約束というほどではなくても

柚緒駆

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第6話 五味民雄の述懐 二コマ目

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 生物教師の奈良池ならいけは、以前から気に食わなかった。俺がそう思ってるってことは、向こうも同じように感じてたんだろうけどな。

 授業をサボったからって廊下で俺の襟首を捕まえて、ガミガミガミガミ怒鳴り散らしやがってよ。おまけに翌日の朝一で生物準備室に来いだのぬかしやがる。ふざけんな、誰が行くかよ馬鹿馬鹿しい。そんなに早起きしたけりゃ、テメエ一人でやっとけ。確か俺はそう言ったんだ。

 奈良池は半狂乱になってたが、んなもん俺の知ったこっちゃない。勝手に脳の血管ブチ切れてブッ倒れてろ、俺は行かねえからな、そう思ってたんだよ。

 やっぱり人間、直感てのは大事だな。行かなきゃ良かったんだ。俺がノコノコ出かけて行かなきゃ面倒事に巻き込まれることもなかったものを、当日の朝はやけに早く目が覚めちまってな、どうせならもう一あおりしてやるか、みたいなノリで言われた通り朝一番に生物準備室の戸を思いっきり開いたらよ。

 まさかあんなモノを目にするとか、誰が思う。当時はまだ高三だぞ、そらパニックにもなるわな。どうやって誰に通報したのかも覚えてない。まったく、あれはマジついてなかったわ。
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