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85.カイルとクロフィス②
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「嘘……?それは、幻影兎の黒兎と白兎が魔族か何かだと言うことか?」
「え? あの……そ、そうなんですけど……知ってたのですか?」
「幻影兎は臆病者なんだ。だから生体はあまり知られていない。テイマーのシェリルだからティムしたと思ってはいたんだが……今となっては、臆病者には見えない。だから、逆なんだと思ったんだ」
「逆?」
「幻影兎が幻影を見せたんじゃなくて、幻影としてラビィアの姿を見せ続けつつ魔力を隠していられるとしたら? それは相当な魔力持ちだ」
全部知ってたんだ。どんな顔をしていいのか。なんて言っていいのか。言葉を詰まらせてしまう。
「シェリル。黒兎の本来の姿を見せてもらいたい。名は聞いてもいいのだろうか?」
「あ、た……大切な人なんです!! ですから、殺そうとかしないでください!!」
「シェリル」
そう名前を呼んだのは、クロだった。
元の姿に戻ったクロが、ソファにドカッと座った。固まる僕の方に腕が伸びてきて、何故か膝の上に乗せられた。
「クロ、ちょっとなんで!?」
僕の肩に顎を乗せるような形でもたれかかってくる。ほぼ抱き締められる形で体温に包まれてしまえば、昨日の夜……正式には今朝までの事が脳裏に浮かんでしまう。
顔が熱く恥ずかしさで、カイル様の顔を見る事が難しい。
「俺の名は、クロフィスだ。シェリル、勇者に話があるのだろう?」
耳元に聞こえるクロの声にドキドキしながら、カイル様の方へ視線を戻した。
さっきまでと違ってカイル様が睨んでる。恐ろしい程の殺気を感じる。もしかして、クロとくっついておけば魔法攻撃を受け難い!?クロが死んだりしない?
(えらいっ!クロ)
「クロフィス殿。色々、助けてもらった。その事には感謝している。それに殺し合いをする気もない。だが……」
「カイル様?」
「シェリルは、魔王城での問題が解決した後は領地に戻るべきだろう?」
魔族に関わっている僕にその選択肢があるとは思えない。それでも、皆に会って挨拶と御礼をして去る事が出来るのなら領地に戻りたい。
「僕は、伯爵領に戻ってもいいのですか?」
「当たり前だ。シェリルの家だろう? シェリルを皆が待っている」
クロも一緒に行ってもいいのだろうか? でもやっぱりダンジョンで待ってもらう方がいいかな? 皆に会えると思うとワクワクする気持ちが芽生えてしまう。
「シェリルを待ってる人達がいるんだ。皆と一緒に領地を支えて欲しいと思っている。魔族であるクロフィス殿が、シェリルを大切にしてくれたのは感謝する。代わりにお礼を言わせてくれないか? シェリルを守ってくれてありがとう。この先は、俺が守るのでこの辺りで手を引いて欲しい」
「手を引く? カイル様が僕を守る?」
「寂しい思いをさせた。魔族と生きるなんて言わないでくれ。俺は、今度こそちゃんとシェリルを幸せにしたいんだ」
真摯な思い、瞳に、あの時の告白が嘘ではない事に胸が痛んだ。
ダンッと床を踏みつけた音が室内に響いた。抱き締められる腕に力が入ったのも分かった。
「それを決めるのはシェリルだ。身分をかざし従わせるのか? シェリルが俺を選んだら領地の仲間に会わせないようにする気か? これ以上傷つけたりするな。自己肯定感が低いのは、人族のせいではないのか?」
僕の事を考えてくれるクロの言葉にも胸が苦しくなっていく。視界がぼやけて、カイル様の表情が良くわからなくなった。
クロの指が頬に触れ涙をなぞるようにふき取った。少しだ歪んだ視界の先に、泣きそうなカイル様が見えた。
「クロフィス殿を試すような事を言ってすまない。それでもシェリルが、人目を気にして生きるような事にしたくないんだ。自己肯定感が低い事も、全部俺のせいだったと分かっていても」
「カイル様のせいではありません。僕は、クロ……がいてくれるので大丈夫です。魔族だとしても、僕は構わないんです。クロが僕の為に契約を一度解除したのです。それが耐えられなくて、ずっと一緒にいたいと願ったのは僕の方なんです」
「魔族と生きていきたいのか?」
カイル様の問いに答えたのは。
「単なる魔族ではないですよ? クロフィス様は、魔王ですから安心してください」
そう言ったレノアが綺麗な銀髪をかきあげて微笑んだ。
「え? あの……そ、そうなんですけど……知ってたのですか?」
「幻影兎は臆病者なんだ。だから生体はあまり知られていない。テイマーのシェリルだからティムしたと思ってはいたんだが……今となっては、臆病者には見えない。だから、逆なんだと思ったんだ」
「逆?」
「幻影兎が幻影を見せたんじゃなくて、幻影としてラビィアの姿を見せ続けつつ魔力を隠していられるとしたら? それは相当な魔力持ちだ」
全部知ってたんだ。どんな顔をしていいのか。なんて言っていいのか。言葉を詰まらせてしまう。
「シェリル。黒兎の本来の姿を見せてもらいたい。名は聞いてもいいのだろうか?」
「あ、た……大切な人なんです!! ですから、殺そうとかしないでください!!」
「シェリル」
そう名前を呼んだのは、クロだった。
元の姿に戻ったクロが、ソファにドカッと座った。固まる僕の方に腕が伸びてきて、何故か膝の上に乗せられた。
「クロ、ちょっとなんで!?」
僕の肩に顎を乗せるような形でもたれかかってくる。ほぼ抱き締められる形で体温に包まれてしまえば、昨日の夜……正式には今朝までの事が脳裏に浮かんでしまう。
顔が熱く恥ずかしさで、カイル様の顔を見る事が難しい。
「俺の名は、クロフィスだ。シェリル、勇者に話があるのだろう?」
耳元に聞こえるクロの声にドキドキしながら、カイル様の方へ視線を戻した。
さっきまでと違ってカイル様が睨んでる。恐ろしい程の殺気を感じる。もしかして、クロとくっついておけば魔法攻撃を受け難い!?クロが死んだりしない?
(えらいっ!クロ)
「クロフィス殿。色々、助けてもらった。その事には感謝している。それに殺し合いをする気もない。だが……」
「カイル様?」
「シェリルは、魔王城での問題が解決した後は領地に戻るべきだろう?」
魔族に関わっている僕にその選択肢があるとは思えない。それでも、皆に会って挨拶と御礼をして去る事が出来るのなら領地に戻りたい。
「僕は、伯爵領に戻ってもいいのですか?」
「当たり前だ。シェリルの家だろう? シェリルを皆が待っている」
クロも一緒に行ってもいいのだろうか? でもやっぱりダンジョンで待ってもらう方がいいかな? 皆に会えると思うとワクワクする気持ちが芽生えてしまう。
「シェリルを待ってる人達がいるんだ。皆と一緒に領地を支えて欲しいと思っている。魔族であるクロフィス殿が、シェリルを大切にしてくれたのは感謝する。代わりにお礼を言わせてくれないか? シェリルを守ってくれてありがとう。この先は、俺が守るのでこの辺りで手を引いて欲しい」
「手を引く? カイル様が僕を守る?」
「寂しい思いをさせた。魔族と生きるなんて言わないでくれ。俺は、今度こそちゃんとシェリルを幸せにしたいんだ」
真摯な思い、瞳に、あの時の告白が嘘ではない事に胸が痛んだ。
ダンッと床を踏みつけた音が室内に響いた。抱き締められる腕に力が入ったのも分かった。
「それを決めるのはシェリルだ。身分をかざし従わせるのか? シェリルが俺を選んだら領地の仲間に会わせないようにする気か? これ以上傷つけたりするな。自己肯定感が低いのは、人族のせいではないのか?」
僕の事を考えてくれるクロの言葉にも胸が苦しくなっていく。視界がぼやけて、カイル様の表情が良くわからなくなった。
クロの指が頬に触れ涙をなぞるようにふき取った。少しだ歪んだ視界の先に、泣きそうなカイル様が見えた。
「クロフィス殿を試すような事を言ってすまない。それでもシェリルが、人目を気にして生きるような事にしたくないんだ。自己肯定感が低い事も、全部俺のせいだったと分かっていても」
「カイル様のせいではありません。僕は、クロ……がいてくれるので大丈夫です。魔族だとしても、僕は構わないんです。クロが僕の為に契約を一度解除したのです。それが耐えられなくて、ずっと一緒にいたいと願ったのは僕の方なんです」
「魔族と生きていきたいのか?」
カイル様の問いに答えたのは。
「単なる魔族ではないですよ? クロフィス様は、魔王ですから安心してください」
そう言ったレノアが綺麗な銀髪をかきあげて微笑んだ。
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