切り捨てられた世界で

柚緒駆

文字の大きさ
上 下
20 / 23

第20話 金一封

しおりを挟む
 始発電車に乗り込み、いくつか鉄道を乗り換えた先にたどり着いたのは、日雇い労働者向けの安ホテル。宿泊代は予約した者が一週間分先払いしてある。何もない、ベッドすら置かれていない部屋は暗くて狭いが、当面姿を隠すにはうってつけだ。

 ケンタはジャケットを羽織りマスクをつけると、うつむくカンジとユメナに明るい声をかけた。

「とにかく金を下ろしてくる。二人とも着替えとか必要だろ。しばらく待ってて」

 そう言ってケンタは部屋を後にした。

 二人きりになった部屋で、カンジとユメナは話す言葉もない。昨夜のショックが大きすぎる。特に老人を殴り倒したカンジの情緒は不安定で落ち着かない。その目に、ユメナの肉体はいつになくなまめかしく映る。カンジの我慢は限界に達しようとしていた。



 手近なコンビニのATMで金を下ろせるだろう、ケンタはそう踏んでいた。彼がキャッシュカードを持っているのは親名義の銀行口座だが、両親はそんなところまでちゃんと管理できるような、キッチリした人間ではない。公共料金の引き落としや給与振り込みは別の口座を使っており、ケンタの使う口座は事実上、何にでも自由に使えた。

 この口座に、金が入っているはずなのだ。親が入れた金だけではない。いま三人が泊まっている安ホテルの予約をしてくれたヤツなど、アングラネットで取り巻きとして彼の行動を支持してくれている連中に、しばらく前に金を募った。「ちょっと大きな仕事をするために」と称して。

 これに取り巻き連中が呼応、公開した口座番号に、投げ銭感覚で次々に金を振り込んだ。もちろん一口単位では小さな金額だが、ちりも積もれば山となる。合計すれば数十万円単位の金額が集まっているはずだった。

 だが。

 コンビニのATMは金を吐き出さなかった。「現在このカードはお取り扱いできません」と。どういうことだ、なぜ金が引き出せない。ATM備え付けの受話器から文句を言いたかったところだが、それができる状況でないことくらいケンタは理解している。

 ただちにきびすを返し、違うコンビニのATMに向かった。だが結果は同じ。ここに至り、ケンタはようやく事態が飲み込めた。

 おそらく、急に小口の入金が立て続けに起こったため、不審に思った銀行が親に注意喚起を行ったのだろう。心当たりのない親は、一時的に口座を凍結してしまったに違いない。

 昨日はあれほど神がかり的なまで自分に運が向いていたというのに、たった一晩でこうも変わるのか。ケンタはいま、丸裸で街に放り出されているかのように感じていた。

 いけない、当惑していても何も始まらないのだ。いったんホテルに戻って対策を話し合おう。三人寄れば文殊の知恵とも言う。何か現状を打開する策が思いつくかも知れない。

 スマホで「口座凍結 解除方法」と検索しながら、ケンタはホテルへと急いだ。自身の学習障害など、忘れてしまったかのように。



 しかしたどり着いたホテルの部屋では、異変が起きていた。入り口の前に、他の部屋に宿泊しているのであろう男たちが集まっている。いったい何だと戸惑っているケンタの耳に聞こえてきたのは、ユメナの悲鳴だった。

「いやだあ!」

「ちょ、ちょっとどいて! 通して!」

 人垣を割って入り、部屋のドアを開けたケンタが見たものは、半裸に服をかれたユメナの上に覆い被さるカンジの姿。その衝撃にケンタの頭の中は真っ白になってしまった。

 一方のカンジはケンタの方になど目もくれず、押さえつけるユメナの腕や肩に唇をわした。

「お……おい」

 声を震わすケンタだったが、やはりカンジは無視して悲鳴を上げるユメナの肉体を夢中でむさぼる。

「おいカンジ、やめろ!」

 ようやく体に力が戻ったケンタがカンジを羽交い締めにし、ユメナから引き剥がそうとした。だが立ち上がったカンジはそれを振り払う。

「うるせえよ!」

 小柄な体のどこにこんな力があったのか、ケンタは狭い部屋の壁まで吹き飛ばされてしまった。カンジは据わった目でにらみつけている。

「いいじゃねえかよ、このくらい。ちょっとくらいよぉ!」

「おまえ、何でこんな馬鹿なことを」

 ケンタの言葉をカンジは鼻先で笑った。

「馬鹿なこと? 人殺しより馬鹿なことなんてあんのかよ」

「まだアレを気にしてんのか、見つからない犯罪は犯罪じゃないって」

「だからうるせえんだよ! おまえの理屈なんか知るか! 俺は人殺しになったんだよ、おまえのせいで! おまえなんか信じてついて来たから!」

「カンジ……」

「だったらユメナくらいもらってもいいだろ。おまえにとっちゃ、たいしたことない話だろうが!」

 そう言うと顔をくしゃくしゃにして涙を浮かべ、カンジは部屋を飛び出して行った。

 座り込んだユメナは脱がされた服を集めて抱きしめ泣いている。

「もう、嫌だよぉ」

 その声はケンタの胸を切り刻んだ。

「帰りたい。山荘に帰りたいよぉ」

 どうしてだ。何故こんなにも上手く行かない。何がいけなかったのか。自分は間違っていなかったのに。そのはずなのに。ケンタはただ呆然と立ち尽くしていた。



 炭焼き小屋の浴室にあった戸棚からは、大量の苛性ソーダが見つかっている。良谷弥五郎が危険物の取り扱い資格を保有しているかどうかはまだ調べがついていないが、どう考えても炭焼きに苛性かせいソーダは使わない。不法所持の疑いは強い。

 浴槽は小さな炭焼き小屋には似つかわしくない大きさのホーロー製、苛性ソーダと合わせて考えれば、この浴室で死体の処理をしていた疑惑が浮かび上がる。

 死体を苛性ソーダに浸せば、肉は溶けてしまうだろう。もちろん骨や石けん化した脂肪など残る部分もあるが、炭と一緒にかまで焼いてしまえば、原型をとどめない程度に処理することはできるのではないか。県庁職員二人の死体がここで処理されたのだとすれば、見つからないのは当然だ。そしてもし、唐島源治の死体も処理されてしまったのであれば。

 炭焼き窯の中身を見てみたかったが、いま窯には火が入り、窯の口はレンガで封じられている。中を確認するためには破壊しなくてはならないし、それにはまず令状が必要だ。果たしていつ発付されるのやら。とにかく、いまは事情聴取できるレベルまで良谷弥五郎が回復してくれるのを期待するしかない。

 その良谷を襲ったのは、おそらくケンタ、カンジ、ユメナの三人か。何があったのかは不明だが、これは三人を保護できればすぐわかるだろう。

 保護できれば、か。安直だな。唐島源治が逮捕できれば事件の全容が解明される、と同じ程度には安直だ。唐島が捕まらないときの想定はしておいた方がいい。あの男の言葉が、いまになって痛烈に響いてくる。やはり事件の全体を見回すためにはもう一度、彼の見識が必要なのかも知れない。

 秋嶺山荘一階の応接室でコーヒーを飲みながら、亀森警部は深くため息をついた。そこに飛び込んで来たのは鶴樹警部補。

「子どもたちが見つかりました!」



 濃緑のレンガ壁に漂うタバコの匂い。

 モーニングセットは用意されていない「シガーカフェわかば」だが、コーヒーとハムエッグとロールパンのセットが軽食メニューにある。フリーライターの五十坂はそれを遅い朝食代わりに注文した。

 フライパンの脂が弾ける音、肉の焦げる匂い。白いヒゲのマスターはカウンターの五十坂にブレンドのカップを出しながらたずねた。

「以後どうですか、ミスターファイブ」

「それはやめろ。以後って何だよ」

 マスターの赤いベストが軽快に動き、白い皿に焼き立てのハムエッグが乗せられた。隣に丸いロールパンを二つ置き、両手でカウンターに差し出す。

「件の山荘ですよ。県警は子どもの公開捜査に踏み切りましたが、事件の核心に迫ったのでしょうか」

 確かに今朝見たワイドショーでは、子ども三名の公開捜査に触れられていた。炭焼き小屋で重傷者が発生した件もニュースで報じられている。ただし、警察はこの二件の関連について言及していない。

「さあ、どうだかねえ。俺は知らんよ。それより自分の仕事探しを頑張らにゃならん、いまさらこの事件とかどうでもいい」

「おや、お仕事を探しているのですか」

「探してんだよ、不景気だからな。この店、月末払いとかできたっけ」

「残念ながら」

「だよな」

 五十坂は苦々しく笑いながら、三本目のタバコを灰皿でもみ消した。そして皿の上のロールパンに手を伸ばそうとした瞬間、それを待ち構えていたかのようにポケットのスマホが振動する。取り出して画面を見れば知らない番号。相手は携帯電話でも固定電話でもないようだ。

「衛星電話だったりすんのか」

 まさに苦虫を噛み潰したような顔で電話に出てみれば。

「はい……ええ、そうですが。俺はもういいでしょう……はあ……はあ。とは言いましてもねえ……え、ケンタが?」

 五十坂は天井を仰ぐと、一つため息をつく。

「仕方ない、金一封で手を打ちますよ」



 今日の昼食は人気のチキンカツ。子どもたちはほぼ全員が食べ終わった。残っているのは例によって例の如く、いつもの通りジローだけ。チキンカツカレーを前に、虚空を見つめてただ椅子に座っている。

 やはりすぐには変わらないか。私は諦めて声をかけた。

「ジロー、食べなさい」

 ジローは嵐のように一瞬で食事を終えると、また虚空を見つめる。おしぼりで顔とテーブルを拭けば、ジローは立ち上がり部屋の隅に移動、膝を抱えて座り込んだ。

 カンジはまだ見つかっていないという。ケンタとユメナはパトカーに乗せられて先ほど戻ってきた。いまは別々に刑事から尋問されているが、ケンタはあの五十坂が来るまで何も話さないと黙秘しているらしい。

 どうして五十坂なのかはわからない。ケンタと通じ合う何かがあったのだろうか。とは言え、問題はこの先だ。もし炭焼き小屋の老人を襲ったのがケンタたちだった場合、当然重い罪に問われる。一方、私に対する逮捕状が出るのもそう遠くはないはず。

 秋嶺山荘にはまとめる人間がいなくなり、空中分解するしかない。子どもたちは親元に帰されるのだ。親が引き受ければの話だが。何人かは一時的に別の認可施設にでも送られることになるだろう。

 ダメだ。

 そんな未来は受け入れられない。それを受け入れるくらいなら、日和義人を殺す必要性などなかった。生かしておいた方がまだマシだったかも知れない。

 しかし時間は巻き戻せない。過去を悔やむ意味はない。ならば、せめてケンタたちに課せられる罰をできるだけ小さくしよう。彼らの罪を軽くしよう。そうしてこの山荘を守ってもらうのだ。そのためには。



 さすがに娘の指図だとは言わなかったものの、五十坂を再度呼び寄せてはどうかという式村憲明の「ご注進」を、亀森警部は嫌な顔一つせずに受け入れた。もし、どうして五十坂を呼ぶ必要がある、などと問われたら、式村には答えようがなかったのに。

 それどころか亀森は、まるで我が意を得たりといった顔で大きくうなずき、細かいことには言及しなかった。運が良かったのだろうか。

 実際のところ、本当に五十坂を呼び寄せれば何かが変わるのか、誰にもわからない。少なからず紗良の迫力に押されてしまった感はある。ただ刑事ではない式村に刑事の勘は働かないにしても、この秋嶺山荘で起こっている事件を考えるには、何かが決定的に足りていない気がしていた。

 確かに事件は多層的で複雑だ。だがそれだけではあるまい。我々は重大な何かを見落としているのではないか。その一点に気づくことさえできれば、全体の見方が変わるような何かを。

 現実の警察の仕事は大昔の探偵小説のようには行かない。事件を解決する一番の近道は、地道に一つ一つ事実を積み重ねることだ。けれど、ときとして発想の飛躍を要求するのもまた現実のややこしさである。いまこの場においてはそれが求められている気がするし、その飛躍をもたらすことができる者は、ここにはいない者かも知れない。

 そして何より、この事件が解決しなければ紗良はここから離れようとしない可能性がある。それは大変に困るのだ。何とか、どうにか解決に結びついてほしい。式村憲明は、見ず知らずのどこかの神様に祈らんばかりの気持ちだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【毎日更新】教室崩壊カメレオン【3月完結確定】

めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。 真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。 あなたは何章で気づけますか?ーー 舞台はとある田舎町の中学校。 平和だったはずのクラスは 裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。 容疑者はたった7人のクラスメイト。 いじめを生み出す黒幕は誰なのか? その目的は……? 「2人で犯人を見つけましょう」 そんな提案を持ちかけて来たのは よりによって1番怪しい転校生。 黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。 それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。 中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

悲隠島の真実

ミステリー
無人島に集められた人々。その誰もが秘密を抱えていた。その秘密とは―― 都立の大学に通う高坂流月は、『楢咲陽子』という名で送られてきた、無人島に建つ館への招待状を貰った。しかし流月は知っていた。楢咲陽子はもう既にこの世にいない事を。 誰が何故こんなものを送ってきたのか。ただの悪戯か、それとも自分の他に陽子の身に何が起きたのかを知っている者がいるのか。 流月は一抹の不安を抱えながら無人島に行く決意をする。 館に集められた人々は一見接点がないように見えたが、流月だけは招待主の思惑に気づく。理由は全員に人には知られてはならない秘密があったからだ。 不安と焦りが混在して眠れぬ夜を過ごす流月。しかしそんな流月を嘲笑うかのように事件は起こってしまった。 招待主の思惑とは一体何なのか?死んだはずの陽子の名を騙ったのは誰か? そして招待客の秘密とは――? 物語はタロットカードのように反転しながら進んでいく。 .

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

【改稿版】 凛と嵐 【完結済】

みやこ嬢
ミステリー
【2023年3月完結、2024年2月大幅改稿】 心を読む少女、凛。 霊が視える男、嵐。 2人は駅前の雑居ビル内にある小さな貸事務所で依頼者から相談を受けている。稼ぐためではなく、自分たちの居場所を作るために。 交通事故で我が子を失った母親。 事故物件を借りてしまった大学生。 周囲の人間が次々に死んでゆく青年。 別々の依頼のはずが、どこかで絡み合っていく。2人は能力を駆使して依頼者の悩みを解消できるのか。 ☆☆☆ 改稿前 全34話→大幅改稿後 全43話 登場人物&エピソードをプラスしました! 投稿漫画にて『りんとあらし 4コマ版』公開中! 第6回ホラー・ミステリー小説大賞では最終順位10位でした泣

【ショートショート】シリアス系

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
ミステリー
声劇用だと1分〜5分ほど、黙読だと1分〜3分ほどで読みきれる作品が多めです。500文字を越える作品もいくつかございます。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

処理中です...