【本編完結】 美形魔王の弱点は、僕。

Shizukuru

文字の大きさ
上 下
91 / 98

89.遭遇②

しおりを挟む
 クツクツと面白そうに笑う顔に、ただ怒りを覚える。

 僕一人と王国とか人族の全てを比べれば、何方が大事か分かるはずなのに。見捨てるのとは違うのだ。

 今の僕は魔法がうまく使えない状態だ。さっき何かを吹き込まれたせいだ。妖精の足飾りアンクレットも傍にいない。
 クロは優しすぎる。カイル様も……そんな顔しないで。
指揮棒ワンドに触れる事が出来さえすれば、少しは抵抗出来るのに。動けず頭痛がする。気持ちが悪くなって、目の前が霞んできた。意識を失う訳にはいかない。

 顎を捕まれ前を見るように固定され、指揮棒ワンド側の片腕を後ろに捻るように押さえつけられていた。まるで魔王と勇者に攻撃させないように、盾のように見せつけられている。

 躊躇わないで欲しいのに、二人とも動かない。
離れたいのに少し寄りかかる事で、やっと体を支えている。

 ただ上手く力の入らない空いた片手側には、指揮棒ワンドはない。
魔法は使えない訳じゃないが、があるかどうかで威力が違うのだ。


「クロフィスの大切なモノが、俺に服従したら面白いよな。早く来いよ、に。それまでにコイツが生きて……」

 指揮棒ワンドはないけれど。

 皆が楽に動けるように、隠し持っていた反対側のダガーナイフを最後の力を振り絞り突き立てる。

 顎を押さえられていた、この魔族の手に向かってだ。

 顎を掴んでいた手を慌てて離そうとする。少し手には掠ったけど……狙い通りちゃんと僕にはのだ。

 これで、僕を置いて行けばいい。瀕死の状態ならこの人にとってもだからだ。

「シェリル!!」
 カイル様が、双剣をかざしこちらへ向かってくる。出来れば、僕ごと斬って欲しい。

 それなのに、蔦がカイル様の腕を突き抜けた。
 僕は片腕の締めあげから解放され、肩に担がれる。

「は、お、降ろして。どうせもう時期に死ぬから……ここに捨てて」

「お前が怪我してくれなかったら、勇者に隙が出来なかったな。本当にお前は役に立つ」

「──シェリルを離せ」

「クロフィスが気に入るだけある。俺にも?」


 マリア様達も駆けつけて、カイル様の手当を始めている。

マリア様の治癒が追いつかない。カイル様の顔色が悪くなっていく。

「まさか、この蔦に毒? カ、イル、さま。ユニコーン……ぐああああああああ」

僕自身は首の近くに傷を負っている。また首の所に蔦が巻きついた。

「煩い。ユニコーンの角など簡単に手に入るものか。勇者はこれで死ぬ。魔王は手も足も出せずに、土下座しに魔王城に来るんだ。お前の従者が死んだ時と同じにしてやるよ」

「貴様……」

「それとも、味わいつくして調教してもいいな。何時でも、魔王城に来るがいい。ただ抵抗すれば、失うものも大きいだろうな」

 馬鹿にした下品な笑い声が響く。

 連れ去られる事だけは、したくなかったのに。

 魔法陣の中、ユニコーンの角しか助ける方法がない事ともう僕を見捨てて欲しいとだけ言の葉蝶アゲハに乗せるのがやっとだった。

間に合って、そう願いながら魔法陣の中、僕は意識を失った。







しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...