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41.賢者の指輪 ③
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焼かれていくような、胸の痛み。クロが人型に変わって、僕を抱きしめてくれる。
『シェリル!』
右手から、指輪を抜かれる。一瞬で痛みが消えた。
汗が吹き出し、脱力してクロに身を任せる。浅い呼吸をしていると、クロが何か呟いている。
呪文みたいだ。キラキラした銀色のチェーンに指輪を通して、手に持たされた。
胸の契約の印に手を当ててまた呪文を呟いている。
「もしかして……契約を解除した?」
『違う。俺の契約印が、聖遺物を拒絶したんだ。痛かっただろう?』
「じゃあ、賢者の指輪は、誰か別の人のだよね? びっくりした」
『今はお前のだ。聖遺物自身が契約をしてきたからな。離れてくれれば早いが、シェリルが嫌なら破壊してもいいか? こんな面倒になるから、離れたくなかったんだ。お前の琥珀に、皆惹かれていく』
『何、ベタベタしてんの? 破壊とかやめてよ。て言うか……指輪をなんでネックレスにしてんだよ。このチェーン……なんか魔法付加してるし、嫉妬深い奴』
『賢者の指輪が、シェリルを選んだの?ずるいわ。私が先だったのに。お願いされたから、マリアにしたけど。悔しいわ』
『賢者にしては、頭が悪い。偽物だろ? 他に行け』
『そっちこそ、契約解除して。こんな綺麗な魔力の子中々いないよ。兎の魔獣のフリしてるけど何者なの? シェリル指にはめて欲しいんだけど?』
頭が追いつかない。クロと聖遺物が喧嘩してるみたい。
琥珀色の瞳のせいなのかな? 魅了とかしたつもりも、テイムもしてないのに。この瞳は会ったこともない父親の色だ。父親が誰なのかも、生きてるかも分からないのに。何か不思議な力があるのかも知れない。
クロが、黒兎の姿に戻った。でも、体を後ろから支えてくれている。姿は兎なのに後ろから抱きしめられている感じがする。温かな空気に包まれて、冷えきっていた指先にまで温もりがとどいた。呼吸が落ち着いて、ようやく周りが見えて来た。
「すごいな。その幻影兎。兎は臆病だから……能力なんてほとんど逃げる時に使うくらいしか聞いた事がない。本来の幻影兎の能力を見せつけられてるのか? それに本当に賢者の指輪とシェリルを見つけた」
キース様は、そう言って興奮している。そばに来たマリア様が、何度か声を出しかけて止める。ためらいつつ、意を決して僕に話しかけてきた。
「シェリル。聖遺物の意思が少しだけ聞こえたの。本当は貴方が良かったって。私にするように言ってくれたの?」
「──それは、マリア様が相応しいってクロが」
「なら、指輪は……私ではないのか?」
テオ様は、賢者の指輪が欲しかったはずだ。テオ様の方に差し出すと、チェーンの先の指輪が僕の方へと寄ってくる。
「マリアの時も、聖女の髪飾りはシェリルに寄って行ったよな?何か理由でもあるのか?」
「理由なんて、ないと思います。指輪は、テオ様に」
賢者の指輪 にマリア様の時ようにお願いしてみる。
『テオ様の所に、行って。僕には相応しくないから。クロと契約しているので指にもはめられません』
『──なら、黒兎との契約を外したらいいんじゃない?』
『それは、嫌です。クロとの約束が先だから』
『ああ、行けばいいんでしょ。なんか君の魔力気になるんだよね』
指輪が引っ張っていた力が抜けて、ストンとチェーンの先に戻った。
『このチェーンは、外してよ』
『はい。テオ様の所へお願いします』
差し出していた手を戻して、チェーンから指輪を外した。
「テオ様、手を出してください」
テオ様が、膝をついて手を差しだした。
指輪をその手の平へと置く。
テオ様が僕に頭を下げた後、指にはめた指輪が淡く輝いた。
「お、無事にテオの元に行ったな」
「でも、これ全部シェリルのおかげじゃないの?」
皆がこちらを見ていて、なんて答えていいか分からない。
とりあえず立ち上がろうとしたら、ふらついてしまい、カイル様に抱きかかえられた。
『シェリル!』
右手から、指輪を抜かれる。一瞬で痛みが消えた。
汗が吹き出し、脱力してクロに身を任せる。浅い呼吸をしていると、クロが何か呟いている。
呪文みたいだ。キラキラした銀色のチェーンに指輪を通して、手に持たされた。
胸の契約の印に手を当ててまた呪文を呟いている。
「もしかして……契約を解除した?」
『違う。俺の契約印が、聖遺物を拒絶したんだ。痛かっただろう?』
「じゃあ、賢者の指輪は、誰か別の人のだよね? びっくりした」
『今はお前のだ。聖遺物自身が契約をしてきたからな。離れてくれれば早いが、シェリルが嫌なら破壊してもいいか? こんな面倒になるから、離れたくなかったんだ。お前の琥珀に、皆惹かれていく』
『何、ベタベタしてんの? 破壊とかやめてよ。て言うか……指輪をなんでネックレスにしてんだよ。このチェーン……なんか魔法付加してるし、嫉妬深い奴』
『賢者の指輪が、シェリルを選んだの?ずるいわ。私が先だったのに。お願いされたから、マリアにしたけど。悔しいわ』
『賢者にしては、頭が悪い。偽物だろ? 他に行け』
『そっちこそ、契約解除して。こんな綺麗な魔力の子中々いないよ。兎の魔獣のフリしてるけど何者なの? シェリル指にはめて欲しいんだけど?』
頭が追いつかない。クロと聖遺物が喧嘩してるみたい。
琥珀色の瞳のせいなのかな? 魅了とかしたつもりも、テイムもしてないのに。この瞳は会ったこともない父親の色だ。父親が誰なのかも、生きてるかも分からないのに。何か不思議な力があるのかも知れない。
クロが、黒兎の姿に戻った。でも、体を後ろから支えてくれている。姿は兎なのに後ろから抱きしめられている感じがする。温かな空気に包まれて、冷えきっていた指先にまで温もりがとどいた。呼吸が落ち着いて、ようやく周りが見えて来た。
「すごいな。その幻影兎。兎は臆病だから……能力なんてほとんど逃げる時に使うくらいしか聞いた事がない。本来の幻影兎の能力を見せつけられてるのか? それに本当に賢者の指輪とシェリルを見つけた」
キース様は、そう言って興奮している。そばに来たマリア様が、何度か声を出しかけて止める。ためらいつつ、意を決して僕に話しかけてきた。
「シェリル。聖遺物の意思が少しだけ聞こえたの。本当は貴方が良かったって。私にするように言ってくれたの?」
「──それは、マリア様が相応しいってクロが」
「なら、指輪は……私ではないのか?」
テオ様は、賢者の指輪が欲しかったはずだ。テオ様の方に差し出すと、チェーンの先の指輪が僕の方へと寄ってくる。
「マリアの時も、聖女の髪飾りはシェリルに寄って行ったよな?何か理由でもあるのか?」
「理由なんて、ないと思います。指輪は、テオ様に」
賢者の指輪 にマリア様の時ようにお願いしてみる。
『テオ様の所に、行って。僕には相応しくないから。クロと契約しているので指にもはめられません』
『──なら、黒兎との契約を外したらいいんじゃない?』
『それは、嫌です。クロとの約束が先だから』
『ああ、行けばいいんでしょ。なんか君の魔力気になるんだよね』
指輪が引っ張っていた力が抜けて、ストンとチェーンの先に戻った。
『このチェーンは、外してよ』
『はい。テオ様の所へお願いします』
差し出していた手を戻して、チェーンから指輪を外した。
「テオ様、手を出してください」
テオ様が、膝をついて手を差しだした。
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テオ様が僕に頭を下げた後、指にはめた指輪が淡く輝いた。
「お、無事にテオの元に行ったな」
「でも、これ全部シェリルのおかげじゃないの?」
皆がこちらを見ていて、なんて答えていいか分からない。
とりあえず立ち上がろうとしたら、ふらついてしまい、カイル様に抱きかかえられた。
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