40 / 98
38.遺跡②
しおりを挟む
王都から少し離れた森のような場所に、クロッカス王国の遺跡がある。
最近、魔物が目撃されているとの事だ。廃墟と化している白亜の建物。昔の首都で、魔族との戦いの時にここを捨てたのだ。
所々ひび割れた壁。壊れた床や天井を見ると、どれだけ戦闘が激しかったのか分かる。
今は静寂の中、緑に覆われて廃墟になってしまった。
「ダンジョンとも違うけど、廃墟の中も微妙に気持ち悪いわね」
細長杖を握り締めて、マリア様が入口らしい場所を覗き込んだ。髪には、聖女の髪飾りが付けられていて、何となくだけど視線を感じてしまう。
「魔獣じゃ無くて、生きる屍でも出てきそうだな」
キース様が体を解しながら、同じ場所を見ている。
「ここにあるのは、賢者の指輪 だ。聖女の髪飾りのように護られている可能性がある。罠には注意しよう」
いつもの順番で言えば、キース様が先頭になる。でも、今回は珍しくテオ様が前に出たいと言ったのだ。
「まともにテオと話した事がないが、賢者の指輪との適合を確認したいって事だな。俺は出来れば聖騎士の耳飾りを狙っている」
魔法騎士のキース様なら確かに、聖騎士の聖遺物が欲しいと思う。
それぞれの聖遺物に相性の良さがあるみたいだ。
クロは、相変わらず背中にくっ付いている。
『無茶をするな。危険な事は、前の二人にさせておけばいい。真ん中にいろ』
『キース様とテオ様? でもテオ様が前衛にいるなら、後衛は僕かマリア様になる。でも、マリア様はカイル様と並んでるから後ろにいたい』
クロがカプリと項あたりを甘噛みしてくる。
『──シェリルの後ろだけは、守ってやる。それにアレは……たぶん』
『アレって何?』
『面倒ごとだ。無視しろ。ほだされるなよ』
『──面倒ごと?』
「シェリル」
後ろを振り返ったカイル様に名前を呼ばれた。
「はい」
「遅れないようにそばにいろ。一人で無理はするな」
「──はい」
「シェリル……あの」
マリア様の様子が、聖女の髪飾りの一件からおかしいのだ。
ズバズバとハッキリした口調だったのに。
「──後方は、私もいるんだから……無理とか、邪魔とかしないのよ。そ、それだけよ。ちゃんと、ついてくるのよ」
「はい」
そう言うと、前を向き直した。
そして、マリア様は、細長杖をトンと垂直に降ろした。ポンポンポンと両側面に拳より小さな球体が淡く光って遺跡内を照らした。
魔法で出来た簡易照明だ。ひんやりした空気を感じながら、古い遺跡内の平面図に従って、賢者の指輪を探しに向かった。
最近、魔物が目撃されているとの事だ。廃墟と化している白亜の建物。昔の首都で、魔族との戦いの時にここを捨てたのだ。
所々ひび割れた壁。壊れた床や天井を見ると、どれだけ戦闘が激しかったのか分かる。
今は静寂の中、緑に覆われて廃墟になってしまった。
「ダンジョンとも違うけど、廃墟の中も微妙に気持ち悪いわね」
細長杖を握り締めて、マリア様が入口らしい場所を覗き込んだ。髪には、聖女の髪飾りが付けられていて、何となくだけど視線を感じてしまう。
「魔獣じゃ無くて、生きる屍でも出てきそうだな」
キース様が体を解しながら、同じ場所を見ている。
「ここにあるのは、賢者の指輪 だ。聖女の髪飾りのように護られている可能性がある。罠には注意しよう」
いつもの順番で言えば、キース様が先頭になる。でも、今回は珍しくテオ様が前に出たいと言ったのだ。
「まともにテオと話した事がないが、賢者の指輪との適合を確認したいって事だな。俺は出来れば聖騎士の耳飾りを狙っている」
魔法騎士のキース様なら確かに、聖騎士の聖遺物が欲しいと思う。
それぞれの聖遺物に相性の良さがあるみたいだ。
クロは、相変わらず背中にくっ付いている。
『無茶をするな。危険な事は、前の二人にさせておけばいい。真ん中にいろ』
『キース様とテオ様? でもテオ様が前衛にいるなら、後衛は僕かマリア様になる。でも、マリア様はカイル様と並んでるから後ろにいたい』
クロがカプリと項あたりを甘噛みしてくる。
『──シェリルの後ろだけは、守ってやる。それにアレは……たぶん』
『アレって何?』
『面倒ごとだ。無視しろ。ほだされるなよ』
『──面倒ごと?』
「シェリル」
後ろを振り返ったカイル様に名前を呼ばれた。
「はい」
「遅れないようにそばにいろ。一人で無理はするな」
「──はい」
「シェリル……あの」
マリア様の様子が、聖女の髪飾りの一件からおかしいのだ。
ズバズバとハッキリした口調だったのに。
「──後方は、私もいるんだから……無理とか、邪魔とかしないのよ。そ、それだけよ。ちゃんと、ついてくるのよ」
「はい」
そう言うと、前を向き直した。
そして、マリア様は、細長杖をトンと垂直に降ろした。ポンポンポンと両側面に拳より小さな球体が淡く光って遺跡内を照らした。
魔法で出来た簡易照明だ。ひんやりした空気を感じながら、古い遺跡内の平面図に従って、賢者の指輪を探しに向かった。
60
お気に入りに追加
911
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結】地獄行きは確定、に加え ~地獄の王に溺愛されています~
墨尽(ぼくじん)
BL
地獄の長である獄主に、何故か溺愛されてしまった34歳おっさんのお話
死んで地獄に行きついた霧谷聡一朗(34)は、地獄の長である獄主の花嫁候補に選ばれてしまう
候補に選ばれる条件は一つ「罪深いこと」
候補者10人全員が極悪人の中、聡一朗だけは罪の匂いがしないと獄主から見放されてしまう
見放されたことを良いことに、聡一朗は滅多に味わえない地獄ライフを満喫
しかし世話役の鬼たちと楽しく過ごす中、獄主の態度が変わっていく
突然の友達宣言から、あれよあれよと聡一朗は囲い込まれていく
冷酷無表情の美形×34歳お人好し天然オジサン
笑ったことのない程の冷酷な獄主が、無自覚お人良しの聡一朗をあの手この手で溺愛するストーリーです。
コメディ要素多めですが、シリアスも有り
※完結しました
続編は【続】地獄行きは~ です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる