!

「うわっ!?」

「三蔵!!ソイツを止めろ!!」

悟空が三蔵に向かって叫んだ。

三蔵は哪吒が向かって来ている事に気が付いたが、嫌な音が耳に届いた。

グシャ!!

ビシャ!!

三蔵の頬に何か付着した。

恐る恐る三蔵は頬に付いた物を指で拭き取る。

三蔵の指には赤い血が付着しており、その血は自分のではない事は分かっていた。

その血は、三蔵の隣にいる玉のモノだった。

玉のお腹には哪吒の太刀が突き刺さっていた。

「た、た、た、…。」

「玉!!!」

三蔵の声と重なるように沙悟浄の声が響き渡った。
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