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86.魔王の事情①
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「クロフィス殿が……魔王?」
身を乗り出しているのはカイル様だ。
僕も胸の方に回されているクロの腕に触れて、レノアが何を言っているのか復唱していたところだった。
今から魔王城に魔王に会いに行くのだ。最悪交戦して魔王を封印しなければならない。クロ達が、魔王や勇者様達に板挟みにされて大変なことになると思っていたけど。色々と思考が追い付かない。
「───魔王がなんでここに?」
思わず出た言葉は、ひどく情けないものになった。
「レノア……少し空気を読んでくれ」
「クロフィス様。こういうのは、さっさと話さないと駄目なんです。妖精の足飾りも言っていたでしょう? 敵の敵は味方です。我々の敵は同じなのですから」
「魔王であるクロフィス殿が、俺達の敵じゃないって事か?」
「その通りです」
「それならどうして……地下迷宮で異変が起き、神託が降りたんだ?」
「我々が神の事など分かるとでも? 」
「それは……だが、魔族が魔物達に影響を与えて不穏な動きをしているからではないのか?」
「なぜ魔物と魔族を同じにするのですか? 黒髪でルビーの様な赤い瞳に、ただ角があるだけの魔力と魔法の力に特化した種族が一緒に生活しているだけです。見た目が違うからですか? 人族よりも強い力があるから? その分、数も繁殖力も貴方達より少ないのですよ」
今のレノアは白銀の髪の為に魔族にさえ見えない。もしも神官服を着ていたら聖人のように見えるだろう。人に恐怖を与えそうもない。
この国も悪い王族が統治していた時代がある。人族だからと言って全員が善良では無い。魔族も一部に悪い人がいるだけなのかもしれない。僕の師匠は助けに来てくれただけなのに……欲深い人達に殺されたんだ。
何よりもクロが優しい事は誰よりも僕は知っている。
「理由が分かりませんが──前魔王が理性を失い破壊の王になり、腹心や身内さえも嬲り殺しを始めてしまった。だからクロフィス様が行動を起こした」
「なら誰か、次の魔王になりたい者にでも追われているのか?」
カイル様の質問ももっともで、弱っていたレノアを連れて来た時、クロも疲弊していた。
「前魔王の後継はおらず、反逆を起こしたとは言え圧倒的な実力からクロフィス様は魔王に選ばれました。無駄な争いを好まない方ですから、魔力の弱い魔族達からの指示も大きい。ただ……」
こちらに視線を送ったレノアが話を続けた。
「クロフィス様は、伴侶候補が魔王城に来るのを嫌がったんです。自身で探しに行くとか言って執務をすべて押し付けて……帰って来なかったんです。運悪くクロフィス様がいない間に、現れた相手が厄介な魔法の持ち主だったとしか言えません」
「厄介と言うのは、どう言う種類のものなんだ?」
クロがお見合いから逃げてた事は見事にスルーして、カイル様は敵の情報収集にシフトした。その方が僕としても助かる。知りたくない事をわざわざ聞きたくない。魔王に薦める相手なら、きっと魔力が多く美しい女性だと思う。後継を産むための相手なのだから。繁殖力が弱いなら、複数相手が必要かも知れない。
今後に必要な情報だから、ちゃんと聞かないといけないのに。気持ちがぐらぐらと揺れてしまう。
胸が痛い。魔族をまとめている王なのだ。
ほら……ふさわしくなんて、ないじゃないか。一緒にいていいはずなんて最初からなかったんだ。そんな不安に押し潰されそうになって膝の上で手をギュッと強く握りしめた。
身を乗り出しているのはカイル様だ。
僕も胸の方に回されているクロの腕に触れて、レノアが何を言っているのか復唱していたところだった。
今から魔王城に魔王に会いに行くのだ。最悪交戦して魔王を封印しなければならない。クロ達が、魔王や勇者様達に板挟みにされて大変なことになると思っていたけど。色々と思考が追い付かない。
「───魔王がなんでここに?」
思わず出た言葉は、ひどく情けないものになった。
「レノア……少し空気を読んでくれ」
「クロフィス様。こういうのは、さっさと話さないと駄目なんです。妖精の足飾りも言っていたでしょう? 敵の敵は味方です。我々の敵は同じなのですから」
「魔王であるクロフィス殿が、俺達の敵じゃないって事か?」
「その通りです」
「それならどうして……地下迷宮で異変が起き、神託が降りたんだ?」
「我々が神の事など分かるとでも? 」
「それは……だが、魔族が魔物達に影響を与えて不穏な動きをしているからではないのか?」
「なぜ魔物と魔族を同じにするのですか? 黒髪でルビーの様な赤い瞳に、ただ角があるだけの魔力と魔法の力に特化した種族が一緒に生活しているだけです。見た目が違うからですか? 人族よりも強い力があるから? その分、数も繁殖力も貴方達より少ないのですよ」
今のレノアは白銀の髪の為に魔族にさえ見えない。もしも神官服を着ていたら聖人のように見えるだろう。人に恐怖を与えそうもない。
この国も悪い王族が統治していた時代がある。人族だからと言って全員が善良では無い。魔族も一部に悪い人がいるだけなのかもしれない。僕の師匠は助けに来てくれただけなのに……欲深い人達に殺されたんだ。
何よりもクロが優しい事は誰よりも僕は知っている。
「理由が分かりませんが──前魔王が理性を失い破壊の王になり、腹心や身内さえも嬲り殺しを始めてしまった。だからクロフィス様が行動を起こした」
「なら誰か、次の魔王になりたい者にでも追われているのか?」
カイル様の質問ももっともで、弱っていたレノアを連れて来た時、クロも疲弊していた。
「前魔王の後継はおらず、反逆を起こしたとは言え圧倒的な実力からクロフィス様は魔王に選ばれました。無駄な争いを好まない方ですから、魔力の弱い魔族達からの指示も大きい。ただ……」
こちらに視線を送ったレノアが話を続けた。
「クロフィス様は、伴侶候補が魔王城に来るのを嫌がったんです。自身で探しに行くとか言って執務をすべて押し付けて……帰って来なかったんです。運悪くクロフィス様がいない間に、現れた相手が厄介な魔法の持ち主だったとしか言えません」
「厄介と言うのは、どう言う種類のものなんだ?」
クロがお見合いから逃げてた事は見事にスルーして、カイル様は敵の情報収集にシフトした。その方が僕としても助かる。知りたくない事をわざわざ聞きたくない。魔王に薦める相手なら、きっと魔力が多く美しい女性だと思う。後継を産むための相手なのだから。繁殖力が弱いなら、複数相手が必要かも知れない。
今後に必要な情報だから、ちゃんと聞かないといけないのに。気持ちがぐらぐらと揺れてしまう。
胸が痛い。魔族をまとめている王なのだ。
ほら……ふさわしくなんて、ないじゃないか。一緒にいていいはずなんて最初からなかったんだ。そんな不安に押し潰されそうになって膝の上で手をギュッと強く握りしめた。
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