約束というほどではなくても

柚緒駆

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第24話 五味民雄の述懐 十コマ目

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 何が女子苦手なの、だ。うるせー馬鹿野郎。おめえんとこの叔母さんは軽く無神経だよな。入地が十文字に何やら耳打ちしていたのを見て何となくムカついたんだが、まあいい。それより気になるのは本当に県警捜査一課がこの事件を担当するのかどうかだ。

 県警捜査一課は殺人とかの凶悪犯罪を担当する部署なんだが、人が死ぬたびに全部捜査一課が担当してたら、すぐ人手が足りなくなる。だから基本は地域の所轄署が事件の捜査を担当するはずだ。その担当が県警捜査一課に移ったのなら、それだけデカい事件として県警側に受け止められてるに違いない。

 この時点で警察はこちらに接触してきてない。つまり俺はもう容疑者から外れたということでいいのか。それともこの先まだ事態が動く可能性があるのか。安心できるのはまだ先なのかも知れないな、てな具合にイロイロ気になってたよ。

 夏風走一郎はここに来る気配がなかった。見るまでもないとの判断なら別に構わんのだが、具合が悪いのなら……いや、別に心配してた訳じゃない。そんなことをしてやる義理なんぞないしな、友達になった訳でもあるまいし。

 そんなこんなを考えてたら、入地が十文字の肩をポンと叩いて離れて行った。万鯛とか言ったっけ、新聞部の部長らしいが露骨に悔しそうな顔してやがったな。イロイロおかしなヤツもいるもんだ。まあ何だ、十文字も大変なんだろうって思ったよ。

 とにかく休憩時間も終わる。俺は別に授業に間に合わなきゃならんとか毛の先ほども考えてなかったが、この場所に立ってても得る物がないみたいだしな、とりあえずこのときは教室に戻ったんだ、確か。



 十文字茜は目をキラキラ輝かせていた。

「で、実際苦手なんですか、女子」

 これにはさしもの五味も困る。

「食いつくとこがそこかよ」

「だってちょっとしたギャップ萌えですよ」

「萌えねえよ、気色の悪い」

 一方、真面目な顔で考え込んでいたのは剛泉部長。

「やはり県警捜査一課が出て来たというのは、それだけ大事件ということになるのですか」

 五味はうなずく。

「さっきのドライかドライじゃないかみたいな話とはちょっと違うが、単に人が二人死んだってのと、二件の計画的な連続殺人じゃ、警察にとって意味合いが違うんだ。計画的連続殺人なんてのは社会秩序や法制度、もっと言えば国家に対する挑戦みたいなもんだからな、警察にしてみりゃ真正面からケンカ売られたような格好だ。軽くは扱えないんだろ。県警捜査一課が出て来るってのは、他の事件より優先して本腰を入れるって意思表示みたいなもんだよ」

 それを聞いて、やれやれといった顔を見せたのは十文字茜。

「何か原始時代みたいな乱暴な理屈ですね」

 五味はニヤリと口元に笑みを浮かべた。

「違いねえな。そもそも社会問題であれ国際問題であれ、世の中はメンツが立つの立たないの、なめられたのビビらせたの、とにかく原始時代の理屈で動くのが当たり前だ。人間ってのは自分で思ってるほど進化してねえんだよ」

「……あれ、もしかして、私たちも進化してないんですか」

「自分たちだけは別だなんて考えてんなら、そいつは傲慢ごうまんってもんだぜ」

 十文字茜にそう言うと、五味は一口コーヒーを飲んだ。
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