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92.君の元へ
しおりを挟むその魔法固定を分析して、介入してきたのは────
「クロ……」
「シェリル」
黒飛竜の背中に乗っている僕の事を落とさぬ様に抱きしめてくれる。
「クロ、クロ……」
クロの匂いだ。誰よりも安心するその腕の中に包まれる。
「ちょっとちょっと、後にして下さい」
レノアがパシパシとクロを叩いた。
「そうだな。アイツを消す」
既に、角のある姿だった。
でも、魔力を感じない。
「ふっ、問題ない。今から解放するから、黒飛竜のルルーだったな、シェリルとついでにレノアを護っててくれ」
「言われなくても、貴方が失敗したら、私がトドメを刺します。大切な主をボロボロにしてくれたんですからね」
「クロフィス様。この辺りの魔族は避難済みです。勇者達にも、伝わったみたいですね」
クロが離れていく。
ルルーも距離を取った。
恐ろしいとは、こう言う事かもしれない。普段穏やかな人ほど、キレるとどれほど怖いか。
「本気って事か?だが、俺には」
「洗脳?出来るものならやってみろ」
クロの魔力が解放されると、その付近の家が消滅した。
圧倒的な、他を寄せつけない力。
「──仲間も見捨てる気か? 」
「バカなのか? お前がやった事の代償は、お前自身で返せ」
ルシエラが、真っ青な顔をしていた。
姿が消え、逃げたのか?と思った時には目の前にいた。
目が合って、一瞬ニヤリと笑ったように見えた。
でも、そのルシエラを叩き落としたのは、魔法で移動して来たカイル様だ。
「シェリルに、このバカを近づけさせるな。己の不始末に、ケジメをつけるんだったよな? 魔王さま」
カイル様の目は笑っていない。
炎を纏いし双剣は、凄まじい魔力を帯びている。一振で空気を切り裂き地面に亀裂を入れた。
「カイル様……あの、解毒はもう問題ないのですか?」
満面の笑みで頷き、魔王が倒されたら俺が行くから心配するなと言い、ルルーの背に乗り僕の護衛として後ろから支えられている。
黒飛竜のルルーがいて、上位魔族のレノア、妖精の足飾りと現勇者に守られている僕って一体……?
ルシエラも決して弱い訳ではない。ただ圧倒的なクロの前に、為す術が無いだけ。
マリア様や、キース様、皆が見守る中、ルシエラは徐々に弱っていく。
簡単に殺さないということだ。
……もう、やめて。
どうしたんだろう。胸が苦しい。
このままだとルシエラが、殺されてしまう。
助けないと、早くそばに行かないと。
君の所へ行かないと。
大切なルシエラの所へ。
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