美形魔王の弱点は、僕。

Shizukuru

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「ルシエラ、ルシエラ……」

 ルシエラを助けなきゃいけないのに。魔王に捕まってしまうなんて。
ルルーは、魔王の作った障壁のような結界を通過出来ないと言った。

一瞬で消滅します。これは、無理です。シェリル様が死んでしまう。そんな心配をしてきた。

 でも、大丈夫……自分なら行っても大丈夫と言う不思議な安心感があった。

止めるルルーを振り切って飛び降りた。

ルシエラが僕を受け止めてくれると思ったのに、魔王がルシエラを蹴り飛ばしてしまうし。

なぜ、敵の魔王の腕の中にいるんだ。どう言う事だろう?

 逃げたくて、暴れるのに……知ってる匂いがして、安心感がある事に戸惑う。

一生懸命に睨むのに、少し口元が笑って見えた。

 ルシエラの声が聞こえた。

「シェリル。魔王を殺せ。お前はその為にいるんだろがっ。俺だけを護ればいいんだ。殺せ!出来なければ、お前に価値などない。出来損ないのクズがっ。さっさと殺れ」

僕は指揮棒ワンドに魔力を込める。

僕の価値……僕の存在の意味。
大切な人に貰った、僕の宝物。

魔力をルシエラの為に……使うの?ルシエラは、大切な人?
魔王を倒すのは、なんでだっけ?
勇者パーティと、世界を守るために。勇者は、カイル様だ。子供の頃からずっと仕えてきた人。

だから目の前の人は、悪い人のはずなんだ。

「シェリルの気が済むまで攻撃していい。みすみす目の前で連れ去られたのは、俺のせいだ。許さなくていい」

 ───シェリル。

「も、もう一回」

「なんだ? もう一回とは?」
「名前……呼んで」

「──シェリル」

 ルシエラの為に僕は、戦わないといけない。その為にここにいる。それなのに。ずっと憎いって思ってたのに。

 なんで、なんで……

「騙されるなシェリル。俺に従え!」
指揮棒ワンドを振りさえすれば、いいはずなのに。
師匠……僕はどうしたらいいのですか?


嫌だ。嫌なのに。でもやらないと……僕の価値がなくなってしまう。

 震える手で、魔王の腕に指揮棒ワンドの先を押し当てた。

魔王は避ける様子もない。

 ジューと、肌を焼くような嫌な音がして、思わずその棒を落としてしまう。宝物で何やってるんだろう?

違う。違う。こんなの、おかしい。何で。どうして。どうして、僕に攻撃しないんだろう。

悲しそうな顔をしていて、胸が痛む。

誰か教えて。誰か……神様は……いないから助けてはくれない。

いつも、何も出来ない。

僕は、僕は。この人にこんな事したくないのに。

───雨音がする。
思わず、空を見上げる。

結界の天井の方から、ザァァァァーと聞こえる程の雨の音がする。
 
銀色の雨が、魔王の結界を溶かしていく。

 雨が降らせる事が出来る人は、神に愛されているんだよ。

 そんなはず、僕が愛されるはず……は、きっとない。でも、この雨は、懐かしいような、苦しいようなそんな記憶。

怪我をさせたのに、優しく心配そうに微笑んでる。

涙が流れて落ちる。



クロ。クロフィス……だ。


僕を好きだと言ってくれる人。

「───クロ。ごめん、ごめんなさい。僕は、なんて事を。怪我を……クロが僕のせいで」

「お前のせいじゃない」
「治療、は、はやく。僕が洗脳されて、お願い僕を!!殺して……うわぁぁぁ……ごめ、ごめんなさい」

「シェリル───俺が迂闊で、バカだったからだ。お前のせいじゃないんだ」

強く、強く抱きしめられた。




しばらくして、人の気配がする事に気が付いた。
「シェリルは何も悪くない。そこにいる魔王がバカだからだ」

何故か不機嫌なカイル様が、そばに来ていた。

「カイル様? それに、ルルー?」

ルルーがルシエラを捕まえていた。

「ルルー、そいつを連れていかないでくれ。魔族として、責任もって対処する。レノア、ルシエラを地下牢へ。魔導拘束具を」

「洗脳を二度と使えぬ様にしても良いですか?」
「ああそうだな」

何かの魔道拘束具をルシエラの目の周りつけて、いつの間にか現れた魔族の騎士のような人達と共に消えた。


でも、一瞬でレノアが戻ってきた。

「こっちが楽しそうなので」
と言ってたけど、何が楽しいのだろう?

「シェリル、すまなかった」

「そんな事……だって、ここまで助けに来てくれたんでしょう? それよりクロの手当をしたい」

手の傷は、僕のせいだ。

「ならシェリルを借りる。勇者一行は、レノアと話し合いをしてその後の和平でも調整……して帰ってくれ」

「ちょっ、クロフィス様」
「おい、お前……ああ、くそっ。シェリルをそれ以上泣かせたら許さない」


「ああ。シェリルを休ませたら、ちゃんとに挨拶に行く」


 そう言って、二人で この場を後にした。
















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