上 下
57 / 60
6 終章

3 黒神 グレース

しおりを挟む
久々に、皆に会うな。
アルルに花の印を付けたかったのだが……少しだけ待って欲しいと頼まれた。
もしも、アキが無事なら会いたいのだと悲しげに微笑んだ。その姿が、どこか儚げで消えてしまいそうで、無理に花の印をつける事を躊躇った。

「私らしく、ないな」
いつもなら、躊躇わずに跡を付けただろう。
強かで弱味など見せなかったアルルが、こんなにも弱かっただろうか?

従者を消したのも私だ。何より伴侶として選んだユラを消したことが、ショックのようだ。
アルルは、裏切ったりしないだろう。だが、私に対して恐怖を抱かせたのだろうか?

せめて、行方知れずの者を探してやれば……元気になるのでは無いかと思ったのだが。リンからの連絡がない。
アルルは、華やかな場所が好きだったはずだ。そう思って連れてきた。少しでも元気になればと、我ながら一体どうしてこんなに気になるのか分からない。


青神ノルトは、美人に目が無いから気を付けないといけない。だが、青神ノルトも伴侶候補を連れてくると言った以上、アルルにちょっかいを出したりしないだろう。

赤神レグナは、すでに伴侶を決めたと聞いた。こちらに興味を持つ事もないな。

黒神グレースは、しばらく会っていない。たった一人だけを求める者だ。堅苦しい。まぁ、からかっただけだが、あの後何も聞かなかったからな……問題はないか。

今回は、珍しく黒神グレース亜墨あすみ領で顔を会わせる。相性が、悪いのだ。私は黒色を好まないから。
墨色の花が、敷地内に群生していて意外にも美しいことに驚いた。

先に来ていた青神ノルト赤神レグナの姿が見えた。
二人とも、相手を連れてきているのか。黒神グレースは……黒衣の、ベールのような物を被っている者を傍に連れている。たった一人を見付けたのだろうか?黒衣に金糸刺繍が繊細で美しい。艶やかな黒髪が見え隠れしている。


この声……なんだ?
聞いたことがあるのは、何故だ?何処かで会っただろうか?
ピタリと、アルルの歩みも止まった。

「ラティア」
青神ノルトから笑顔で名前を呼ばれて、皆の方へと近寄って行く。

「ラティアの伴侶に選ばれるだけあって美しいな」
そう言ったのは、赤神レグナだ。

「──ああ。ありがとう」

アルルは、じっと黒衣の者を見つめていた。アルルも……気になるのか?やはり、知った声のような気がする。

黒神グレースに声をかけようとしたタイミングで、別の誰かの声がした。

「どうぞ、こちらへ」

アルルがフラフラと歩き出す。どうしたんだ?

「アルル?」

「アキ!」
アルルが走り出して、その者の手を取ろうとした時、黒神グレースが止めに入った。

「どうしましたか?」
低い声に、ハッとする。アルルの行方知れずの従者の名前か?なぜここに?

「も、申し訳ありません。私は、この者を知っているのです。どうか話をさせて下さい」

だが、肝心のアキは表情が変わらない。本当にアキなのだろうか?色味が灰色に近い。似た誰かではないのか?いや、アルルが間違えるはずがない。

「知り合いか?」
「いいえ。お会いしたことはありません」

「──アキ」

黒神グレース……その者は、ここに前からいるのか?」

「いや。違う。どうやら、記憶がいるみたいなんだ。俺の伴侶が世話になったようだから、こちらで一緒に過ごしているだけだ。君の伴侶の知り合いなのか?」

記憶が欠けている?

ユラは、記憶がおかしくなかったか?
アキも?

何が原因だ?堕天化やみおちやまい?いや、何だ。禁忌の……泉?まさか。


黒神グレース。暫く会わなかったが、君に何かは無かったのか?」

「───今更?」
恐ろしい程の凍えた空気を纏い、黒神グレースがこちらを見つめてきた。









しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜

倉橋 玲
BL
**完結!** スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。 金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。 従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。 宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください! https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be ※この作品は他サイトでも公開されています。

処理中です...