20 / 52
第20話 五味民雄の述懐 八コマ目
しおりを挟む
ああ、そうだったそうだった。まだ外が暗い時間にパトカーのサイレンで目が覚めたんだ、俺も。デカい事件が起こったのはすぐわかった。
夏風走一郎の『予言』通りに事件は起きた。不謹慎なのはわかってるが、正直ホッとしたな。何せ今度の第一発見者は俺じゃないんだから。もし二つの事件の犯人が同じなら、俺は容疑者リストから完全に外れはしなくても、かなり隅っこの方に寄せられるはずだ。
まあ念のために警察が俺の居場所を確認しに来るかも知れないし、着替えておくか。そんなことを考えられる余裕はあったな。
十文字茜は難しい顔で五味を見つめている。
「人が死んでるかも知れないって思ったのに、怖くないもんなんですか、実際」
「怖いと思うヤツもいるだろうな。それを不思議だとは感じねえよ。ただ」
五味はワイシャツの胸ポケットのタバコに手を伸ばしかけて、やめた。
「人ならいまこの瞬間にも世界のどっかで死んでる。それをいちいち怖がったり悲しんだりしないだろ? 距離が近いか遠いかだけの差だ。少なくともこのときの俺は怖いより悲しいより、ホッとしたってのが先に来た。それが偽らざる感想だよ」
そう言うとカップに残ったコーヒーを飲み干し立ち上がる。
「おまえら、コーヒーのおかわりは」
「あ、いえ、おかまいなく」
剛泉が返した笑顔に、五味は「そうか」とうなずき台所に向かった。
夏風走一郎の『予言』通りに事件は起きた。不謹慎なのはわかってるが、正直ホッとしたな。何せ今度の第一発見者は俺じゃないんだから。もし二つの事件の犯人が同じなら、俺は容疑者リストから完全に外れはしなくても、かなり隅っこの方に寄せられるはずだ。
まあ念のために警察が俺の居場所を確認しに来るかも知れないし、着替えておくか。そんなことを考えられる余裕はあったな。
十文字茜は難しい顔で五味を見つめている。
「人が死んでるかも知れないって思ったのに、怖くないもんなんですか、実際」
「怖いと思うヤツもいるだろうな。それを不思議だとは感じねえよ。ただ」
五味はワイシャツの胸ポケットのタバコに手を伸ばしかけて、やめた。
「人ならいまこの瞬間にも世界のどっかで死んでる。それをいちいち怖がったり悲しんだりしないだろ? 距離が近いか遠いかだけの差だ。少なくともこのときの俺は怖いより悲しいより、ホッとしたってのが先に来た。それが偽らざる感想だよ」
そう言うとカップに残ったコーヒーを飲み干し立ち上がる。
「おまえら、コーヒーのおかわりは」
「あ、いえ、おかまいなく」
剛泉が返した笑顔に、五味は「そうか」とうなずき台所に向かった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
授業
高木解緒 (たかぎ ときお)
ミステリー
2020年に投稿した折、すべて投稿して完結したつもりでおりましたが、最終章とその前の章を投稿し忘れていたことに2024年10月になってやっと気が付きました。覗いてくださった皆様、誠に申し訳ありませんでした。
中学校に入学したその日〝私〟は最高の先生に出会った――、はずだった。学校を舞台に綴る小編ミステリ。
※ この物語はAmazonKDPで販売している作品を投稿用に改稿したものです。
※ この作品はセンシティブなテーマを扱っています。これは作品の主題が実社会における問題に即しているためです。作品内の事象は全て実際の人物、組織、国家等になんら関りはなく、また断じて非法行為、反倫理、人権侵害を推奨するものではありません。
泉田高校放課後事件禄
野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。
田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。
【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】
【改稿版】 凛と嵐 【完結済】
みやこ嬢
ミステリー
【2023年3月完結、2024年2月大幅改稿】
心を読む少女、凛。
霊が視える男、嵐。
2人は駅前の雑居ビル内にある小さな貸事務所で依頼者から相談を受けている。稼ぐためではなく、自分たちの居場所を作るために。
交通事故で我が子を失った母親。
事故物件を借りてしまった大学生。
周囲の人間が次々に死んでゆく青年。
別々の依頼のはずが、どこかで絡み合っていく。2人は能力を駆使して依頼者の悩みを解消できるのか。
☆☆☆
改稿前 全34話→大幅改稿後 全43話
登場人物&エピソードをプラスしました!
投稿漫画にて『りんとあらし 4コマ版』公開中!
第6回ホラー・ミステリー小説大賞では最終順位10位でした泣
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる