虫けらのアニメ・特撮雑史

柚緒駆

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1976年

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 前年から放送開始となった「秘密戦隊ゴレンジャー」は1977年3月末まで続く訳だが、この年早くも後追いが出て来る。まあ後追いと言っても制作しているのは東映なので、ゴレンジャーの兄弟番組のようなものなのだが、東京12チャンネル(現在のテレビ東京)が「忍者キャプター」の放送を開始した。第1話冒頭はいまでも忘れない。東京タワーの展望台の上に7人のキャプターが並び、それを空撮しているのである。そこにバーン! と出て来るサブタイトルが、「東京タワーに立つ七人の忍者」。そのまんまか! と思ったのを覚えている。

 主演は伴直弥氏。キカイダーやイナズマンの人である。キャプターはゴレンジャーより2人多い分、キャラクターもバラエティに富んでいる。最長老のキャプター1は潮建志氏。仮面ライダーの地獄大使としてお馴染みだ。女子もいれば子供もいる。いろんな層にリーチを伸ばすことを考えたのだろうが、余計な欲をかいたのがいけなかったのかも知れない。結果として1年持たなかった。ゴレンジャーごっこは子供の遊びの定番となったが、果たしてキャプターごっこをしていた子供はいたのだろうか。二匹目のドジョウは難しいな。

 キャプターにはコミカライズ作品がある。描いているのは「超人ロック」でお馴染みの聖悠紀氏。聖氏は「超電磁マシーン ボルテスV」(1977年)や「闘将ダイモス」(1978年)のキャラクターデザインでも知られている。

 この年、東映はキャプターの他に「宇宙鉄人キョーダイン」「ザ・カゲスター」「超神ビビューン」「ぐるぐるメダマン」「5年3組魔法組」と合計6本の特撮番組を出している。どれもまあクセの強い作品ばかりだ。よほど儲かっていたのか、物凄いアイデアマンでもいたのか。

 東映は1981年以降に「東映不思議コメディシリーズ」と呼ばれる一連の作品を世に送り出すが、その源流に当たるのは5年3組魔法組、がんばれ!!ロボコン、あとは「好き!すき!!魔女先生」(1971年)辺りだろう。魔法組は毎週見ていた記憶はあるのだが、何故か内容を思い出せない。

 キョーダインのインパクトは強かった。子供心に「何じゃこれ」と思ったものだ。2人の兄弟(の記憶をコピーした)サイバロイド(要はロボット)がダダ星の地球攻略ロボット軍と戦うのだが、弟のグランゼルは自動車に変身する。まあ、とりあえずそれはいい。問題は兄のスカイゼルだ。

 スカイゼルはミサイルに変身する。ミサイル、である(しかもこのミサイルが動いてしゃべる)。で、そのミサイルが弟の変身した車に搭載され、そこから敵に向かって発射され、飛んで行って、ドッカーン! ……その後スカイゼルは何事もなかったかのように現われる。石ノ森章太郎氏もまあぶっ飛んだことを考えるものだ。ただ、インパクトは強かったものの、子供はすぐに慣れてしまう。飽きるのも早かったように思う。

 ビビューンは無理矢理「アクマイザー3」(1975年)と結びつけなくても良かったように思うのだが。あやかりたいほどの人気はあったということなのだろうか。ビビューンの主題歌は、ささきいさお氏が大変楽しそうに歌っているのが印象的である。物語は、まあ、うん。

 デザインで印象に残っているのはカゲスターとメダマンか。カゲスターは意味不明なアメリカ的デザインが楽しいが、物語は覚えていない。メダマンは吾妻ひでお氏のデザインは可愛いのに、すげーデカい。そこが気になって話が頭に入ってこない。

 この年の特撮は他に円谷プロの「恐竜探検隊 ボーンフリー」と「プロレスの星 アステカイザー」、ヒーローが斧を振り回す「バトルホーク」、UFOブームの「円盤戦争バンキッド」の全部で10本。前年より3本増えている。子供たちの間の話題はゴレンジャー中心に回っていたものの、それなりに弾はあったと言える。

 1976年のアニメは27本あったらしいのだが、おそらく半分くらいしか観ていない。観ていない作品から話を始めるのもどうよ、と思わないでもないのだが、この作品に触れない訳にも行かない。「キャンディ・キャンディ」、正確にはこの・はハートマークなのだが、表示されない環境があると面倒なのでここではこう表記する。うちには姉がいたので毎週のように観ていたが、虫けらは興味がなかったので観ていない。観ていないはずなのに、アンソニーとかイライザとか登場人物の名前を知っているのは何故だ。

 まあ、そのくらい当時のキャンディ・キャンディの影響力は凄かった。もしあの当時の凄さをそのまんま現代に持ってくることができれば、「鬼滅の刃」(2019年)級の社会現象を起こしたかも知れない。学校でキャンディ・キャンディの悪口なんぞ言おうものなら、クラスの半分を即座に敵に回すことになった。虫けらのように気の弱い男子には、口にするのも憚られる恐ろしい名前であった。

 ではそんな男子は何を観ていたのかと言えば、もうこの年はこれしかない。「超電磁ロボ コンバトラーV」である。何せ初の「玩具で再現可能な変形合体巨大ロボ」なのだ、そりゃあ飛びつくわな。しかし、ゲッターロボ登場から僅か2年でこの作品を放送できたというのは、もう何と言うか凄まじい。超電磁タツマキから超電磁スピンという流れも美しかった。

 コンバトラーVの放送当時、東京の某大学に「南原ちずるファンクラブ」があったという話がある。確かに実際、南原ちずるは可愛かった。キャラクターデザインは安彦良和氏なのだが、いわゆる安彦絵ではない。個人的に安彦絵は好きなのだが、コンバトラーVに限って言えば、安彦絵でなかったのが成功要因かも知れない。

 この年は巨大ロボットの当たり年だったのか、他にタツノコの巨大ロボット「ゴワッパー5 ゴーダム」、ダイナミック企画の空爆ロボ「グロイザーX」、男女合体(変な意味ではない)の「マグネロボ ガ・キーン」、胴体に顔を付けた元祖「大空魔竜ガイキング」、円月回転の「ブロッカー軍団Ⅳマシーンブラスター」、ヨモスエアニメ(懐かしい響きだな)として名高い「UFO戦士ダイアポロン」が放送されている。どれも名前は21世紀の現代にまで伝わっている作品ばかりだ。

 巨大ロボットアニメ以外なら、野球漫画の金字塔「ドカベン」や、レースアニメの「マシンハヤブサ」、楳図かずお氏原作の「妖怪伝 猫目小僧」、名作劇場第2作の「母をたずねて三千里」、永井一郎氏のガキオヤジが印象深い「ろぼっこビートン」辺りは見ていたか。

 だがこの1976年、個人的にどうしても取り上げておきたいのは、タツノコプロのファンタジーアニメ「ポールのミラクル大作戦」である。この作品の世間的評価がどうにも低すぎる気がする。内容的には、現実世界と異世界を行ったり来たりする物語。アニメで異世界ファンタジーというと、どうしても「聖戦士ダンバイン」(1983年)の名前が挙がるが、虫けらはポールのミラクル大作戦がもっと思い出されてもいいのではないかと強く思う次第。中世風異世界ではなく、おとぎ話世界なのがいかんのだろうか。

 目新しい作品がバンバン大ヒットしていた1975年までと違い、この年のアニメと特撮は既存のアイデアを再構成したような作品や、ハイジとヤマトが道を付けた物語性の高い作品が目立ったように思う。それだけ良く言えば落ち着いた、悪く言えば小粒になったのかも知れない。この傾向はしばらく続いて行く。
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