西遊記龍華伝

百はな

文字の大きさ
上 下
4 / 136
第壱幕 落とされた猿

牛魔王の宴

しおりを挟む
走り出した馬がに空に向かって登り出した。

そして、そのまま空に浮いた状態で馬車は走り出した。

「凄いですよ美猿王。この馬車、空を走ってますよ!!」

丁が興奮気味に俺に話してきた。

「この馬車の馬、妖怪だぜ?」

「え!?この馬ですか?」

「普通の馬だったら空を飛ぶ事が出来ねぇだろ。」

「確かに…。」

この馬車もかなりの高級品だろうな。

座り心地も良いし、お茶が飲めるようにセットもさ
れている。

お茶の種類は工芸茶か…。

俺が好きだと分かっていて用意したのか。

「あ!!このお茶、美猿王の好きなお茶ですよね?飲みますか?」

「あぁ。」

「分かりました。」

丁は手慣れた手付きで工芸茶の用意をした。

茶葉をポットに入れてお湯を注ぐと、ゆっくりと茶葉が開き中から色鮮やかな花が顔を覗かせた。

見た目は甘そうに見えるが飲んでみると苦味とお茶
葉の味が口に広がり花の香りが鼻に届く。

「はぁ…美味い。」

「美猿王は本当に工芸茶がお好きですね。」

「見た目と味が好きなんだ。」

「それにしてもまだ着きませんねぇ。」

丁が外を見ながら呟いた。

俺も外に視線を向けた。

鼠色の煙が馬車を包んでいた。

この煙…。

窓を開けて見るとお香の匂いがした。

「美猿王?どうかしましたか?」

俺は上半身を乗り出し屋根を見てみると、お香が置
かれていた。

このお香…どっかで見た事があるな…。

「危ないてますよ美猿王!!何やってるんですか?!」

ガシッ!!

そう言って丁は俺の足を掴んだ。

「大丈夫だって。戻るから足離せ。」

「あ、はい。」 

丁が俺の足から手を離したのを確認してから馬車の中に戻った。

「何してたんですか美猿王…。」

「この馬車の周りにまとわり付いている煙が気になって屋根を覗いたんだよ。」

「煙ですか?これ雲じゃなかったんですか!?」

「普通の奴なら気付けねぇよ。それにこの煙はお香の煙だ。」

「お香?」

このお香に何か意味がある筈だ。

だけどそれが分からない。

ガタガタッ!!

そんな事を考えていると馬車が止まった。

キィィィ。

使いの2人組が馬車の扉を開けた。

コイツ等に聞いて見るか。

「屋根に置いてあるお香は何だ?」

「あれは幻術を見せるお香であります。牛魔王様のお屋敷の場所がバレないようにしております。」

幻術のお香?

「屋敷の場所がバレたらまずいのか。」

「牛魔王様は沢山の妖から狙われておりますゆえ敵襲に来られても困りますから。」

へぇ、その為にお香を焚きながら馬車を走らせていた訳か。

頭が良いんだな牛魔王は。

用意周到って奴か。

「美猿王様はまだ牛魔王と盃を交わしていませんからお香を焚かせていただきました。」

「別に。気になっただけだから良い。」

「ではご案内致します。」

俺と丁は馬車から降りて使いの2人組の後を追った。

馬車は屋敷から少し離れた距離に止められたので暫く歩く事になった。

目の前に現れた黒い龍が屋敷全体に巻き付いていた。

龍の体を触ってみた。

石みたいに硬いな。

この龍はどうやら作り物のようだ。

「凄い屋敷ですね…。こんなの初めて見ました。」

丁は屋敷を見て唖然としていた。

屋敷の中も凄かった。

高価な花瓶や家具、置物が廊下の至る所に飾られていた。

大きな扉の前から騒ぎ声が聞こえた。

「ギャハハハハ!!」

「もっとやれー!!!」

他にも沢山来てるのか。

「こちらが会場でございます。」

「あぁ。」
コンコンッ。

使いの2人組が扉を叩くと騒ぎ声が止まった。

声が止んだ?

それに騒がしかった空気が一気に静まり返った。

「「牛魔王様。美猿王様をお連れしました。」」

「通してくれ。」

低い声の男が返事をした。

使いの2人組は男の声を聞くと扉を開けた。

キィィィ。

扉を開けると数え切れない程の妖が俺と丁を見ていた。

大きな椅子に座っている男が牛魔王なのだと悟った。

襟足の長いグリーンアッシュの髪に赤い瞳、色白の肌に黒い龍の彫り物が体全体に入っていて高価なアクセサリーを身に纏っていた。

椅子から降りて来た牛魔王は俺の方に向かって歩いて来た。

カツカツカツ。

俺の前に来て牛魔王は足を止めた。

「初めまして美猿王。うちの者がご迷惑をかけませんでしたか?」

牛魔王は見た目の割には腰の低い感じだった。

「ちゃんと案内して貰ったぜ。アンタが牛魔王か?」

「ちょ!!美猿王!!」

丁が俺の服を引っ張った。

「敬語を使って下さい!!一応こっちは呼ばれた側なんですから!!」

「あ?敬語?」

「アハハハ!!気にしなくて良いよ。さっ!こっちに来てくれ。皆んなを紹介するから。」

牛魔王は笑いながら俺に手招きをした。

「行くぞ丁。」
「は、はい…!」

俺達は牛魔王の後に付いて行った。

俺達は妖怪達の視線を集めた。

だが、どうして牛魔王が俺を呼んだのか分からない。

会った事もない奴を宴に呼ぶとか…。
皆んなに紹介?

牛魔王の仲間に俺を紹介するのか?

よく分かんねぇ奴。

「どうして俺が美猿王を呼んだのか分からないって顔してるな。」

「っ!?」

急に牛魔王が振り返り不意に確信を突かれた。

「美猿王は素直だなー。いや、美猿王の噂を聞いてはどんな奴かなーって思ってさ。」

「噂?俺のか?」

「知らないの?残虐王って呼ばれてるの。」

「残虐王?」

牛魔王から話を聞くと、妖怪や自分達の山を支配しようとした者を残虐なやり方で殺していると言う噂だ。

丁は黙って牛魔王の話を聞いていた。

チラッと丁の顔見ると、俺の噂の事を知っているような顔をしていた。

丁はあえて俺に言わなかったのだろう。

噂とか作り話に興味がなかったら話されても困る。

「可愛い顔してるのにやり方が残虐過ぎてヤバイって凄いね。」

「俺は俺の邪魔する奴を殺しただけだ。」

「そう言う所が俺と似てるなと思ってさ。」

確かにコイツからは俺と同じ匂いがする。

後を付いて行くとさっきまで牛魔王が座っていた席
に案内された。

そこにいた奴等は今まで会った妖怪達とは違った。

「皆んなに紹介するよ。」

牛魔王そう言って俺の肩に手を置いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

江戸時代改装計画 

華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

仕合せ屋捕物控

綿涙粉緒
歴史・時代
「蕎麦しかできやせんが、よございますか?」 お江戸永代橋の袂。 草木も眠り、屋の棟も三寸下がろうかという刻限に夜な夜な店を出す屋台の蕎麦屋が一つ。 「仕合せ屋」なんぞという、どうにも優しい名の付いたその蕎麦屋には一人の親父と看板娘が働いていた。 ある寒い夜の事。 そばの香りに誘われて、ふらりと訪れた侍が一人。 お江戸の冷たい夜気とともに厄介ごとを持ち込んできた。 冷たい風の吹き荒れるその厄介ごとに蕎麦屋の親子とその侍で立ち向かう。

戦争はただ冷酷に

航空戦艦信濃
歴史・時代
 1900年代、日露戦争の英雄達によって帝国陸海軍の教育は大きな変革を遂げた。戦術だけでなく戦略的な視点で、すべては偉大なる皇国の為に、徹底的に敵を叩き潰すための教育が行われた。その為なら、武士道を捨てることだって厭わない…  1931年、満州の荒野からこの教育の成果が世界に示される。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

処理中です...