ルーチェ

あいうえおいり

文字の大きさ
上 下
12 / 23
Main Story

スクラップヤードの少女①

しおりを挟む
「寂しかったか?」

阿羅彦様の問いに、私は静かに微笑んだ。
阿羅彦様の私室に二人きり、夕暮れから始まった山菜の収穫祭も、夜も更け終わったところだ。

誘われるまま、私たちはそのままここへ来た。

「アレクシスが、嫌がりませんか?」

私は窓の外を見る阿羅彦様を見つめた。
横顔が美しいお方だ、その芸術のような顔のラインを月の光が銀色に輝かせた。

「そういうことは、言うな」

阿羅彦様は私の手を引き、胸の中に抱きしめた。

「玲陽」
「阿羅彦様」

背中に回した腕で、しっかり阿羅彦様を抱きしめ返した。
耳元で聞こえる阿羅彦様の声が久しぶりで心が高鳴る。

「どうして、呼ばなかった」
「呼べばすぐに来てくださるんでしょうけどね」
「その通りだ」
「ですが、私は阿羅彦様の名代として世界を回りました、正直、毎日毎日勉強に明け暮れておりましてね」
「……なるほど」

私は嘘をついた。

本当は、会いたくて会いたくて仕方なかった。
だけど、私以外との絆も深めてほしかった。
私と入れ違いのように阿羅彦様の元に来たエルフの青年、彼は、永遠のような阿羅彦様の寿命と同等に生きられるのではないか?
ならば私がいなくなった後も、彼がいるのなら大丈夫、そう思いたかった。

そうなるためには私が阿羅彦様を独占していてはダメなのだ。
アレクシスとの絆を育ててもらいたかった。
阿羅彦様の心を守るために。

「阿羅彦様の夢は、何度も見ました。夢なんかではないような、現実であるかのような、そんな夢です」
「俺の夢か?」

阿羅彦様は私の額にかかった髪を横に流して、微笑んだ。

「阿羅彦様以外の夢など……見てもすぐに忘れますよ」
「そうか」
「だから、寂しくなどありませんでした」

鼻と鼻を重ねたまま、長い間見つめあった。
ふいに激しく口づけをされて、一生懸命に応え、そして息をするのも忘れた。
いつの間にか脱がされていく着物、鍛錬で付けた傷を阿羅彦様は見逃さず、指でなぞった。

もの言いたげに私の顔を見て、そしてその傷を舐めた。
傷口から癒しの力が入ってくると同時に、ぴりっとした痛みが走った。

「体を傷つけるな、玲陽」

少し掠れた声でそういった阿羅彦様は、私が出会った頃よりも、さらに長くなった髪をかき上げた。

「たくさんの書簡を、お預かりしております」

阿羅彦様は、なおも私の体を舐めている。

「しかし、その中に、マドア王太子殿下のものはありません、ということは……お会いになってるのですね」

阿羅彦様はふと動きを止めて、私を見つめた。

「ああ、マドアは俺を週に1度は呼ぶ。妻もあるのに」
「あなたの代わりには誰だってなれません、それが自然ですよ」
「……玲陽、おまえは、俺にどうしてほしいのだ」
「今のままでよいのですよ、阿羅彦様、どうか、思うがままに愛に触れてください。私たちが皆、あなたを愛していることを、どうか忘れないでください」

阿羅彦様は、悲し気な瞳を細めて、微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

銀河辺境オセロット王国

kashiwagura
SF
 少年“ソウヤ”と“ジヨウ”、“クロー”、少女“レイファ”は銀河系辺縁の大シラン帝国の3等級臣民である。4人は、大シラン帝国本星の衛星軌道上の人工衛星“絶対守護”で暮らしていた。  4人は3等級臣民街の大型ゲームセンターに集合した。人型兵器を操縦するチーム対戦型ネットワークゲーム大会の決勝戦に臨むためだった  4人以下のチームで出場できる大会にソウヤとジヨウ、クローの男3人で出場し、初回大会から3回連続で決勝進出していたが、優勝できなかった。  今回は、ジヨウの妹“レイファ”を加えて、4人で出場し、見事に優勝を手にしたのだった。  しかし、優勝者に待っていたのは、帝国軍への徴兵だった。見えない艦隊“幻影艦隊”との戦争に疲弊していた帝国は即戦力を求めて、賞金を餌にして才能のある若者を探し出していたのだ。  幻影艦隊は電磁波、つまり光と反応しない物質ダークマターの暗黒種族が帝国に侵攻してきていた。  徴兵され、人型兵器のパイロットとして戦争に身を投じることになった4人だった。  しかし、それはある意味幸運であった。  以前からソウヤたち男3人は、隣国オセロット王国への亡命したいと考えていたのだ。そして軍隊に所属していれば、いずれチャンスが訪れるはずだからだ。  初陣はオセロット王国の軍事先端研究所の襲撃。そこで4人に、一生を左右する出会いが待っていた。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。 独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす 【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す 【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す 【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす 【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))

一分でオチまで。星新一風味ショートショートです。

comsick
SF
星新一先生風味の、ちゃんとしたオチのあるショートショートです。無駄なお時間とらせません。

【完結】バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~

山須ぶじん
SF
 異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。  彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。  そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。  ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。  だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。  それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。 ※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。 ※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

処理中です...