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第4章(終章)
1半魔
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胸に刺さったままの短剣は、びくりとも動かない。信じられないが、違和感はあるのに痛みは一切感じられない。
その代わりなのか、体は全く動かない。そして何も見えない。
もしかして、死んだ?
それとも、祭壇みたいな所に寝かされて……今から儀式とかやるのかな?痛みが無いなら、このまま眠りにつけたらそれが一番いい。きっと、呪文を唱えられてこの剣を抜かれたら全部終わる。
魔族の最愛は、きっとあの人で運命だった2人だ。人と魔族。惹かれ合うのに種族は関係がなかっただけだ。
俺は?いつの間にかあの人が一番大切になっている。何よりも大切だから、生きて欲しい。魔族が、最愛を取り戻したい気持ちも分かる。「番」だとしても、俺じゃジェイに相応しくない。
だから、これで良かったんだ。
───嘘つき。
そんな事ないよ。
───なら、何故泣いてる?
泣いてない。
───諦めるのか?
仕方ないんだ。彼は、皆に必要とされてる。王となるべき選ばれた人だから。
───私は王家を捨てたよ。オメガの血が嫌いだった。全てを狂わす最悪の血。ずっと死にたかった。そして狂った世界で、たった一人と出逢えたんだ。魔族なんて関係なく、惹かれた。
ライリオラは、違うのか?お前に手を伸ばしてくれる彼は、お前の唯一だよ。
諦めないで。
───ライラ。私の大切な子。
ふわりと温もりが伝わる。
動かないと思ってた瞼をゆっくりと持ち上げる。薄暗らくてよく見えない。誰かの声がするけど、よく聞き取れないままだ。胸に刺さっている剣に手を伸ばす。その手に細く長い指が絡んできた。この剣を抜けって言ってるみたいだ。
分かった。
不思議と怖くない。
剣の柄に手をかける。固められた魔術が解かれて行くのが分かった。そして、一気に痛みが戻って来る。でも、躊躇う時間はないから。一気に引き抜いた。
「ぐはっ……あ」
これでいい?
細く長い指が、胸を押さえてくれる。何かが流れ込んでくる。
「サフィア!!」
綺麗な紫銀の髪が揺れる。綺麗な青い瞳に長いまつ毛が印象的な人。似てるかな?
母さん……
「駄目だよ。大切な人泣かせたら……俺を使っていいよ?ジェイは、王になる人なんだ。だから、彼のこと助けて欲しい。俺を大切に思ってくれたんだ。冷たそうな魔族でも、母さんの運命だから。きっと母さんの言葉なら聞いてくれるから」
手を伸ばして、人形のように白い頬に触れる。冬の水に触れた様な感じがする。優しく微笑んで、さらに触れられた胸から何かが溶け込んでくるみたいだ。
「──だめだ、よ。もうやめて。本当に消滅してしまう」
何か結界があるのか、魔族は入って来ない。来れないのかもしれない。
「サフィア!!後は、俺がする。もう、やめてくれ!!」
徐々に慣れてきた視界に、結界のようなガラスの壁が見えた。その外に魔族の痛々しい表情が見える。
「この子から、番を奪わないでください」
「サフィ……」
その瞬間、何か白く光ってガラス片が落ちていった。結界が壊れているのだと寝かされた状態で、ただ見ていた。
壊したのは……ここに来るはずのない人。
「俺が、変わります」
一番聞きたかった声がする。
「この子を──助けてくれる?」
手は胸に添えられたまま、ジェイと母さんが話している。
母さんは今にも消えてしまいそうだ。多分、実体では無いのだ。
「はい」
「本当に?君は、半魔この子を愛せる?」
父さんが、こっちに来ないのは、きっと実体の方を守ってるからだ。
「俺は、生涯でたった一人だけを想うと誓います。そして貴方を助けるのに必要な魔力が、俺にあるならそれも差し出します。ここからライラを家族の元へ戻して欲しい。そして、王家として今後一切人間界と関らないと契約して下さい」
ジェイ?魔力を差し出すって……
「──何言って、絶対嫌だ!」
「王家は負担なんだろ?ライラを大切に育てた彼らと共に幸せになるんだ。君が笑顔でいてくれるなら、それがいいんだ」
優しい笑顔が見えたのに。だんだん、輪郭がボヤけていく。
「──それが、君の答え?」
「──はい」
ああ。
違う。こんなの──違う。
「い、や。嫌だ!」
自分の中の何かが、反応した。
その代わりなのか、体は全く動かない。そして何も見えない。
もしかして、死んだ?
それとも、祭壇みたいな所に寝かされて……今から儀式とかやるのかな?痛みが無いなら、このまま眠りにつけたらそれが一番いい。きっと、呪文を唱えられてこの剣を抜かれたら全部終わる。
魔族の最愛は、きっとあの人で運命だった2人だ。人と魔族。惹かれ合うのに種族は関係がなかっただけだ。
俺は?いつの間にかあの人が一番大切になっている。何よりも大切だから、生きて欲しい。魔族が、最愛を取り戻したい気持ちも分かる。「番」だとしても、俺じゃジェイに相応しくない。
だから、これで良かったんだ。
───嘘つき。
そんな事ないよ。
───なら、何故泣いてる?
泣いてない。
───諦めるのか?
仕方ないんだ。彼は、皆に必要とされてる。王となるべき選ばれた人だから。
───私は王家を捨てたよ。オメガの血が嫌いだった。全てを狂わす最悪の血。ずっと死にたかった。そして狂った世界で、たった一人と出逢えたんだ。魔族なんて関係なく、惹かれた。
ライリオラは、違うのか?お前に手を伸ばしてくれる彼は、お前の唯一だよ。
諦めないで。
───ライラ。私の大切な子。
ふわりと温もりが伝わる。
動かないと思ってた瞼をゆっくりと持ち上げる。薄暗らくてよく見えない。誰かの声がするけど、よく聞き取れないままだ。胸に刺さっている剣に手を伸ばす。その手に細く長い指が絡んできた。この剣を抜けって言ってるみたいだ。
分かった。
不思議と怖くない。
剣の柄に手をかける。固められた魔術が解かれて行くのが分かった。そして、一気に痛みが戻って来る。でも、躊躇う時間はないから。一気に引き抜いた。
「ぐはっ……あ」
これでいい?
細く長い指が、胸を押さえてくれる。何かが流れ込んでくる。
「サフィア!!」
綺麗な紫銀の髪が揺れる。綺麗な青い瞳に長いまつ毛が印象的な人。似てるかな?
母さん……
「駄目だよ。大切な人泣かせたら……俺を使っていいよ?ジェイは、王になる人なんだ。だから、彼のこと助けて欲しい。俺を大切に思ってくれたんだ。冷たそうな魔族でも、母さんの運命だから。きっと母さんの言葉なら聞いてくれるから」
手を伸ばして、人形のように白い頬に触れる。冬の水に触れた様な感じがする。優しく微笑んで、さらに触れられた胸から何かが溶け込んでくるみたいだ。
「──だめだ、よ。もうやめて。本当に消滅してしまう」
何か結界があるのか、魔族は入って来ない。来れないのかもしれない。
「サフィア!!後は、俺がする。もう、やめてくれ!!」
徐々に慣れてきた視界に、結界のようなガラスの壁が見えた。その外に魔族の痛々しい表情が見える。
「この子から、番を奪わないでください」
「サフィ……」
その瞬間、何か白く光ってガラス片が落ちていった。結界が壊れているのだと寝かされた状態で、ただ見ていた。
壊したのは……ここに来るはずのない人。
「俺が、変わります」
一番聞きたかった声がする。
「この子を──助けてくれる?」
手は胸に添えられたまま、ジェイと母さんが話している。
母さんは今にも消えてしまいそうだ。多分、実体では無いのだ。
「はい」
「本当に?君は、半魔この子を愛せる?」
父さんが、こっちに来ないのは、きっと実体の方を守ってるからだ。
「俺は、生涯でたった一人だけを想うと誓います。そして貴方を助けるのに必要な魔力が、俺にあるならそれも差し出します。ここからライラを家族の元へ戻して欲しい。そして、王家として今後一切人間界と関らないと契約して下さい」
ジェイ?魔力を差し出すって……
「──何言って、絶対嫌だ!」
「王家は負担なんだろ?ライラを大切に育てた彼らと共に幸せになるんだ。君が笑顔でいてくれるなら、それがいいんだ」
優しい笑顔が見えたのに。だんだん、輪郭がボヤけていく。
「──それが、君の答え?」
「──はい」
ああ。
違う。こんなの──違う。
「い、や。嫌だ!」
自分の中の何かが、反応した。
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