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第1章 堕ちる

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淡い光が少しづつ小さくなり消えてしまった。

「どうだい?ゆっくり足を動かしてみるといい」

「動きます。痛くもありません」

にこにことユラが笑ってラティアの顔を見つめる。

大きな手がユラの頭をなでるとさらに花が綻ぶように柔らかな笑顔を向けてくるので、つられてラティアも笑う。

「痛い思いをさせたね。すぐに治療もしてあげられなくてすまなかった」

「いえ。十分です。リン様にも良くしていただきました。もう、平気です。リン様、新人神使の部屋に連れて行ってください」

ユラがリンの方を伺うと顔を押さえ小刻みに震えている。

「リン様どうしたのですか?具合が悪いのなら白神様に診てもらいましょう?変わります」

慌ててソファから立ちあがろうとしたユラをラティアが抱きしめる。


「ユラ。リンのことは気にしなくていい。それより怪我の状態を診たいから、後2日程はこの邸にいなさい。これは、私の願いだよ?聞いてくれるかい?その後、アルルの従者が迎えにくるはずだからね」

「でも。私の様な劣等種が、側にいるのは良くないと聞きました。お仕事をいただけるだけで……ここに置いていただけるだけでも無相応なのです。ですから、物置でも雨風さえしのげたらそれでいいのです」

「私の願いだよ?」

黙ってしまったユラのおでこにラティアが口付ける。

「お休み。ユラ。私の──」

ユラの体から力が抜けてラティアの腕の中で意識を失っていく。


「本当にベタ惚れなのですね?」

リンがソファの近くまで移動して来た。

「お前、笑っていただろう?でもまあ、他に触らせたくないくらいには気に入っているな」

「寝込みを襲わないで下さいね?伴侶にする者に対して、使と同じようにしてしまったら遊びと認定されますからね?手順を追って下さい」

「分かっている。だが、アルル達にユラが特別なのだと示す必要があるだろう?この子を守るために必要だからな」

「印をつけるのですね?」

「そうだ」

「火種になりませんか?我が一族からの後見を取り付けてからでも……」

「そこまで、私に刃向かってこないだろう。せいぜい嫉妬で嫌がらせを受けるのだろうから……気をつけていてほしい」

「俺に?願い事か?ラティア」

「リン、お前との付き合いは長いからな。他の神や、うちの神使たちよりもよっぽど信頼できる」

「ユラちゃんのお前に対する気持ちは、愛情じゃないだろう?主人に対しての尊敬だけだ。それでも先に印をつけるのか?」

「時間はあるからな。側に置いて離さなければ、懐いてくれるさ」



「──分かったよ」

意識のないユラを抱きかかえて別の部屋へ移動する。


先に2人神官服の人神ひとがみ族が立って待っていた。

「儀式を行う」

ユラの上衣が脱がされ寝台に寝かされた。

ラティアが自身の右手薬指を短刀で傷つける。

ラティアの血がユラの右胸にポタリと落ちる。

何かを唱え血の落ちた所口付けて強く吸うとユラが短く小さな声をもらした。
意識はまだ戻らない。

赤く痕が残るとラティアが満足そうに笑う。

そしてまた額に口付けた。

「ユラ……もう君は、私のものだよ」



証明を神官に記録させて部屋から退場させる、部屋に残っていたリンが確認をとる。 

「起きたら説明をするのか?」

「いや。黙っていても……自然にばれるさ」

「悪趣味だな。周りから固めて逃げれないようにする気か?」

「違う。ユラにじゃない。他の奴に諦めてもらうだけだ。私が選んだことを周知するには自分たちの目で見るのが早いだろう?」

「分かったから、服を着せて休ませよう。なんだかんだと、疲れているだろうから」


「可愛いな。このまま食べたいくらいだ」


「ラティア!」

リンが流石に強く名前を呼んだ。ラティアが肩をすくめて見せる。

「怖い顔をするな。今日は客室で寝かせる。ただ警備は厳重にしてくれ」


「そうだな」

「でも、いくらお前でも触らせたくない。俺が運ぶ」


そう言ってラティアがユラを抱きかかえた。
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