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第1章
4 うさぎ亭③
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思わず、ジェイが走りより傾き倒れていくライラを抱きとめた。
「大丈夫?」
───────甘い香りが、鼻腔を掠める。
心臓がドクンと跳ねて、ジェイは抱き寄せる腕に力が入ってしまう。
「悪い。ライラ…妹を離してくれないか?」
背中からロイドの低い声が聞こえて我に返ったジェイが、軽く振り返った。
「助けてくれてありがとう。でも大切な妹なんだ。恋人でもないアンタに触られたくないんだ」
近づいて来たロイドが、ジェイの腕からライラを取り替えして支える。
「ライラ…どうかした?」
「あ、なんでも…ない」
「熱でも出たのか?顔が赤いけど…」
ロイドがライラの額に自身の額を合わせる。
厨房からベルグが出て来てマリナに視線を送ると、マリナが小さく頷いた。
「ロイド、奥へ連れてって。薬の時間かも」
「───そっか。行くよライラ」
横抱きにされて、ライラを連れて行こうとした時、ジェイが引き止めた。
「さっきの、巻き込んだお詫びをしたい。回復のポーションを持っているんだ。よく聞くと評判の」
まだ途中の会話をロイドが遮った。
「どれ?」
その声は、変わらず低くて冷たい。
「あ、これ何だが…」
小瓶のラベルを見せると、残念そうな顔をしたロイドが答えた。
「それ、母さんの薬だよ。今は、冒険者じゃなくて薬師をしているんだ。
そして、俺も薬師兼魔道具師だから気持ちだけ貰う。ありがとう。また、食べに来いよ」
「この、ポーションを作ったって嘘だろ?これは特別なルートで王都の騎士団用に届いてるものだぞ」
その言葉にロイドが反応した。
「ふーん。3つの商会に降ろしてるからなぁ。そこから騎士団にいったのかもしれないな。
なら、王国の騎士団か魔術師団にでも入団してる?
ここの領内は、王都の団員とか言わない方がいいよ。色々因縁があるからさ。面倒事になりやすいから」
「───そう、だな。ここでは、単なる冒険者のジェイだ」
長く足止めされたライラが、小さな声で兄を呼ぶ。
「に、い、さん」
「ん。行こう」
先程の低いトーンと違い、それは優しい声と笑顔をライラに向けた。対応の温度差の違いがあからさま過ぎて、僅かに残った客も苦笑いだ。
だが、違和感を覚えているジェイは、離れきれない。
少し上気した頬。潤んだ瞳。呼吸が浅くて早い。
苦しさを訴えているのに。
その儚げな美しさと甘い香りが自分を誘っているように感じてしまうのだ。
引き止めなければ…そんな気持ちにジェイは、戸惑う。
だからついジェイは、声を掛けてしまう。
惹かれてしまう。
この香り、甘美な匂い。
───────俺のものだ。
行くな。
「待って」
思わずロイドの腕を捕まえようとすると、3人の間にマリナが入って来て、ジェイの腕を止めた。
「悪いけど、ライラは具合が悪いのよ。私もロイドも薬師だから、構わなくていいわ。家族の目の前で大胆な行動をとるのね。痛い目に合いたくなければ、ここで終わりにしてくれる?」
痺れたような、不思議な感覚。
魔術か?
魔術師だったな。
だが、諦め切れない。
「少しだけ、話を」
カラン…カラン…とドアベルが鳴る。
「ジェイ」
思わず、皆がドアの方に視線を送った。
「───あ、来たのか?」
「何をしているのですか?」
「ここで、変な女に絡まれて迷惑を掛けたんだ。その詫びをしようと思ったんだが…どうやら必要がなかったらしい」
既に、ロイドとライラが奥へと消えていた。
「大丈夫?」
───────甘い香りが、鼻腔を掠める。
心臓がドクンと跳ねて、ジェイは抱き寄せる腕に力が入ってしまう。
「悪い。ライラ…妹を離してくれないか?」
背中からロイドの低い声が聞こえて我に返ったジェイが、軽く振り返った。
「助けてくれてありがとう。でも大切な妹なんだ。恋人でもないアンタに触られたくないんだ」
近づいて来たロイドが、ジェイの腕からライラを取り替えして支える。
「ライラ…どうかした?」
「あ、なんでも…ない」
「熱でも出たのか?顔が赤いけど…」
ロイドがライラの額に自身の額を合わせる。
厨房からベルグが出て来てマリナに視線を送ると、マリナが小さく頷いた。
「ロイド、奥へ連れてって。薬の時間かも」
「───そっか。行くよライラ」
横抱きにされて、ライラを連れて行こうとした時、ジェイが引き止めた。
「さっきの、巻き込んだお詫びをしたい。回復のポーションを持っているんだ。よく聞くと評判の」
まだ途中の会話をロイドが遮った。
「どれ?」
その声は、変わらず低くて冷たい。
「あ、これ何だが…」
小瓶のラベルを見せると、残念そうな顔をしたロイドが答えた。
「それ、母さんの薬だよ。今は、冒険者じゃなくて薬師をしているんだ。
そして、俺も薬師兼魔道具師だから気持ちだけ貰う。ありがとう。また、食べに来いよ」
「この、ポーションを作ったって嘘だろ?これは特別なルートで王都の騎士団用に届いてるものだぞ」
その言葉にロイドが反応した。
「ふーん。3つの商会に降ろしてるからなぁ。そこから騎士団にいったのかもしれないな。
なら、王国の騎士団か魔術師団にでも入団してる?
ここの領内は、王都の団員とか言わない方がいいよ。色々因縁があるからさ。面倒事になりやすいから」
「───そう、だな。ここでは、単なる冒険者のジェイだ」
長く足止めされたライラが、小さな声で兄を呼ぶ。
「に、い、さん」
「ん。行こう」
先程の低いトーンと違い、それは優しい声と笑顔をライラに向けた。対応の温度差の違いがあからさま過ぎて、僅かに残った客も苦笑いだ。
だが、違和感を覚えているジェイは、離れきれない。
少し上気した頬。潤んだ瞳。呼吸が浅くて早い。
苦しさを訴えているのに。
その儚げな美しさと甘い香りが自分を誘っているように感じてしまうのだ。
引き止めなければ…そんな気持ちにジェイは、戸惑う。
だからついジェイは、声を掛けてしまう。
惹かれてしまう。
この香り、甘美な匂い。
───────俺のものだ。
行くな。
「待って」
思わずロイドの腕を捕まえようとすると、3人の間にマリナが入って来て、ジェイの腕を止めた。
「悪いけど、ライラは具合が悪いのよ。私もロイドも薬師だから、構わなくていいわ。家族の目の前で大胆な行動をとるのね。痛い目に合いたくなければ、ここで終わりにしてくれる?」
痺れたような、不思議な感覚。
魔術か?
魔術師だったな。
だが、諦め切れない。
「少しだけ、話を」
カラン…カラン…とドアベルが鳴る。
「ジェイ」
思わず、皆がドアの方に視線を送った。
「───あ、来たのか?」
「何をしているのですか?」
「ここで、変な女に絡まれて迷惑を掛けたんだ。その詫びをしようと思ったんだが…どうやら必要がなかったらしい」
既に、ロイドとライラが奥へと消えていた。
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