73 / 98
71.雨④
しおりを挟む
契約の証は消えてしまった。それでもクロは、変わらずにそばにいると言ってくれた。
目が覚めても、クロは人型のままで、じっと見つめていたらクロの顔が近づいてきて止まった。
「恋人じゃない……な」
そう言って、触れそうになった唇が離れていく。
「あ、の……」
「ん?」
(そっか、キスはしないよね)
挨拶のような、当たり前に受け止めてたけれど違うのだと実感する。
「ううん。何でもない」
「──ああ。兎になった方が良い?」
幻影兎になったクロが短い手を広げてきた。思わずギュッと抱きしめる。もう一度クロの顔を見ようと抱きかかえると、黒兎が可愛くて……軽く唇を合わせてしまった。慌てて胸に閉じ込めて、自分の顔を見られないようにする。
クロは温かくて、気持ちよくて、可愛くて……黒兎姿はもちろん大好きだ。でも兎姿の方にキスするのも、だめなんじゃないかと不安になって、慌てて話題を作る。
「ク、クロ……レノアを呼ぼうか?朝ごはん食べるよね?」
「──そうだな」
クロを抱きかかえたまま、隣の部屋に行くとレノアが布の中に蹲まっている。
『レノア! 大丈夫?』
ビクンとして、起き上がりこちらを見た。
『──シェリル様?』
『ええっと、あの。レノア、具合悪い?』
『あ、き……昨日、邪魔をしてしまいました。あの、シェリル様は、大丈夫ですか?』
『もしかして、心配して眠れなかった?』
『シェリル様が……泣いてたみたいなので気になりました。すみません。朝方になって少しウトウトしてました。あのぅ、クロフィス様に嫌な事されましたか?』
そばに来たレノアがクロを見ていた。なんて言っていいのか分からず、考えていると……
『レノア……』
『クロフィス様は、もっとシェリル様に優しくしないと捨てられますよ!シェリル様は特別な方です。純粋な人族と思っていましたが、違ったのですね』
白兎のレノアがピンと背筋を伸ばして、自信ありげに胸を張る。
『──どう言う意味だ?』
クロが僕の腕からピョンと飛び降りて、レノアの前に立った。兎が向かい合っているのが、可愛いとか思ってしまって大事な話をスルーしそうになる。
『クロフィス様は、興味がわかないと気にしませんからね。ですが、シェリル様の香りを感じてますよね? 黒飛竜だって、シェリル様と契約しました。琥珀の瞳と癒しの香りに魅了されてしまうのだと思います』
瞳の色は、父親の方の色のはず。
『レノア。どう言う事か教えて。人族じゃないって、もしかして魔族に近いとか? 魅了したから……クロを縛り付けた?』
魔王に仕えてる魔物なら、勇者のカイル様たちと一緒にはいられない。それに……ティムした訳じゃなかったのに。クロを縛り付けてたのは契約じゃなくて僕だった?
白兎が、コテンと首を傾げ黒兎を見る。その後胸に手を当てて、目をつぶったまま何かの呪文を呟いた。淡い光に包まれると、その光が大きくなった後収束していく。
白銀色の前髪をかきあげ、僕に顔を寄せて深紅の瞳を見せられた。僕より背が高くなり、クロとは雰囲気の違うクールな感じの綺麗な人だ。
「色の濃淡の違いはありますが。 魔族は赤眼です。琥珀色のシェリル様は、精霊族の血が混ざっていると思います。シェリル様は、強制的な魅了を使ってクロフィス様を虜にした訳じゃないと思いますよ」
そう言って、ふわりと優しく微笑んだ。窓から光が差し込んできて、昨日の嵐が嘘のように雨があがっていた。
目が覚めても、クロは人型のままで、じっと見つめていたらクロの顔が近づいてきて止まった。
「恋人じゃない……な」
そう言って、触れそうになった唇が離れていく。
「あ、の……」
「ん?」
(そっか、キスはしないよね)
挨拶のような、当たり前に受け止めてたけれど違うのだと実感する。
「ううん。何でもない」
「──ああ。兎になった方が良い?」
幻影兎になったクロが短い手を広げてきた。思わずギュッと抱きしめる。もう一度クロの顔を見ようと抱きかかえると、黒兎が可愛くて……軽く唇を合わせてしまった。慌てて胸に閉じ込めて、自分の顔を見られないようにする。
クロは温かくて、気持ちよくて、可愛くて……黒兎姿はもちろん大好きだ。でも兎姿の方にキスするのも、だめなんじゃないかと不安になって、慌てて話題を作る。
「ク、クロ……レノアを呼ぼうか?朝ごはん食べるよね?」
「──そうだな」
クロを抱きかかえたまま、隣の部屋に行くとレノアが布の中に蹲まっている。
『レノア! 大丈夫?』
ビクンとして、起き上がりこちらを見た。
『──シェリル様?』
『ええっと、あの。レノア、具合悪い?』
『あ、き……昨日、邪魔をしてしまいました。あの、シェリル様は、大丈夫ですか?』
『もしかして、心配して眠れなかった?』
『シェリル様が……泣いてたみたいなので気になりました。すみません。朝方になって少しウトウトしてました。あのぅ、クロフィス様に嫌な事されましたか?』
そばに来たレノアがクロを見ていた。なんて言っていいのか分からず、考えていると……
『レノア……』
『クロフィス様は、もっとシェリル様に優しくしないと捨てられますよ!シェリル様は特別な方です。純粋な人族と思っていましたが、違ったのですね』
白兎のレノアがピンと背筋を伸ばして、自信ありげに胸を張る。
『──どう言う意味だ?』
クロが僕の腕からピョンと飛び降りて、レノアの前に立った。兎が向かい合っているのが、可愛いとか思ってしまって大事な話をスルーしそうになる。
『クロフィス様は、興味がわかないと気にしませんからね。ですが、シェリル様の香りを感じてますよね? 黒飛竜だって、シェリル様と契約しました。琥珀の瞳と癒しの香りに魅了されてしまうのだと思います』
瞳の色は、父親の方の色のはず。
『レノア。どう言う事か教えて。人族じゃないって、もしかして魔族に近いとか? 魅了したから……クロを縛り付けた?』
魔王に仕えてる魔物なら、勇者のカイル様たちと一緒にはいられない。それに……ティムした訳じゃなかったのに。クロを縛り付けてたのは契約じゃなくて僕だった?
白兎が、コテンと首を傾げ黒兎を見る。その後胸に手を当てて、目をつぶったまま何かの呪文を呟いた。淡い光に包まれると、その光が大きくなった後収束していく。
白銀色の前髪をかきあげ、僕に顔を寄せて深紅の瞳を見せられた。僕より背が高くなり、クロとは雰囲気の違うクールな感じの綺麗な人だ。
「色の濃淡の違いはありますが。 魔族は赤眼です。琥珀色のシェリル様は、精霊族の血が混ざっていると思います。シェリル様は、強制的な魅了を使ってクロフィス様を虜にした訳じゃないと思いますよ」
そう言って、ふわりと優しく微笑んだ。窓から光が差し込んできて、昨日の嵐が嘘のように雨があがっていた。
60
お気に入りに追加
911
あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結】地獄行きは確定、に加え ~地獄の王に溺愛されています~
墨尽(ぼくじん)
BL
地獄の長である獄主に、何故か溺愛されてしまった34歳おっさんのお話
死んで地獄に行きついた霧谷聡一朗(34)は、地獄の長である獄主の花嫁候補に選ばれてしまう
候補に選ばれる条件は一つ「罪深いこと」
候補者10人全員が極悪人の中、聡一朗だけは罪の匂いがしないと獄主から見放されてしまう
見放されたことを良いことに、聡一朗は滅多に味わえない地獄ライフを満喫
しかし世話役の鬼たちと楽しく過ごす中、獄主の態度が変わっていく
突然の友達宣言から、あれよあれよと聡一朗は囲い込まれていく
冷酷無表情の美形×34歳お人好し天然オジサン
笑ったことのない程の冷酷な獄主が、無自覚お人良しの聡一朗をあの手この手で溺愛するストーリーです。
コメディ要素多めですが、シリアスも有り
※完結しました
続編は【続】地獄行きは~ です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる