90 / 98
88.遭遇①
しおりを挟む
連れてこられたのは、僕の部屋。
少し僕から距離を置いて、クロが何かを呟くと魔法陣が浮かび上がる。何十もの円に繊細な模様が廻る。
高位詠唱だ。
光に包まれたクロが、静かに目を伏せて立っている。魔法陣から出てきたクロには、角があった。
「怖くないか? お前と一緒にいる時は隠してても構わない」
多分結界を張ってる……それでもピリピリとした空気が伝わる。
これがクロの魔力?
角を隠す事で、これも隠してるんだ。姿を見せたから、部屋とクロにも結界を施して、カイル様たち気付かれないようにしてる。それでも近くにいるから、僕の肌には魔力の圧が伝わって来た。
そしてまた、何を呟くと角が消えた。
空気が軽くなる。
少し眉毛が下がったような顔をして、じっと僕を見つめてくる。
「魔王城にいる相手に勝つなら、元の姿のほうがいいんでしょう?相手は強そうだし……」
そばに来たクロの腕の中に収まると、ギュッと背中に手を回してピタリとくっついた。
「シェリル?」
「きっと、本当のクロは強いよね。大丈夫だよね……死んだりしないよね?」
「ああ、約束する」
「クロが魔力を隠す結界をしてなかったら皆に影響がある?」
「聖遺物が付いてるから、カバーはするだろう」
「そっか」
くっつき過ぎて顔が見えない。背中に回した手を緩めると、クロも同じようにしてくれた。
少し離れて、クロを見上げたら自然と顔が近づいてきたので目を閉じる。
唇が触れ合って、離れた。
もう一度、キスをと思った瞬間に床に魔法陣が浮かび上がる。
「クロ?」
クロとの間に何か壁のようなものが出来て、クロに触れる事が出来ない。
何かを言ってるのに聞こえない。
詠唱を始めたクロの動きが止まるのと同時に僕の首に何かが巻きついた。
「クロフィスの魔力を検知出来なかったのは、角を隠してたからか。しかも、人族の為にか」
「誰?」
「人族ごときが、俺に話しかけるな」
蔦なのか分からないものが、グッと強く巻き付いた。
「うぐっ」
外そうともがいていると、足が宙を浮く。持ち上げられた瞬間に体重により首の締めつけが増す。
(息が出来ない……)
視界がどんどん狭まっていく。
(クロ……逃げて……)
「こんなモノの為に、角まで隠して無様だな」
張り詰めた空気の中、突然光が見えた。
「──お前、いい加減にしろよ」
光の中、聞こえたのはカイル様の声だ。
蔦が双剣により切り落とされ、宙ずりされていた体が落ちる。
が、その僕を受け止めたのは、角のある漆黒の髪を一つに束ねた男だ。
「へぇ、勇者の剣は、こいつも切れるのか」
ゲホゲホとむせて、上手く魔法が使えない。
足手まといになってしまう。
クロの姿を必死に探す。角を隠したままだ。
カイル様が本気になれば。
クロが元に戻りさえすれば、きっとこんな奴倒してくれる。
「クロ……ぼ、僕ごと倒して!!んぅ」
口を奴の唇で塞がれて、抵抗しようとしたが体一つ指先も動かせなくなった。
(何かの魔法? 嫌だ、離して)
「分が悪い……か。でもま、お前達はコイツが居たら攻撃一つ出来ないって事は分かった。魔王城で歓迎してやる。待ってるよ、魔王様に勇者様」
また、魔法陣が現れ始めた。
嫌だ嫌だ嫌だ……足手まといになるくらいなら、僕は───
少し僕から距離を置いて、クロが何かを呟くと魔法陣が浮かび上がる。何十もの円に繊細な模様が廻る。
高位詠唱だ。
光に包まれたクロが、静かに目を伏せて立っている。魔法陣から出てきたクロには、角があった。
「怖くないか? お前と一緒にいる時は隠してても構わない」
多分結界を張ってる……それでもピリピリとした空気が伝わる。
これがクロの魔力?
角を隠す事で、これも隠してるんだ。姿を見せたから、部屋とクロにも結界を施して、カイル様たち気付かれないようにしてる。それでも近くにいるから、僕の肌には魔力の圧が伝わって来た。
そしてまた、何を呟くと角が消えた。
空気が軽くなる。
少し眉毛が下がったような顔をして、じっと僕を見つめてくる。
「魔王城にいる相手に勝つなら、元の姿のほうがいいんでしょう?相手は強そうだし……」
そばに来たクロの腕の中に収まると、ギュッと背中に手を回してピタリとくっついた。
「シェリル?」
「きっと、本当のクロは強いよね。大丈夫だよね……死んだりしないよね?」
「ああ、約束する」
「クロが魔力を隠す結界をしてなかったら皆に影響がある?」
「聖遺物が付いてるから、カバーはするだろう」
「そっか」
くっつき過ぎて顔が見えない。背中に回した手を緩めると、クロも同じようにしてくれた。
少し離れて、クロを見上げたら自然と顔が近づいてきたので目を閉じる。
唇が触れ合って、離れた。
もう一度、キスをと思った瞬間に床に魔法陣が浮かび上がる。
「クロ?」
クロとの間に何か壁のようなものが出来て、クロに触れる事が出来ない。
何かを言ってるのに聞こえない。
詠唱を始めたクロの動きが止まるのと同時に僕の首に何かが巻きついた。
「クロフィスの魔力を検知出来なかったのは、角を隠してたからか。しかも、人族の為にか」
「誰?」
「人族ごときが、俺に話しかけるな」
蔦なのか分からないものが、グッと強く巻き付いた。
「うぐっ」
外そうともがいていると、足が宙を浮く。持ち上げられた瞬間に体重により首の締めつけが増す。
(息が出来ない……)
視界がどんどん狭まっていく。
(クロ……逃げて……)
「こんなモノの為に、角まで隠して無様だな」
張り詰めた空気の中、突然光が見えた。
「──お前、いい加減にしろよ」
光の中、聞こえたのはカイル様の声だ。
蔦が双剣により切り落とされ、宙ずりされていた体が落ちる。
が、その僕を受け止めたのは、角のある漆黒の髪を一つに束ねた男だ。
「へぇ、勇者の剣は、こいつも切れるのか」
ゲホゲホとむせて、上手く魔法が使えない。
足手まといになってしまう。
クロの姿を必死に探す。角を隠したままだ。
カイル様が本気になれば。
クロが元に戻りさえすれば、きっとこんな奴倒してくれる。
「クロ……ぼ、僕ごと倒して!!んぅ」
口を奴の唇で塞がれて、抵抗しようとしたが体一つ指先も動かせなくなった。
(何かの魔法? 嫌だ、離して)
「分が悪い……か。でもま、お前達はコイツが居たら攻撃一つ出来ないって事は分かった。魔王城で歓迎してやる。待ってるよ、魔王様に勇者様」
また、魔法陣が現れ始めた。
嫌だ嫌だ嫌だ……足手まといになるくらいなら、僕は───
176
お気に入りに追加
911
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

【完結】地獄行きは確定、に加え ~地獄の王に溺愛されています~
墨尽(ぼくじん)
BL
地獄の長である獄主に、何故か溺愛されてしまった34歳おっさんのお話
死んで地獄に行きついた霧谷聡一朗(34)は、地獄の長である獄主の花嫁候補に選ばれてしまう
候補に選ばれる条件は一つ「罪深いこと」
候補者10人全員が極悪人の中、聡一朗だけは罪の匂いがしないと獄主から見放されてしまう
見放されたことを良いことに、聡一朗は滅多に味わえない地獄ライフを満喫
しかし世話役の鬼たちと楽しく過ごす中、獄主の態度が変わっていく
突然の友達宣言から、あれよあれよと聡一朗は囲い込まれていく
冷酷無表情の美形×34歳お人好し天然オジサン
笑ったことのない程の冷酷な獄主が、無自覚お人良しの聡一朗をあの手この手で溺愛するストーリーです。
コメディ要素多めですが、シリアスも有り
※完結しました
続編は【続】地獄行きは~ です

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
【本編完結】 ふたりを結ぶ古書店の魔法
Shizukuru
BL
弟が消えた。記憶消去?
スマホの画像も何もかも残っていない。
両親には、夢でも見たのかって……兄の俺より背が高くてイケメンで本当に兄弟?って言われてたけど。
弟は、存在してなかったなんて、そんなはずがない。
記憶が消される前に、探すんだ。
辿り着いた古書店。必ずその人にとって大切な一冊がそこにある。必要な人しか辿り付けないと噂されている所だ。
「面白い本屋を見つけたんだ」
弟との数日前の会話を思い出す。きっとそこに何かがある。
そして、惹かれるままに一冊の本を手にした。登場人物紹介には、美形の魔法騎士の姿が……髪色と瞳の色が違うけれど、間違いなく弟だ。
聖女に攻略されるかもしれない、そんなの嫌だ。
ごめん。父さん母さん。戻れないかも知れない。それでも、あいつの所へ行きたいんだ。
本を抱きしめて願う。神様お願い、弟を取り戻したい。
本だけ残して……時砂琥珀は姿を消した。
年下魔法騎士(元弟)×神使?(元兄)
微R・Rは※印を念の為につけます。
美麗表紙絵は、夕宮あまね様@amane_yumia より頂きました。
BL小説大賞に参加しています。
応援よろしくお願いします。

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる