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6 終章
3 黒神 グレース
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久々に、皆に会うな。
アルルに花の印を付けたかったのだが……少しだけ待って欲しいと頼まれた。
もしも、アキが無事なら会いたいのだと悲しげに微笑んだ。その姿が、どこか儚げで消えてしまいそうで、無理に花の印をつける事を躊躇った。
「私らしく、ないな」
いつもなら、躊躇わずに跡を付けただろう。
強かで弱味など見せなかったアルルが、こんなにも弱かっただろうか?
従者を消したのも私だ。何より伴侶として選んだユラを消したことが、ショックのようだ。
アルルは、裏切ったりしないだろう。だが、私に対して恐怖を抱かせたのだろうか?
せめて、行方知れずの者を探してやれば……元気になるのでは無いかと思ったのだが。リンからの連絡がない。
アルルは、華やかな場所が好きだったはずだ。そう思って連れてきた。少しでも元気になればと、我ながら一体どうしてこんなに気になるのか分からない。
青神は、美人に目が無いから気を付けないといけない。だが、青神も伴侶候補を連れてくると言った以上、アルルにちょっかいを出したりしないだろう。
赤神は、すでに伴侶を決めたと聞いた。こちらに興味を持つ事もないな。
黒神は、しばらく会っていない。たった一人だけを求める者だ。堅苦しい。まぁ、少しからかっただけだが、あの後何も聞かなかったからな……問題はないか。
今回は、珍しく黒神の亜墨領で顔を会わせる。相性が、悪いのだ。私は黒色を好まないから。
墨色の花が、敷地内に群生していて意外にも美しいことに驚いた。
先に来ていた青神と赤神の姿が見えた。
二人とも、相手を連れてきているのか。黒神は……黒衣の、ベールのような物を被っている者を傍に連れている。たった一人を見付けたのだろうか?黒衣に金糸刺繍が繊細で美しい。艶やかな黒髪が見え隠れしている。
この声……なんだ?
聞いたことがあるのは、何故だ?何処かで会っただろうか?
ピタリと、アルルの歩みも止まった。
「ラティア」
青神から笑顔で名前を呼ばれて、皆の方へと近寄って行く。
「ラティアの伴侶に選ばれるだけあって美しいな」
そう言ったのは、赤神だ。
「──ああ。ありがとう」
アルルは、じっと黒衣の者を見つめていた。アルルも……気になるのか?やはり、知った声のような気がする。
黒神に声をかけようとしたタイミングで、別の誰かの声がした。
「どうぞ、こちらへ」
アルルがフラフラと歩き出す。どうしたんだ?
「アルル?」
「アキ!」
アルルが走り出して、その者の手を取ろうとした時、黒神が止めに入った。
「どうしましたか?」
低い声に、ハッとする。アルルの行方知れずの従者の名前か?なぜここに?
「も、申し訳ありません。私は、この者を知っているのです。どうか話をさせて下さい」
だが、肝心のアキは表情が変わらない。本当にアキなのだろうか?色味が灰色に近い。似た誰かではないのか?いや、アルルが間違えるはずがない。
「知り合いか?」
「いいえ。お会いしたことはありません」
「──アキ」
「黒神……その者は、ここに前からいるのか?」
「いや。違う。どうやら、記憶が欠けているみたいなんだ。俺の伴侶が世話になったようだから、こちらで一緒に過ごしているだけだ。君の伴侶の知り合いなのか?」
記憶が欠けている?
ユラは、記憶がおかしくなかったか?
アキも?
何が原因だ?堕天化の病?いや、何だ。禁忌の……泉?まさか。
「黒神。暫く会わなかったが、君に何か異変は無かったのか?」
「───今更?」
恐ろしい程の凍えた空気を纏い、黒神がこちらを見つめてきた。
アルルに花の印を付けたかったのだが……少しだけ待って欲しいと頼まれた。
もしも、アキが無事なら会いたいのだと悲しげに微笑んだ。その姿が、どこか儚げで消えてしまいそうで、無理に花の印をつける事を躊躇った。
「私らしく、ないな」
いつもなら、躊躇わずに跡を付けただろう。
強かで弱味など見せなかったアルルが、こんなにも弱かっただろうか?
従者を消したのも私だ。何より伴侶として選んだユラを消したことが、ショックのようだ。
アルルは、裏切ったりしないだろう。だが、私に対して恐怖を抱かせたのだろうか?
せめて、行方知れずの者を探してやれば……元気になるのでは無いかと思ったのだが。リンからの連絡がない。
アルルは、華やかな場所が好きだったはずだ。そう思って連れてきた。少しでも元気になればと、我ながら一体どうしてこんなに気になるのか分からない。
青神は、美人に目が無いから気を付けないといけない。だが、青神も伴侶候補を連れてくると言った以上、アルルにちょっかいを出したりしないだろう。
赤神は、すでに伴侶を決めたと聞いた。こちらに興味を持つ事もないな。
黒神は、しばらく会っていない。たった一人だけを求める者だ。堅苦しい。まぁ、少しからかっただけだが、あの後何も聞かなかったからな……問題はないか。
今回は、珍しく黒神の亜墨領で顔を会わせる。相性が、悪いのだ。私は黒色を好まないから。
墨色の花が、敷地内に群生していて意外にも美しいことに驚いた。
先に来ていた青神と赤神の姿が見えた。
二人とも、相手を連れてきているのか。黒神は……黒衣の、ベールのような物を被っている者を傍に連れている。たった一人を見付けたのだろうか?黒衣に金糸刺繍が繊細で美しい。艶やかな黒髪が見え隠れしている。
この声……なんだ?
聞いたことがあるのは、何故だ?何処かで会っただろうか?
ピタリと、アルルの歩みも止まった。
「ラティア」
青神から笑顔で名前を呼ばれて、皆の方へと近寄って行く。
「ラティアの伴侶に選ばれるだけあって美しいな」
そう言ったのは、赤神だ。
「──ああ。ありがとう」
アルルは、じっと黒衣の者を見つめていた。アルルも……気になるのか?やはり、知った声のような気がする。
黒神に声をかけようとしたタイミングで、別の誰かの声がした。
「どうぞ、こちらへ」
アルルがフラフラと歩き出す。どうしたんだ?
「アルル?」
「アキ!」
アルルが走り出して、その者の手を取ろうとした時、黒神が止めに入った。
「どうしましたか?」
低い声に、ハッとする。アルルの行方知れずの従者の名前か?なぜここに?
「も、申し訳ありません。私は、この者を知っているのです。どうか話をさせて下さい」
だが、肝心のアキは表情が変わらない。本当にアキなのだろうか?色味が灰色に近い。似た誰かではないのか?いや、アルルが間違えるはずがない。
「知り合いか?」
「いいえ。お会いしたことはありません」
「──アキ」
「黒神……その者は、ここに前からいるのか?」
「いや。違う。どうやら、記憶が欠けているみたいなんだ。俺の伴侶が世話になったようだから、こちらで一緒に過ごしているだけだ。君の伴侶の知り合いなのか?」
記憶が欠けている?
ユラは、記憶がおかしくなかったか?
アキも?
何が原因だ?堕天化の病?いや、何だ。禁忌の……泉?まさか。
「黒神。暫く会わなかったが、君に何か異変は無かったのか?」
「───今更?」
恐ろしい程の凍えた空気を纏い、黒神がこちらを見つめてきた。
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