【本編完結】 美形魔王の弱点は、僕。

Shizukuru

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84.カイルとクロフィス①

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「ひっ」
 目の前の美形に驚く。裸のままだった。落ち着つかないと。
下着……どこ?穿かずに寝てたなんて。
そっと離れようとして、身じろぐと抱き締められる。まるで逃げるなと言うみたいに。

「起こしてごめんね」
優しく微笑むこの人の手が、僕を優しく撫でてくれる。

 まあ、昨日のクロは意地悪? だった気もする。
初めての経験だから……普通の行為なのか比べようもない。何となく顔をそらして考えていた。

 ふと強く視線を感じて、クロの顔を見るとフッ笑った顔が近くなる。

うん───キスと抱きしめられるのは大好き。
触れるだけのキスも。
啄まれるキスも。

そして、深く深く繋がるキスも。
「だいぶ、上手くなったな」

 ───この人が好き。

「クロ、おはよう」
 覚悟の一日が始まる。

 せっかく仲良くなった勇者一行に、魔族と生きて行くって言ったら……受け入れて貰えるとは思えない。聖遺物レリックの反応から、魔王城には行けると思うけど。彼らがそもそも僕を信用してくれるだろうか?

 カイル様を失望させるかもしれない。
もう一度だけ、領地の皆に会いたい。それさえも、叶わなくなるかも知れない。

「あいつら……まあ、レノアは面白がってるみたいだが。聖遺物レリックは怒ってるな。本当に色んな物を魅了する」

 魅了と言われると、胸が痛むのだ。

「──この瞳のせい?」
これがなかったら……もしかしたら。クロを縛り付けたりしなかったのかもしれない。

「シェリルだからだ。シェリルだから惹かれるんだ」
本当に欲しい言葉をくれる人。

「大好き、クロ」
自分からもキスをする。また何かがお腹に……

「クロ……えっ」
「たくっ、お前は。次は容赦しないからな」
「は、はいっ」

 裸のままが不味すぎなんだと思う。だって、ほんの少しだけど。抱かれたいって思ってしまったのだから。

「ふ、服。早く着替えるね」

 あわてて、あれこれ片付けると結界が消える。途端にレノアが現れる。
そして、足首に妖精の足飾りアンクレットが淡く輝いた。

 「──シェリル様、今日は一段と綺麗ですね」
そんな事を美形のレノアに言われても、信じられない。
今は真っ白の兎姿だけど。美形と魔力は比例する。二人は上位の魔族だ。

 足飾りアンクレットも、受け入れてくれてる。魔王城に一緒に行くのは、問題ないはず。行く理由がある。そう言ってた。魔族同士で何かあるのかも知れない。

 それに、レノアはあの時何かに巻き込まれていたみたいで。クロの様子もおかしかった。
少し首を横に振り、それは後だと思い直す。

「今日は、ちゃんとカイル様に話すからね。クロ達は悪い魔族じゃないって信じてもらえるように」

「ああ───お前がそうしたいなら」
「うん」

「どう言ったとしても、俺たちが魔族であるのは間違いない。お前が傷つかなければそれでいい」

 クロも黒兎の姿になった。

「二度とお前を泣かせたり、離れたりしない」

 食事も片付けも全て済ませ、カイル様との約束の時間になった。
クロを抱き抱える。レノアは小さくなってポケットの中にいる。

 カイル様に会いに、休んでる部屋へと向かう事にした。

「お待たせしました」
「構わない。シェリルこっちへ」
ティーセットが用意されていた。

「頼めるか? 俺よりシェリルがいれてくれると美味しいから」
「はい」
穏やかな雰囲気の中、お茶の用意をする。勧められてソファに腰をおろした。

 たわいのない話をしてばかりで、中々本題に入れなかった僕の手をクロが優しくさすってくれた。深く息を吐き、カイル様を見つめる。

ほんの少しカイル様の表情が、曇ったように思えた。

「僕は、本当の事を話す為にここに来ました。嘘をついていてすみませんでした」

「嘘……?それは、幻影兎ラビィアの黒兎と白兎が魔族か何かだと言うことか?」

まさかカイル様に、先に言われるとは思わなかったんだ。






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