虫けらのアニメ・特撮雑史

柚緒駆

文字の大きさ
上 下
7 / 34

1977年

しおりを挟む
 前年スマッシュヒットを飛ばした「マシンハヤブサ」の影響で、この年はレースアニメが4本出てきた。機を見るに敏なのは悪いことではないのだが、視聴者側からすると一気に食傷気味となってしまう。とは言え「マッハGoGoGo」(1967年)のヒットの後には見られなかった現象であるから、それだけアニメ産業の裾野が広がり、ノウハウが蓄積された証左でもあると言えよう。

 この中で「超スーパーカー ガッタイガー」はまったく知らない。いま調べてみるまで名前すら知らなかった。虫けらの中でガッタイガーといえば、UFOロボグレンダイザーの原型である劇場用映画「宇宙円盤大戦争」(1975年)である。ネーミングは問題にならなかったのだろうか。まあ、いまより緩い時代だからな。

 マッハGoGoGoを制作した、いわばレース物の老舗のタツノコプロが「とびだせ!マシーン飛竜」を出したものの、いわゆるタツノコ的なコメディタッチが虫けらには合わなかった。第1話で挫折したのを覚えている。

 一方「アローエンブレム グランプリの鷹」と「激走!ルーベンカイザー」は、比較的リアルな描写とシリアスな物語がそれなりに人気だったように思う。そういう意味では「宇宙戦艦ヤマト」(1974年)の系譜とも言える。でも虫けらはマシンハヤブサくらいの加減が一番好きだった。当時の年齢もあると思うのだが、やはりヒーローが悪者を倒すシンプルさは魅力なのだ。

 巨大ロボット物もすっかり定番ジャンルとなり、この年6本が新番組として放送された。「合身戦隊メカンダーロボ」はヤマト的なリアルさをロボットアニメに導入しようとした意欲作だが、成功したとは言い難い。そのヤマトの松本零士氏を原作者とする「惑星ロボ ダンガードA」もリアルな方向性を探ったが、おかげでロボットがなかなか出て来ず、評判はイマイチだった。

 対してリアル系から距離を置いた作品として、「超人戦隊バラタック」と「超合体魔術ロボ ギンガイザー」がある。上の方でシンプルさが魅力だとは書いたが、幼稚であればいいというものではない。

 その点、もはや王道と言っていいパターンを踏襲した「超電磁マシーン ボルテスV」は安心して観られた。まさに「こういうのでいいんだよ」である。だがこの年、そのド定番を外したもう一本のロボットアニメに虫けらは激しく興味を引かれた。そう、「無敵超人ザンボット3」だ。

 アシンメトリーなデザインのキングビアル三世、地球人に敵意を向けられる主人公たち、そして人間爆弾などなど、後々いろんな要素が話題となったザンボット3であるが、一番凄かったのは他のロボットアニメに比べて、リアルさやシリアスさなどのバランス、塩梅が非常に上手かったことだ。

 無論、基本は暗く悲しい物語である。なのにタツノコプロの「みなしごハッチ」や「けろっこデメタン」のような陰々滅々さはまるでない。極めてドライなシリアスさなのだ。監督の富野氏は後の「機動戦士ガンダム」(1979年)において、ヤマトを超えることを目標としたとされるが、物語のバランスに関して言えば、この時点ですでにヤマトレベルにはあったのではなかろうか。

 1977年には他に、長期シリーズとなる「ルパン三世」の第2期、名作劇場の第3弾であり後々の世に悪い意味で影響を与えまくった「あらいぐまラスカル」、鉄腕アトムの焼き直しと手塚治虫氏自ら豪語した「ジェッターマルス」、主題歌だけはやたら格好良い「氷河戦士ガイスラッガー」、当時のロリコン御用達の「女王陛下のプティアンジェ」、そしてタイムボカンシリーズ第2弾の「ヤッターマン」など、総数30本のアニメが放送されている。

 特撮界の話題としては「秘密戦隊ゴレンジャー」が3月で終了し、4月から「ジャッカー電撃隊」が始まった。しかしゴレンジャー級のヒットは難しく、年内に終了している。前半はシリアス路線だったが、後半は宮内洋氏演ずる「ビッグワン」が加入し、注目をかっさらって行った。宮内氏といえばこの年、「快傑ズバット」も始まっている。仮面ライダーV3、アオレンジャー、ビッグワンにズバット、宮内氏は「ライダー俳優」と呼ばれることもあるが、この活躍を見る限り「特撮スター」ではないだろうか。

 ちょっとした面白ネタ。1977年には「怪人二十面相」が放送されているのだが、このとき同時間帯に裏で再放送の「少年探偵団」(1975年)が放送されていた。いうまでもなく、少年探偵団にも怪人二十面相は出て来る。まあ、だからといって当時の視聴者が混乱した訳ではないのだが。

 ごく最近まで知らなかったのだが、「小さなスーパーマン ガンバロン」はレッドバロン、マッハバロンに続く「バロンシリーズ3作目」だったらしい。いや、そりゃまあバロンはつくけど、前2作の雰囲気も面影もないぞ。ていうか、スーパーマンってタイトルにつけて問題なかったのか。たぶん、この時代はまだ大丈夫だったのだろうなあ。

 1977年、やはりこの年を締めくくる作品と言えば「大鉄人17ワンセブン」しかないか。東映スーパー戦隊に巨大ロボットが出て来るのはいまや常識だが、これは戦隊シリーズ第3弾になる「バトルフィーバーJ」(1979年)からだ。その切っ掛けになったのは一部でネタとして愛好される東映版の「スパイダーマン」(1978年)のレオパルドンであるが、そのレオパルドンの原点というか源流に当たるのが、特撮史上初の「玩具で再現可能な変形巨大ロボ」である大鉄人17なのだ。

 もちろん変形と言っても、いまのロボットと比較すれば極めて素朴な変形である。しかし当時の子供たちはビックリしたのだ。アニメじゃないのにこんなことができるなんて! と。それまでの特撮巨大ロボといえば「ジャイアントロボ」(1967年)を筆頭に、レッドバロン、マッハバロンと、あとはジャンボーグAくらいしかなかった。しかも合体に関しては「ウルトラセブン」(1967年)に登場したキングジョーが一応実現していたとは言え、アニメのような変形はさすがに無理だろう、という空気があった。それを大鉄人17は、特撮で変形をやって見せたのだ。

 変形は飛行形態→要塞形態→戦闘形態(人型)へと変わるのだが、正直なところ当時から「え? この形で飛ぶのは無理じゃないか?」という思いはあった。あったのだが、そこは子供ながらに目をつぶった。いきなり完璧は無理だということくらい、子供にだって理解はできるしな。

 第1話でいきなり主人公の三郎少年の両親と姉が殺されるというシリアスなストーリーは、前作のキョーダインがやたら明るかったことへの反動もあり興味を引いた。巨大コンピューター「ブレイン」が人類に反乱を起こすというアイデアは、手塚治虫氏の漫画「火の鳥 未来編」(1967年)などに源流を見ることができるが、当時の子供たちにとってありきたりなものではない。始まったときの期待値はかなり高かったように思う。

 グラビトン(重力子)という言葉を覚えたのは大鉄人17のグラビトン砲である。もちろん、グラビトンが何なのかは理解できなかったが、まあ波動砲みたいなもんだろう的な解釈をしていたように思う。

 敵のブレインロボも当初は巨大ローラーを持ったローラーロボット、風車の羽根のような姿で人型をしていないハリケーンロボットなど、いわゆる怪獣をロボットに置き換えただけではない、巨大ロボットとして一捻りある造形をした物が出てきた。それは強く虫けらの好奇心を刺激したのだが、視聴率は振るわなかったのだろう、だんだんとそういった特色は薄れて行く。

 そして後半になるとあからさまなテコ入れとして、岩鬼が出て来るのだ。ドカベンの。何のことか意味がわからない、という方もおられるだろうが、水島新司氏の漫画「ドカベン」が1977年に実写映画化されている。そこに出てきた岩鬼正美役の俳優が、学ラン姿に葉っぱを咥えた岩鬼正美そのままの姿で、大鉄人17に新レギュラーとして登場するのだ。コメディ路線への切り替えである。しかし現代の映像作品を見慣れた方々ならわかるだろう、作品途中の中途半端な路線変更が良い結果を生むはずがない。虫けらは腹を立てて大鉄人17から離れて行った。

 とりあえず「弟」の18ワンエイトが出て来るくらいまでは観ていたのかな。その登場時のエピソードが、17と見間違えられるという物語だったのだが、18のデザインは17に全然似ていない。これにも腹を立てた記憶がある。それでも最終回だけは観た記憶があって、最後ブレインに特攻する17に「あーあ」とため息をついたはずだ。これならジャイアントロボの最後の方が凄かった、と思ったのだ。この辺、可愛さ余って憎さ百倍の感がある。

 現代から特撮の歴史を見ると、この大鉄人17は欠くべからざる偉大な1ピースなのだが、リアルタイムで観ていた子供としては、もうちょっと何とかならんかったものかと残念に思えてならない。まあ作詞:石森章太郎、作曲:渡辺宙明、歌唱:水木一郎の主題歌「オー!!大鉄人ワンセブン」は大好きな名曲なのだけれど。

 この年の特撮は他に「ロボット110番」「冒険ファミリー ここは惑星0番地」「恐竜大戦争 アイゼンボーグ」があったのだそうな。この3本は観た記憶がまるでない。

 この頃から思春期に近付いたのか、虫けらはだんだん特撮から離れて行く。だったらアニメからも離れて行くのが普通なのかも知れないが、そこはそれ、根っこが捻くれているのだ、アニメからはまだ当分離れない。ただ最近思うのは、いま放送されているような仮面ライダーシリーズがこの当時にあったら、たぶん特撮からも離れなかったのではないか。まあ、それは所詮ない物ねだりなのだろうけれどな。では次回。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実はおっさんの敵女幹部は好きな男と添い遂げられるか?

野田C菜
エッセイ・ノンフィクション
Life is color. Love is too.

天涯孤独のアーティスト

あまゆり
エッセイ・ノンフィクション
はじめに… 自分自身の波瀾万丈の人生を書いてます。 こんな生き方も参考にしてください。 学もない私が書いていきますので読みづらい、伝わりづらい表現などあるかもしれませんが広い心でお付き合い頂ければと思います。 平成や令和の方などには逆に新鮮に思えるような昭和な出来事などもありますので不適切な表現があるかもせれませんが楽しんでもらえたらと思います。 両親が幼い頃にいなくなった私 施設に行ったり、非行に走ったり 鑑別所や、少年院に入ったり 音楽を始めたり、住む家がなくフラフラして生きて、いつの間にか会社を経営して結婚して子どもが生まれたり、女装を始めたり こんな生き方でも今生きている自分がいるってことを伝えたいと思います。 過去を振り返ることで今の自分が怠けずに生きられているのか、自分を見つめ直すことができるので頑張って書いていこうと思います。 この物語に出てくる登場人物は本人を除いて一部の人は仮名で表現しております。

平成元年カナダ・バンクーバー行き

イマガーDC
エッセイ・ノンフィクション
前書き その2 “福岡国際空港” 昨日から平成元年にタイムスリップしている。この時は昭和天皇崩御でとにかくえらい騒ぎだった。自粛ムードの真っ最中、名だたるテレビ番組は退屈で、僕もレンタルビデオ屋に走った。人気の作品は貸し出し中の札ばかりで、中に見つけた“ウエルター”という邦画(もう、この言い方も古いのかな)を借りて楽しむ。案外面白かった。実はカナダに行くまでにセルフディフェンスというか、何か格闘技を経験した方が良いだろうと小倉高橋ボクシングジムに通った。自分のペースでトレーニングが進められ、学生時代のような集団練習でないところに惹かれてボクシングを楽しんだ。その経験もあったせいか、現役のプロボクサーが演じた役はリアリティにあふれ興奮した。 さて、僕はというとカナダはおろか外国に出たこともなく航空券を買うのも大学を出た友人に頼った。わざわざ福岡市の生協関連の旅行代理店を紹介してもらい大韓航空の1番安いチケットを買ったのだった。今思えば小倉でも買えたのだろうが、高速バスで行った博多は随分都会に感じられた。その時にワーキングホリディの説明会に参加した気がする。そこから、週刊プロレスに宣伝が載っていたバッシュ=Troopのコブラという靴を買う。生活したバンクーバーではスケボー少年たちからよく履いているバッシュの銘柄を聞かれた。結果、それから5年ほどを履いてボロボロになってから捨てた。 福岡空港へは両親に送ってもらう。航空機に乗り込んでからも両親の姿が見えた。分からないとは思ったがMA-1を裏返してオレンジの色を窓に押し付けてここにいる事を示した。1年後に帰国して聞いたが全く覚えていない、との事で可愛がっていた犬にも死ぬほど吠えられた。こいつ(モモ)も僕も覚えていなかった。僕は少し泣いた。

初老とわんこのEveryday

相沢蒼依
エッセイ・ノンフィクション
子どもの育児がひと段落したと思った矢先に、子犬を飼うことになり、毎日が悪戦苦闘の日々となってます。 北海道のとあるところで仕事しながら執筆活動しながら子犬の面倒見ながらと、忙しい日々を綴っていきます。 ※エブリスタに掲載しているエッセイに手を入れて、ここに載せています。

SFC版ドラゴンクエスト3 プレイ日記

矢木羽研
エッセイ・ノンフィクション
祝・HD-2D版発売日決定! というわけで久しぶりにスーパーファミコン版のドラクエ3をプレイしてみました。 最終目標を神竜15ターン討伐とし、自分なりに効率的にプレイしてみたつもりです。参考にしてみてください。 注: あくまでもスーパーファミコン版の仕様に基づいております。ゲームボーイカラー版や、スマホやPS4版とは似て非なるものです。 バージョンごとの仕様に関しては本文中でも可能な限り触れておりますが、私自身はファミコン版とスーパーファミコン版・ゲームボーイカラー版しかプレイしたことがありません。 ゲームの画面写真は、アナログ接続したテレビ画面をスマホカメラで直接撮影したものです。 プレイ経過やパラメータの記録を目的とした引用であり、権利を侵害する意図はございません。 このページで利用している株式会社スクウェア・エニックスを代表とする共同著作者が権利を所有する画像の転載・配布は禁止いたします。 © 1988,1996 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

カクヨム、noteではじめる小説家、クリエーター生活

坂崎文明
エッセイ・ノンフィクション
カクヨム、noteを中心に小説新人賞やクリエーター関連のエッセイを書いていきます。 小説家になろう、アルファポリス、E☆エブリスタ、ノベラボなどのWeb小説サイト全般の攻略法も書いていきます。 自動バックアップ機能がある『小説家になろう』→カクヨム→noteの順に投稿しています。note版がリンク機能があるので読みやすいかも。 小説家になろう版 http://ncode.syosetu.com/n0557de/ カクヨム版(567関連で公開停止) https://kakuyomu.jp/works/1177354054880246141 【続編】カクヨム、noteではじめる小説家、クリエーター生活2 作者 坂崎文明 https://kakuyomu.jp/works/16816700427247367228 note版 https://note.mu/sakazaki_dc/m/mec15c2a2698d E☆エブリスタ版 http://estar.jp/_howto_view?w=24043593 小説家になるための戦略ノート 作者:坂崎文明《感想 130件  レビュー 2件 ブックマーク登録 1063 件 総合評価 2,709pt文字数 958441文字》も人気です。 http://ncode.syosetu.com/n4163bx/

依存性薬物乱用人生転落砂風奇譚~二次元を胸に抱きながら幽体離脱に励む男が薬物に手を出し依存に陥り断薬を決意するに至るまで~

砂風
エッセイ・ノンフィクション
 未だに咳止め薬を手放せない、薬物依存症人間である私ーー砂風(すなかぜ)は、いったいどのような理由で薬物乱用を始めるに至ったのか、どういう経緯でイリーガルドラッグに足を踏み入れたのか、そして、なにがあって断薬を決意し、病院に通うと決めたのか。  その流れを小説のように綴った体験談である。  とはいえ、エッセイの側面も強く、少々癖の強いものとなっているため読みにくいかもしれない。どうか許してほしい。  少しでも多くの方に薬物の真の怖さが伝わるよう祈っている。 ※事前知識として、あるていど単語の説明をする章を挟みます。また、書いた期間が空いているため、小説内表記や自称がぶれています。ご容赦いただけると助かります(例/ルナ→瑠奈、僕→私など)。

処理中です...