56 / 58
第4章(終章)
7愛すべき世界・終話
しおりを挟む
ジェイに似た人が、円卓の中心にいる。上位のアルファで間違いない。この部屋にいる貴族もレベルが違ってもアルファなんだろう。
俺を見る哀れみの顔。好奇の目。舐め回すような視線。
「──そのローブを脱いでくれないか?」
その低い声が、自分に向けられたことに気付くのが遅れた。
「おい。陛下の言葉を無視するのか?これだから、平民のオメガは」
突き刺さる言葉に唇を噛んだ。
ジェイが、目の前に立ちフードを下げてくれた。
紫銀の髪を撫でられる。ローブはマジックバックの中へと押し込まれた。貴重な魔術式が織り込まれている。信用出来ない者には渡せない。それを組んでくれた形だ。
そして、ジェイは横に並び直した。
「殿下の手を煩わせるなん……て」
誰かの言葉が途中で消えた。
室内がざわつき始めた。慣れない貴族服を着せられている。なめられないようにと母さんが選んでくれたから、多分失礼は無いと思いたい。
「どういう事だ?紫銀の髪だ」
「あの髪色に染める技術は無いはず……ならば本物か?」
「静かにしろ」
一瞬で誰もが口を閉じた。
「ジェイク。紹介してくれ。君の番をね」
「な、番ですと?」
一番年配と思われる貴族が声を上げた。
陛下に睨まれて直ぐに口を閉じる。
「私の運命の番であり、王子妃になる者です。すでに番は成立しています」
「運命か……オメガで間違いはないのだな。しかし、紫銀の髪とは。細工でも魔術でもないな。発言を許可する。本当の名前を言いなさい」
「──ライリオラ……」
覚悟して言うんだ。真実の名を。
「ライリオラ・エーベルハルトと申します」
空気が変わった。
視線が更に痛い。
──怖い。
「何を馬鹿な!エーベルハルトは、数百年もの昔に滅んだ王国だ。その当時なら分からないが、今更末裔が生きていたなど証明など出来るはずがない!」
年配の貴族が声を荒らげる。その訴えに感化され、他の貴族も身を乗り出した。
「聞けば、魔女の血筋なのだろう?オメガの血と魔女の力を使って殿下を誘惑したのだろう……家畜以下め」
「なんと浅ましい。殿下その者は捨ておきなさい。アルファからの情けを貰わなければ直ぐに死ぬでしょう。毒杯の名誉を与えるのも惜しい」
ドンッ
殿下が魔術を壁に向かって放った。
「ジェイク……落ち着きなさい」
「やはり、平民に誑かされて……な」
黒い闇の中から手が伸びてきた。年配の貴族の首の所に剣を当てて背後に立ったままだ。顔は分からないようにしている。
「何者だ」
陛下の声が静かにその手の主に声をかけた。
一歩踏み出し、姿を現した姿に皆息を飲んだ。
「セリオライトの王か」
「そうだが、お前はいったい」
「──エーベルハルトの王より、末裔の王子を守護せよと命じられた者だ」
「人ではないな。魔族か?」
「そうだな。人間は、私の事を魔王と呼んでいた」
一気に室内が緊迫に包まれる。
「何故彼を守護するのか理由を聞きたい」
「人間は、恩を仇で返すのか?我らは約束を違えぬ。ライリオラ・エーベルハルトに危害をなす者があれば、魔族を敵にすると思え。また、その血族を守護する。害をなせば、人間界に干渉し滅びを与える。違えなければ和平を約束する」
父さん……涙がこぼれそうになる。
殿下が膝をつく。
「私、ジェイク・セリオライトは、生涯ライリオラ・エーベルハルトを愛し護ります。約束いたします。どうか人間界との和平をお願いしたい」
陛下が、皆を立たせた。そして騎士の誓いの礼をとる。
「並々ならぬ魔力、ライリオラ殿が居なければ我々全員今ここで簡単に処分されてもおかしくありません。我々もこの世界を護りたいのです。その架け橋に王子妃がなってくれるのであれば、歓迎致します」
いつの間にか、開放された貴族が地を這う形で陛下の後方へと移動したきた。
暗闇から現れた人外は、恐ろしく美しく笑った。
「約束を違えるな。ライリオラ……何かあれば私を呼びなさい」
そして、また消えた。
陛下が俺の前に立ち、また膝をつく。
「この国、いや人間界の為に力を貸してほしい。君を罵った者たちには、きちんと罰を与える」
「あの……そんな」
「君が許してくれても、かの方は許さないはずだ。任せて欲しい。それから、王妃もオメガだ。君と気が合うだろう会ってやって欲しい」
「は、い」
「陛下、私達の婚姻は認めて頂けますね?」
「反対の出来る者などいないだろう。和平へと繋がるなら、反対など絶対にさせない。それにお前達は運命なのだからひき剥がすことなど出来ない。それとも、反対する者はいるのか?」
「め、滅相もごさいません。お、おめでとうございます」
「おめでとうごさいます」
そして、俺とジェイの婚約は滞りなく進んでいく。
うさぎ亭はもちろんだが、薬剤には王宮御用達の印がつく事となった。
◇◇◇
一年の婚約期間を明けていよいよ、婚姻の儀が行われる。大きな神殿の祭司の前へと兄さんの手を取ってゆっくりと歩む。父さんは、魔王に悪いとそれを拒み、その役目を兄さんへと譲ったのだ。
扉が開く前に兄さんがギュッと抱きしめてくれた。この一年で兄さんの本当の気持ちに気が付いた。ずっと、見守ってくれていた大切な人。なんて言っていいのか迷っていた。そんな俺を見て、兄さんの唇がおでこに軽く触れた。
「ずっと変わらずライラを愛すよ。君が幸せならいい。魔王と同じで、ライラが泣かされるような事があったら……いつでも迎えに行く」
そして笑った。
歩む先にジェイの姿が見えた。みなの協力の元、認められた2人。それに滅びたとは言え王族とした扱われることになった。
2人手を取り合って、バルコニーへと並び立つ。
民衆の大歓声に包まれた。
「この先も変わらずに君を守り愛すことを、誓う」
「ジェイ、愛してる」
重なる唇に更に大歓声が起きたのだった。
本編おわり
最後まで、ありがとうございました。
おまけの巣作り2話(?)になりそうです。そちらをupして完結としたいと思います。
更新が遅くて申し訳ありませんでした。
また、別の作品でお会いできたら嬉しいです。
俺を見る哀れみの顔。好奇の目。舐め回すような視線。
「──そのローブを脱いでくれないか?」
その低い声が、自分に向けられたことに気付くのが遅れた。
「おい。陛下の言葉を無視するのか?これだから、平民のオメガは」
突き刺さる言葉に唇を噛んだ。
ジェイが、目の前に立ちフードを下げてくれた。
紫銀の髪を撫でられる。ローブはマジックバックの中へと押し込まれた。貴重な魔術式が織り込まれている。信用出来ない者には渡せない。それを組んでくれた形だ。
そして、ジェイは横に並び直した。
「殿下の手を煩わせるなん……て」
誰かの言葉が途中で消えた。
室内がざわつき始めた。慣れない貴族服を着せられている。なめられないようにと母さんが選んでくれたから、多分失礼は無いと思いたい。
「どういう事だ?紫銀の髪だ」
「あの髪色に染める技術は無いはず……ならば本物か?」
「静かにしろ」
一瞬で誰もが口を閉じた。
「ジェイク。紹介してくれ。君の番をね」
「な、番ですと?」
一番年配と思われる貴族が声を上げた。
陛下に睨まれて直ぐに口を閉じる。
「私の運命の番であり、王子妃になる者です。すでに番は成立しています」
「運命か……オメガで間違いはないのだな。しかし、紫銀の髪とは。細工でも魔術でもないな。発言を許可する。本当の名前を言いなさい」
「──ライリオラ……」
覚悟して言うんだ。真実の名を。
「ライリオラ・エーベルハルトと申します」
空気が変わった。
視線が更に痛い。
──怖い。
「何を馬鹿な!エーベルハルトは、数百年もの昔に滅んだ王国だ。その当時なら分からないが、今更末裔が生きていたなど証明など出来るはずがない!」
年配の貴族が声を荒らげる。その訴えに感化され、他の貴族も身を乗り出した。
「聞けば、魔女の血筋なのだろう?オメガの血と魔女の力を使って殿下を誘惑したのだろう……家畜以下め」
「なんと浅ましい。殿下その者は捨ておきなさい。アルファからの情けを貰わなければ直ぐに死ぬでしょう。毒杯の名誉を与えるのも惜しい」
ドンッ
殿下が魔術を壁に向かって放った。
「ジェイク……落ち着きなさい」
「やはり、平民に誑かされて……な」
黒い闇の中から手が伸びてきた。年配の貴族の首の所に剣を当てて背後に立ったままだ。顔は分からないようにしている。
「何者だ」
陛下の声が静かにその手の主に声をかけた。
一歩踏み出し、姿を現した姿に皆息を飲んだ。
「セリオライトの王か」
「そうだが、お前はいったい」
「──エーベルハルトの王より、末裔の王子を守護せよと命じられた者だ」
「人ではないな。魔族か?」
「そうだな。人間は、私の事を魔王と呼んでいた」
一気に室内が緊迫に包まれる。
「何故彼を守護するのか理由を聞きたい」
「人間は、恩を仇で返すのか?我らは約束を違えぬ。ライリオラ・エーベルハルトに危害をなす者があれば、魔族を敵にすると思え。また、その血族を守護する。害をなせば、人間界に干渉し滅びを与える。違えなければ和平を約束する」
父さん……涙がこぼれそうになる。
殿下が膝をつく。
「私、ジェイク・セリオライトは、生涯ライリオラ・エーベルハルトを愛し護ります。約束いたします。どうか人間界との和平をお願いしたい」
陛下が、皆を立たせた。そして騎士の誓いの礼をとる。
「並々ならぬ魔力、ライリオラ殿が居なければ我々全員今ここで簡単に処分されてもおかしくありません。我々もこの世界を護りたいのです。その架け橋に王子妃がなってくれるのであれば、歓迎致します」
いつの間にか、開放された貴族が地を這う形で陛下の後方へと移動したきた。
暗闇から現れた人外は、恐ろしく美しく笑った。
「約束を違えるな。ライリオラ……何かあれば私を呼びなさい」
そして、また消えた。
陛下が俺の前に立ち、また膝をつく。
「この国、いや人間界の為に力を貸してほしい。君を罵った者たちには、きちんと罰を与える」
「あの……そんな」
「君が許してくれても、かの方は許さないはずだ。任せて欲しい。それから、王妃もオメガだ。君と気が合うだろう会ってやって欲しい」
「は、い」
「陛下、私達の婚姻は認めて頂けますね?」
「反対の出来る者などいないだろう。和平へと繋がるなら、反対など絶対にさせない。それにお前達は運命なのだからひき剥がすことなど出来ない。それとも、反対する者はいるのか?」
「め、滅相もごさいません。お、おめでとうございます」
「おめでとうごさいます」
そして、俺とジェイの婚約は滞りなく進んでいく。
うさぎ亭はもちろんだが、薬剤には王宮御用達の印がつく事となった。
◇◇◇
一年の婚約期間を明けていよいよ、婚姻の儀が行われる。大きな神殿の祭司の前へと兄さんの手を取ってゆっくりと歩む。父さんは、魔王に悪いとそれを拒み、その役目を兄さんへと譲ったのだ。
扉が開く前に兄さんがギュッと抱きしめてくれた。この一年で兄さんの本当の気持ちに気が付いた。ずっと、見守ってくれていた大切な人。なんて言っていいのか迷っていた。そんな俺を見て、兄さんの唇がおでこに軽く触れた。
「ずっと変わらずライラを愛すよ。君が幸せならいい。魔王と同じで、ライラが泣かされるような事があったら……いつでも迎えに行く」
そして笑った。
歩む先にジェイの姿が見えた。みなの協力の元、認められた2人。それに滅びたとは言え王族とした扱われることになった。
2人手を取り合って、バルコニーへと並び立つ。
民衆の大歓声に包まれた。
「この先も変わらずに君を守り愛すことを、誓う」
「ジェイ、愛してる」
重なる唇に更に大歓声が起きたのだった。
本編おわり
最後まで、ありがとうございました。
おまけの巣作り2話(?)になりそうです。そちらをupして完結としたいと思います。
更新が遅くて申し訳ありませんでした。
また、別の作品でお会いできたら嬉しいです。
27
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説

これはハッピーエンドだ!~モブ妖精、勇者に恋をする~
ツジウチミサト
BL
現実世界からRPGゲームの世界のモブ妖精として転生したエスは、魔王を倒して凱旋した勇者ハルトを寂しそうに見つめていた。彼には、相思相愛の姫と結婚し、仲間を初めとした人々に祝福されるというハッピーエンドが約束されている。そんな彼の幸せを、好きだからこそ見届けられない。ハルトとの思い出を胸に、エスはさよならも告げずに飛び立っていく。
――そんな切ない妖精に教えるよ。これこそが、本当のハッピーエンドだ!
※ノリと勢いで書いた30分くらいでさくっと読めるハッピーエンドです。全3話。他サイトにも掲載しています。


新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる