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70.雨③
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「シェリル。怖いか?」
「ごめんなさ……ぃ」
泣き声を抑えようとしても、嗚咽が止まらない。口をつぐみ、声が漏れないように必死に堪えた。両手で涙を拭っていると、前髪をかきあげられて額にクロの唇が触れてきた。その後、離れると少し困った顔をしている。
「ここを解さないと、繋がれない。痛いのは嫌だろう?シェリルを俺のものにしたい。勇者に取られたくないんだ」
頭の中では、何をされているか分かってる。でも、実際に不浄の場所に指が入ってるのを見たら怖くなった。本当に気持ちが追いつかない。魔王の事や、勇者のカイル様がクロとの契約をどう思うか、次の聖遺物が選ぶ人はどうなるのか……色んな感情がまとまらなくて、受け入れきれない。
「クロの事、大好き……だけどっ」
ゆっくりと手が引き抜かれた。それからクロは、魔法で僕を綺麗にした後に服を着せてくれた。
とても丁寧に優しく触れて、抱き寄せられる。
「──悪かった。シェリルを傷つけたい訳じゃない。俺の独占欲だ」
クロの腕の中は、あたたかい。
「クロ……クロ……怖がってごめんなさい」
抱き締め返すというより、しがみつく。
「俺は、契約でシェリルを縛っているだけだ」
思わず、クロの顔を見上げた。
なんでそんな悲しい顔をするんだろう。あの時、クロだけが僕の気持ちに気づいて、僕を見てくれたのに。
「シェリル。契約の証を消そう」
「ちがっ、そんなつもりじゃ……」
「ただ、ネックレスは付けていてくれるか?離れている時でも、シェリルに何かあったらすぐに駆けつける。今度は遅くならない。お前を守りたい」
クロ……いなくなるの?
また、一人になるの?
窓ガラスには、雨が叩き付けるように激しく降っている。窓から見えるはずの外の景色も水の流れで遮られていて嵐の中にいるのだと実感してしまう。
神官様が亡くなった時は、土砂降りの雨だった。あの日を思い出してしまう。
クロは、とても美形だから……魔物の上位種だと思う。魔物は綺麗なほど力が強いって聞いた事がある。それに契約しているのなら、僕を好きにしていいはずだ。無理やり従わせる事なんて簡単なのに。ただ僕を守る為だけの契約。人だって、ひどいことする。魔物とか関係なくて、クロは僕にとって……
胸の所にある契約の証が、僅かに光った。
「これで、契約は無しだ」
「え?」
本当に? クロと離れる?
「クロ……印、消したの?」
「もう、縛るものはない」
頭を撫でられた後、クロがベッドから離れた。
ベッドに座るまでは出来た。その後に声をかける事も、降りて追いかける事も出来なくてただクロを目で追うだけ。
隣の部屋に行きレノアを抱えて戻って来た。
ぴょんと跳ねて、白兎がベッドの上に座る。
「──レノアをしばらく頼む。俺は」
「嫌」
「シェリル?」
「待って一人は嫌だ。わがまま言って……本当にごめんなさい」
「なら、契約が無くてもそばにいてもいいか?」
クロのそばに行こうとベッドから降りようとして、シーツに足を取られた。前に落ちかけて、クロが慌てて抱きとめてくれた。
「ギュッってされるの好き」
「──兎がいいか?」
「幻影兎じゃなくてもクロのままでもいい。でも兎も好き」
「今日はどっちが良い?」
「このまま」
また、ベッドに戻される。
クロもベッドに乗って、そしてゆっくりと抱きしめてくれる。
「目が覚めたら、いなくなったりしない?」
「お前に要らないって言われるまでは、一緒にいる」
わがままで、ごめんなさい。そう思っていたら……声が聞こえた。
『あ、あのう……クロフィス様。私は隣の部屋に戻りますので……』
レノアがピョンピョンと跳ねて、隣りの部屋に行ってしまった。
「ごめんなさ……ぃ」
泣き声を抑えようとしても、嗚咽が止まらない。口をつぐみ、声が漏れないように必死に堪えた。両手で涙を拭っていると、前髪をかきあげられて額にクロの唇が触れてきた。その後、離れると少し困った顔をしている。
「ここを解さないと、繋がれない。痛いのは嫌だろう?シェリルを俺のものにしたい。勇者に取られたくないんだ」
頭の中では、何をされているか分かってる。でも、実際に不浄の場所に指が入ってるのを見たら怖くなった。本当に気持ちが追いつかない。魔王の事や、勇者のカイル様がクロとの契約をどう思うか、次の聖遺物が選ぶ人はどうなるのか……色んな感情がまとまらなくて、受け入れきれない。
「クロの事、大好き……だけどっ」
ゆっくりと手が引き抜かれた。それからクロは、魔法で僕を綺麗にした後に服を着せてくれた。
とても丁寧に優しく触れて、抱き寄せられる。
「──悪かった。シェリルを傷つけたい訳じゃない。俺の独占欲だ」
クロの腕の中は、あたたかい。
「クロ……クロ……怖がってごめんなさい」
抱き締め返すというより、しがみつく。
「俺は、契約でシェリルを縛っているだけだ」
思わず、クロの顔を見上げた。
なんでそんな悲しい顔をするんだろう。あの時、クロだけが僕の気持ちに気づいて、僕を見てくれたのに。
「シェリル。契約の証を消そう」
「ちがっ、そんなつもりじゃ……」
「ただ、ネックレスは付けていてくれるか?離れている時でも、シェリルに何かあったらすぐに駆けつける。今度は遅くならない。お前を守りたい」
クロ……いなくなるの?
また、一人になるの?
窓ガラスには、雨が叩き付けるように激しく降っている。窓から見えるはずの外の景色も水の流れで遮られていて嵐の中にいるのだと実感してしまう。
神官様が亡くなった時は、土砂降りの雨だった。あの日を思い出してしまう。
クロは、とても美形だから……魔物の上位種だと思う。魔物は綺麗なほど力が強いって聞いた事がある。それに契約しているのなら、僕を好きにしていいはずだ。無理やり従わせる事なんて簡単なのに。ただ僕を守る為だけの契約。人だって、ひどいことする。魔物とか関係なくて、クロは僕にとって……
胸の所にある契約の証が、僅かに光った。
「これで、契約は無しだ」
「え?」
本当に? クロと離れる?
「クロ……印、消したの?」
「もう、縛るものはない」
頭を撫でられた後、クロがベッドから離れた。
ベッドに座るまでは出来た。その後に声をかける事も、降りて追いかける事も出来なくてただクロを目で追うだけ。
隣の部屋に行きレノアを抱えて戻って来た。
ぴょんと跳ねて、白兎がベッドの上に座る。
「──レノアをしばらく頼む。俺は」
「嫌」
「シェリル?」
「待って一人は嫌だ。わがまま言って……本当にごめんなさい」
「なら、契約が無くてもそばにいてもいいか?」
クロのそばに行こうとベッドから降りようとして、シーツに足を取られた。前に落ちかけて、クロが慌てて抱きとめてくれた。
「ギュッってされるの好き」
「──兎がいいか?」
「幻影兎じゃなくてもクロのままでもいい。でも兎も好き」
「今日はどっちが良い?」
「このまま」
また、ベッドに戻される。
クロもベッドに乗って、そしてゆっくりと抱きしめてくれる。
「目が覚めたら、いなくなったりしない?」
「お前に要らないって言われるまでは、一緒にいる」
わがままで、ごめんなさい。そう思っていたら……声が聞こえた。
『あ、あのう……クロフィス様。私は隣の部屋に戻りますので……』
レノアがピョンピョンと跳ねて、隣りの部屋に行ってしまった。
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