西遊記龍華伝

百はな

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第弐幕 出会い、そして旅へー

旅立ちの時

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陳 江流 七歳

な、なんで観音菩薩がここにいるんだ…?

本当に実在していたのか…?

「こ、金蝉?俺の名前は江流ですけど…。」

「あー、そうだったな。"今は"江流だったか。」

観音菩薩はそう言いながら俺に近寄って来た。

「あ、あの…試験合格って?」

「あ?和尚に聞いただろ。」

お師匠が俺に言った事かな?

「お師匠からの試験の話ならそうです。はぁ…。」

体がかなりキツイ…。

頭がボーッとする…。

体がフワフワして気持ちが悪い。

ボーッとしていると男の声が聞こえて来た。

「観音菩薩様!!お、お待ち下さい!!さ、先に行っちゃうなんて酷いです…。」

観音菩薩の後ろから汗だくの坊主頭の男が現れた。

だ、誰だあの坊主頭…。

「あ!!その子が金蝉様の生まれ変わりですか!?って、めちゃくちゃ怪我してます金蝉様!!」

コイツも俺の事を金蝉って言ったな…。

と言うかコイツの声…。

「五月蝿い。」

「「え?」」

坊主頭の男と観音菩薩の声が重なった。

「頭に響くから少し黙って欲しいんだけど。」

俺は坊主頭の男を睨みながら呟いた。

「こ、この子は絶対に金蝉様ですよ!!いつも私に対してこの目をしていました!!」

「アハハハハハ!!やっぱりお前は金蝉だよ。はー笑った。おい、立てるか?」

そう言って観音菩薩は笑いながら俺に近寄って来た。

立ち上がろうと試みるが、足に力が入らずその場に
再び座り込んでしまった。

あ、あれ?

体に力が入らない。

頭もフワフワするし…、視界がボヤける。

観音菩薩が何度も声をかけて来ている事が分かるが

何を言っているのか分からなかった。

俺はその場で気を失った。



「りゅうー。」

ん?

誰かが…俺を呼んでいる?

「おい、江流。」

この声は…、お師匠?

重たい瞼を開けると、一番最初にお師匠の顔が見えた。

お師匠が俺の手を握っていて、次ぎに見慣れた部屋が視界が広がった。

ここは…。

もしかして金山寺?

「江流!!目が覚めたようだな?体は大丈夫か?」

「お…師匠?ここは金山寺なのか?」

「あぁ。あのお方がここに連れて来てくれたんだ。」

「あのお方…ってもしかして!?」

俺は勢いよく起き上がり周りを見渡した。

俺とお師匠から少し距離の離れた場所に観音菩薩が座っていた。

「よぉ。思ったより早く目が覚めたな。」

観音菩薩はそう言って俺とお師匠に近付いて来た。

「はい。早く目が覚めてホッとしました。」

「お前は心配し過ぎなんだよ。あれぐらいじゃ人は死なねーよ。」

「いやいや、血を流し過ぎたら誰でも死んでしまいますよ…。」

お師匠と観音菩薩が話をしていた。

え、お師匠は観音菩薩と知り合いなのか?

「あ、あの…。2人は知り合いなの…?」

俺がそう言うと、2人は顔を見合わせた。

「直接会うのは初めてじゃないか?水晶玉を使って話した事は何度かあるが。」

「はい。まさか、観音菩薩様が俺よりも背が低いとは…。」

「お前。それ以上喋ったらその口を取ってやるぞ。」

そう言って観音菩薩はお師匠をキッと睨み付けた。

「すいません…。説明が遅くなって悪いな江流。俺が仏教の道に進むきっかけをくれたのが観音菩薩様なんだ。」

軽く咳払いをしたお師匠が説明を始めた。

お師匠が仏教の道を進んだのが観音菩薩と関係があったのか…。

「フッ、懐かしいなー。あの頃の和尚はお前と同じように生意気だったぞ。」

観音菩薩が俺の顔を見て呟いた。

「やっぱり…。お師匠は小さい頃からお師匠だったんだ。」

「それはどう言う意味だ?」

「そのままの意味だよ。」

お師匠は小さい時からこんな感じだったのか…。

「だけど、どうして観音菩薩様が下界に?いつもは天界にいますよね?」

お師匠はそう言って観音菩薩に尋ねた。

確かに…。

あの本と同じ人物なら天界と言う世界にいる筈だ。

なのに、どうしてここにいるんだろう?

「あー。まだお前達に話してなかったな。」

観音菩薩はそう言ってお師匠の隣に座った。

「孫悟空に会って来たんだ。」

「「え!?」」

俺とお師匠は声を合わせて驚いた。

孫悟空に会って来た!?

やっぱり…、孫悟空はこの世に存在するのか!?

「何故、孫悟空に会いに行ったのですか?観音菩薩様。」

「江流の話をしに行った。」

お師匠の問いに観音菩薩は答え、孫悟空との会話を話してくれた。



五行山にてー

岩の牢獄の前に立った観音菩薩は孫悟空に声を掛け
てた。

「久しいな孫悟空。400年振りか?」

「…。488だ。」

孫悟空はそう言って鋭い目付きを観音菩薩に向けた。

「488年だ。」

「ずっと数えていたのか?」

「ここから出て"あの野郎"を殺す為だからな。」

孫悟空はそう言って再び観音菩薩を睨み付けた。

「っ!?あの野郎…って牛魔王の事か?」

背中に寒気を感じた観音菩薩は孫悟空に問いた。

孫悟空の目には強い殺意と憎しみしかなかった。
痩せ細った孫悟空の体はあちこちの皮膚から骨が浮き上がっていて目の下には濃いクマが出来ていた。

不老不死の術を得た孫悟空は何とか術のお陰で生きているのだろうと観音菩薩は悟った。

赤いトライバルのタトゥーが孫悟空の全身に刻まれていた。

孫悟空の体から只ならぬ妖気が漏れている。

「こ、この妖気は孫悟空が放っているのですか?観音菩薩様。」

使用人が顔を真っ青にしながら観音菩薩に尋ねた。

「あぁ、孫悟空の妖気が漏れ出ている。お陰で五行山に妖が1人もいなかっただろ?この妖気を恐れて妖はこの五行山に入って来ないんだ。」

「妖達が恐れる程の妖気…。孫悟空の存在は今も恐れられているのですね…。」

使用人はそう言って軽く孫悟空の方に視線を向け
た。

「何の用でここに来た。」

観音菩薩達に孫悟空は冷たく言葉を言い放った。

「そうだった。話が逸れてしまったな。」

そう言って観音菩薩は岩の牢獄に近寄った。

「500年後、お前に会いにある男がここに来る。それだけ伝えに来た。」

「500年後だぁ?俺に会いに来るって…、どう言う事だ。」

孫悟空は不機嫌な声を出してながら観音菩薩に尋ねた。

「内緒。会えば分かる。」

観音菩薩はそう言って孫悟空に背を向けた。

「じゃーな。さ、長江に行くぞ。」

観音菩薩は使用人の肩を叩きながら呟いた。

「長江ですか!ちょ、待って下さーい!!!」

使用人は慌てて歩き出した観音菩薩の後ろを追い掛けた。



陳 江流 七歳

観音菩薩から事の経緯を全て聞いた。

孫悟空が本当に存在していたんだ…。

夢みたいな話だ。

「和尚。」

「はい。」

「コイツに霊魂銃の扱いを徹底的に叩き込め。期間は12年だ。」

「分かりました。でも、何故12年なのですか?」

お師匠はそう言って観音菩薩に尋ねた。

「孫悟空と江流に旅に出て貰うからな。」

「な、な!?」

「た、旅!?そ、孫悟空と!?」

俺とお師匠は観音菩薩の言葉に度肝を抜かれた。

「た、旅…って。何を求めて?」

俺は観音菩薩に尋ねた。

「天竺(テンジク)に行って来い。」 

「て、天竺!?」

「ちょ、観音菩薩様!?天竺…ってそんな所に何故!?」

俺とお師匠は再び観音菩薩にツッコミを入れてしまった。

おい、おいおい!?

天竺ってもはや中国じゃねーぞ!?

「良いか江流。孫悟空以外に2人迎えに行け。」

「2人…って誰ですか。」

「その時が来たらまた教える。じゃ、そろそろ行くわ、


そう言って観音菩薩は立ち上がり襖に手を掛けた。

「あ、観音菩薩様!!お、お送りします!!」

お師匠はそう言って慌てて立ち上がり観音菩薩の後を付いて行った。

パタンッ。

閉められた襖を黙って見つめた。

旅…って。

観音菩薩がわざわざ孫悟空に会いに行って話をし、
俺の前にも現れた。

この旅が俺にとって重大な旅になるのかもしれない。

霊魂銃をもっと、もっと上手に扱えるようになりたい。

俺は…、俺はこの手で母さんと父さんを殺した牛魔
王を滅したい。

牛魔王をこの世に生かしたら駄目だ。

ガラガラッ。

「悪いな江流。怪我人のお前に色々話を進めってしまって…。」

部屋に戻って来たお師匠が申し訳なさそうな顔をして俺に謝って来た。

「…。」

「江流?大丈夫か?」

「お師匠。」

俺はお師匠に向かって頭を下げた。

俺の突然の行動を見たお師匠は驚きを隠せない様子で、力のない声が出ていた。

「へ!?ど、どうしたんだいきなり!?」

「俺に霊魂銃の扱いを教えて下さい。」

「…。それは誰の為にだ。」

お師匠の声のトーンが低くなった。

きっとお師匠は孫悟空の為だと思っている。

だが、俺の答えは違う。

「俺自身の為に。もう、守られるだけの人間になりたくない。」

俺がそう言うとお師匠が頭を撫でて来た。

「分かった。霊魂銃の特訓はお前の怪我が良くなってからだ。」

「ありがとうお師匠!!」

「うわぁぁぁあん!良かったですね江流!!!」

俺とお師匠の話を聞いていた水元が俺に泣き付いて来た。

「お、おい!?離れろー!!」

金山寺中に俺の声が響き渡った。

そして時は流れ、12年の時が流れたー

陳 江流は19歳になった。

少し短かった黒髪は襟足と前髪が少し長めになり、服装が僧衣から黒い生地に金色の花が刺繍された法衣に変わっていた。

そして、今の陳 江流を人々はこう呼ぶ。

「江流。あ、違う源蔵三蔵(ゲンゾウ サンゾウ)か。」

「お師匠は別にそう呼ばなくて良いだろ。」

法明和尚と江流は顔を見合わせた。

陳 江流は霊魂銃やあらゆる術を磨き上げ最速で源蔵三蔵と言う名を貰い受けた。

この事は異例中の異例である。

「五行山を目指すのか。」

「あぁ、孫悟空に会いに行ってくる。」

「いつ…。ここに帰って来るんだ。」

陳 江流は法明和尚の問いに答えた。

「暫くは戻らねぇ。だけど、絶対に帰って来るからな。法事に行ってる水元に伝えといて。」

陳 江流はそう言って網代笠(アジロカサ)を被り法明和尚に背を向け歩き出した。

止まっていた孫悟空の時間が動き出した。
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