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第3章
2クエスト
しおりを挟む「───クエストがあるの」
そう言いながら、母さんがレイピアをテーブルに立てかけた。
おもむろに、空間に十時を切った。その後、綺麗な指を差し込んでいくと、小さな小瓶を取り出した。それをテーブルの上に二つ置いた。今度は二の腕まで奥に突っ込んで、ガサゴソと探し始めた。
「これこれ~」
クルクルと筒状にされた羊皮紙は、細い革紐で結ばれている。少し薄汚れ、角はガタガタに見えた。
「いつのクエストだよ」
兄さんが、呆れてる。見るからにボロボロの羊皮紙だ。
俺の目の前に立ち、差し出される。受け取れって事だろうか?
『選ばれし者に、これを』
その声に、体が勝手に反応する。思わず反射的に受け取った後、我に返り後悔する。
「──ばかっ!ライラ」
そして、兄さんの声が頭に響く。
しまった。思わず、母さんを睨んだ。
『このクエストを遂行する者として、選ばれました』
この場にいる者が、見届け人となった。
上級クエストだ。契約者の証として名前が刻まれる。
「母さん!」
綺麗に笑った母さんが、チッチッチと人差し指を立てて、左右に振った。
「───ライラと出会った場所。そこが、クエストの場所だから」
「えっ?」
思わずそう驚いたのは、兄さんだ。先程より近くに来て俺の手元を覗き込んだ。
「このクエストは、結構前にギルマスから受け取ってたのよ」
「もう、期限切れとかじゃないの?」
「──まだよ。今からが始まり」
「母さん。どう言うこと?」
「予言のような不思議なクエストだから、読んで見て」
テーブルの上に広げて、三人で覗き込んだ。
「──セリオライトの後継者が十八の歳月を越えた後、ウェスタリア領の地下迷宮へ鍵なる紫銀の者を導け……場所もあそこだしね。つまり、ライラをご指名なの。そして、鍵が現れなければ……その扉は永遠に開かれず。全てが闇に堕ちる。その後が滲んで読めない」
やーねー。母さんが笑う。
「な、そんな怪しい物をライラに託すのか?絶対反対だ!」
「本当は、ほっとくつもりだったのよ?でも、王子と運命と言うなら……これを無視すべきじゃないでしょう?ギルマスも、受けとった記憶がないらしいし。こうして、保管してたのよ」
一国を背負う人だ。
巻き添えになんてしたくない。少し俯き、自分の震える手を見た。拳をぎゅっと握って震えを誤魔化す。絶対に逃げない。
顔を上げる。
「──ジェイには、言わないで」
「ライラ!」
「だって、滅んだ国の末裔なんでしょう?不吉だって事、分かってるよ。でも、そこに行けば、俺の事分かるかも知れない。捨てられた理由とかさ。生き残ってる意味だって、知りたいよ。このためなのかも知れない」
兄さんが、向かい合わせになった俺の両肩に手を置いた。少し指に力が入ってて、肩が痛む。
「一人じゃ、行かせない。生贄にされるかもだろ?俺が護るって約束してる。あんな奴よりライラの事を解ってるのは、俺だ。だが対策を練るからすぐに行こうとか、一人で行くとかは止めてくれ」
護られてばかりは、嫌なんだ。
「俺だって……兄さんに何かあったら嫌だよ?」
「この役目だけは、譲らない。出逢った時からの約束だ」
視線がぶつかる。兄さんを振り切るなんて、出来ない。
「─うん」
引き寄せられて抱き締められた。
「──それに、死ぬ気もないからな。あのクソ野郎にどっちが、上かわからせてやる」
頼もしい。思わず笑ってしまった。
「この国の王子を、クソ野郎呼び出来るのロイド兄さん位だね」
「顔や身分が上でも、魔術と剣で負けてたまるか」
「顔、そんなこと気にするの?兄さんだって格好いいよ?そんなに負けず嫌いだったっけ?俺も、弱いオメガって思われたくないから……兄さんにまだまだ鍛えてもらうね。兄さんの全部、教えて」
「は?」
何故か、真っ赤に兄さんがなった。
母さんは、大笑いしてる。なんか変な事を言ったかな?
「未来のために。色々と用意をしましょう」
母さんの言う通りだ。
「──未来のために」
三人で、笑った。
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