【本編完結】 美形魔王の弱点は、僕。

Shizukuru

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71.雨④

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 契約の証は消えてしまった。それでもクロは、変わらずにそばにいると言ってくれた。

 目が覚めても、クロは人型のままで、じっと見つめていたらクロの顔が近づいてきて止まった。

「恋人じゃない……な」
 そう言って、触れそうになった唇が離れていく。
「あ、の……」
「ん?」
 (そっか、キスはしないよね)
挨拶のような、当たり前に受け止めてたけれど違うのだと実感する。

「ううん。何でもない」
「──ああ。兎になった方が良い?」
 幻影兎ラビィアになったクロが短い手を広げてきた。思わずギュッと抱きしめる。もう一度クロの顔を見ようと抱きかかえると、黒兎が可愛くて……軽く唇を合わせてしまった。慌てて胸に閉じ込めて、自分の顔を見られないようにする。
 クロは温かくて、気持ちよくて、可愛くて……黒兎姿はもちろん大好きだ。でも兎姿の方にキスするのも、だめなんじゃないかと不安になって、慌てて話題を作る。

「ク、クロ……レノアを呼ぼうか?朝ごはん食べるよね?」
「──そうだな」
 クロを抱きかかえたまま、隣の部屋に行くとレノアが布の中にうずくまっている。
『レノア! 大丈夫?』
 ビクンとして、起き上がりこちらを見た。
『──シェリル様?』
『ええっと、あの。レノア、具合悪い?』
『あ、き……昨日、邪魔をしてしまいました。あの、シェリル様は、大丈夫ですか?』
『もしかして、心配して眠れなかった?』
『シェリル様が……泣いてたみたいなので気になりました。すみません。朝方になって少しウトウトしてました。あのぅ、クロフィス様に嫌な事されましたか?』

 そばに来たレノアがクロを見ていた。なんて言っていいのか分からず、考えていると……

『レノア……』
『クロフィス様は、もっとシェリル様に優しくしないと捨てられますよ!シェリル様は特別な方です。純粋な人族と思っていましたが、違ったのですね』

 白兎のレノアがピンと背筋を伸ばして、自信ありげに胸を張る。

『──どう言う意味だ?』
 クロが僕の腕からピョンと飛び降りて、レノアの前に立った。兎が向かい合っているのが、可愛いとか思ってしまって大事な話をスルーしそうになる。

『クロフィス様は、興味がわかないと気にしませんからね。ですが、シェリル様の香りを感じてますよね? 黒飛竜ブラックドラゴンだって、シェリル様と契約しました。琥珀の瞳と癒しの香りに魅了されてしまうのだと思います』

 瞳の色は、父親の方の色のはず。
『レノア。どう言う事か教えて。人族じゃないって、もしかして魔族に近いとか? 魅了したから……クロを縛り付けた?』
  魔王に仕えてる魔物なら、勇者のカイル様たちと一緒にはいられない。それに……ティムした訳じゃなかったのに。クロを縛り付けてたのは契約じゃなくて僕だった?

 白兎が、コテンと首を傾げ黒兎を見る。その後胸に手を当てて、目をつぶったまま何かの呪文を呟いた。淡い光に包まれると、その光が大きくなった後収束していく。
    白銀色の前髪をかきあげ、僕に顔を寄せて深紅の瞳を見せられた。僕より背が高くなり、クロとは雰囲気の違うクールな感じの綺麗な人だ。

「色の濃淡の違いはありますが。 魔族は赤眼です。琥珀色のシェリル様は、精霊族の血が混ざっていると思います。シェリル様は、強制的な魅了を使ってクロフィス様を虜にした訳じゃないと思いますよ」

    そう言って、ふわりと優しく微笑んだ。窓から光が差し込んできて、昨日の嵐が嘘のように雨があがっていた。
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