2 / 23
第2話 秋嶺山荘
しおりを挟む
自分の父親ほどの年齢の運転手が困り果てているのを見て、式村憲明は途方に暮れた。電車やバスを何度も乗り換えるのは娘の負担が大きすぎると思えばこそ、タクシーを飛ばしてここまで来たのである。なのに、もうすぐ目的地というところで側溝にタイヤを落としてしまった。
憲明は腕力になどまったく自信がない。おそらくこの老運転手も同じだろう。車体を持ち上げるなど絶望的である。つまりロードサービスを呼ぶしかないのだが、その時間先方を待たせるのは非常に心苦しい。何とかできないのかと怒鳴りたい気持ちを抑えてため息をついていると。
クネクネと曲がりくねる一本道の林道の向こうから、銀色のセダンが走って来るのが見えた。目的地とは逆の方角、ということはこのセダンもあの「秋嶺山荘」に行くのではないか。式村憲明は両手を広げてセダンに止まってくれるよう願った。
セダンは少し古い、型落ちのクラウン。こちらに気付いたのか速度を落とし、路肩に停止する。
「落輪ですか」
窓を下ろすなり声をかけてきた三十がらみの男は、ボサボサの髪の隙間からのぞく鋭い目でタクシーを見据えた。車内からはムッとするタバコの強烈な匂い。しかし憲明はそれを顔に出すことなく、自分より三つ四つは若いだろうその男に微笑みかけた。
「申し訳ないんですが、手伝ってもらえないでしょうか」
だが男の返事はそっけない。
「時間の無駄ですよ。俺は腕っぷしには自信がなくてね。ロードサービスを呼んだ方がはるかに早い」
やはりそうか。想定の範囲内とは言え、がっくりと肩を落とす式村憲明に、クラウンの男はこうたずねた。
「おたくも行先は秋嶺山荘ですか」
「ええ、まあ娘と二人で」
「だったら後ろに乗るといい。俺が送って行きますよ」
憲明の顔がぱっと明るくなる。本心を言えばそれを頼みたかったのだが、どう言えば不審がらずに乗せてくれるだろうかと気を揉んでいたのだ。
「それは大変にありがたい。本当にいいんですか」
「ちょっとヤニ臭いですがね、そこさえ我慢してもらえるなら」
「いえいえ、是非お願いします。沙良、降りてこっちに来なさい。ご挨拶して」
タクシーの後部座席から降りてきた少女は、十二、三歳だろうか、風に折れそうな細い身体に青白い顔を乗せて、危なっかしい足取りでゆっくりクラウンに近づいてきた。そして悲しげな目を伏せると頭を下げる。
「よろしくお願いします」
その顔には旅行に向かう家族の楽しさなど微塵も見えない。クラウンの男は無精ヒゲの目立つ口元を少し緩めると、ドアを開けて車外に出た。
式村沙良は男を見上げた。しかし、ビックリするほど大柄ではない。中肉中背といったところか。グレーのスーツに黒のネクタイ、極めて没個性的。特徴のないのが特徴とも言える。
男はクラウンの後部ドアを開き、少女を誘った。
「さあどうぞ、お嬢様」
沙良は笑顔も見せずに黙って座席につく。と、その目の前に、男は指に挟んだ名刺を差し出した。角の部分がヨレヨレになっているそれにはこう書かれてある。
――フリーライター 五十坂孝雄
「旅は道連れって言うしな。短い旅だがよろしく」
名刺を手渡し振り返れば、父親の憲明はタクシーの清算を済ませたところだった。
「夜叉姫伝説?」
林道を走るクラウンの中で、式村沙良の発した言葉が五十坂の関心を引いた。紗良は表情も変えず、静かに言葉を続ける。
「この地方には昔、夜叉姫が住んでいた伝説があるらしいんです。村人を神隠しにしたとか、旅人を襲って食べてしまったとか。最後は都から来た武将に討伐されるっていうありがちな物語ですけど」
運転席の五十坂がふっと笑った。
「確かにありがちな話だ。話の筋は戸隠の鬼女紅葉伝説が伝わったか、もしくはパクったんだろう」
「それは有名な話なんですか」
紗良が思わず食いついた。父親の式村憲明は目を丸くしている。自分の娘にこんな積極性があるとは今日まで知らなかったのだ。彼の知る紗良は、いつもベッドで天井を静かに見つめているだけの少女だったから。
五十坂はルームミラーで後ろをチラリとのぞいて笑みを浮かべた。
「能の演目に『紅葉狩』ってのがあってな。平安時代に都で初代清和源氏の源経基の寵愛を受けた、紅葉って有名な女がいた。しかしコイツの正体が鬼だと見破られて、戸隠に追放になる。紅葉はその後、戸隠山に住み付いて周辺の村を襲ったりしたもんで、民からの訴えを受けて都から平維茂が派遣されたんだ。これに紅葉は妖力を使って惑わせ襲いかかるんだが、最終的には八幡大菩薩の加護を得た維茂に退治されるって話だ」
「何だか玉藻の前に似てますね」
「九尾の狐か。まあおそらく物語の筋立ては、もっと古い時代からあったんだろう。源流は同じじゃないかね」
「じゃあ、この地方の夜叉姫伝説も」
紗良の問いに、五十坂は正面を向きながらうなずく。
「流れとしちゃそうだろうな。ただ、夜叉ってのは元々インドの神話に出てくる種族の名前だ。向こうじゃ角は生えてない。それが仏教の説話に混じって日本にまで伝来し、鬼の一種として庶民にまで伝わるのには相応の時間がかかったはずだろ。つまり夜叉が登場するってことは、その伝説は比較的新しい時代の創作なんじゃないかと思うがね」
そのとき紗良の顔に浮かんでいた表情を言い表すなら、感嘆。これもまた父親の知らない顔だった。嫉妬というほどでもなかったのだろうが、自分も会話に参加したくなった式村憲明は、ついこんな意味もないことを口にしてしまう。
「随分とお詳しいんですね」
「いや、詳しくはない」
五十坂はそう言い切った。
「俺はただ、オカルトってヤツが死ぬほど嫌いなだけでね」
「はあ」
いまいち意味はわからなかったが、憲明にも一つだけ確実にわかったことがある。会話は終了してしまったということだ。
クラウンのフロントウインドウの先に、目的地が見えてきた。いや、見えてはいない。
秋嶺山荘は見えない山荘。元は好事家を集めるために高名な芸術家が建てた別荘だったが、飽きられ放置されていたのを日和義人が購入したものだ。
外側から建物の外観を確認することはできない。何故ならこの山荘は、山の斜面をえぐってから元の形に合わせた鉄筋コンクリートの建物、すなわち横から見ると直角三角形の建物を建設し、その上から元通り土をかぶせて木を植えているのだから。
近くに寄ってまじまじと見つめれば、木々の間の地面に縦長の明かり取り用の細長い窓を見つけることができるだろう。だが、ほんの十メートルも下がればもうただの山の斜面。口さがない地元の住民などは、秋嶺山荘というより幽霊山荘だと噂している。
とは言っても林道を道なりに走った突き当り、行き止まりにこの山荘がある。隣接する民家や施設はない。五十メートルほど離れた場所に、さほど高さのない滝があり、その脇に炭焼き小屋がポツンと建っているのが一番近い人間の生活の痕跡。ちなみに最寄りのコンビニは山を一つ越えた向こうだ。したがって近隣住民との接触はほとんど生じない。故に大きなトラブルを抱えたという話は聞こえて来なかった。
秋嶺山荘はホテル業を営んでいるが、近くに観光地もないこんな場所を訪れる者は少ない。それでも経営が成り立っているのは、別の「売り」があるから。それが「大地の輪 子ども健康道場」である。
山荘内部は二階建てで、客室は二階の五部屋だけ。一階部分は大半が子ども健康道場のために使われている。ここでは預けられている子どもたちが、日がな一日体操をしたり芸術作品を作ったりしながら時を過ごす。
無論、健康道場に来ているのだから、その子どもたちには「健康」とは言い難い部分がある。つまり病気や障碍を持っているのだ。
やっていることをザックリ見れば、いわゆる障碍者福祉施設とそう大きくは変わらない。だが秋嶺山荘は障碍者福祉施設ではない。
公的に認められた施設であれば自治体の認可を得て支援も受けられるものの、反面、法律や条例などで厳しく活動内容が制限される。これを嫌った日和義人は障碍者福祉施設としての認可を取らず、あくまで私塾として子ども健康道場を開いた。秋嶺山荘では塾生の年長組を山荘の住み込みアルバイトとして雇用している。認可施設では難しい対応だろう。
もちろん、秋嶺山荘の従業員が全員子どもであるはずはない。責任者は成人だ。山荘の支配人は八科祥子。まだ二十七歳の若さだが、この山荘での勤務はもう十年になる。そう、彼女もまた子ども健康道場の出身者だった。
激しい希死念慮に取り憑かれ、自殺未遂を繰り返していた彼女がここに預けられたのは十五歳のとき。その二年後には年長塾生としてスタッフ採用されている。彼女と同期、および先輩の塾生はもう他に誰も居ない。彼女はこの秋嶺山荘の実質的ナンバー2として君臨しているのだ。
そんな八科祥子が秋嶺山荘の入り口門の近くに立っている。気の強そうな眼と短い髪、黒いブラウスにロングスカート。声をかけるのもはばかられる雰囲気だが、そのとき山荘の玄関から出て来た線の細い神経質そうな男は、構わず声をかけた。雰囲気など気にしていては警察の仕事はできないのだから。
「八科さん、こんなところでお仕事ですか」
鶴樹警部補の声に驚いた様子もなく、八科祥子は半身で振り返る。
「今日はあと二組お越しになる予定です。どうやら遅れているようですけど」
「のんびりした話ですな。オーナーが殺人鬼に狙われているかも知れないというのに」
「それは警察の皆さんがいらっしゃるのですから、安心しております」
八科祥子は微笑んだが、慈母の如きというよりは不敵な笑みにも見える。実際、鶴樹はやや鼻白んだ。
「安心されては困るのです。当面は万全の注意態勢をですな」
「あ、来られたようですね」
山荘に至る一本道の林道、その大きなカーブの向こう側から銀色のセダンが姿を見せた。
憲明は腕力になどまったく自信がない。おそらくこの老運転手も同じだろう。車体を持ち上げるなど絶望的である。つまりロードサービスを呼ぶしかないのだが、その時間先方を待たせるのは非常に心苦しい。何とかできないのかと怒鳴りたい気持ちを抑えてため息をついていると。
クネクネと曲がりくねる一本道の林道の向こうから、銀色のセダンが走って来るのが見えた。目的地とは逆の方角、ということはこのセダンもあの「秋嶺山荘」に行くのではないか。式村憲明は両手を広げてセダンに止まってくれるよう願った。
セダンは少し古い、型落ちのクラウン。こちらに気付いたのか速度を落とし、路肩に停止する。
「落輪ですか」
窓を下ろすなり声をかけてきた三十がらみの男は、ボサボサの髪の隙間からのぞく鋭い目でタクシーを見据えた。車内からはムッとするタバコの強烈な匂い。しかし憲明はそれを顔に出すことなく、自分より三つ四つは若いだろうその男に微笑みかけた。
「申し訳ないんですが、手伝ってもらえないでしょうか」
だが男の返事はそっけない。
「時間の無駄ですよ。俺は腕っぷしには自信がなくてね。ロードサービスを呼んだ方がはるかに早い」
やはりそうか。想定の範囲内とは言え、がっくりと肩を落とす式村憲明に、クラウンの男はこうたずねた。
「おたくも行先は秋嶺山荘ですか」
「ええ、まあ娘と二人で」
「だったら後ろに乗るといい。俺が送って行きますよ」
憲明の顔がぱっと明るくなる。本心を言えばそれを頼みたかったのだが、どう言えば不審がらずに乗せてくれるだろうかと気を揉んでいたのだ。
「それは大変にありがたい。本当にいいんですか」
「ちょっとヤニ臭いですがね、そこさえ我慢してもらえるなら」
「いえいえ、是非お願いします。沙良、降りてこっちに来なさい。ご挨拶して」
タクシーの後部座席から降りてきた少女は、十二、三歳だろうか、風に折れそうな細い身体に青白い顔を乗せて、危なっかしい足取りでゆっくりクラウンに近づいてきた。そして悲しげな目を伏せると頭を下げる。
「よろしくお願いします」
その顔には旅行に向かう家族の楽しさなど微塵も見えない。クラウンの男は無精ヒゲの目立つ口元を少し緩めると、ドアを開けて車外に出た。
式村沙良は男を見上げた。しかし、ビックリするほど大柄ではない。中肉中背といったところか。グレーのスーツに黒のネクタイ、極めて没個性的。特徴のないのが特徴とも言える。
男はクラウンの後部ドアを開き、少女を誘った。
「さあどうぞ、お嬢様」
沙良は笑顔も見せずに黙って座席につく。と、その目の前に、男は指に挟んだ名刺を差し出した。角の部分がヨレヨレになっているそれにはこう書かれてある。
――フリーライター 五十坂孝雄
「旅は道連れって言うしな。短い旅だがよろしく」
名刺を手渡し振り返れば、父親の憲明はタクシーの清算を済ませたところだった。
「夜叉姫伝説?」
林道を走るクラウンの中で、式村沙良の発した言葉が五十坂の関心を引いた。紗良は表情も変えず、静かに言葉を続ける。
「この地方には昔、夜叉姫が住んでいた伝説があるらしいんです。村人を神隠しにしたとか、旅人を襲って食べてしまったとか。最後は都から来た武将に討伐されるっていうありがちな物語ですけど」
運転席の五十坂がふっと笑った。
「確かにありがちな話だ。話の筋は戸隠の鬼女紅葉伝説が伝わったか、もしくはパクったんだろう」
「それは有名な話なんですか」
紗良が思わず食いついた。父親の式村憲明は目を丸くしている。自分の娘にこんな積極性があるとは今日まで知らなかったのだ。彼の知る紗良は、いつもベッドで天井を静かに見つめているだけの少女だったから。
五十坂はルームミラーで後ろをチラリとのぞいて笑みを浮かべた。
「能の演目に『紅葉狩』ってのがあってな。平安時代に都で初代清和源氏の源経基の寵愛を受けた、紅葉って有名な女がいた。しかしコイツの正体が鬼だと見破られて、戸隠に追放になる。紅葉はその後、戸隠山に住み付いて周辺の村を襲ったりしたもんで、民からの訴えを受けて都から平維茂が派遣されたんだ。これに紅葉は妖力を使って惑わせ襲いかかるんだが、最終的には八幡大菩薩の加護を得た維茂に退治されるって話だ」
「何だか玉藻の前に似てますね」
「九尾の狐か。まあおそらく物語の筋立ては、もっと古い時代からあったんだろう。源流は同じじゃないかね」
「じゃあ、この地方の夜叉姫伝説も」
紗良の問いに、五十坂は正面を向きながらうなずく。
「流れとしちゃそうだろうな。ただ、夜叉ってのは元々インドの神話に出てくる種族の名前だ。向こうじゃ角は生えてない。それが仏教の説話に混じって日本にまで伝来し、鬼の一種として庶民にまで伝わるのには相応の時間がかかったはずだろ。つまり夜叉が登場するってことは、その伝説は比較的新しい時代の創作なんじゃないかと思うがね」
そのとき紗良の顔に浮かんでいた表情を言い表すなら、感嘆。これもまた父親の知らない顔だった。嫉妬というほどでもなかったのだろうが、自分も会話に参加したくなった式村憲明は、ついこんな意味もないことを口にしてしまう。
「随分とお詳しいんですね」
「いや、詳しくはない」
五十坂はそう言い切った。
「俺はただ、オカルトってヤツが死ぬほど嫌いなだけでね」
「はあ」
いまいち意味はわからなかったが、憲明にも一つだけ確実にわかったことがある。会話は終了してしまったということだ。
クラウンのフロントウインドウの先に、目的地が見えてきた。いや、見えてはいない。
秋嶺山荘は見えない山荘。元は好事家を集めるために高名な芸術家が建てた別荘だったが、飽きられ放置されていたのを日和義人が購入したものだ。
外側から建物の外観を確認することはできない。何故ならこの山荘は、山の斜面をえぐってから元の形に合わせた鉄筋コンクリートの建物、すなわち横から見ると直角三角形の建物を建設し、その上から元通り土をかぶせて木を植えているのだから。
近くに寄ってまじまじと見つめれば、木々の間の地面に縦長の明かり取り用の細長い窓を見つけることができるだろう。だが、ほんの十メートルも下がればもうただの山の斜面。口さがない地元の住民などは、秋嶺山荘というより幽霊山荘だと噂している。
とは言っても林道を道なりに走った突き当り、行き止まりにこの山荘がある。隣接する民家や施設はない。五十メートルほど離れた場所に、さほど高さのない滝があり、その脇に炭焼き小屋がポツンと建っているのが一番近い人間の生活の痕跡。ちなみに最寄りのコンビニは山を一つ越えた向こうだ。したがって近隣住民との接触はほとんど生じない。故に大きなトラブルを抱えたという話は聞こえて来なかった。
秋嶺山荘はホテル業を営んでいるが、近くに観光地もないこんな場所を訪れる者は少ない。それでも経営が成り立っているのは、別の「売り」があるから。それが「大地の輪 子ども健康道場」である。
山荘内部は二階建てで、客室は二階の五部屋だけ。一階部分は大半が子ども健康道場のために使われている。ここでは預けられている子どもたちが、日がな一日体操をしたり芸術作品を作ったりしながら時を過ごす。
無論、健康道場に来ているのだから、その子どもたちには「健康」とは言い難い部分がある。つまり病気や障碍を持っているのだ。
やっていることをザックリ見れば、いわゆる障碍者福祉施設とそう大きくは変わらない。だが秋嶺山荘は障碍者福祉施設ではない。
公的に認められた施設であれば自治体の認可を得て支援も受けられるものの、反面、法律や条例などで厳しく活動内容が制限される。これを嫌った日和義人は障碍者福祉施設としての認可を取らず、あくまで私塾として子ども健康道場を開いた。秋嶺山荘では塾生の年長組を山荘の住み込みアルバイトとして雇用している。認可施設では難しい対応だろう。
もちろん、秋嶺山荘の従業員が全員子どもであるはずはない。責任者は成人だ。山荘の支配人は八科祥子。まだ二十七歳の若さだが、この山荘での勤務はもう十年になる。そう、彼女もまた子ども健康道場の出身者だった。
激しい希死念慮に取り憑かれ、自殺未遂を繰り返していた彼女がここに預けられたのは十五歳のとき。その二年後には年長塾生としてスタッフ採用されている。彼女と同期、および先輩の塾生はもう他に誰も居ない。彼女はこの秋嶺山荘の実質的ナンバー2として君臨しているのだ。
そんな八科祥子が秋嶺山荘の入り口門の近くに立っている。気の強そうな眼と短い髪、黒いブラウスにロングスカート。声をかけるのもはばかられる雰囲気だが、そのとき山荘の玄関から出て来た線の細い神経質そうな男は、構わず声をかけた。雰囲気など気にしていては警察の仕事はできないのだから。
「八科さん、こんなところでお仕事ですか」
鶴樹警部補の声に驚いた様子もなく、八科祥子は半身で振り返る。
「今日はあと二組お越しになる予定です。どうやら遅れているようですけど」
「のんびりした話ですな。オーナーが殺人鬼に狙われているかも知れないというのに」
「それは警察の皆さんがいらっしゃるのですから、安心しております」
八科祥子は微笑んだが、慈母の如きというよりは不敵な笑みにも見える。実際、鶴樹はやや鼻白んだ。
「安心されては困るのです。当面は万全の注意態勢をですな」
「あ、来られたようですね」
山荘に至る一本道の林道、その大きなカーブの向こう側から銀色のセダンが姿を見せた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【毎日更新】教室崩壊カメレオン【3月完結確定】
めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。
真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。
あなたは何章で気づけますか?ーー
舞台はとある田舎町の中学校。
平和だったはずのクラスは
裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。
容疑者はたった7人のクラスメイト。
いじめを生み出す黒幕は誰なのか?
その目的は……?
「2人で犯人を見つけましょう」
そんな提案を持ちかけて来たのは
よりによって1番怪しい転校生。
黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。
それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。
中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。
悲隠島の真実
琳
ミステリー
無人島に集められた人々。その誰もが秘密を抱えていた。その秘密とは――
都立の大学に通う高坂流月は、『楢咲陽子』という名で送られてきた、無人島に建つ館への招待状を貰った。しかし流月は知っていた。楢咲陽子はもう既にこの世にいない事を。
誰が何故こんなものを送ってきたのか。ただの悪戯か、それとも自分の他に陽子の身に何が起きたのかを知っている者がいるのか。
流月は一抹の不安を抱えながら無人島に行く決意をする。
館に集められた人々は一見接点がないように見えたが、流月だけは招待主の思惑に気づく。理由は全員に人には知られてはならない秘密があったからだ。
不安と焦りが混在して眠れぬ夜を過ごす流月。しかしそんな流月を嘲笑うかのように事件は起こってしまった。
招待主の思惑とは一体何なのか?死んだはずの陽子の名を騙ったのは誰か?
そして招待客の秘密とは――?
物語はタロットカードのように反転しながら進んでいく。
.
支配するなにか
結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣
麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。
アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。
不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり
麻衣の家に尋ねるが・・・
麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。
突然、別の人格が支配しようとしてくる。
病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、
凶悪な男のみ。
西野:元国民的アイドルグループのメンバー。
麻衣とは、プライベートでも親しい仲。
麻衣の別人格をたまたま目撃する
村尾宏太:麻衣のマネージャー
麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに
殺されてしまう。
治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった
西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。
犯人は、麻衣という所まで突き止めるが
確定的なものに出会わなく、頭を抱えて
いる。
カイ :麻衣の中にいる別人格の人
性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。
堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。
麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・
※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。
どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。
物語の登場人物のイメージ的なのは
麻衣=白石麻衣さん
西野=西野七瀬さん
村尾宏太=石黒英雄さん
西田〇〇=安田顕さん
管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人)
名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。
M=モノローグ (心の声など)
N=ナレーション
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
【改稿版】 凛と嵐 【完結済】
みやこ嬢
ミステリー
【2023年3月完結、2024年2月大幅改稿】
心を読む少女、凛。
霊が視える男、嵐。
2人は駅前の雑居ビル内にある小さな貸事務所で依頼者から相談を受けている。稼ぐためではなく、自分たちの居場所を作るために。
交通事故で我が子を失った母親。
事故物件を借りてしまった大学生。
周囲の人間が次々に死んでゆく青年。
別々の依頼のはずが、どこかで絡み合っていく。2人は能力を駆使して依頼者の悩みを解消できるのか。
☆☆☆
改稿前 全34話→大幅改稿後 全43話
登場人物&エピソードをプラスしました!
投稿漫画にて『りんとあらし 4コマ版』公開中!
第6回ホラー・ミステリー小説大賞では最終順位10位でした泣
【ショートショート】シリアス系
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
ミステリー
声劇用だと1分〜5分ほど、黙読だと1分〜3分ほどで読みきれる作品が多めです。500文字を越える作品もいくつかございます。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる